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第945話 貴賓席で出迎え

随分と久しぶりの更新になってしまいました。

ちょっとリハビリな感じです。



「アデライン王女殿下のご到着です」


 学院生会の担当学院生の大きな声が聞こえた。まずはアデラさんか。第2王子とは別々に来るんだね。


 午前中に魔法侍女カフェに来た一行が貴賓席に向かってやって来る。

 俺は仕方が無いので、その入口近くで待機することにした。気が付いてみるとオイリ学院長と学院生会会長のスヴェンくんも顔を揃えている。


「ありがとうね、ザックくん」

「こうやって、ちゃんと待機してくれているところが、さすがはザックだ」

「学院長と会長のお願いでありますからな」


 そんな言葉を短く交わしていると露払いのようにエデル王宮騎士が現れ、その直ぐ後ろにアデラさん、そしてブランドン長官や護衛とお付きの一行が続いて来た。


「学院祭は、楽しまれておりますでしょうか、王女殿下」と、オイリ学院長が頭を下げて出迎えたあと声を掛ける。


「ええ、学院祭って、楽しいものでした」

「それは、よろしゅうございました」

「特に、ザックさんのカフェが一番。ね、ザックさん」

「あ、はい」


 相変わらず無表情なのだけど、それでも午前中に初めて顔を合わせたときよりは、幾分、表情に変化が見られたような気がする。

 特に俺たちの魔法侍女カフェが一番と言って俺の方を見たときには、ほんの少しニコッとしたように思われた。


「ザックさんの試合は、これから?」

「学院生たちの試合が終わったあとです。王女殿下」

「そう? なのね、エデル。では、それまで、楽しみに待つとしましょう」


「ははは。それじゃスヴェン会長、ご一行をお席にご案内して。ほらほら、早く」

「お、おう、はい、ザック」


「ではお願いしますね。この方、ザックさんの部下の方かしら?」

「あ、いや、当学院の学院生会の会長の……」

「朝のお出迎え時にもご挨拶させていただきました、学院生会会長を拝命しておりますスヴェン・オースルンドでございます」

「そう、なのね。ご苦労さま」


 スヴェンくんは、なに俺の方を向いてちょっと睨んでるの。いいから、さっさとご案内して。でも良かったじゃない、王女と少し会話出来て。


「王女殿下は、ザカリー長官のお菓子がことのほかお気に入りになられたようで、また食べたい、私のところにも持って来てくれるかしら、などと話されておりましたなぁ」

「ブランドンさんもいいから、さっさと席に座るように」

「ははは。次のが来ますからな」


 そんな情報はまた後で聞きますから。そうですよ、次のが直ぐに来るからさ。




「クライヴ王子殿下ご一行が到着されました」と、先ほどと同じく担当学院生の声が響いた。


「お願いね、ザックくん」

「何をお願いされてるか分かりませんけど、出迎えるだけですから、学院長」

「あなた、分かってるでしょ」


 要するにエステルちゃんに言われたのと同じで、穏便にということですよね。

 夏前にも王宮の謁見行事やら何やらで顔を合わせてますから、大丈夫ですよ。


 先頭の露払いは若手の王宮騎士で、その後ろには案の定サディアス・オールストン副騎士団長が続き、そしてクライヴ王子にラリサ・カバエフ王宮魔導士が従っている。それから幾人かのお付きと王宮騎士団員だね。皆、若手だ。


 魔法侍女カフェに来た時にも感じたけど、アデラさんは若い王女にしては割と落ち着いたというか地味な衣装なんだよね。そういうことには関心が薄いのか無頓着なのか。

 それに比べると、クライヴ王子一行はなんだか派手に見える。


 護衛の王宮騎士団員たちはもちろん制服姿なのだけど、皆が背も高くスタイルも良くて、胸を反らすように立ち周囲を伺う様子はなんだかパリっとして見える。

 これはサディアスさんの指導ですかね。


 その中心に居るクライヴ王子も、王宮騎士の制服に似てそれを何段階も派手に豪華にしたような衣装だ。そこに、薄手だけど金糸銀糸で刺繍されたようなこれも豪奢なマントを着けている。


