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第955話 戦闘準備

あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いします。


「武器装備を変更したいのですが、ザカリーさま、ご許可を」


 ジェルさんが俺にそう願って来た。彼女自身だけでなく、レイヴン隊長として全員のをという意味だ。


「いいよ。何が待ち受けているか分からないから、念のために」

「承知しました」


 直ぐにオネルさんが、肩から提げていたマジックバッグから武器を取り出して行く。

 今日はそのオネルさんとカリちゃんだけがバッグを提げていて、どちらも街歩きで使えるようにお洒落に外装を変えているので、この洞窟の中で戦闘装備だと違和感が凄いけどね。


 それで武器装備を変更とは、普段装備している通常の武器ではなくアルさんから貰った魔導武器を、ということだ。

 ジェルさんの火焔の剣、オネルさんの氷晶の剣、ティモさんの加速のショートソード、ブルーノさんの雷撃の弓、そしてライナさんの重力可変の手袋。


 それぞれはおそらく、何千年も昔の古代文明時代の遺物なのだろう。

 アルさんが収集し宝物庫にストックされていたものの中から、レイヴン初期メンバーの5人へと各人の戦闘タイプに合わせて贈られた貴重な魔導武器だ。


 普段はほとんど使用する機会は無いが、2年ほど前にいただいて以来、各自は訓練を通じてそれらの武器に充分習熟している。

 あ、ライナさんだけは得物の性格の違いから、意外と良く使用しているよね。


 それから、以前にアルさんの宝物庫に行ったときに探し出していただいて来た魔導手裏剣も複数出して、これはユルヨ爺に渡していた。

 ユルヨ爺はブルーノさんと同じく弓を背負っていて、かつロングダガーも忍ばせているが、どんな武器にも精通している彼は特にファータの投げダガーの名手であり、この魔導手裏剣も訓練しているらしい。


 そんな武装を変える皆の様子を見ながら、俺は無限インベントリから2本の剣を取り出した。

 この2本はミスリル製の白銀のショートソードと黒銀のショートソード、つまりエステルちゃんの取って置きの愛剣だ。

 剣を振るえば白銀が白魔法を、黒銀が黒魔法を発動し増幅させるという、とんでもない魔導剣ですな。


 俺がその白銀と黒銀をエステルちゃんに渡していると、カリちゃんも自分が持っている可愛らしい外見のマジックバッグから、1本の無骨な見た目の全金属製メイスを取り出した。


