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第4話 シルフェ様一行の到着

 グリフィニア拡張工事の開始まで俺の中の曜日区切りであと一週間ほどとなった17日、シルフェ様一行が到着した。

 今年の1日から、日、月、風、火、水、木、土と七曜をクロウちゃんと勝手に決めていたうちの、ちょうどその風の日だ。


 この七曜は、俺やクロウちゃんが時折に口にするものだから、エステルちゃんやカリちゃんも少しばかり馴染んで来て、ジェルさんたちも日にちの区切りに使い始めているらしい。

 尤も本来、七曜という表現は、俺の前世の世界で古来より地球から肉眼で観測出来る惑星を五行に対応させ、それに太陽と月を加えたものなので、この世界で七曜と言うのはおかしいのだけどね。


 それでその17日まででは、ソフィちゃんが戻ったという報せを受けたドミニクさんが帰って来たり、拡張工事のためのギルド長たちとの会合に出席したり、あるいは24日を予定している都市城壁の一部撤去と仮設城壁設置工事の具体的な手順を検討したりと、なかなか忙しい日々を送っている。


 あといつもなら、アラストル大森林へ狩りに行こうと煩く言って来るアルポさんとエルノさんも、俺が忙しいということよりも、ユルヨ爺やブルーノさんと一緒にファータの新人3名の領都内や領内各地での実地研修にと姿を消している。


 新人の少年少女3名は、立場上はグリフィニア主任のヘンリクさんの部下なのだが、ファータの長老が直接に指導すると言い出したので、ほぼほぼ任せているようだ。


「一人前の探索者であることはもちろんだがな。ザカリー様とエステル嬢様の直接の配下になるのだて、戦闘力をはじめとしてあらゆる能力の向上を目指さんといかん」

「つまり、表と陰と、その両方で存分に力を発揮する戦闘部隊の一員であると、まずはその自覚を持つのだぞ」


 えーと、グリフィニアや領内の土地勘を得ながら能力向上を目指すのは良いとして、表と陰の両方の戦闘部隊の一員って、うちの調査外交局はそういう組織だったかなぁ。

 かつての15年戦争当時には、特別戦闘工作部隊の部隊長と副部隊長だったアルポさんとエルノさん、そしておそらく戦争の全期間を通じて参謀の役割を果たしていたユルヨ爺なので、いろいろと考えがあるとは思うのですけど。




 そんな日々の午後過ぎにシルフェ様一行がやって来た。


 事前に風の便りがエステルちゃんに届いてその当日、アルさんとクバウナさんのふたりのドラゴンが子爵館内の家族専用魔法訓練場に降り立つ。

 アルさんの背中にはシルフェ様とケリュさん夫婦に、側近のシフォニナさんとそれからシモーネちゃんだね。


 王都屋敷メンバーが揃い、父さんと母さん、アビー姉ちゃんにウォルターさんやクレイグ騎士団長、ミルカさんら主立った者たちも出迎えに集まった。

 今回はクバウナさんが初めましてなので、とりわけ母さんは到着前から少し興奮気味だ。


 何故ならクバウナさんは、この地上世界の人間たちに回復魔法を広めた言わば開祖みたいな方だからね。

 かつて、とりわけ回復魔法に秀でた天才魔法少女と呼ばれたアン母さんは、その開祖様と会えるということでとても楽しみにしていたのですな。


 白い雲がふたつ、子爵館の上空に現れ、先にアルさんが着地してシルフェ様たちが背中から降り、直ぐにアルさんが人化すると、続いてホワイトドラゴン姿のクバウナさんが着地した。


