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第925話 再びナイアの森へ

 昨日は屋敷で1日のんびりした。


 フォレスト公爵家の王都屋敷で準備中の宰相府とかを、暇なので俺も覗きに行きたいと言ったら屋敷の全員から反対された。

 もうすぐ学院の秋学期が始まるこのタイミングで余計なことはするなと、そんな理由だ。

 姿隠しの魔法で潜入するからと言ったんだけどね。


 いつもは面白がって賛成してくれるカリちゃんに、一緒に姿隠しの魔法でと持ち掛けたら「万が一もありますので、秘書として同意できません」と、真面目な顔で否定された。

 クバウナさんとエステルちゃんの表情を伺いながらだったので、どうやら不用意に賛成して俺とふたりで叱られる前にマトモなことを口にしたようだな。


「じゃ、エステルちゃんと3人で……」

「ザックさま」


 エステルちゃんのニッコり微笑みながらのそのひと言で、俺は諦めました。

 でもクロウちゃんに行って貰って、その建物や屋敷内の様子は視角を同期させて見ましたけどね。




 それで今日は再びナイアの森へ。ニュムペ様の水の精霊屋敷に行く。


 行くのは予定通り、シルフェ様とケリュさん、アルさんにクバウナさん、シフォニナさんにカリちゃんの人外6名に、俺とエステルちゃんとクロウちゃん。しかし人外の方々が徐々に増えて行きますな。

