雨の中で
その後、玲奈と梨乃は二人で渡辺邸から家に帰っていた。その間、梨乃は先程卓に言われた事を思い出しながら、考えている。
梨乃の力は瞬のものと違って死出山の力ではなく、卓と同じように自分で造り出したものだという事だった。そしてそれは、『風見の始祖』と呼ばれる風見清蓮を上回るかもしれない。
「私が瞬叔父さんみたいに強くなったら、玲奈ちゃんの狂気も解く事が出来るのかな…?そして、玲奈ちゃんが言う『死神』についてもなんとか出来るのかな…って考えてたんだ」
「『死神』、私そんな事言ってたの…?」
「本当に覚えていないの?」
「うん…」
玲奈は狂気に陥ってた時の事を覚えていない。その時間がまだ短かったからだろうか。茂は狂気に陥っていた時間が長かったから、今も鮮明に覚えていると聞いた事があった。
「玲奈ちゃんは茂さんと違って、何かに取り憑かれて狂気に陥っている感じがしないの」
「そうなの…?」
茂の場合、狂気に陥った原因は前世の自分の思念に取り憑かれたからだった。ところが、梨乃は玲奈が狂気に陥っていた時を見ても、玲奈以外の気配を感じなかった。
翌日は土日で、しかも雨だった。玲奈は部屋の中で一人過ごしていると、本が一人でに開いた。中を見てみると、そこには増水した川で子供が溺れるという事が書かれてある。
居ても立ってもいられなくなった玲奈は、傘を持って飛び出し、梨乃の家のチャイムを鳴らした。
「梨乃姉ちゃん!」
「玲奈ちゃん」
家から出た梨乃は、玲奈と一緒に川の方に走った。
「勤君達も呼んだ方がいいかな?」
「それじゃあ間に合わないよ!」
玲奈は普段以上に慌てた様子で走っていた。まさか、休日までこの本の事件が起きると思っていなかったからだろう。
玲奈達は川に辿り着いた。すると、川岸で一人の少年が遊んでいる。玲奈は、その人の腕を掴んで、こう言った。
「こんな所に居たら危ないよ!帰ろう」
「う、うん…」
少年は玲奈の手を握り、河川敷を登って行った。
すると、突然川の水が何かに操られたようにうねり、腕のような形になった。そして少年に、掴み掛かろうとする。
「危ない!」
梨乃が二人を庇おうと前に出ると、腕の形の水は崩れ落ちる。一瞬だけだったが、梨乃の周囲に突風が吹いていた。卓が言う力を使ったのだろうか、目が青く輝いている。
「二人とも、大丈夫?」
「う、うん…」
「君はまた水に掴まれる前に帰った方がいいんじゃない?」
「お姉さん達、ありがとう」
少年は二人にお礼を言って、先に帰ってしまった。
梨乃の目の色は元に戻り、川の様子も戻った。また同じ目に遭わないように、二人は早々に川から立ち去る。
「さっきの何だったの?」
「何かに操られてたみたいだけど…」
梨乃は川の方の気配を探ったが、今は何も感じなかった。
「まぁ、少年は無事だったんだし、良かったんじゃない?」
梨乃はそう言って、先に帰ってしまった。
その様子を、背後から何者かが見ていた。黒いローブを纏い、影が入った白い仮面を着けた人物は、梨乃の様子を注意深く観察している。
周囲は雨の為暗く、白い仮面だけが浮かび上がって見えた。
「あいつの力は…」
その人物は、梨乃に気づかれぬようにすぐに建物の影に入ってしまい、いつの間にか見えなくなってしまった。




