表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

977/1121

第961話 学院卒業が近づいてきて

 学院祭、そして地下洞窟の最終的な探索・浄化と地下霊廟への訪問と、学院生活最後の秋学期の重要イベントも終わった。


 残るは受講している講義のレポート提出や、剣術学ゼミの卒業試合稽古と魔法学ゼミの研究発表ぐらいかな。

 尤も剣術学と魔法学の両方については、俺は特待生なのでそういった卒業試験的なものは本来免除されるらしい。


 ともかくも、10月の終わりから11月中にかけてはレポート作成などに勤しみ、その1ヶ月余りはあっという間に過ぎて行った。



 この間の話題で言えば、我がグリフィン子爵家調査外交局が王都で重要調査対象としていた、ジェイラス・フォレスト公爵の宰相府が正式に開設されたこと。

 この宰相府開設にあたっては王宮からも公式に王国民に布告され、王国内の各領主貴族家へはその旨を伝える書状が当のジェイラス・フォレスト宰相の名義で届いた。


 これについては各領主宛に行ったので、書状そのものは父さん宛にグリフィニアに送られ、その写しをミルカさんが持って来てくれて俺はその内容を確認した訳だ。

 ただそれとは別にこちらには、王宮内務局局長のブランドン・アーチボルド準男爵からの私信というかたちで宰相府開設を報せてくれていた。


 どうやら王都にある各領主貴族家の王都屋敷には、それぞれにこの手紙が送られたらしい。

 領主貴族家の出先機関でもある王都屋敷がカウンターパートナーなので、王宮内務局としてはどうも宰相府に対していらぬ不審などが抱かれないよう、ブランドンさんがそうした私信をわざわざ送ったようですな。


 ミルカさんが宰相名義の書状の写しを持って来てくれたのが11月の中頃で、フォレスト公爵家王都屋敷内に設置された宰相府の正式な開設が11月の24日。


 ミルカさんは王都に来てからずっと滞在して、その宰相府がどう動き出すのかを、王都駐在の調査外交局メンバーを指揮して調査する予定にしていた。

 滞在期間は俺が王都に居る間なので、要するに卒業まではこちらにということ。

 エステルちゃんが言うには、「叔父さんは、ザックさまの卒業に居合わせたいんですよ」なのだそうだ。


 ミルカさん自身は「ウォルターさんと、それからクレイグ騎士団長やアビゲイル様も来るとかおっしゃっていたのですけど。やはりここはお役目柄、私になりました」などと言っていた。

 ウォルターさんは家令と同時に調査外交局の外交部長も兼任しているので、王都に自分がというのは分かるけど、クレイグ騎士団長とアビー姉ちゃん騎士は来る理由が無いよな。


 でも、俺が学院に入学したときもそうだったけど、これまで子爵家の子供たちの学院関係にはウォルターさんが付き添って来た経緯もある。

 アビー姉ちゃんが卒業を控えた秋には、いろいろあってウォルターさんとクレイグ騎士団長がこちらに来ていたしね。


 まあ今回はミルカさんに譲ったということか。

 調査外交局を作って卒業前に俺がその長官になったり、王都で今回の宰相府開設みたいなことが無かったら、やっぱりウォルターさんとクレイグ騎士団長が何か理由を付けて来たのかも。

 アビー姉ちゃんは王都に行きたかっただけだな、たぶん。でも、夏休み前にも来てたよね。



 話を宰相府に戻すと、11月24日のその開設日に開設パーティーが行われるとのことで、そのご招待状が俺宛に届いた。

 これは、先のセオ王太子と新宰相の娘であるフェリさんの結婚の儀、および宰相設置を承認したていの王国貴族会議に俺は出席しているし、王太子夫妻との私的関係もあるからだろうね。


 それで仕方がないので、公務ということで学院の講義を休んでその開設パーティーに行きました。

 と言っても、その日はウィルフレッド先生の魔法学ゼミだけだったので、まあ良いでしょう。


 俺はエステルちゃんと秘書のカリちゃんに調査部長の肩書きのミルカさんを伴い、ジェルさんたち騎乗のお姉さん3人を護衛として、馬車でそのパーティー会場でもあるフォレスト公爵家王都屋敷の敷地内に新築された宰相府へと向かった。

