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記憶を思い出せないまま


 玲奈と勤と別れた智は、その後一人で香澄が居る病院に向かった。探偵団の記憶が無くなったせいで、玲奈と勤は智とあまり話さなくなった。今朝、玲奈が初めて会ったかのように話し掛けてくれたが、無視してしまった。



 智は、玲奈と勤の事を忘れる為に、差し入れを持って、香澄が居る病棟の中に入った。

「香澄さん、また来ましたよ」

香澄は窓の外を寂しそうに見つめていたが、智の事に気づくと、こう声を掛けた。

「ずっと気になっていたんだけど、どうして智君は梨乃と玲奈ちゃんとは一緒に来ないの?」

「二人の事は気にしないで下さいね」

智は差し入れを机の上に置いて、香澄の隣に座った。

「香澄さんにとって大切な人は、どんな人ですか?」

「優しくて、頼もしい人かな」

「そうですか…」

香澄は、そう言って寂しそうにまた窓の外を眺めていた。外は道路になっていて、車がひっきりなしに走っている。香澄は、世の中の喧騒から引き離され、別の時間を過ごしているようだった。

「まだ思い出してくれないんですか?」

「智君は私に何を思い出してほしいの…?」

「昔の事を、思い出してくれませんか…?」

香澄は智の為に頑張って思い出そうとしていたらしいが、まだ思い出せていない。



 それもそうだ。智は香澄が“香澄として産まれる前”の事を思い出させようとしているからだ。

 前世の記憶を持つ者は少なくないが、必ずしも持っているとは限らない。前世があったとしても、その時の記憶は無い方が多いのだ。智は、香澄の前世と一緒に居た記憶があるのだが、香澄には未だ無いようだった。




 中々過去の事を思い出せない香澄に、智はある質問をした。

「もし、自分以外の人の記憶を奪う力があって、それを使うと自分はその記憶を忘れられないなら、香澄さんはその力を使いますか?」

香澄は、智は珍しい問いをするんだなとするんだなと思いながら、こう答えた。

「どうだろう…、私は、辛い事も、楽しかった事も、一人で思い出すよりも、みんなと語り合えたらいいな…、って思ってるの。だから、そんな力があっても私は使わない。」 

「そうですか…」

智は、香澄はそんな事を考えるんだと思いながら、別の話題を探した。

「そうだ、あのお守りどうなりましたか?」

香澄は、木箱から智に貰った水晶玉を取り出した。智が渡した時には紫色だった水晶は、色が消えて透明になっている。

「このお守り、急に色が消えちゃって…」

「そんな…」

智はその水晶玉を香澄から受け取り、パーカーのポケットの中にしまった。

「また、色を着けてきます」

そして、慌てた様子で、荷物を持って香澄の病棟から出ていってしまった。



 智は病院から離れた公園に着くと、乱れた息を整えて木陰に座った。そして、水晶を握り締める。だが、以前と同じ色は着かない。

「色が着かない…、やっぱりあいつらの力を借りないとだめか」

智は頭を抱え、水晶を見つめた。どう力を込めても、水晶の色は変わらない。

「フッ…まぁ良い、あいつらとまた一緒に居る口実が出来ただけだからな」

智は不敵な笑みを浮かべた後、何事もなかったように表情を戻し、家に帰ってしまった。

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