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第967話 神様からの答え合わせと新しい紋章

 アルポさんを伴って俺が屋敷の中に入ると、既に全員が居て出迎えてくれた。


「ご卒業、おめでとうございます」


 そう声を揃えて笑顔で祝福してくれる。


「ありがとう、みんな。本日、無事に学院を卒業して来ました」


「ちょっと無事じゃないこともあったけどねー」

「それも含めて無事にご卒業ということだぞ、ライナ」

「無事よりも誉れ。そういうことです」


 もちろんだけど、屋敷の皆はもう俺が特別栄誉教授の称号を授与されたことは知っていて、それも併せて祝ってくれた。



「さあさ、早速ですけどライナさん」

「はい、始めますよー。みんな座って座って。ほら、ザカリーさまはこっちよー」


 俺がエステルちゃんに手伝って貰ってさくっと着替えてくると、内輪だけの卒業祝いパーティーを始めるということでエステルちゃんがライナさんに声を掛けた。

 いいけど、どうしてライナさん?


「本日のパーティーは、わたくしライナが幹事と進行を務めさせていただきます。なお、アシスタントはカリちゃんよー」

「よろしくです」


 皆が拍手をするので俺も釣られて拍手する。ライナさんが幹事と進行なのね。大丈夫ですか? カァカァ。ああ自分がやるって手を挙げたんだ。

 それでカリちゃんをアシスタントに指名してか。

 まあ屋敷の者だけのパーティーなので、特に心配することも無いのだけどね。


「今日は朝から行事続きで、ザカリーさまも大変お疲れのことと……、って、ホントウに疲れた顔してるわよー。大丈夫?」

「あ、はい、ダイジョウブであります。えーと、じつは、学院の卒業パーティーでこんなことがありまして……」


 それで、学院生食堂で行われた卒業パーティーで在院生が大量に参加してくれて、それは良いのだけど、何故かその全員と順番に握手して言葉を交わすことになったという顛末を話した。


 1年生から3年生までの学院生360名のうち、その半数以上の子たちが来てたよなぁ。

 それに加えて、ほとんどの教授とあと学院職員さんも大勢来ていたので、その人たちとも同じように握手することになって……。なので300人ぐらいの相手をしたでしょうか。


「まあ。そんなことがあったですか」

「みんなが列を作って、それを学院生会が整理して、たくさん時間を取ろうとする子は整理担当の学院生会員が止めて引き剥がして、とかさ。もう、なにがなにやら」



 ラウンジで皆が思い思いに座り、アルコールドリンクを飲んで肴を摘み話す。そんな屋敷の夜にはときどき見られる光景。

 堅苦しい挨拶とかスピーチなども無いのだが、今夜はライナさんがケリュさんを指名して乾杯の音頭を願った。


「それではご指名に預かったので、新参者ではあるが我が乾杯の音頭を取らせていただく。まずはザック、学院の卒業おめでとう」

「ありがとうございます」


「では、早速皆で乾杯というその前に、我からひとつ話を」

「短くね、あなた」

「わかっておるって。……話というのはあらためてになるが、我とシルフェと、そしてザックとエステルとの関係だ。まずエステルだが、この子はファータの一族の中でも良く、先祖返りと言われておるだろう? ファータの大もとはシルフェと我であり、つまり先祖とは我らの娘のシルフェーダだな」


 ラウンジの皆が静かになって、エステルちゃんとシルフェ様を見た。

 ケリュさんが俺たちの前に現れてからは、これまでより少し歳上のお姉さんか若奥様のような容姿になっているシルフェ様だが、それでもエステルちゃんとは良く似ている。


「シルフェはエステルを妹としている。しかし、いま言ったように、エステルはシルフェーダの生まれ変わりでもあり、つまり我らの娘でもある」


 シルフェーダ様は定命の子としてこの地上世界に生まれ、かなり長く生きておられたそうだが、やがてこの世を去った。

 そのシルフェーダ様の生まれ変わりがエステルちゃんと、父神があらためて述べた。

 これまで、なんとなくそうなのだろうなと思ってはいた。でも、虚偽を言わない神様の言葉は重たい。


「もちろん、この地上世界に実の父親母親はおるので、言わば魂の子、魂の娘だ。そして、生まれ変わった娘であり、シルフェがそうしたように妹でもあり……。まあこの地上世界では、これまで通り妹である方が良いだろう」


 当のエステルちゃんは、目をまんまるにしてケリュさんの話を聞いていた。



「そして、ザックだ。ザックがこの世界に生まれる際に、エステルの両親とザックの両親は、ふたりがやがて許嫁となって共に歩むことを認めた。それはシルフェがエステルの両親を通じて告げたことであり、つまりエステルが生まれ、暫くしてザックがこの世界に降り立ったときに、シルフェと我とが認めたものである」