 それは言わずもがな、彼女が自らアルさんの魔法庫から探し出して自分の得物にしている、巨頭砕きのメイスという危険物ですな。

 武器の大きさからは絶対に考えられないそのとてつもない重量から、人間は決して装備が出来ません。


「カリちゃん、それ出すの? キミは武器はいらんでしょうが」

「カァカァ」

「なぁーにを言ってるですか、ザックさまは。秘書としては武器のひとつぐらい」


 いやそれって巨人の頭でも一撃で粉砕し、もし仮に間違って足の上に落としたら、武器自体の重量だけで足など簡単に砕ける危険物じゃないですか。

 だいたい、これも古代文明時代の魔導武器らしいのだけど、人化したドラゴンぐらいしか使えないような武器をどうして作ったのか、未だに謎なんだよなぁ。


「それよりも、ザックさまは何か装備しないんですかぁ?」

「ザックさまは、あれ出しますか?」


 ああエステルちゃん。俺はヨムヘル様からいただいた叢星そうせい、むらほしの刀は出しませんよ。あれは魔導武器というより、神刀だからね。

 不死を断つ刀だそうなので、つまり神殺しの刀だ。俺はそう思いながら、ケリュさんの方をちらっと見た。



 その俺の視線を察知して、ケリュさんが近くに来た。クバウナさんも来て、エステルちゃんの特に白銀に興味がある様子だ。


「ザック。我にも何か得物を貸してくれ」

「えー、ケリュさんは武器とかいらないではないですか。だいたい、自分の得物を持ってないの?」


 そう言えば、ケリュさんと会ってからこれまで、狩猟と戦いの神なのに彼自身の武器など見たことが無いよな。

 剣術の訓練でもうちの木剣を使っているし、先日には俺が前世から持って来た本赤樫の木刀を進呈したばかりだし。


「我の得物か? それは出せんぞ。ザックとて同じだろ?」

「知ってるんですか?」

「ああ、ヨムヘル様より伺っておる」


 ケリュさんが所有する武器だとすれば、それは神々が振るう闘いの武器か。確かに、こんな洞窟で汚れたアンデッド相手には出せないよな。

 それと、俺が神殺しの刀を持っているのをちゃんと知っておるのですな。


「そうですか、仕方ないなぁ。そうしたら、ケリュさんにはこれを。それから僕はこれで」


 無限インベントリから俺は、ふた振りの刀を鞘に納めた状態で取り出した。

 ひと振りは大包平おおかねひら2尺9寸4分5厘。刀長が90センチ近くある大業物おおわざもので、それをケリュさんに手渡す。


 彼はその大包平おおかねひらをすらりと、何の躊躇いも無く鞘から抜いた。


「おお、これは素晴らしいな。ん? この片刃剣、ではない刀か。なにやらしっくり来るぞ。そうか。以前にザックから貰った……」


 そうですよ。前にやった互角稽古でケリュさんに貸して、その後に差し上げた本赤樫の木刀は、長さや重さをその大包平おおかねひらに合わせて作ったものですからね。


「あなた。こんな皆がザックさんの結界の中で集まっているのに、そうやって刀を抜かないのよ。ほら、振ろうとしないの」

「おう、そうだな。これは鞘に納めて、こうしてベルトに差せば良いのだったな。この鞘の紐をベルトに結んでと」


 シルフェ様に叱られそうになったケリュさんは、大包平おおかねひらを鞘に素早く納めると、その鞘を腰のベルトの左側に差して下緒さげおをベルトに結んだ。

 へぇー、教えなくてもそういうのが分かるんですねぇ。カァカァ。そうだね。そこはさすがに武神というところか。


 俺はその様子を見ながら、無限インベントリから出したもうひと振り、童子切安綱どうじきりやすつな2尺6寸5分を同じように腰に差す。

 この童子切は、わりと遣う頻度の高い刀長70センチ弱の大典太光世おおてんたみつよ2尺1寸8分よりも長く、大包平ほどではないが80センチぐらいある。


 狭い空間や対人の乱戦では大典太の方が取り回しが良いのだが、おそらくこの先には広い空間があって、人間サイズのアンデッドと言うより対魔物戦になる予感があったからだ。




「それじゃ、行きますか」

「よしっ。進みましょう。隊列はこのままで良いですか?」


 いま全員が俺の結界内に入っているので、かなり大きめの結界を張っているにせよ皆のそれぞれの間隔は狭い。


「ジェルさん、自分が先行して探りやす」

「しかしブルーノさん臭いが、それに……」

「多少キツくても」

「またあの熱風が来ないとも限らんぞ」


 ブルーノさんが先行してこの先を探ると言う。

 本来はいつも彼がリーダーでその役目を果たすのだが、そもそも結界を張ったのは臭い対策で、更に先ほどの高温の熱を帯びた突風がまた来たら結界の外では危ない。

 ジェルさんはそのことを懸念した。


「まずは臭いの具合を確かめやしょう」とブルーノさんは言って、するすると結界の外に出た。

 ちなみにこの結界には物理や魔法の防御も込めているが、俺が護る対象と認識している者は出入りが自由だ。


「それほど臭いやせん。これならば大丈夫」

「しかし、また熱風が来ると……」

「だったら、ブルーノさんの動きに合わせて結界が広がるようにするよ。臭いがそれほど強く無いのなら、物理と魔法に防御の比重を置いて」


「おい、ザックのその呪法とやらは、そんなことが出来るのか」

「まあ、出来るか出来ないかと言ったら、出来ますよ。大きさの限界はありますけどね」