 ちなみに御者役はブルーノさんとティモさんの2名体制で、加えてリーアさんをエステルちゃんの侍女として同道させている。


「この格好ですと、探索で動き辛いですよ」

「いいのよ、リーアさん。今日はパーティーの中の様子や出席者のチェックだけだから」

「それはそうなのですけれど、エステル嬢さま。パーティー用のお衣装はどうも……」


 要するに、王都に居るうちの探索要員はユルヨ爺を除いて総動員なのだけど、お付き侍女役とはいえ滅多に着たことの無いパーティー用の衣装を着させられたリーアさんは、いささか困惑気味でした。

 あと、クロウちゃんはもちろんお留守番。どうせ興味も無かったと思うけどね。カァ。


 それでそのパーティーだけど、招待された出席者は領主貴族の王都屋敷に駐在している執事や用人クラスの人がほとんどだった。

 子爵継嗣で調査外交局長官の肩書きを持つ領主貴族の直系は俺ぐらいかな。


 あとは王都の民間の主立った人たちで、商業ギルドや冒険者ギルドといったギルドのギルド長や大手商会の商会長、支店長連中で大変に人数が多い。グエルリーノ商会からはマッティオ支店長が来ていた。


 それから、この夏に在外連絡事務所を王都に設置した商業国連合のヒセラさんとマレナさんのふたりも招待されていました。

 つまり、王都に居る実務者や民間人の有力者中心ということですな。


 一方で王宮関係からは各部局の長官、副長官に王宮騎士団長も来ており、王家からはセオさんとフェリさんの王太子夫妻が主賓で来ておりました。

 まあ王太子夫妻が出席したのは、宰相が外戚に当たる訳なので当然というところで、王宮騎士数名を伴っていたランドルフ王宮騎士団長はその護衛も兼ねていたのだろう。



 パーティー会場は、新築された宰相府の建物の中を通って奥に進んだところにある大広間。

 この大広間は、従来からある公爵家王都屋敷の大広間を拡張リニューアルしたものだそうで、つまりフォレスト公爵家と宰相府共用のかなり広くて豪奢な空間だった。


 王宮内の施設を除けば、セルティア王国で一番の大広間ではないですかな。

 宰相府の建物の新築とこの大広間の増改築とで、フォレスト公爵家もずいぶんと気張ったものだが、王国金貨の鋳造権を有しているので金持ちなのでしょうな。

 まあ、うちみたいな田舎子爵家では考えられませんが、俺の趣味でもありません。


 それでパーティーは、宰相であるジェイラス・フォレスト公爵の挨拶、主賓のセオドリック王太子の祝辞、王宮各部局を代表して内政部長官の祝辞と乾杯の音頭と形式通りに進み、そのあとは立食での食事となった。


 とは言っても、王太子夫妻が出席しているのでいくつか着席テーブルも据えられており、必然的に俺とエステルちゃんとカリちゃんはその王太子夫妻テーブルに連行された。

 ミルカさんやうちのお姉さん方とリーアさんは、こちらとしては調査目的もあるので自由にさせて貰ったけどね。


「宰相府の開設、おめでとうございます。なかなかに盛況ですね」

「これは、ザカリー君、いや、ザカリー・グリフィン長官。本日は来ていただき、ありがとう。あらためて今後ともよろしく頼む」


 王太子夫妻テーブルにはジェイラス宰相自身とその奥様の席もあって、俺がそこに連行されて挨拶するとそう返して来た。

 その表情はきわめてにこやかで、まあ上機嫌だった。


 彼とは夏の初めの一連の王宮行事で顔を会わせているけど、直接言葉を交わすのは昨年に当時婚約が決まったセオさんとフェリさんが学院祭に来たとき以来だ。

 王国宰相だからそうなのだろうけど、俺がグリフィン子爵家調査外交局の長官という肩書きを持ったのも、しっかり把握していましたな。


 エステルちゃんと秘書ということでカリちゃんもあらためて紹介し、少し言葉を交わすと直ぐに、ジェイラス宰相と奥様は出席者に挨拶して廻ると言って席を立って行った。

 先ほどの壇上でのスピーチや、自ら会場を廻って挨拶しようとするこの彼の様子を見ると、威丈高に権力を振り撒いたり、それをあからさまに態度に表すという感じでも無いのかな。

