狂い出す町と人々
玲奈達が病院を出ると、町の様子が一変していた。町の一部が途切れたように無くなっていたのだ。何が起こったのだろうと玲奈が探っていると、ありとあらゆる異形の怪達が町を消し去っている。消えた町は、別の世界に行ったそうで、離れ離れになってしまった人が大勢居た。
町が消えたのも一大事だったが、それだけではなかった。病院に広がっていた黒雲が更に広がり、街全体を覆っている。最初は戸惑っていた人々だったが、突然何かの気に触れ、狂気に陥った玲奈と同じように目を赤く光らせて、暴れ出した。
「え、みんな狂気に陥っている?!」
「そうだとするなら、何故玲奈は狂気に陥りらないんだ?」
「本当だ…」
周囲の人が狂気に陥っているのに、その時の玲奈は不思議と狂気に陥らなかった。玲奈が狂気に陥る理由は別にあるのか、今の町の中に居ても特に何も変わらない。
「私は異変を止めてくるわ」
「止めるって、梨乃さんだけで大丈夫なんですか?」
「この異変を止めようとしているのは、私だけじゃないから」
そう言った後、梨乃は消えた町に飛び込んで行った。
残された勤と玲奈は、梨乃から渡された霊水晶を握り締め、茂みの中に隠れていた。
「そういえば、梨乃さんは智に霊水晶渡さなくて、大丈夫だったのか?」
「どうなんだろう…」
玲奈は茂みから町の様子を覗いた。梨乃が異変を止めに行くと言っていたが、それが収まりそうな気配はない。
「でも…、嫌な予感がするんだ。智君はどうなったんだろう…」
「梨乃さんが心配していないんだ、大丈夫だろう」
勤は他人事のようにそう言うが、玲奈は心配でたまらない。
「私、智君を探してくる!」
「玲奈!」
玲奈は勤と一緒に隠れていた茂みから飛び出して、智の事を探した。
梨乃のような力が無い玲奈は、狂った人々や怪達を相手に出来ない。玲奈は、茂みや建物の影に隠れながら、智の姿を探した。
そして、玲奈達が暮らす住宅街の大通りで智を見つけた。智はどういう訳か傷ついていて、ボロボロになっている。智の目の前には蛇のような怪が居て、ずっと智を睨みつけていた。
「智君!」
智は玲奈の姿を見るとすぐに肩を掴んた。
「なんでここに居るんだよ…、逃げろよ」
「私、智君の事心配で…、それで…」
「人の心配するよりも自分の心配をした方がいいんじゃないか?」
怪は玲奈に気づくと襲い掛かろうとする。それに気づいた智は、玲奈の腕を引っ張ってそれを避ける。
「ありがとう」
「玲奈、俺の事はいいから、逃げろよ…」
智は玲奈の顔を見た後、そのまま力尽きてしまった。それを見越して、怪は頸を伸ばして二人に近づいて来る。
「嫌だ!死なないでよ!私、智君の事何も知らないままなのに…」
玲奈は智を庇うように抱き締め、何とか逃げようとしたが、間に合わない。
もう駄目だと玲奈が思ったその時だった。背後で落雷のような大きな音が聞こえた。振り向くと、怪の頸が落とされている。
一体何が起きたのかと玲奈が戸惑っていると、目の前に鎌を持った死神が立っている事に気づいた。その仮面は真っ黒な人の面で、二人の方を向いている。
「智…?」
死神はどういう訳か智の名前を呼ぶと、玲奈の側に居た智を胸元に寄せ、そのまま何処かに行ってしまった。
死神が近づいた事で気配に触れた玲奈の目は、血のように赤く光っていた。だが、以前狂気に陥った時と様子が違う。
「あの時の死神と、違う…?」
その時の玲奈は、狂気に陥りながらも意識があった。ポケットの中に入れていた梨乃の霊水晶が光っていたので、それが原因なのだろう。
そして、すぐに正気に戻った玲奈は、慌てて智を抱えた死神を追いかけようとする。
「待って智君!行かないで…」
玲奈はまだ近くに居るだろうと死神を探したが、予想以上に死神は素早く、すぐに見失ってしまった。




