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第954話 真ん中の通路

 別れの広間にぽっかりと空いた、奥へ続く3つの通路の入口。俺たちはそのうちの真ん中へと入って行った。


 ここからは、人間組と人外組に前後に分かれた隊列を組んでいる。加えて人間組つまりレイヴンの並びもジェル隊長の指示で変えた。

 先頭はブルーノさんとティモさん。その直ぐ後ろにユルヨ爺だ。


 ティモさんはここまで、全体をフォローする位置取りで最後尾にポジションを取って来たが、現在はブルーノさんと共に偵察、探索を行い隊列の先導を行う通常位置に戻った。

 そしてユルヨ爺が続き、ふたりをカバーする。


 その後ろにはジェルさん。これは俺に、と言うよりエステルちゃんに近い位置であり、

 全体を指揮しつつ彼女が最も大切にしている人を護衛するポジション。

 そのジェルさんの後ろに俺とエステルちゃん。そしてカリちゃん。クロウちゃんはいつでも飛べるように俺の頭の上に座っている。


 って、カリちゃんは人外組じゃないの?


「わたし? わたしは秘書でありますから」


 ああ、そうですね。

 その3人と1羽の後ろはライナさんとオネルさんが固めている。


 そのレイヴンに続くのはシルフェ様、ケリュさん、アルさん、クバウナさん、シフォニナさんの人外組だが、まあこの5人はいいでしょう。

 特に並び順を決めている訳では無く、なんとなく固まって続いて来ている。



「そろそろでやすな、ザカリー様」


 ブルーノさんが右手を挙げて一旦停止の合図を行い、振り返って俺にそう聞いて来た。


「そうだね。おそらくもうそろそろだ」

「では、自分とティモで先行して確認に」

「いや、わしがブルーノさんと行こう」


 ブルーノさんの言うもうそろそろとは、通路を途中で塞いでいるあの薄闇の壁のことだ。

 左右の通路でも500メートルほど進んだところにあったので、確かにもうそろそろの筈だね。


 ユルヨ爺が自分が行くと口に出し、ジェル隊長の許可を得るとふたりはするすると音もなく前方に進んで行った。

 ユルヨ爺としては前に出たいと言うよりも、これまでの長い人生で見たことの無いそれへの興味が優先したのかも知れない。


 この洞窟通路は、以前に行った左右の通路と同じく天井は高く、ふたりで横に並んでも余裕で歩けるほどの幅もあるのだが、ここまででも進むに従って右に左に曲がりくねり、また更に下りが続いており前方の見通しが効かない。