 それとも、宰相としてまだ出発し始めたばかりだからなのだろうか。



 その後はセオさんとフェリさんと、10月の学院祭の話題などで話をしていたのだが、出された食事をゆっくりいただく間も無くこのテーブルに色々な人が挨拶にやって来る。

 彼ら特に民間人の場合は、滅多に得られない王太子夫妻への挨拶の機会を逃さないためというものなのだが、ついでに俺とエステルちゃんのところにも来るんだよね。


 もちろん、商業国連合のヒセラさんとマレナさんなどは王太子も俺たちも仲の良い間柄なので大歓迎で、ランドルフ王宮騎士団長やブランドン内務部長官が俺のところに来るのも仕方ないとして、その他の長官、副長官連中も来る。

 続いて各ギルド長や大手商会の会長、支店長などなどが次々に。


 何かを口に入れる暇すらありませんでした。

 尤も、うちの御用達商会のグエルリーノ商会マッティオ支店長だけは、「ご苦労さまです、ザカリー様。あともうひととき、なにとぞご我慢いただいて」とか、労るような、それとも俺が暴発でもしかねないのを心配するような、そんな言葉を掛けてくれましたけどね。


「どうだ、ザック君。これで、この王都に居る有力者のほとんどとは会ったんじゃないか。いやあ、良かった良かった」


 挨拶に来る人の波がようやく途切れたときに、セオさんがそんなことを俺に言う。

 ちっとも、良かった良かったじゃあないですよ、ほんとに。



 俺がそんな時間を過ごしている間、ミルカさんとリーアさんを中心にジェルさんたちお姉さん方3人もパーティー会場内に散らばって、出席者の確認とリストアップやあちらこちらで行われている宰相と宰相府に関する会話などを聞いて廻っていた。


 また御者役として来ていたブルーノさんとティモさんの方は、馬車と馬を所定の場所に預けると何食わぬ顔で宰相府の施設内に入り込み、施設のつくりや内部の様子などを調べていたそうだ。


 そんな感じで開設パーティーを利用したうちの調査活動も終えて、俺たちはフォレスト公爵家王都屋敷を後にした。


 ちなみにミルカさんによると、キースリング辺境伯家の調査探索局をはじめとして、うち以外でもファータ衆やファータではない探索要員らしき者がそれなりの人数入り込んで、同じように調査をしていたとのこと。

 これらの調査結果は、各領主貴族の元に送られて報告される訳だ。


 まあそうだよね。

 招待客本人だけじゃなくてその同行者も加えてかなりの人数が会場には居たし、宰相府側としてもそういった各方面の外部からの目の存在もあらかじめ想定していただろう。

 宰相とその奥様が親しげに出席者と言葉を交わして会場内を廻り、在王都の有力者たちに殊更親近感をアピールしていたのも、そんな予測をしていたからではないかな。


 それにしても、うちの者たちは調査活動を行いながらもパーティーで出された料理はしっかり食べていたようだ。

 でも俺は、ひっきりなしに来る出席者の相手をして大変だったのですよ。


「わたしもそれほど食べられませんでしたから、お屋敷に帰って何か食べましょ」

「そうですよザックさま。あのテーブルだと我慢しないとですよ。お仕事ですし」

「カリちゃんは、けっこう食べてましたよ」

「えへへ。見てたですか、エステルさま」


 カリちゃんがもの凄く大量に料理をお腹に流し入れていたのは、俺もちらちら見てたけどね。


「あれくらいで体型を気にしなくていいのって、わたしの人化魔法もなかなかですよね」


 さいですか。まあ本来のドラゴンの姿からすれば、その程度は微々たる量だよな。




 この1ヶ月余りの間で起きた主な出来事は、そのぐらいでしょうか。


 そうして12月に入り、座学の各講義へ提出するレポートもほぼ書き終わって、いよいよ最終講義を残すだけとなった。

 ちなみに俺の場合、4年生で受講していたのは8講義。そのうち、特にお姉さん教授からのわがままを聞いたお陰で、剣術学ゼミが2つ、魔法学ゼミも2つの変則的なものになっている。