「まあ……」


 その姿の美しさに感動したのか、母さんは口を少し開いたまま動かない。

 白いドラゴンはカリちゃんで何度か見ていると思うけど、そう言えば最近はカリちゃん、あまりドラゴン姿になっていなかったかな。


 直ぐに人化し気品のある貴婦人の姿になってこちらに歩を進めるクバウナさんのもとに、母さんは小走りで歩み寄って行った。


「あの……、クバウナさま、ですね」

「あら、はじめましてね。あなたは、ザックさんのお母さんかしら」

「はい、アナスタシアと申します。ようこそお出でくださいました、クバウナさま。わたし、クバウナさまのことを伺いまして、それで、あの」


「まあまあ、アンさんたら。まるで、憧れのひとに会った娘さんみたいね」

「あ、その、つい興奮してしまって。お恥ずかしいです、シルフェさま」

「お母さま。まずはお屋敷の方に」

「そ、そうね」


 クバウナさんと母さんのふたりのところにシルフェさまとエステルちゃんも近づき、そう声を掛けた。

 普段は興奮したり慌てふためく様子など滅多に見せない母さんだけど、まさにシルフェ様の言うような感じだったよな。


 それから集まった人たちで再開の挨拶を交わし、クバウナさんと初対面の父さん以下グリフィニア組にはそれぞれに紹介をした。

 ところでケリュさんはもう、うちの独立小隊の騎士仕様の普段着制服を着て来たんですね。

 クレイグ騎士団長が目を見開いて何か言いたそうだったが、相手がケリュさんなのでなんとか笑顔で挨拶していました。




 グリフィニアでのシルフェ様たちの定位置は、屋敷2階のお客様用ラウンジ。そこに腰を落ち着けて貰って、紅茶とお菓子で人心地付けていただいて。


 たぶん人外組で、こちらの屋敷の勝手をいちばん知っているシモーネちゃんが、「わたしもエディット姉さんと」とふたりで階下に降りて行った。彼女もだんだんお姉さんになって行きますなぁ。


 このラウンジまで来たのはうちの家族にソフィちゃん、ウォルターさんとクレイグ騎士団長だ。

 それであらためて、今年もグリフィニアまで来ていただいた挨拶をした。

 母さんはクバウナさんの隣に座って早く回復魔法の話を聞きたいという様子だけど、これからそういう時間は充分にありますからね。


「まずはシルフェ様。このザックが学院を卒業するまでの間、いつも近くに居ていただいて感謝しても仕切れません。本当にありがとうございました」

「あらあら、ヴィンスさんたら。いまさらそんなお礼はいいのよ。わたしたちも毎日、楽しい日々を過ごさせていただきましたからね」

「それでも、誠に畏れ多いことで」


 昨年末にケリュさんが王都屋敷のメンバーにだけ話してくれた答え合わせ。つまり、俺とエステルちゃんと、シルフェ様とケリュさんご夫妻との関係。

 魂の繋がりと言うか、アマラ様とヨムヘル様も含めた親子兄弟関係と言うか、地上世界の人間にとっては少々難解で広言はもちろん、理解し難い話ということもあって父さんたちは知らない。


「それで、あの、ザックが卒業して、これからはどのようにお過ごしになられるのでしょうか?」

「そのことね、アンさん。ザックさんとエステルからは、こちらと王都とを往復する生活ってお聞きしているので、わたしたちもそんな感じね。それにこのケリュが、当面はザックさんの近くに居たいって言うものですからね」


