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第957話 岩石アンデッドとの戦闘

 地面のあちらこちらの岩が一斉に隆起して来ている。

 俺の施す結界はアルさんの魔法障壁みたいに強力な物理防御では無いし、ましてや岩がむくむくと持ち上がっているのを防げるものでも無い。

 有毒性のガス混じりの地熱蒸気のような噴出を、俺の結界が抑えているのかどうかも正確には分からないしね。


 明らかな自然現象で単に地面や岩が部分的に隆起しているのなら、それはそれで退避すべき要件かもしれないが、これは敵性の何かの出現と俺は感じ取った。

 それはエステルちゃんやレイヴンの皆も、そして人外の方々も同じだったようだ。


「何か、出ますっ」


 俺たちが構える場所に一番近い隆起を注視していたらしいオネルさんが、大きな声を出した。

 うちのお姉さんたちはいつもはあんな感じだけど、いざというときには良く通る鋭い声を発する。


 ゴゴゴゴゴという地の下から身体に伝わる鳴動が続くなか、グォーッという音なのか鳴き声なのか、それが響いた途端、隆起し続ける濃い灰色の岩石だと思っていたものが、一挙にその全体を上に伸ばした。


「あれって、ゴーレムとか言うの? それとも?」

「ゴーレム……ではないの。アンデッドじゃよ、ライナ嬢ちゃん」


 前世はもちろんこの世界でも、俺はゴーレムなんてものは見たことが無い。

 前々世の小説などで知り、アニメやゲームで想像され描写されたものを見たことがあるだけだ。

 ただ、ライナさんが口にした通りにそういう存在がいるとはこの世界でも伝えられており、絵物語などにも描かれている。


 そういった土や岩石や、鉱物や金属で出来た大きな人型の動く何か。いや必ずしも人型だけでは無いのかな。

 そんな何かのように、確かにいま隆起した岩から出現した身長が2メートルほどもある人型のそれは、やや細身ながら身体がすべて硬そうな岩石で出来ているように見える。


 だが、アルさんはゴーレムではなく、これがアンデッドだと断言した。おそらく彼は、ゴーレムのことも良く知っているのだろうな。

 いずれにしろ、どこかの何者かが造った創造物のゴーレムではなく、いま出現したこれも、この地下洞窟に蠢くアンデッドのひとつだと言う。


 大空間のかなりの広さをカバーする俺の結界内を見渡すと、そんな岩石で造られたようにも見えるゴーレム型のアンデッドが、隆起した岩から次々に何体も立ち上がり始めていた。