 広間にあったような自然由来の照明も存在しないので、従って直ぐに広間からの光も直ぐに届かなくなった。

 いまはおそらくは真っ暗なのだが、隊列の前方は俺かカリちゃんが、後方はアルさんかクバウナさんが浮遊する灯りの魔法を浮かべている。


 暫くしてブルーノさんが戻って来た。


「やはりありやした。同じものでやすな」

「ユルヨ爺は?」

「少し手前で待機してやす」

「それじゃ、僕たちも行こうか」

「ここから、下りが多少キツくなりやすので、ご注意を」


 ブルーノさんが全員に聞こえる声でそう言った。

 下りがキツくなるのか。左右の通路はブルーノさんが注意を促すほどでもなかった記憶があるので、この真ん中の通路だけはかなり下って行くのかな。



 言われた通りに下り勾配が強くなった通路を進んで行く。

 クロウちゃんは俺の頭の上から飛び立って、俺たちが歩く速度に合わせながらゆっくりと空中を進み始めた。


 下り通路はやはり左右に不規則に曲がりくねり、前方への視界はほとんど取れない。

 これは途中で分かれ道でもあったら、迷路状態ですかね。こんな通路でレヴァナントナイトクラスの強いアンデッドなどが突如現れると、ベテラン冒険者でもかなりやばいよな。


 俺の隣を行くエステルちゃんが時折、鼻をクンクンさせているけど、何も言わないので、そんなアンデッドは近くには居ないのだろう。あいつらは臭いからね。

 尤も俺も探査の力を発動させているが、そういった存在は探知されていない。


 ピッとファータの指笛が短く響き、その音の発信源でユルヨ爺が通路の壁に同化するようにしてしゃがんで居るのが分かった。


「この先、右に曲がるとその前方に、ザック様たちが話されていた薄闇の壁というのがありますな」


 そう低い声で、ユルヨ爺が教えてくれる。

 隊列の後方からはシルフェ様たち人外メンバーが詰めて近づいて来た。

 それでは前回と同じように、壁を打破りますかね。




「ほほう、これか。なるほどな」


 ケリュさん。あなた神様だからと言って矢鱈に触ろうとしない方がいいですよ。


「あなた、そうやって触ろうとしないのよ」

「おひいさまがそれ言いますか?」


 そう言えば前回もその前もシルフェ様が直ぐに触ろうとして、シフォニナさんに窘められていました。

 夫婦って、やっぱり行動形態が似るんですかね。


「こういうの見たことあるかしら、クバウナさん」

「そうですねぇ。わたしも初めて見たかしら。……あっ。ほら、アルは憶えてない? あの蟻の魔物が拠点にしていた地下。女王蟻の棲処の入口」

「ふうむ。そんな巣を何度か壊しに行ったことがあったような」


「もう、アルったら。何でも忘れちゃうのだから。そうそう。これに似ていたわ。あの一番強かった女王蟻の棲処の入口。蟻だけは通れて、他の誰も通れなかったやつ。それで、わたしが聖なる光魔法で壊したのだったわ」

「おお、そう言えば、そんなのがあったのう」


 女王蟻の棲処を護るゲートですか。女王の配下の蟻だけは通れて、他は通さなかったと。

 蟻の魔物の中でも一番強かったそうなので、何らかの能力を付与されていたのかも知れないな。


「その壁を破ったら、あなた、一気に片付けるって直ぐにブレスを吹こうとしたじゃない。それで、わたしが止めたでしょ。あそこの地盤はそれほど硬くなかったから、アルがブレスなんか吹いたら、それこそ地下全体が崩れてわたしたちも埋まりそうで」