 4年前に来たときには、王族らしいけどただの外出着姿だった記憶があるが、今回はまるで若手王宮騎士団員を率いる将軍か何かみたいなきらびやかな衣装だよな。

 これも自分をアピールする、見た目の演出なのでしょうかね。


 そして、そのクライヴ王子の後ろに従うラリサ・カバエフ王宮魔導士の、他の随行者とはまったく異なる真っ黒なドレス姿が、より一層この一行の存在感を際立たせている。

 あれって俺の前世の世界で言えば、遠い記憶からすると東方教会の修道司祭とかが着る衣装に似てるよね。


 やはり黒色の頭に冠っているのは、えーと……。クロウちゃん、なんだっけ? 聞こえてるかな、クロウちゃん。カァカァカァ。ああ、クロブークと言うですか。衣装の方はリヤサって言うのね。それって何語? カァカァ。ギリシャ語か。

 それにしてもキミは、ちゃんとこっちを見てたんだね。ああ、俺の視覚を通して見たのか。


 この世界の魔導士って特に特別な衣装は着ないし、ラリサさんも普通の宮廷で働く女性といった服装の印象しか無かったけど、今日のあれもクライヴ殿下の演出の一環なのでしょうかね。



 そんなことを思いながら一行を眺めていると、サディアスさんが目敏く俺の姿を見つけて、少し口の端を緩めるように笑った気がした。目はぜんぜん笑っていないけどね。

 そして、学院長とスヴェンくんらがクライヴ王子に挨拶をしている間に、少し下がっていた俺のところにスタスタとやって来る。


「お久し振りですね、ザカリー殿。いや、ザカリー長官殿でしたか」

「こちらこそ、ザディアスさん。先の王宮行事でお見掛けしましたが、お話は出来ませんでしたね」

「いや、その節はお声掛けも出来ず、失礼いたしました、長官殿」

「ここは学院ですので、ただの学院生のザカリーで」

「ははは、ただの学院生ですか。ただのであるなら、よろしいでしょう。あちらは子爵家の方々でしたか」


 うちの連中が固まって座っている辺りを鋭い眼差しで眺めながら、彼はそう言った。

 多少の因縁のあるジェルさんをはじめ、うちのみんなは王子一行を無視するようにそれぞれ何やら楽しそうに話しているのが見える。


「ええ、毎年大勢で来ていますので」

「ふむ」


 そのとき、ケリュさんがちらっとこちらの方に顔を向けた。直ぐに元に戻して隣のシルフェ様との会話に戻ったようだけど。


 そのとき「むぅ」と、サディアスさんから小さく声が漏れた。


「おい、サディアス。何を話しているのだ。ラリサが少し目眩がしたとかで、早く席に座るぞ。おい、ザカリー。おまえ何かしたか」

「これはクライヴ王子。ご挨拶が遅れまして。僕は何もですけど、何のことでしょう」

「ふん、挨拶など良い。行くぞ、サディアス」


 王子のその声で、スヴェンくんに先導された一行が俺の前を通り過ぎて行った。なるほど、ラリサさんが少しばかりよろよろ歩いている。オイリ学院長もなんだか顔色が多少優れないようだ。