「各個撃破しますか? ザカリーさま」

「うん、そうしようジェルさん。しかし、なかなかに硬そうだな」

「刃物が通るか、やってみます」

「そうだね。レイヴンとユルヨ爺で、まずは一体頼みます」

「承知しました」


 俺の指示を聞いて、ジェルさんはレイヴンの5人とユルヨ爺に短く言葉を掛け、いちばん近くに居る岩石アンデッドに向かってフォーメーションを取る。

 そのアンデッドは、こちらに向かって足を踏み出そうとしていたが、どうやら動きに俊敏さは無いようだな。


「わたしたちはどうしますかぁ?」

「カリちゃんも闘うの?」

「もちろん闘うですよ、秘書ですから。“巨頭砕き”の初陣です。それほど巨頭じゃないけど」


 そうですか。砕くですか。


「そうしたら、エステルちゃんと組んであっちの一体を」

「了解であります」

「わたしは、何もしなくても大丈夫そうですねぇ」


 白銀と黒銀を鞘から抜いて両手に持ったエステルちゃんと、巨頭砕きのメイスを構えるカリちゃんのふたりに、それほど緊張感は無い。

 まあたぶん、あのアンデッド相手だとオーバースペックだろうなぁ。


「我はどうする? ザック」

「え? ケリュさんも参加するの?」

「戦闘はずいぶんと久し振りだから、ちょっと地上世界での肩ならしにな。シルフェからは許可を貰ったぞ」


 奥さんから許可を貰って肩ならし戦闘とか、まあいいですけど、あなた、神様ですからね。オーバースペックどころじゃないでしょうが。

 と言うか、俺が貸した大包平おおかねひらをただ試したいだけだよね。


「んー、じゃあテキトウにやっちゃってください」

「おう。我は一番奥の彼奴をやるぞ」

「はいはい」


 ケリュさんは大包平おおかねひら2尺9寸4分5厘を腰の鞘から抜くと、その抜き身を片手にひゅーっと走って行った。

 クロウちゃんはケリュさんと一緒に行くのか。気を付けてね。カァ。

 ひと声返事をして、クロウちゃんはケリュさんを上空から追いかけて行った。


 あとの人外の方々は? シルフェさまとシフォニナさんにアルさんとクバウナさんは見学ですね。

 まあ本来はそうなんだよな。



 俺はその見学組の前にひとり残ってレイヴンの戦闘を注視する。


 ズンズンと向かって来る岩石アンデッドに向かって、ユルヨ爺がするすると接近しながら得物を1本投げ撃った。

 あれは普通の投擲用のダガーだね。そのダガーは鋭く胴体に突き刺さるように見えたが、カンと弾かれる。

 やはりなかなか硬そうですぞ。ユルヨ爺もそれを測ったのだろう。


 彼はそれを見て直ぐに二手目を投げ撃つ。撃ち方が少し違うので、あれは魔導手裏剣だな。

 その魔導手裏剣がひゅるひゅる飛んで岩石アンデッドの腹に当たると、今度は弾かれずに回転を続けながら岩の胴体を切って食い込むように留まっている。


 岩石アンデッドが足を停め、振り上げた手で腹に食い込む魔導手裏剣払おうとしたところに、素早くティモさんが飛び込み加速のショートソードでその腕を斬り落とした。

 あのショートソードならではの目にも留まらぬ斬れ味だ。


 岩石アンデッドは片腕を落とされて、仰け反るようにグァーッと声を出した。

 そこにオネルさんが氷晶の剣で突きを入れ、その剣先が入ったところからパキパキと氷が広がる。


 すると、続けざまに火焔の剣を振り上げて間合いに入ったジェルさんが、岩石アンデッドの胸板に焔を纏ったその剣をズンと斬り落とし、バァンと小爆発を起こしたように岩石の身体が砕け散った。


 一瞬の極低温に見舞われ、脆くなったそこに高熱度の刃が入って砕けましたか。

 この連携なら問題無く闘えますな。


「出番がありやせんでしたな」

「わたしもよー。殴って砕こうと思ったのにー」


 雷撃の弓を手にしたブルーノさんと重力可変の手袋を両手に装着したライナさんが、俺のところに来てそんなことを言う。

 確かにこの程度の相手なら、それぞれに魔導武器を装備したレイヴンの敵では無いな。


 と言うか、殴って砕くって、ライナさんは魔法遣いですよね。今更ですが。

 まあ確かに、身体が硬そうな岩石で出来たアンデッドだと、土魔法は相性が悪そうだけどね。


 いまの戦闘結果を見て、即座にジェルさんがチームを2つに分けた。

 氷晶と火焔で岩石アンデッドに対して圧倒的に効果の高いオネルさんとジェルさん自身、そして遊撃役のユルヨ爺のチームと、ブルーノさんにライナさん、ティモさんのチームだ。


 雷撃の弓で遊撃のブルーノさんに、前衛のティモさんと同じく前衛? のライナさん。

 前衛ふたりに遊撃ひとりだからそれぞれ同じバランスなので、これでいいんだよな。

 まあ、ブルーノさんがいるので任せましょう。



 エステルちゃんとカリちゃんが闘っている方を見ると、ふたりでそれなりに連携して岩石アンデッドを破壊していた。


 岩石アンデッドは武器を持っていないので、殴る蹴る体当たりするといった単純な物理攻撃のようだが、パワーはなかなかのものだ。

 身長は2メートル以上はあるので、拳を振り上げて殴り降ろして来る。


 それを身軽に避けたエステルちゃんが、姿勢を低くして右手に持った黒銀のショートソードで相手の足を一閃。

 黒銀がするっと横薙ぎされ、黒魔法効果で一瞬のうちに岩石アンデッドの両足もろとも下半身が消滅した。


 ガクッと地面に垂直に沈むそれの上方にすかさず跳んだカリちゃんが、巨頭砕きのメイスで頭頂部を一撃。

 その一撃で、岩石アンデッドの頭部はおろか上半身のほとんどが空しく砕け落ちた。

 えーと、ふたりの攻撃がちょっと怖かったので、見なかったことにしましょう。



 それで、だいぶ離れて闘っているケリュさんはどうですかね。

 その戦闘場所の上を飛んでいるクロウちゃんの視覚を通して見てみる。


 ケリュさんは一体の岩石アンデッドに相対して、先ほどは抜刀していた大包平おおかねひらを再び腰の鞘に納めて、特に構えることもなく何やら相手を観察しているようだった。


 ああそうか。ケリュさんは別に戦闘をしたいというだけではなくて、このアンデッドを間近で観察したかったらしい。


 それに対してアンデッドの方も、対している相手に何やらただならぬものを感じているのだろう、うまく動けないみたいだ。

 この岩石アンデッドに多少の意志があるのか、それともただ反応して攻撃して来るのかは分からないが、少なくとも神たる存在のケリュさんに対してどう反応すべきか混乱しているようにも見えた。