 なお秋学期の最終日は、10月の学院祭の後片付け日が休講日となる関係で、5日間サイクルの初日分が振替えとしてこの12月の最後に置かれている。


 なので最終講義は俺の場合、5日間サイクルの2日目の軍事戦術学と自然博物学の両ゼミで始まり、翌日がフィランダー先生の剣術学ゼミとジュディス先生の魔法学ゼミ。

 そして次の日が神話学と内政学で、その翌日がフィロメナ先生の剣術学ゼミ。そして最終日がその振替え分であるウィルフレッド先生の魔法学ゼミとなって、これで俺の学院生活は終了だ。


 あと課外部の方も、その日に4年生はそれぞれが部活動の最終日を迎えることになる。その翌日はもう卒業式だからね。


 俺たちの総合武術部も他の課外部と同じようにこの最終日は練習や部活動は行わず、所謂、卒業生部員の追い出しコンパだ。

 すべての課外部が学院生食堂や、あるいは課外部棟にある各部室を会場にしてこの追いコンを行うので、まあ学院中がパーティー会場みたいなものになる訳ですな。

 我が総合武術部はこれまで卒業生が居なかったので、これが初めての経験となる。


 そうして翌日、本当の最終日である卒業の日は、午前中が卒業式でそのあとがクラスごとに最後のホームルーム、と言うかクラスでの簡単な打ち上げパーティー。これは各専用教室で行われる。


 午後には寮に戻って部屋の片付けを行い、同じ寮の下級生からの別れの挨拶を受け、そして夕方からは学院生食堂で卒業生全員に教授たちも参加して卒業パーティーが行われ、すべてが終了となる。

 ちなみにこの卒業パーティーは在学生でも参加が可能なのだが、俺は出たことが無いんだよね。


 しかしそれにしても、前日の課外部の追い出しコンパから始まって、卒業の日はいろいろと大変でありますな。



「ザックさまの寮のお部屋のお片付けはどうしますか? わたしも行きますか?」とエステルちゃんから聞かれた。カリちゃんも「お手伝いしますよ」と言う。

 そう言えばアビー姉ちゃんが卒業した際には、卒業式に出席したエステルちゃんとジェルさんたちお姉さん方3人が、姉ちゃんの寮の部屋の片付けを手伝ったのだったよな。


 今回、俺の部屋の片付けにエステルちゃんが来るとしたら、カリちゃんだけでなくお姉さん方も絶対に手伝うって言うよな。

 でも、男子寮のそれも俺の狭い部屋に、何かと学院では有名人のうちの美女が5人も来たら大騒ぎになるでしょうが。

 それに男子寮の寮生たちには、いささか目の毒でありますぞ。


「えーとその、男子寮だしさ、とにかく荷物は全部、僕のあれにぶっ込んでおくので、屋敷に帰ってから出して片付けるということで」

「そうですかぁ?」


「きっとこれ、ずっと入れっぱなしのままになりますよ、エステルさま」

「そうよねぇ。ちゃんと全部入れて、お帰りになったら出してくださいよ」

「はいであります」


 学院生活最後の12日間を控えた休日には、そんなやり取りもありました。


 あと、アビー姉ちゃんのときにも行ったのだけど、15日の卒業式のあと18日にはうちの屋敷で俺の卒業パーティーを行う計画なのだそうだ。

 2年前と同じようにうちの総合武術部の部員たちや親しい教授たちもご招待する予定で、そのほかにも関係者をお招きすると、姉ちゃんのときよりも出席者はかなり多いのではないかな。


 ともかくも学院関係者については、俺がリストアップしてご招待するよう言われているので、そんなこともこの12日間でしないとですな。

 いやあ、卒業を間近に控えて忙しいのでありますよね、クロウちゃん。カァカァ。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