 と言うか、ケリュさん、何か飛ばしたよね。でもその前に、おそらくラリサだと思うけど、あんたも何か放ったよな。




「ケリュさん」

「おお、ザックか。あの魔法遣いの女子が、何やら放ちよった」

「魔法探査系のものですの。たいした出力では無いが、こちらに的を絞っておったな」


 うちの席に言ってそう声を掛けると、ケリュさんがそう言い後ろの列に座るアルさんが付け加えた。

 ラリサ・カバエフは、学院生時代からキ素力や魔法の探知に優れていたらしいけど、当然ながらそれをベースに探査系の魔法も出来るのだろうね。


「それで、ケリュさんがその、神力を飛ばしたと?」

「いやあ、飛ばしたというより、振り向いたらついつい飛んでしまったのだな。漏れ飛んだといったぐらいだぞ」


 だから、こういう人間のたくさん集まっている場所で、神力なんぞをついついとかで漏れ飛ばさんでください。


「あのラリサじゃったか、けっこうあの魔法遣いの女子を中心点に飛んでおりましたがのう」

「それは、あちらが先に放ったのだから、当然にそこが中心点に漏れ飛ぶぞ、アル」


 あー、ついつい漏れ飛んだとか言っているけど、これはおそらく態とだよな。


「あなたったら、ザックさんに迷惑が掛かるでしょ」

「そうは言ってもシルフェ。我を探査しようなど、そもそも不遜であるし……」

「あなたはここではわたしの旦那で、ただの戦士長のケリュさんなの」

「そう、ではあるが……」


 はいはい、そこで暫く叱られていてくださいね、ケリュさん。

 そろそろ試合も始まるので、俺はそろそろ行きますから。くれぐれも変なことはしないでくださいね。


 まあ、ラリサさんも何かを感じたので、態々うちの連中が集まって座っている席に向けて探査の魔法を放ったのだろうけど、それを受けた相手が悪かったよね。

 この世界では、やたら周囲の魔法やらキ素力やらを探ろうとしない方がいいと思うよ。

 人間が想像も出来ないような存在が、わりと直ぐ近くに居たりするので。

 まあ本人は、魔法を探って神力に当てられたとかは、思いも寄らないだろうけどさ。


「我の、なんだ、漏れたぐらいのものだから、当たっても少し経てば普段の状態に戻るので」

「そういうことじゃないの」


 叱っているシルフェ様だって、ちょっと機嫌が悪くなると冷気の風を吹かせますけどね。

 ケリュさんはきっと、俺があの第2王子たちに必要以上に絡まれたりする前に、追い払ってしまう感じでごく弱い神力を飛ばしたのではないかな。

 そうだとしたら、俺のためにしてくれたケリュさんの優しさだよな。


「ザックさま、あまり頑張らなくてもいいですから、頑張ってね」

「うん、任せて。行って来ます、エステルちゃん」

「楽しみにしておるぞ、ザック」

「いってらっしゃーい」

「ほどほどでいいですからな」


「はい、僕も楽しんで来ますよ」




 間もなく、今年の総合戦技大会最終日の試合が開始される。


 総合優勝を賭けた学年無差別トーナメントの今日の試合には、4年生からは俺たちのA組にブルクくんのB組が出場する。

 1年生ではフレッドくんのA組、2年生はヘルミちゃんの2年D組、そして3年生はカシュくんのC組と、総合武術部関係のチームがけっこう揃った。


 このトーナメントでは1年生と2年生、3年生と4年生がまず戦い、それぞれ学年トーナメントでの1位のチームと2位のチームとの対戦となるので、4年生で学年1位となったA組チームの第一回戦の対戦相手は3年生の2位のチームですな。


 カシュくんの3年C組チームは学年1位だったから、ブルクくんと総合魔導研究部のサネルちゃんもいる4年B組とだ。まあ、カシュくんには頑張って貰いたい。

 しかしこれは、準決勝は再びB組との試合になりますなぁ。


 ところで、王宮騎士団チームとの親善試合はどうしましょうかね。

 さっき審判員控室での顔合わせのときにも口にしたけど、ランドルフ・ウォーロック王宮騎士団長が選手として参戦するなら、俺が相手にしようと考えていたのだけどさ。

 結局は監督とかでフィールドに出ないようだから、いまはノープランだ。


 今回もコニー・レミントン従騎士を攫って、じゃなくて前線から引き離して相手をするというのも昨年の二番煎じだし。


 そんなことを考えながら、俺は審判員控室からフィールドの審判員ベンチへと急ぐ。

 まあエステルちゃんに言われたことや、うちのみんなに俺が言ったように、あまり頑張らないように頑張って、最後の総合戦技大会を俺なりに楽しみましょうかね。



お読みいただき、ありがとうございました。

また間が空いてしまうかもですが、引き続きこの物語にお付き合いください。

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