「そうじゃったかな」

「昔の師匠はずいぶんと、慎重さに欠けてたんですねぇ」

「そうなのよ、カリ。このお爺さんも、昔はなかなかに無茶な人で」

「ふん」


 いまでもわりと、物事を一気に片付けようとするところはあるよね。いちおうはかなり自制しているみたいだけど。


 と、そんな話をしている側で、ケリュさんは薄闇の壁を指でつんつんしない。さっき、シルフェ様に言われたでしょ。


「これなら、我は抜けられそうだぞ」

「あなたっ。やめなさい」


 そりゃケリュさんは神様なのだし、その程度の壁に通行を妨げられたりはしないでしょ。ほら、叱られたんだからやめなさい。



「もう。いいから、ケリュさんは離れて。壊しちゃいますよ」

「お、おう。そうだな」

「ザックさま。その前にあれ」

「そうでした」


 あれを忘れていました。エステルちゃんに言われ、あらためて全員を俺の周囲に集める。今回は人数が多いので、多少動き回っても支障の無いように大きめにしますよ。

 あ、ケリュさんは大丈夫そうなので、外れていても構わないですからね。


「我を仲間外れにするな。義兄弟きょうだいなのに寂しいではないか」

「はいはい。勝手に離れないでくださいよ」


 これを張っておかないと、奥からやって来る強烈な臭いで皆の鼻が曲がる可能性があります。


「我と我に共する者たちを、禍いの侵略から護れ。臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」


 呪文を唱え、九字を切り、ゆらぎ透き通った結界の膜が全員を包み込む。


「見たことの無い魔法ね」

「結界の呪法というものじゃよ」

「ザックがあちらに居たときに修得したものだそうだ」

「言葉に力が置かれているのね」


 ケリュさんは夏合宿のときに見ているけど、クバウナさんは初めてでしたっけ。さすがに理法を直ぐに見抜くんですね。



「では、クバウナさんも一緒にお願いできますか?」

「ええ。それならばわたしも。カリも加わりなさい」

「はい」


 前回もそうしているし、まあ俺ひとりでも大丈夫なのだけど、今回はクバウナさんが居るのでせっかくならと思ったのだが、彼女はカリちゃんも加われと促した。


 ここのところずっと聖なる光魔法の鍛錬を行っていて、どうやら発動は出来るようになって来たらしい。

 エステルちゃんとライナさんも同じく、クバウナさんに指導されて練習しているのだけれど、やはりなかなか難しいようだね。


 3人で呼吸を合わせながら聖なる光魔法を発動し、収束させたセイクリッドライトのビームを薄闇の壁に照射した。

 カリちゃんのはまだセイクリッドライトとしては弱々しく威力は覚束ないが、それでも3人から放たれたそれは合流して1本の太いビームとなり、壁を穿つように当たる。


 直ぐに薄闇は抗いながらブルブルと震え出して波打つように見え、聖なる光はその薄闇に打ち勝って徐々に全体を覆い尽くして行く。

 そして、ヒューンという音と共に薄闇の壁は消失した。


 やはりクバウナさんの聖なる光魔法は強力です。

 前回は俺ひとりだったので、途中から出力を一段階上げながら時間も掛かったけど、カリちゃんも加わった3人の魔法で、わりと直ぐに消し去ることが出来たな。


「アルさん」

「ほいな」


 壁が消失すると同時に俺は声を掛け、アルさんが探査の魔法を飛ばす。

 俺も探査の力を発動しているが、パッシブであるこちらに比べてアクティブレーダーであるアルさんの魔法の方がより遠方まで探ることが可能だ。



「ふむ?」

「ん?」

「何かが凄い速さで来るぞ。皆の者、構えよ」

「これは風よ」

「わたしたちの風じゃありませんよ」


 人外メンバーたちが口々に声を出す。俺は「護り、固めよ」と咄嗟に結界の強度を数段階引き上げた。

 その結界の前面にアルさんが素早く魔法の防護壁を張り、その直ぐ後方にライナさんが高強度の土壁を立ち上げる。

 そしてその壁に隠れるようにして、全員が身構えた。


 グォーンという轟音と共に猛烈な風が三段階の防御に衝突した。


「これは、熱の突風じゃぞ」


 アルさんの言う通り、俺の張った結界の外側を突風がもの凄い勢いで流れて行き、おそらくは強烈な高温なのだろう、結界がそれに耐えて揺らぐ。

 正面にはアルさんの魔法防護壁とライナさんの高硬度の土壁、いや石壁が立ち塞がって、結界が破られるのを防いでくれていた。


「通り過ぎたか?」

「行ったようですよ」

「全員、大丈夫だな?」


 無事に結界に護られていたが、ジェルさんが念のために全員を確認する。


「シルフェさまー、この風って?」

「それが、ライナちゃん。わたしたちの制御外だったのよ」

「シルフェさんとサラちゃんがケンカしたときみたいな風だったわね」

「むむう」


 クバウナさんの言うサラちゃんて、もしかして真性の火の精霊のサラマンドラ様のことかな。

 風と火が喧嘩して、熱風か。どうも折り合いの悪いふたりらしいけど、喧嘩すると熱風が巻き起こるのですかね。恐ろしいです。

 シルフェ様が怒ると極寒の冷風が出るけど、そう言えば熱風は出さないよな。


「どうやら邪に侵された風みたいですね、おひいさま」

「そう、そうよ、それ」


 いつも冷静なシフォニナさんの予測に、シルフェ様が慌てて同意した。


「つまりこの先に、邪に侵された熱や風を起こすものが居るとか」

「どうやらそうみたいだな、ザック」


 この通路の奥にそんなものが立ち塞がっていたら、これは手強いかも知れませんぞ。カァ。

 ああ、クロウちゃんは熱いのは苦手だよね。羽根が燃えたりすると拙いよ。カ、カァ。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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