 要するに、ブルーノさんの先行する動きの速さを予測して、前方に向かって結界を広げるだけだ。

 前世だとこのような呪法は難しかったが、キ素力の豊富なこの世界なので可能だ。


「ならば」

「いや、ユルヨ爺。先ほどは譲りましたから、今度は私が行きます」

「そうか、そうだな」


 ユルヨ爺が再びブルーノさんに同行しようと手を挙げたのを制して、今度はティモさんが行くと言う。

 確かに、この洞窟自体や俺絡みでの魔物相手だとティモさんの方が慣れているので、今回はティモさんにも行って貰おう。


 俺はそう言って同意し、結界の性質を変える呪法を行った。

 クロウちゃんも行くの? ああ、ブルーノさんとティモさんとキミは、レイヴン偵察チームの一員だものな。

 そうしたら結界の先端をキミに合わせるから、必ずブルーノさんたちのほんの少し前を飛んでね。カァ。


 ついでにこちらを照らす灯りの魔法はアルさんとカリちゃんに任せ、俺はクロウちゃんの飛ぶ更にその上に灯りを浮かべた。

 俺とクロウちゃんはこういう探索の場合、同期しているので、その灯りは彼が飛ぶ速度に合わせて追尾して行く。



 ふたりと1羽が先行して行ったあと、俺たちも前進を開始する。

 薄闇の壁があった場所の通路は比較的平坦だったが、直ぐにまた下降し始めた。


「そう言えば、初めて右の通路を行ったときは、あの壁を破ったら臭い風が吹いて来ましたよね」

「うん、そうだった。あれは閉口したよなぁ。あの臭い風って、淀んで腐り果てた沼から吹き出して溜まってたものだったよね」


「でしたぁ。左の道を行ったときは風が来なかったけど、先にあったのは骨の灰の広間で。……そうすると、今回は熱風が来たから、なんか燃えてるですかね」

「うーん、溶岩が湧いてるとか? 地中と言ってもまだそんなに深く無いし、王都のあるこんな場所の地下が溶岩地帯とも思えないしなぁ」

「溶岩て、岩が燃えて溶けてるんでしょ? そんなのわたし、見たこと無いですよ」


 ゴツゴツした岩が壁に剥き出しになって来た地下通路を慎重に下りながら、エステルちゃんとそんな会話をする。

 俺も前々世に動画で見たことがあるくらいで、実際には見て無いよな。

 セルティア王国内には活火山は存在しないから、今世ではエステルちゃん同様にもちろん見たことが無い。


 クロウちゃんと視覚を同期させ、俺の視野の一部には彼の見ている映像も映し出されているけど、この先に在るであろうそんな場所はまだ見えて来なかった。


「わたしはありますよ」

「え? カリちゃんは、そういうの見たことがあるの?」

「はいです。わたしの故郷から少し飛ぶと、火や煙を噴く山がありましたから。ね、お婆ちゃん。師匠も知ってますよね」


「サラちゃんの棲む山は火山だし、そこから離れても点々とそういう山が在りますのでね」

「大陸の北にも東の島にも火山はあるのう。それからエンキワナには多いぞ」


 クバウナさんの言うサラちゃんとは、先ほども話題に出た真性の火の精霊のサラマンドラ様のことだ。

 そうだよな。ニンフル大山脈の中央から南に行った辺りがその火の精霊の棲まいだそうだけど、確か活火山が在ると聞いたことがある。

 真性の土の精霊のグノモス様の本拠地も、そこからわりと近いらしい。


 あと、アルさんによれば、妖魔族と呼ばれる者たちが多く住むエンキワナ大陸には火山が多いのだね。

 そんな土地に、俺もいつか行くことがあるのだろうか。



 カァカァ。広い空間に出るよというクロウちゃんからの通信に、彼の見る視界に注意を移した。

 どうやら洞窟通路の出口の手前でホバリングして、そこから前方に広がる空間を見ている。

 ブルーノさんとティモさんは? ああ、左右に分かれて同じくその空間を伺っているな。


 温度は? 熱くないかな。カァカァカァ。結界の外からの熱が伝わって来るので、地上の外気温よりはずっと高いみたいだけど、たぶん動けないほどでは無いんだね。


 クロウちゃんの目を通じて観察した限りでは、かなりの大空間だ。広さだけでなく天井部までの高さも相当あり、見た感じでは50メートルぐらいはあるのではないかな。

 床部分というか地上部は平坦では無く、ところどころで大きな岩が飛び出すようにゴツゴツしている。


 その岩で覆われた地上部のあちらこちらから時折、水蒸気みたいなものが激しく吹き出していた。

 さすがに溶岩が流れているとかでは無かったな。

 どちらかというと前世に俺が居た世界の、人間の手が加わっていない温泉地帯の荒々しい風景に近いだろうか。

 そして、この空間内で動いている存在はここからは確認出来ない。


 もしかして有毒なガスが噴出しているとか? 確か硫化水素なんかが危険なんだよな。

 結界で空気中のそういう毒物も遮断しているが、クロウちゃんによると微かに何かが腐ったような臭いが感じられる気がするという。


 それって危ないんじゃないの? カァカァ。

 結界の中なら問題無いけれど、いったん退避だ。ブルーノさんとティモさんに伝えて戻って来て、クロウちゃん。カァ。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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