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第94話 ファータ隠れ里帰省問題

 ミルカさんの探索報告が終わり解散となったが、ミルカさんとエステルちゃんが何か話をしていた。

 久しぶりに親戚の叔父さんと会ったのだから話もあるよね。さて俺は、図書室から持ち出した本の読書でもするかな。

 そう考えて、2階の領主家族用ラウンジに行こうと歩いていたら、ふたりが追いかけて来た。


「ザックさま、先に行かないでください」

「だって、叔父さんとお話してたし」

「ザカリー様、少し話に付き合っていただいてもよろしいでしょうか?」

「うん、いいけど」


 ミルカさんがそう声を掛けて来る。

 なんでしょ。じゃ、とりあえず2階に行こうか。



 3人でラウンジに行くと、開けられていた窓からクロウちゃんが中に飛んで入って来た。


「クロウちゃん、お帰りなさい。どこに行ってたんですか?」

「カァ、カァ」

「えー、そんな遠くまで。危ないから、ひとりで遠くまではダメですよ」

「カァ」


 エステルちゃんが話してるけど、クロウちゃんはアラストル大森林の方まで行ってたんだね。

 大森林の奥の方に入ってから、北辺境伯領側に出て帰って来た。

 飛行型の魔物とかがいないか、見に行ってたんだって。

 クロウちゃんと感覚が繋がっているので俺は既に知っていたのだけど、それにしてもキミたちは会話のレベルがどんどん上がってるよね。


「エステルは、その、クロウちゃん? と、そんな会話ができるのか」

 ミルカさんがちょっと吃驚していた。カラスと話していればふつう驚く。



「それでミルカさん、お話ってなに?」

「あ、ええ、これはザカリー様にお話ししないといけないのですが」

「屋敷の誰かに聞かれたくない話?」

「ええ、できれば。それほど大層なことではないのですけれど」


 では念のために、音を遮断する防御結界を張っておきましょ。

 完全な遮断効果はないけど、外部に聞こえにくくする感じだよ。

 空間把握の能力と前世の呪法を組み合せたものだけど、使うのは久しぶりだな。

 俺は心の中で九字を唱え、内側からの音のみが洩れにくくする弱い結界を張った。


「ザックさま、今なんか変なことやりましたよね」

「いや、気にしなくていいから」

「もう」


 エステルちゃんは勘がいいから、すぐ気がつくな。

 ミルカさんもさすが熟練のファータの探索者だから、自分たちの周囲を何かが覆ったのに気がついたみたいだが、「エステルは本当に、ザカリー様と仲がいいんだな」とか、まったく別のことをつぶやいていた。



「今回の探索の行程は、先ほどお話した通りなのですが」

「はい」

「じつは、リガニア地方の探索を終えた後、もう一ヶ所、あるところに立ち寄って帰って来たのです」

「叔父さん」

「エステル、ザカリー様にはいいんだよ」


 なんだか秘密の場所なのかな。エステルちゃんも知っているところだろうか。


「それはどこなんですか?」

「いや、先ほども申しましたように、大層なことではないのです。私どもの里に立ち寄って帰って来た、という話で」

「ミルカさんとエステルちゃんの里ですか。ファータの里?」

「はい、ファータの隠れ里です」



「ザカリー様にも聞いていただきたいお話なのですが、里に立ち寄った折りに、エステルの実家にも行きました。そこは私の本家でもありまして」

 エステルちゃんの叔父さん、つまりお父さんの弟さんだから、エステルちゃんの家は本家だよね。


「本家でもあり、里長さとおさでもあり、元締めでもあるのです」

「えー、エステルちゃんの家って、里長さとおさなんだー。知らなかった」

「はい、里の者以外で知っているのは、ごく僅かです」

「ザックさまに内緒にしてた訳じゃないんですよぅ。いつかは話そうと思ってたけど、むやみに話すなって言われてたし」


「それで、里長さとおさに今回の探索行の報告をしたのですが、エステルの話になりまして。里長さとおさは、エステルにいちど里に帰って来いと申しました」

「んー、だからぁ。お爺ちゃんはもぅ」

「お爺ちゃん?」

里長さとおさは私の父で、エステルの祖父です」



 エステルちゃんは12歳から探索の仕事に見習いとして就いて、その翌年にこのグリフィン子爵領に派遣された。

 俺が3歳の時、あの夏至祭事件があった年からだね。

 それで、その2年後に俺と会った後に、俺が生まれた時から担当侍女だったシンディーちゃんの結婚退職を機に、この屋敷の侍女というかたちになった。

 あれからもう4年も経つんだね。


 侍女になる前は、里にはときどき帰って顔を見せていたらしいが、俺のお世話係兼護衛、加えて見張り役に任命されて以来この4年、いちども里に帰っていない。

 そうだよね。騎士団での剣術稽古やボドワン先生のお勉強時と、夜に自室にいるとき以外は、基本的にいつも俺の側にいるからね。



「要するに、4年も帰って来ていないから、里に顔を見せにいちど戻れと。お爺ちゃんは、そうおっしゃってる訳ですね」

「はい、そうなのです。それで先ほど、その話をエステルにしたら、ザカリー様のお許しがなければ絶対に帰りません、とエステルが言うもので」

「それで僕に話をしたと」

「はい」


 エステルちゃんは、ぷーっと頬を膨らませて顔を真っ赤にしながら黙っていた。

 別に里に帰りたくない訳じゃないのだろうけどね。


「お爺ちゃんが言うことも分かるよなー。そこんとこ、エステルちゃんはどうなの?」

「だってだってぇ。里に帰るということは、何日かこのお屋敷を離れる訳ですしぃ。そんなに何日もザックさまを放っておいたら、何を仕出かすか分かりませんしぃ。いつも一緒にいないとぉ……。ぷぅー」

 あんまりほっぺた膨らませてると、ずっとそんな顔になっちゃうよ。



「エステルちゃんのお父さんとお母さんは、何かおっしゃってないのですか?」

「うちの兄たちですか? 私も彼らとは、滅多に顔を合わせる機会がなくて。あぁ、エステルの両親も同じ職業ですので、里を離れていることが多いのです」


「なるほど。エステルちゃんは、お父さんとお母さんとも暫く会ってないの?」

「お父さんとお母さんは、別々にですけど、仕事の途中でたまに立ち寄ってくれて」

「そうなんだ。で、お爺ちゃんは里にいるから、ということか」

「お爺ちゃんとお婆ちゃんは、今はもうほとんど里から出ない筈ですから、そうなんですけどぉ。ぷぅー」



 エステルちゃんの気持ちもなんとなく分かった。


 さて、どうしたらいいのだろうかね。クロウちゃんはどう思う?

「カァ、カァ」

 えー、それって許可が出るかなぁ。無理っぽくない?



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

エステルちゃんが主人公の短編「時空渡りクロニクル余話 〜エステルちゃんの冒険①境界の洞穴のドラゴン」を投稿しました。

彼女が隠れ里にいた、少女の時代の物語です。


ザックがザックになる前の1回目の過去転生のとき。その少年時代のひとコマを題材にした短編「時空渡りクロニクル外伝(1)〜定めは斬れないとしても、俺は斬る」もぜひお読みいただければ。


それぞれのリンクはこの下段にあります。

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