 この話はずいぶん前に、エステルちゃんのユリアナお母さんと俺の母さんから聞いていた話だ。

 エステルちゃんを産んだときに、ユリアナお母さんの許にシルフェ様が現れてそれを告げ、そして俺が産まれたときにユリアナさんからうちの母さんに話して、それを決めたという。


「ザック自身については、これは時が来たら自分から詳しく皆に話すこともあるだろうが、我からひとつだけ言えば、ザックはこの世界においてはアマラ様とヨムヘル様が預かった子であり、ザックつまりザカリーという名はアマラ様が命名した名前である」


 エステルちゃんと人外の方たちは承知しているけど、俺の前世が別の世界のことで、そこから魂が前世の神サマに連れられてこの世界に来たということを理解しないと、アマラ様とヨムヘル様がこの世界で預かったという表現はもうひとつ理解出来ないよな。

 でもいまは、俺から敢えて詳らかにすることは無いけど。


 あと、ザカリーという名前は、俺が生まれて直ぐ後に古代神聖文字でそう書かれた紙がベビーベッドにそっと置かれていたらしい。

 それがアマラ様の仕業だったというのは、俺もいま初めて知りました。


「要するにだ。ザックはこの世界に生まれたときから、我とシルフェの娘であり妹であるエステルと結ばれる定めにあった子であり、つまりは我とシルフェの義理の息子であり義弟おとうとであるということだ。尤も、我らが息子と呼ぶのはアマラ様とヨムヘル様にいささか憚られるので、義弟おとうとだな。知っての通り、シルフェはアマラ様とヨムヘル様の娘で、夫である我は息子にあたるから、つまりザックとは兄弟ということだ」



「あなた、お話が長くなってるわよ。それにややこしい」

「お、そうか? そうだな、これはいかん。本日、我が何故この話をしたかというとだ。我とシルフェとエステルとザック、ファータの一族、グリフィン家との繋がり、魂の絆というものを、あらためてここにおる皆に知って貰いたかったからだ。そして、ファータに連なる者とグリフィン家に連なる者。共にその結び付きや絆は同じだ。なのでこれからも、その絆の結び目であるザックとエステルを支えてやって欲しい。それが魂の親として、そして姉として兄としての皆への願いだ。どうか、よろしく頼む」


 立って話していたケリュさんの横にシルフェ様も立ち上がって並び、屋敷の皆に頭を下げた。

 俺とエステルちゃんも慌てて立ち、同じように頭を下げる。


 ケリュさんとシルフェ様がどんな存在かを多少とも知る人間がこの光景を見たら、おそらくは天地がひっくり返るほどに驚愕しただろう。


 だがうちの者たちは、このふたりが神様と真性の風の精霊様であるというより、俺とエステルちゃんの兄と姉であり、いま明かされたように魂の両親であるという、そんなごく身近な存在だと感じて認識している。

 なので、このラウンジで誰かが腰を抜かすことなども無く、温かい笑顔と拍手が自然に俺たちを包んでいた。


「では、ザックの卒業と、これより踏み出す新たな一歩を祝して乾杯だ。乾杯っ」

「かんぱーい」



 乾杯が終わると、アデーレさんとエディットちゃん、シモーネちゃんの3人が厨房に行って、やがてワゴンに載せた大きなデコレーションケーキを運んで来た。

 ザックトルテやグリフィニアチーズケーキとも違う、アデーレさんが得意とする色とりどりのフルーツと生クリームがたっぷりのケーキ。


 後から聞いたけど、このフルーツはグリフィニアから届けられたものだそうだ。

 ダレルさんがうちの子爵館の果樹園で丹誠込めて育て、母さん以下の皆で収穫した果実だね。

 どうやら冷蔵している間、鮮度が落ちないようにシルフェ様とシフォニナさんが、時折そんな風を送ってくれていたらしい。


「ありがとうございます、アデーレさん」

「うふ。節目節目にこうしてケーキを出せるのが、わたしの幸せですからね」


「さあて、ケーキも登場し盛り上がって来たところで、いよいよプレゼントタイムよー」


 司会進行のライナさんがそう宣言して、どうやら俺への卒業プレゼントを披露するらしい。

 アビー姉ちゃんのときにもこれをやったよね。

 でも、あんまりご大層なサプライズプレゼントは勘弁してくださいよ。


「まずは屋敷の全員から。オネルちゃん、フォルくんとユディちゃんも準備いいかしら」

「オッケーですよ」


 俺の目の触れないところに置いていたのか、3人が細長い筒状のものを運んで来た。

 そして、その筒から中身を取り出して広げる。おい、デカいな。

 これはドデカいフラッグではありませんか。そう言えば、アビー姉ちゃんにも屋敷の皆で贈ったよね。


 フォルくんとユディちゃんが左右に離れて立ち、そのフラッグを広げた。

 もう身長が170センチ以上あるフォルくんと、彼より少し低いもののかなり背の伸びたユディちゃんがフラッグの上端を持ち、ふたりとも片手を高々と上げて支える。


 それでも下側が床に触れるぐらいなので、縦が2メートル、横幅は3メートルぐらいあるんじゃないかな。アビー姉ちゃんのときよりもひと回り大きい。


 図柄は、身体を持ち上げて羽を広げ飛び立とうとするグリフィンを基に、それを紋章の図案としたものが中央に描かれている。

 つまり、うちの子爵家の紋章や騎士団の紋章に近いのだが、それらと違うところと言えば、そのグリフィンが黒色をベースに青色と白色がところどころに織り交ぜられた、少し変わった色合いをしているところだ。