 同行はジェルさん、オネルさん、ライナさん、ブルーノさん、ティモさんのレイヴン初期メンバー5人のみだ。


 今回は俺も騎馬で行くので、朝食前の早朝から黒影の足慣らしをする。

 ただしこれは同じく騎乗を希望したケリュさんが、エステルちゃんの愛馬である青影と慣れて貰うためでもある。


 それでふたりで、屋敷の敷地内を常足なみあしでまずは暫く歩かせ、そのあとは速歩はやあしで少し走らせた。

 青影は昨日にケリュさんと対面しているのもあって、彼の言う通り問題無さそうだね。


 そのケリュさんの乗馬技術は、さすがは武神と言いますか、人馬一体ならぬ神馬一体と言う感じで、観に来ていたジェルさんやブルーノさんを唸らせるものだった。

 まあ神様だから、そうなのだろうけどね。


「良い馬だな。だがこの青影にとって我はお客さんだ。エステルの意を受けて、我を乗せてくれたというところだろう」

「へぇー、そうなんですね」

「ヒヒン」「カァ」


 その青影と俺の黒影、それから黒影の頭の上に止まっているクロウちゃんが、そう同意した。

 クロウちゃんはともかく、キミたちも人間の言葉が分かるみたいだよね。


「ということで、我にも馬を」


 案の定、ケリュさんがそんなことを口にするので、俺はジェルさんとブルーノさんの方を見た。


「ソルディーニ商会のマッティオさんに頼んで、良い馬を探させやすよ」

「おお、そうしてくれるか。ありがとう、ブルーノさん」


 ブルーノさんの見立てならば、良馬を選んでくれるだろうね。

 購入費用についてはエステルちゃんと相談しておきましょう。




「それでは出発しようぞ。いいかな、ジェルさん」

「あ、はい。では、出発する」

「行ってらっしゃいませ」


 朝食を済ませ、フォルくんやユディちゃんたち屋敷の皆に見送られて出発する。

 アルさんとカリちゃんは既に飛んで行った。


 で、ケリュさんは先頭に立たない。ジェルさんの指示に従ってくださいよ。

 俺がそう言うと、馬車の窓から「あ・な・た」というシルフェ様の声がした。

 ほら、叱られますよ。「おう」


 それでもケリュさんは先頭のジェルさんと馬首を並べ、その後ろに俺とブルーノさん。

 今日はティモさんが御者役をやってくれている馬車を挟んで、最後尾をライナさんとオネルさんで固めて王都のフォルス大通りをゆっくりと進む。


 やがてフォルス大門を問題無く出て、いつも通りに十字路のある小村を通過し、途中休息を入れてナイアの森のへりを北方向に巡る隠しみちの入口に着いた。


 直ぐさまティモさんが御者席から降りて、ブルーノさんと共にそのみちを塞いでいる目隠しを外し、馬車を乗り入れる。


「ほほう。ここからが隠しみちか。湖に行くのではなく、まずはザックの拠点に行くのだったな」

「ええ。北から東へと廻って、地下拠点に入る進入路の入口まで行きます。道幅も狭く、少々荒れた道ですが、まあ敢えて整備はしていません」


 ここからはいつもながら、馬車の乗客には我慢して貰う道程だ。間もなく到着ですからね。



 月日を経るごとに地下道の入口に至る導入路周辺は、樹木が深くなってますます分かり辛くなって来ている。

 ブルーノさんやティモさんがいなかったら、この導入路はもう見付けられないんじゃないかな。


「ふむ。水の精霊の力が濃く及んでいるか」

「あ、そういうことですか。どうもこの辺りの木々の育ちが良い気がしてましたけど」

「ドリュアが居ればもっと育つが、ニュムペやシルフェでもこのぐらいの力は、及ぼせるだろうな。まあこの辺の目隠しに、ニュムペが気を遣っておるということだろう」


 そういうことなんだね。

 ニュムペ様からすれば、ここが彼女の妖精の森の言ってみれば門前なので、必然的にそうしてくれているということなのだろう。


「ほほう。これはアルと、それからザック、おまえが造ったものか」

「ですね」

「なるほど、まるで大昔の技法を思い起こさせる」


 地下トンネルの造り、特に隙間無く積み上がった石壁を初めて見ると、皆そういう感想を抱くみたいだね。

 俺としては、前世の穴太衆の石積みが記憶に残っているから、というのもあるけれど。


 その地下通路の中をゆっくりと馬を走らせ、ようやく地下拠点の地中の馬車寄せへと到着する。

 そこには、先行していたアルさんとカリちゃんが待っていてくれた。


「あらあら。ここって、アルがそれなりにお役に立ったのかしら」

「わしもずいぶんと働いたわい」

「うふふ。ザックさんやライナちゃんに迷惑を掛けなかったのなら、良いですけど」

「ふん」


「あと、グリフィニアに居るダレルさんて人と、4人で造ったんですよ」

「わたしもそのときに居れば、参加したかった」

「あら、カリ。わたしもよ」


 真っ先に馬車から降りて来たクバウナさんが早速にアルさんにそんなことを言い、続いてエステルちゃんたちも降りて来た。


 アルさんを筆頭に、ドラゴンてこういった土木建設や大規模建築が好きらしいけど、クバウナさんもそうなんだね。

 まあそれは、土魔法も達者なエンシェントドラゴンに限るということなのかも知れない。



 ケリュさんとクバウナさんに施設内を案内し、併せてアルさん、ライナさん、それにカリちゃんにも手伝って貰って拠点の地下構造に劣化が無いかなどを点検する。

 先日の合宿中に、ブルーノさんとティモさんがここに来て施設点検は行ってくれていたが、構造部分は俺たちがチェックしないとだからね。


 あとはエステルちゃんが中心となって、お掃除をする。

 夏休み前にもしていて父さんたちの訪問以後は使用していないので、ほとんど汚れてはいないのだけどね。


 あ、シフォニナさんだけでなくシルフェ様も掃除をしてくれてるですか。

「わたしも奥さんらしいことを、たまにはしないとよね」なのだそうだ。

 そう言えば屋敷でも、この夏からは接触的に掃除などをしていたよな。


 それってケリュさんと再会したからなのだろうけど、真性の精霊様がそういうことはしなくても。

 エステルちゃん的には「お姉ちゃんの好きにさせてあげましょ」と、それ以上は特に何も言わない。

 ファータ族など精霊信仰を強く持っている人たちがこの姿を見たらどう思うか、かなり心配になるところではありますが。



 ひと段落したところで、居住区画の食堂で皆で紅茶をいただいて休憩し、地上に出て妖精の森へと向かう。


「わたしたちは先に行くけど、あなたとクバウナさんはどうする?」

「我はザックたちと、森を散策しながら行くかな」

「わたしも初めてですから、そうしましょう」

「そしたら、わたしもお婆ちゃんと一緒に」


 これもいつも通りながら、シルフェ様とシフォニナさんにアルさんとクロウちゃんが先行し、ケリュさんとクバウナさんの言葉にカリちゃんも俺たちと一緒に向かうことになった。

