玲奈の夢
死出山から帰る時、玲奈はずっと梨乃と話をしていた。その理由というのは、梨乃が言っていた“人ならぬ者”というのは何者なのか、考えていたからだ。
「一瞬だけ気配を感じた、一体何者だったんだろ?」
「私は何も感じなかった、霊感が強いはずの瞬さんも卓さんも感じなかったみたい…」
梨乃と玲奈がそれが何なのか考えようとした時、智が急に話に割り込んで来た。
「そんな事より、僕達は本の事について追うべきじゃないか?」
「そうなの…?」
智が頷いた後から、玲奈と梨乃は別の話を始めた。すると、二人の頭の中からは、いつの間にか“人ならぬ者”というのは消えていた。
その日の晩の事だった。玲奈は夢を見ていた。玲奈は冷たい雨が降る森の中で、傘を持って立っている。辺りを見回すと、雨音の中に混じって、誰かが啜り泣いている声が聞こえた。
玲奈は、その声がする方に走って行った。地面は悪く、足元はぬかるんでいる。雨は更に強くなり、見通しは更に悪くなる。それでも、玲奈は進んでいった。
しばらく走っていると、森の中に朽ち果てた墓場があった。墓石の中の一つから声が聞こえる。玲奈がそこを覗くと、真っ黒なローブを身に纏った人物が居た。その人物は、雨に濡れていて、ずっと俯いたまま、泣いていたようだ。
玲奈がその人物に傘を差すと、ようやくその人物は顔を上げた。目元はフードで隠れていたが、白い肌が覗いている。
「君は…?」
その人物は玲奈の目の前で立ち上がった。その身長は、玲奈よりも少し小さく、声は少年のようだった。
「玲奈…、どうして俺の夢に居るんだ?」
「どうして、私の名前を知ってるの?」
玲奈は、初対面であるはずの少年が自分の名前を知っている事に驚いた。すると、少年はこう答える。
「俺、ずっと玲奈達の事を見ていたんだ」
「そうなんだ…、だったら、探偵団のみんなの事も知ってるの?」
「うん…」
その少年は、何処から見ていたのかは分からないが、玲奈達の事をずっと影から見ていたのだそうだ。少年は、今まで見ていた事を玲奈に話す。
「玲奈は…、優しくて好奇心旺盛な子だな、ただ…、狂気に陥ると手がつけられなくなる。勤は…、あまり賢くはないのに、頭が切れる奴だな。梨乃さんは…、何か力を持っているらしい。そして、智は…」
「智君の事も何か知ってるの?」
玲奈は、探偵団の仲間であるはずの智の事を何も知らないままだった。玲奈が知らない事をその少年は知っているらしい。
「あいつとは付き合いが長いからな…。あいつは、表面上だけ優しく見せて、心の中では人を自分の利益の為に利用する事しか考えていない。人の良心が欠落しているな。」
「そうなの…?そんなふうには見えないけどなぁ…」
玲奈は、智の事を無愛想な人だと思っていた。表面上だったとしても、親しく話し掛けてきた覚えはない。
それに、玲奈は智がそんな酷い人だとは到底思えないのだった。
「私は、智君が酷い人とは思えない。君が言う、人を利用するのだって何か訳があるんだろうなって思ってる。それに、良心だって全く無い訳でもないよ。何処かにちゃんと残ってるはず。」
玲奈がそう言うと、少年は何かを驚いたようだったが、フードを深く被ってこう言った。
「お前は優しいんだな…」
「うん…」
「だが、いつかそれが仇になる事を忘れるなよ」
玲奈は少年に何かを話そうとしたが、少年はいつの間にか消えていた。そして、玲奈が目を覚ますと、いつもの自分の部屋で、森も、少年も何処かに行っていた。
朝食を食べ、ランドセルを背負い、玲奈は学校に向かった。梨乃は朝練で中々一緒には登校出来ない。それは少し寂しいなと思っていると、玲奈の目の前に人影が被さった。
その人物はローブを纏い、影が被さったような白い仮面を付けている。朝にしては異様な光景だった。玲奈はその人物があの死神だっていうのがすぐに分かった。
「死神が…、どうして?!」
死神は玲奈のランドセルの中から、あの本を取り出した。そして、玲奈の額に指を乗せ、何かを唱えている。その間、玲奈は指一本も動けなくなった。
「忘れろ」
そして、死神が手を離した次の瞬間、玲奈は倒れ、目が覚めると、いつの間にか教室の自席に座っていたのだった。