 そしてグリフィンの頭の上には、何故か真っ黒で小さな鳥が共に飛び立つように描かれている。

 あれってさ、クロウちゃんだよね。カァ。



「この旗は、ミルカさんが運んで来てくれたものです」と、フラッグの横に立つオネルさん。

「いえ、私の到着と同時に届くように、グリフィニアで手配したものなのですけどね」とミルカさんも立ち上がって、オネルさんの横に並んだ。


「そうなのですね。ではミルカさん。この旗のことをご紹介いただけますか?」

「はい。では、不肖ながら私から。……先頃、子爵様と奥様、アビゲイル様、ウォルターさんやクレイグ騎士団長、ネイサン副騎士団長との会議の席で、ザカリー様のご卒業を機に調査外交局の紋章と旗を新たに作ってはどうかという意見が出まして。それならば、ザカリー様のご卒業祝いに贈りましょうと」


 ああ、これはきっと、ウォルターさんとクレイグさんの提案だよな。

 確かに調査外交局としての紋章は外交上、文書に表示するなどで必要だし、おまけに独立した戦闘部隊を有しているので、そんな紋章をあしらったフラッグがあっても良いよな。


「そこで直ぐに関係ギルドに発注し、紋章の図柄や色合いなどは子爵様と奥様の主導で作成いたしました。なお、野暮な解説で恐縮ですが、グリフィンの色はザカリー様とエステル様を象徴しておりまして、それから」

「クロウちゃんを描くことで、誰が見てもおふたりの紋章とわかると、ですよね」

「はい。奥様もそうおっしゃっておられました」


 このパートは、オネルさんとミルカさんとの掛け合いで進行する訳ですな。


「また、この大旗の小型版も作成してお持ちしまして、そちらには既に王都屋敷の皆から寄せ書きを書いて貰っています。ジェルさん、お願い出来ますか?」

「うむ」


 そこでジェルさんとブルーノさん、ティモさんのレイヴン初期メンバーが前に出て、大型フラッグよりも同じ絵柄だがずっと小型のものが広げられた。

 こちらには中央の紋章を囲むようにして、皆の寄せ書きが書かれているんだね。


「この紋章につきましては、ザカリー様にご承認いただけるのでしたら、調査外交局の封筒や書状などの用箋、印章類、またこちらの王都屋敷で用いる馬車など、必要なところにあしらうよう発注したいと考えております」


「そうすると、わたしたちの制服などにも、その紋章を付けて良い訳ですよね」

「はい。その他、独立小隊の備品などにも。そこのところは、エステル様のご指示をいただいてくだされば」

「わかりました。ありがとうございます、ミルカさん」



「それじゃあ、ザカリーさまへの贈呈よー。はい立って、ザカリーさま。それと、気に入らないとか、余計なことしてとか、そういう文句は無しよ。贈呈はジェルさんからね」


 ここまで準備されて、文句など言える訳ないじゃないですか。それに、一目見て気に入っていますよ。


「ザカリーさま、ご卒業と調査外交局長官としてのご出発をあらためてお祝いして、どうぞこちらを受取ってください。グリフィニアと王都屋敷の皆を代表させていただき、これからもよろしくお願いいたします」


「ありがとう、ジェルさん、みんな、そしてミルカさん。ライナさんがああ言ったからじゃないけど、文句などひとつもありません。それどころか、とても気に入りました。この新たな紋章と素晴らしい旗の元で、僕たちは確かな絆をいつも感じながら、しっかりと前を向いて進んで行きましょう」


 俺は寄せ書きの書かれた小型のフラッグの方を手にし、両手で高々と広げて掲げ、そしてそれを背中に背負うように降ろした。

 その俺の仕草を見て、皆が大きな拍手をしてくれる。


 カァカァカァ。それ、どこかで見たことがあるって。だからさ、大昔に映像で見たのをいま思い出してですな。一度こういうのをやってみたかったんだよ。

 このまま屋敷の中を走り回ったりはしないからさ。カァカァ。それにこの元ネタ、キミしか分からないでしょうが。



「ならば次は、我らからだな」


 ケリュさんたち人外組の方々が立ち上がった。

 え? あなたたちからも何かプレゼントがあるですか。嬉しいけど、でもとんでもないものは止してくださいよ。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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