 それでシルフェ様たちは、あっという間に森の中に消えて行く。


「では、こちらも行きやすか」

「よし、出発しよう」

「駆け足で良いでやすかね?」


 ブルーノさんがそう言ってクバウナさんの方を見た。

 ドラゴンであるならば、こういった森の中を高速で移動出来るのはブルーノさんも承知している。なので、いちおう確認のためということだね。


「わたしも駆け足でいいですよ、ブルーノさん。と言っても、魔法は遣いますけど」

「我はどうするかな。まあ、この姿でも良いか」


 ドラゴンの移動は空中でも地上でも重力魔法を用いるので、地面を蹴る音も無く高速で移動する。

 一方でケリュさんは神力による光速の移動ですか。でも、ブルーノさんの先導速度に合わせてくださいよ。

 どうやら黄金のエルクの姿になるとかは自重したみたいだ。



 たぶん、これまでで最も速いスピードでブルーノさんが皆を誘導し、しかしながらケリュさんもクバウナさんも楽々とそれに従って進む。

 どちらかと言うと少し大変そうなのは、ジェルさん、ライナさん、オネルさんのお姉さんたちの方だね。


 しかしブルーノさんもいくら森の中を走り慣れているとはいえ、御歳いくつになったのか正確には知らないけど、その速さたるや素晴らしいものがありますなぁ。


「ユルヨ爺も、このぐらいでは走りやすよ」

「そうなの? ティモさん」

「はあ。困ったことですけど」

「わたしが小さいときから、ぜんぜん変わらないですよ。前にお爺ちゃんに聞いたら、昔よりは距離が稼げなくなってるらしいけど」


 そうなんだね。恐るべし、ファータ最長老のユルヨ爺。


「ねえー。あなたたちー。良くそんな世間話しながら、この速さで走れるわねー」

「ほらほら、頑張ってくださいよ、姉さん方」

「ライナも、そうやって喋れてるから大丈夫だろ」

「でも、もうちょっと走り込んだ方がいいですよね」

「もー」


 静まり返ったナイアの森の中を、そんな感じで多少賑やかに走って行く。

 森が極めて静かなのは、先ほどアルさんが先行して行ったこともあるけど、ケリュさんが来ているからじゃないかな。

 これは先日の合宿で、一緒に森の中に入った際にも感じたことだ。


 それを合宿中にふたりだけのときに彼に言うと、「そうだろな」と応えられた。

 なんでも、放っておけば主要な獣たちは挨拶に来るらしいが、「いまは無用」という意志を放って置いたのだそうだ。

 獣たちが従うのは彼が狩猟と戦いの神だからなのだろうけど、今日もそんな感じですかね。



 やがていつもよりはかなり早く、妖精の森を囲む迷い霧のへりに到着する。


「あら。これってシルフェさんの?」と、迷い霧の壁を前にしていったん立ち止まった際に、クバウナさんがそう聞いて来た。


「はい。お姉ちゃんがプレゼントして、うちのみんなで配置したんですよ」

「へぇー、妖精の森造りをお手伝いした人間て、この世界が出来てから初めてじゃないかしら」

「そうだな。ザックたちが手伝ったのは聞いてはおったが、あらためて考えるとクバウナの言う通りだ」


 まあそうなのでしょうね。

 水の精霊の妖精の森に関しては、かつて人間がその崩壊のきっかけ作りに大きく関与し、そしてどういう縁か俺たちが再建に関与した。

 俺としては、人間云々以前にこうした縁を結んだ者の責務だと思っているけどね。


 それから迷い霧のぶ厚い壁を抜け、再び疾走して水の精霊屋敷のある湧水地帯に辿り着いた。



 着いたよ。カァカァ。

 先行していたクロウちゃんと通信をしながら、清らかな池に囲まれた屋敷へゆっくりと歩いて行く。


 ニュムペ様には、一昨日に風の便りをシルフェ様が送っているので、今日俺たちが訪問するのは連絡済みだ。

 って、あそこの屋敷の前で地面に這いつくばっているは、アルケタスくんとキュテリアちゃんのユニコーンのふたりじゃないですかね。


「(ねえ、キミたち、何してるの?)」

「(何してるかじゃないっすよ、ザカリー様はー。このナイアの森に、いきなり神様がお出ましとかぁ、いったいなんすか)」


 ああ、そういうことか。


「(なんだ? お主らはユニコーンか。我がどうしたって?)」

「(うひょぉー)」


 それは念話でそんな風に言って来れば、ケリュさんにも聞こえちゃうでしょうが。

 相変わらずのアルケタスくんだよなぁ。カァ。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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