再び現れた本
探偵団の事を思い出せないまま、玲奈は翌日を迎えた。相変わらず頭と心の中に穴が開いてしまったようで、モヤモヤするが、それでも日々は続く。
玲奈は朝の支度を済ませた後、いつもより早い時間に家を出た。家に居ると色々考えてしまうので、学校に居る時の方が落ち着いた。
朝練の梨乃は、もっと早くに家を出ているのか、通学路には居なかった。他の児童達も、あまり居ない。
学校に着くと、教室には誰も居なかった。玲奈は椅子に座って机に伏せると、いつの間にか眠ってしまったようだった。
浅い眠りだった。その間、玲奈は夢を見ていたようだった。夢の中で、玲奈は森の中にある墓場に立っていて、目の前に、以前夢に出てきた少年が立っている。
「どうして忘れてしまったの…?」
フードを被った少年が玲奈にそう問いかける。不思議な事に、玲奈はその少年に会った事も忘れていた。
「忘れたって…、何を?」
「死出山怪奇少年探偵団の事だよ!あんなに頑張っていたのに、全部忘れたんだ…。」
少年は玲奈の額に手を当てた。すると、今まで忘れていた記憶が、玲奈の脳内を巡った。そして、玲奈はその少年に以前も夢で会った事を思い出した。
玲奈が記憶を思い出したのを見て、少年は急に悲しそうな声になった。相変わらず目元は見えなかったが、口元だけでそう感じた。
「みんな忘れて呑気に過ごしているのに、俺だけ忘れる事が出来なくて…、辛かった。本当は俺だって忘れたかったのに…」
「どうして忘れたかったの…?」
思い出してくれたのは少年の方なのに、その少年は探偵団の記憶を忘れたかったと言う。それを玲奈は疑問に思った。
「それは言えない…。でも、思い出してくれて良かった。」
少年はそう言った後、暗闇の中に消えてしまった。それと同時に、玲奈は現実世界に戻って行った。
目が覚めた玲奈は教室を見回した。玲奈が眠ってからしばらく時間が経っていたらしく、もう大勢の児童が教室に集まっている。
すると、勤が玲奈の所にやって来た。
「探偵団の事を今の今まで忘れてたんだよ!」
「忘れてたって…、勤君も?」
「ひょっとして…、智もか?」
横を見ると、智も先程の玲奈と同じように眠っていた。寝不足だったのか、日の当たる窓側で眠る智は何処か幸せそうに見える。
「おはよう、智君」
「玲奈…?」
智は眠い目を擦って玲奈達の事を見る。
「また死出山怪奇少年探偵団やろうね!」
智は二人に向かって頷いた後、授業が始まる直前まで、再び眠ってしまった。
その日の放課後、玲奈は母親の萌に頼まれてお使いに行っていた。その帰り、河川敷の所で偶然、智に出会った。智はずっと川を見つめていて、何か考え事をしているらしい。
「玲奈…?」
智は玲奈に気づいた。玲奈は、その横に来て座り、カバンを膝の上に載せる。
「智君も探偵団の事思い出した?」
「う、うん…」
智は玲奈に何か言いたい事があるようだが、上手く言葉に言い表せないようだった。何も話さない智を見て、玲奈はカバンの中を見る。
「そうだ、頼まれた買い物のついでに買ってきたんだ、はいどうぞ」
そう言って玲奈は、カバンの中からクッキーの袋を取り出した。そして、一枚智に手渡す。
智は、初めてそれを見るような目でしばらく眺めていると、横でクッキーを食べる玲奈を見て自分も食べ始めた。
「美味しい…」
「うん!このクッキー好きなんだ」
智がもう一つ食べたいと、クッキーの袋に手を伸ばそうとすると、それを見越したように玲奈は智にクッキーを渡した。智はしばらくそれを見つめた後、ゆっくり食べ始める。
「玲奈は優しいんだな…」
「そうかな?」
玲奈は、同じ事をあの少年も言っていたなと思った。
だが、夢の中の事だからきっと言っても信じてくれないだろうし、智はあの少年の事を知らないだろうから、言っても意味がないなと思い、言わなかった。
それから、お互い話さないまま、玲奈と智は河川敷から離れて、帰ってしまった。
その日の晩の事だった。玲奈が家で過ごしていると、夜風で窓が開いて、そこからローブを纏った死神が入り込んで来た。
「もう一度チャンスを与える。この本に書かれてある七つの事件を解決しろ。」
そう言って死神が手渡したのは、玲奈が持っていた本だった。
玲奈は何故死神がその本を持っているのか問おうとしたが、死神はあっという間に暗闇に紛れて、見えなくなってしまった。




