町を救う為に戦え
梨乃は一人、消えた町に飛び込んでいた。現実世界から隔たれた世界は、一部が歪んだり、ぼやけたりしていて、全体がよく見えない。その世界に閉じ込められた人は石化していて、動く気配がしない。
梨乃は一人、その世界を走って気配を探っていた。梨乃と同じように動く事が出来る事が出来る人は今の所見ない。
すると、梨乃の背後に巨大な影が覆い被さった。見ると、巨大な腕が複数ある影のような怪が、梨乃の目の前に居た。
「この世界で動ける者が居るとはな…」
どうやら、この怪がこの世界を造り出して、人々を閉じ込めていたようだ。梨乃はポケットの中からお札を取り出して構えた。
「霊術使いか…、ならば」
その怪は腕を伸ばし、梨乃を潰そうとする。梨乃は、すぐに怪の攻撃を避け、技を放った。
「『瞬風華』!」
梨乃は怪に向かって浄化のお札を無数に投げたが、影のような怪はそのお札をすり抜けてしまう。
単純な浄化技ではその怪は倒せないようだった。そこで、梨乃は自分の技を応用出来ないかと考えながら、周囲の『風』を集めた。
「『霊風縛』!」
梨乃は『風』を糸状にして、怪の腕を縛って地面に引き摺り降ろした。そして、糸を自分の腕をと怪の身体に着け、その伸縮で怪の本体に近づく。
「『疾風刃』!」
梨乃は風刃で怪の身体を斬りつけた。だが、梨乃の霊術では怪の身体はすぐに再生してしまう。
その時だった。二人の間に人影が割り込んできた。その人影は、水晶のようなものを怪にぶつけ、怪の再生能力を失わせている。
梨乃はその人物の姿を見た。その人は灰色のローブを纏い、手には鎌を持っている。
「死神…?」
「私の術で弱らせたわ、今よ!」
梨乃は一度地面に降りて、再び『風』の糸で怪に近づいた。
「もう一度、『疾風刃』!」
死神の力で弱まった怪は、梨乃の風刃で空間ごと切り刻まれた。怪によって造られた世界は、少しずつ元に戻っていく。
怪を倒した後、梨乃を手助けしてくれた死神は、梨乃の方に近づいて来た。
「もしかして、あなたは『風見』の陰陽師?てっきり伝説の存在だと思ってたから、本当に居て驚いたわ」
「『風見』の存在が死神達の方にも知られていたなんて…」
その死神は、灰色のローブに、水晶が埋め込まれた土神の仮面を着けていた。玲奈が言っていた死神の特徴と異なるから、恐らく別人なのだろう。
その死神は、石化した人々に小瓶の中に入った液体を掛けた。すると、石はすぐに溶け、人々は元に戻る。
「石化解除の薬を投与したから、すぐに人は元に戻るわ」
「私の力では人々を助けられませんでした、ありがとうございます」
梨乃がその死神にお礼を言った。
「良いのよ、気にしないで」
その死神は年若い女性なのだろうか、仮面越しに、はつらつとした声が聞こえる。そして、フードから三つ編みにしてリボンで留めた楊梅色の髪の毛が見えた。
「恐らく、竜神が暴走したから他の怪が暴れ出しているんだと思うの。この異変を止めるには、竜神を止めないといけないわ。」
「私が止めてきます!」
梨乃がそう言うと、死神は仮面越しに笑ったような気がした。
「そういえば、死神なのにどうして生きた人間を助けようとしたのですか…?」
「人々を助けるのも死神の役目だって、あの人も言っていたから…」
梨乃は、その死神に更に話を聞きたかったが、竜神を止めるのが先だと思い、走って元の世界に戻って行った。