 この神様が降りて来た理由は、ここ近年、地上世界で僅かずつ表面化している怪しい動きを調べるのが目的だ。


 それで何で俺の近くに居たいのか、調査活動はどうするのか、その辺のところは神様の考えるところなので真意は良く分からない。

 昨年秋のこの神様の様子を思い返すと、ただぶらぶらしていただけなんだよな。


「なんだ? ザックは我に何か言いたそうな顔だな」

「あ、いや、楽しそうにしていただければ、それでいいんですけどね。それほど手は掛からないし」


「手が掛かるとか掛からないとか、なんだ。我はザックの義兄あにとして、義弟おとうとになるべく迷惑が掛からんようにだな」

「はいはい。来たそうそうで、あなたたちったら」

「ザックさまも、直ぐにそういうこと言わないんですよ」


 俺たちは王都屋敷でいつもこんな感じに慣れているけど、父さんたちは久し振りということもあって目を丸くしておるですな。カァ。



 ともかくも、ケリュさんとシルフェ様たちの意向としては、引き続き俺とエステルちゃんの側に居るということらしい。

 まあ俺自身も、どのぐらいの頻度でグリフィニアと王都とを往復するのかは、まだ決めていない。


「それよりも、ソフィちゃんはこちらに戻ったのね。この1年間、ご苦労さまでした」

「とても逞しくなったみたいで、良い1年間でしたね」

「はい、シルフェさま、シフォニナさま。里ではとてもお世話になりました」


 シルフェ様とシフォニナさんは時折、ファータの里に風になって訪れてソフィちゃんの様子を見てくれていたのだよね。


「あの、アルさまとクバウナさまはどうされるのですか?」

「ああわしらかな、アンさん。わしも基本的には、ザックさまとエステルちゃんの側におるで。クバウナは棲み処に帰らんで良いのか」


「まあ、アルったら。わたしもあなたと同じく、ザックさんの執事にさせていただいたのですから、同じでしょ」

「クバウナさまも、ザックの執事、ですか?」

「はい。カリが秘書でわたしがアルとご同役の執事。そうザックさんから任命していただきました」


 あー、えーと、そこで何か言いたそうな顔をしているウォルターさんとクレイグ騎士団長。

 言いたいことは何となく分かりますが、いちおう対外的な建前としてですね。


「それと、シモーネはエステルに付けた子ですから、これまで通りね」

「はいです。シモーネはエディット姉さんと同じく、エステルさま付きの侍女のままです。あらためてよろしくお願いします」


 エディットちゃんとふたりで紅茶とお菓子を持って来てくれたシモーネちゃんが、ぺこりと頭を下げてそう挨拶した。

 うんうん、こういうところもずいぶんとしっかりして来ましたね。


 ともかくもまあ、なんですな。人外の方たちがそうおっしゃるのだから、そのまま受取るしかないのですよ、父さんたち。これまでとだいたいは変わらないしね。カァ。




「ザックさま。そろそろ打合せのお時間ですよ」

「あ、そうか、カリちゃん」


 今日は、以前から予定していたグリフィン建設(仮)の打合せを行う日だ。

 グリフィニア拡張工事のスタートが7日後に迫っているので、俺たちグリフィン建設(仮)の仕事の段取り確認だね。


「師匠にも参加して貰いますよね」

「そうだね。アルさんが来るのを待っていたんだよ」

「お、なんじゃな? 仕事ですかいの?」

「うん、例のグリフィニアを拡げる件なんだけどさ」


 それで俺は、グリフィニア拡張工事のスタートに合わせて行う都市城壁の一夜撤去と、仮設城壁の一夜建設の件をざっと話した。

 アルさんに加わって貰えば万全なのだが、いちおうは工事日程までに来ないことも想定して段取りを組んではいたのですけどね。


「ほほう。早速そういうことがあるのか。それは面白そうだな。ならば、我も」

「もう、あなたったら」


 アルさんはふむふむと聞いていたが、ケリュさんが食い付いて来た。

 我もって、あなた、人間のすることに与して良いのですか?