 そんな互いが動かずに向き合う僅かな時間が過ぎ、おもむろにケリュさんが大包平おおかねひらの柄に手を添えた。

 それに合わせてそれまでの呪縛が解けたかのように、岩石アンデッドが体当たりをせんと猛然と突進して来る。


 相手が激突態勢に入る刹那、ケリュさんが抜刀すると一瞬でアンデッドの頭部が落ち、岩石の身体がずしんと横倒しに倒れ落ちた。


 動かずに抜刀し、踏み出しての一閃。この世界の武神が居合? カァカァカァ。ああ、刀の遣い方を教えてくれと頼まれたので、前世の武士が扱う色々な型のイメージを居合を含めてキミが送ったのね。

 その中からいまの居合を選んで、瞬時に実戦で試したという訳だ。


 なるほど俺が貸した大包平おおかねひらは、良く鍛えられてはいるけれど強靭で繊細な日本刀で、決してこの世界の無骨で頑丈な剣や魔導武器では無いからね。

 そこで一刀の鋭さをもって、岩石アンデッドの急所で一番に刃が通り易いと思われる首の部分を狙ったのか。

 さすがケリュさんといったところですな。




 この地下大空間の岩場から出現した岩石アンデッドは、ぜんぶで30体ほどだ。

 破壊された様子からすると身体のすべてが岩石で出来ているようだが、アルさんが指摘したようにゴーレムではなくアンデッドだとすれば、その元はこれまでに俺たちが倒し浄化して来たのと同じく、800年前の部族王マルカルサスさん旗下の兵士だった筈だ。


 その兵士たちがアンデッドとなり、更に何かしらの力でこのような岩石アンデッドへと変貌した。

 ケリュさんはおそらく、そういった何かしらの力も探っているのだろうけど、俺としてはまずはマルカルサスさんのためにも、これら岩石アンデッドを速やかに倒して穢れから切り離し魂の浄化へと導いてしまいたい。


 皆の戦闘を見ているだけでなく、俺もケリュさんの闘い方に倣って数体の岩石アンデッドの首を落とした。

 ケリュさんが神力でそうしているかは分からないが、童子切安綱どうじきりやすつな2尺6寸5分にはキ素力を込め、強化して刃こぼれをしないようにする。

 それでも一刀で首を落とすのが肝要だよな。


「前に左の通路の先で出たスケルトンみたいに、復活はしないようですね。浄化はまとめてでいいですかね」

「そうね。倒して砕くとただの岩石になるみたいだから、片付いたらまとめてでいいわ」


 見学組のところに戻ってシルフェ様とそう確認する。

 一刀で首を落としていたケリュさんは、クロウちゃんを伴ってこちらに向かっていた。

 同じく一撃乃至ふたりで二撃で倒して破砕、消滅させていたエステルちゃんとカリちゃんも戻って来た。

 レイヴンの2チームも、あとそれぞれ1体ずつ倒せば戦闘終了となるだろう。


 そのあとで岩石アンデッドがもう出現しないのを確認して、クバウナさんと聖なる光魔法でこの大空間を浄化して……。

 でもこれで終了なんですかね。



「ちょっと熱気が来てませんか?」


 俺がそんなことを考えていると、誰にともなくシフォニナさんがそう声を出した。


「あら。そう言えば、そんなのが伝わって来るわ」

「シルフェさん、あそこ。少し吹き出してますよ」


 クバウナさんが指差す方を見ると、ケリュさんの力を得て俺が結界を拡大し押え込んでいたように思われた地熱蒸気が、遠くの一ヶ所で僅かながらに再び吹き出している。

 だいたい俺の呪法の結界は、魔法障壁とは違って物理的に何かを押え込む力はそれほど強く無いんだよな。有毒ガスの侵入は防いでいる筈だけど。


「む。また何かが出て来そうじゃぞ」

「親玉でも現れるか」


 カァカァ。こちらに戻って来てケリュさんの頭の上で休んでいたクロウちゃんが、ちょっと偵察して来ると飛び立った。


「ちょっと、クロウちゃんたら、気を付けるのよ」

「カァ」


 エステルちゃんの声にひと鳴き返事をして、クロウちゃんは地熱蒸気の噴出口にみるみる接近して行く。

 この大空間を入口から観察した時点に比べるとかなり弱々しい噴出なので、まあ大丈夫だとは思うけどさ。


 そのとき、ズドォーンという響き渡る炸裂音とともにその噴出口で爆発が起き、水蒸気爆発のような火焔と白い煙が周囲に広がった。


「きゃぁーっ、クロウちゃーん」とエステルちゃんが叫ぶ。


 俺は咄嗟にクロウちゃんの視覚に同期する。でも、もし同期出来なければ……。

 頭をそんな一瞬の恐怖が過ったが、僅かにタイムラグがあったものの無事に同期出来た。でも視界は少しぼやけているな。


 どうやらいまの爆発でかなり飛ばされ、どこかの岩に叩き付けられたらしいのだが、通信が出来たからには意識ははっきりしている。

 ともかくも俺はその場所へと、縮地を使って一気に走ったのだった。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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