「人間のすることにとは、そこはザックのすることだろ? それにアルやカリも加わるのだしな。ならば、我もだ」


 あー、それ以上は余計なことは言わんでください。はいはい、あなたも混ぜてあげれば良いんでしょ。


「でも、ケリュさんて、その、何と言うか担当違いじゃないの?」

「まあ、扱う分野が違うと言えばそうなのだが、土魔法ぐらいは我にでもだな」


 その言葉にアルさんの方を見ると、「築城ならば、担当が大きく異なるとは言えませんからの」なのだそうだ。

 まあ確かに本来、戦いと狩猟を司る戦神いくさがみなので、アルさんが言うように築城という観点からするとそうなのかもね。



 それで、エステルちゃんはこの場に残って貰って、俺はカリちゃんとクロウちゃんと共にアルさんとケリュさんを連れて調査外交局本部の方に行くことにした。

 ソフィちゃんがわたしもと言ったけど、久し振りのシルフェ様たちなのでラウンジに居て貰う。


 本部の会議室に行くと、本メンバーのライナさんとダレルさんにサポートメンバーであるブルーノさんとアルポさん、エルノさんが既に来ていた。


 ブルーノさんとファータの爺さんふたりは、ユルヨ爺の指揮でファータの新人3人の実地指導を連日行っている。

 今日は、ユルヨ爺と本来の3人の上司であるヘンリクさんに任せて来たそうだ。


「アルさん、お久し振りでございます。ケリュさまも加わるのですか? 坊ちゃん」


 今日アルさんたちが来たのはダレルさんも承知していたようだけど、まさかケリュさんまで打合せに来るとは思っていなかったよね。

 ところでダレルさんは、相変わらず俺のことは子どもの頃からの坊ちゃん呼びだ。


「うん、ケリュさんも土魔法は出来るらしいから、今回は特別メンバーね」

「我は正式メンバーでも良いぞ」

「あひゃー、ケリュさまも土魔法ができるのねー」


「ふふふ。それはライナさん、築城ならば我を抜きには語れんからな」

「ほほう。築城と言えばそうですのう」

「ならば、空堀なんぞも周囲を巡らせますかいの」


 いえいえ、築城と言っても都市城壁ですからね。堀までは巡らせたりはしません。

 何かと物騒という観点では、アルポさんとエルノさんはケリュさんと意外と波長が合うんだよな。

 ブルーノさんは大人らしく静かに微笑んでいるだけですが。


「まあまあ、とにかく打合せをしますよ」

「はいな」



 現状ある都市城壁の一夜撤去、及び拡張エリアを囲む新しい仮設城壁の一夜建設とは言っても、それは俺の中の言葉の綾で、何も夜間工事のみを行う訳では無い。

 ただし計画としては、17日の朝から一両日で終わらせてしまおうと考えている。


 段取りとしては、拡張エリアの縄張りは内政官事務所の主導で既に終えているので、まずはその外郭に沿って仮設城壁を一挙に立ち上げてしまう。

 そうしてその後、現状の都市城壁を南門だけを残して、これも一挙に撤去してしまう。


 南門だけを残すのは、此処に領都警備兵の駐屯所があって出入りのチェック業務を行っているからだが、そこから繋がる都市城壁を撤去してしまうと南門だけがぽつんと残る。

 また、仮設城壁には街道に出る仮設門を鍛冶職工ギルド主導で作って貰うのだけど、それが出来る迄は拡張エリアの空間のどこからでも出入り自由になってしまう。


 なので街道に沿って南門まで、その道の両側に立ち入り禁止の柵を同時に設営する予定だ。

 この柵の設置工事を行うのは騎士団と領都警備兵部隊の合同部隊で、それを現場で指揮するのがブルーノさんとアルポさん、エルノさんのサポートメンバーという訳だ。


「柵の材料の木材は調達が終わっていますから、明日からブルーノさんたちと製作に入りますよ、坊ちゃん」

「ありがとう、ダレルさん。ブルーノさん、アルポさん、エルノさん。よろしくお願いします」


「任されやした。6日もあれば充分でやすよ。暇な騎士団員も動員しやすしね」

「まあ、土や岩のことはライナさんたちで、木材のことはこっちにお任せぞ」

「地下拠点づくりの頃を思い出しますの。尤も今回は1日勝負ですがな」


 現在の南門から拡張エリアの南端の仮設門までの街道の長さは約400メートル。

 それほどの長い距離では無いので、合同部隊の手を借りればそれほど時間は掛からないだろう。


 ちなみに拡張エリアを囲んで設営する仮設城壁は、東西南の三方向の全長で2,000メートル弱になる。



「それで、城壁の高さはどのぐらいにするのだ?」

「10ポードぐらいでいいかなと思っているのですけど」


 この世界の長さの単位だと、1ポードは30センチ弱。10ポードだと3メートルぐらいだね。まあ仮設だし。


「なんだ、そんなに低いのか。せめてその5倍は」

「いまの城壁はどのぐらいじゃったかの?」

「たぶん、60ポードから70ポードぐらいじゃなかったかしらー」

「ならば、そのぐらいの高さは据えましょうぞ、ザックさま」


 あー、あくまで仮設ですからね。

 アルさんはそうなのだけど、ケリュさんとこのふたりが加わると、どうも何ごとも大袈裟になりそうなんだよな。だいたい、アルさんが造るのは何かと大きく成りがちだしさ。


「そうしたら、60ポードぐらいで行くかなぁ」

「造りは、あのナイアの森の拠点の地下道の壁面と同じ程度で、組上げますかいの」

「おお、あの古代文明時代に似た石組みか。あれはいいな」

「今回は地上じゃて、見栄えも考えて表面に艶なぞも出すのもええですなぁ」

「南からの陽光に輝く城壁だな。それは良いぞ、アル」


 だから、仮設だってさっきから言っているじゃないですか。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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[一言] 仮設も本格的さ✨
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