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第918話 合同合宿最終日に向けて

 午後はふたつの部が行き先を交代して、強化剣術研究部が午前中に俺たちが入っていた野営地の北に向かい、うちの部は南側の森の中へと向かった。

 こちらも例年行っている所で、ナイア湖から森の外へと流れる渓流沿いに散策がぴったりの場所がある。


 こちらに来るといつもピクニック気分になってしまうのだが、前半は剣術、後半は魔法と、しっかり練習をしましたよ。

 間で長めの休憩を入れて、渓流遊びなどもしましたけどね。


「(ニュムペのお陰で、水も空気も澄んで美しいな。気分が良いので、ここはひとつエルクの姿で森の中を)」

「(ダメですよ)」

「(我慢しましょうね、ケリュさま)」


 あっちでなにやら念話で話しているのが聞こえて来るが、まあケリュさんも口に出してみたという感じなのだろう。

 神様にそう言わせるぐらい、元々奇麗だったナイアの森の浄化が更に広範囲に進んでいて、すべてはニュムペ様が妖精の森を維持しているお陰であることは間違い無い。


 この森も、いまは入って来る人間もほとんど存在しないので汚れる可能性は低い。

 それは、王都やその周辺に森で活動する冒険者や狩人の人数が、極めて少ないからだということもある。

 王都から湖畔の散策に訪れる人も、ごく稀らしいしね。


 しかし時代がもっと下れば、観光客などが来るようになったりするのだろうか。

 交通手段が発達し、俺たちが野営している辺りにも観光客目当ての商店などが出来たり、あるいはレストランや宿屋、リゾートホテルが造られたり。


 そうなれば湖にボートが浮かべられ、森の中を散策するルートなども出来て、森の獣たちを狩る遊びで来る者たちも出るかも知れない。

 そうなったら、妖精の森やその向うに棲んでいるユニコーンたちはどうなるのだろうか。


 ふとそんな思いが浮かんで、まだ森の中に入って行きたそうなケリュさんに聞いてみた。


「そうよな。ここはアラストル大森林と違って、かなり安全な森になっておるから、将来はそういうことにもなるやも知れぬな」

「そうしたら……」

「そうなれば、精霊たちが護る代りに、その人間どもでこの森を護らねばならんだろうて。あの者たちがそうせねばならんと、気付けばだけどな」


 渓流で遊ぶうちの部員たちを眺めながら、ケリュさんはそう言った。

 尤も、それはまだまだ先の将来の話だろうけどね。


「ニュムペ様たちは?」

「なに、まだまだ地上世界は広い。本来、地上の生き物と付かず離れずに存在するのが精霊だ。それに、おまえの屋敷のように、姿かたちを変えた妖精の森もあるしな。はっはっは」


 え? うちの王都屋敷って、やっぱり妖精の森みたいなものなんですかね。分室か出張所的な?

 でも、うちの屋敷にユニコーンたちは収容出来ませんよ。

 そういう事態になったら、彼らをアラストル大森林とかに引越しさせる必要があるのかな。




 こうして2日目も終わり、その翌日は早くも合宿最終日となる。

 3日目は予定通り、恒例の両部の対抗戦による試合稽古です。


 なのでその前夜、夕食のあとに双方の部長と副部長、剣術指導教官のジェルさんとオネルさんに声を掛けて打合せを行った。

 主に対戦の組み合わせについてだよね。あ、ケリュさんも来ましたか。


「人数が合わないのよね」

「うちの部が少ないから」

「いちおう、僕の方で組み合わせを考えてみたのだけど」


 ヴィオちゃんとロルくんが言うように、総合武術部が俺を含めて10名で強化剣術研究部は6名だね。

 まあ俺は例によって参加しないので、9名対6名ということだ。


「それでね。強化剣術研究部の方には、フォルくんとユディちゃんを加えようかと思っておるのですよ」

「おお、そいつはいいな」

「今日もおふたりには、とてもお世話になったです」


 この日の森の中での練習には、兄妹をふたりとも指導補助として強化剣術研究部の方に同行させたんだよね。

 と言っても、この双子の年齢は今年13歳。学院生で言えば2年生と同年齢だ。


 しかし彼らが6歳のときに預かってから俺とエステルちゃんの身近に付き、昨年からは独立小隊レイヴンの従騎士見習いになり、今年に入って正式に調査外交局の局員になった。

 そしてジェル隊長の元で実務にも従事して、ずいぶんと訓練も経験も積んで来ている。


 竜人族という生来の身体能力に加えて剣術はもとより、魔法はアル師匠から、そしてファータ流の体術や戦闘術もユルヨ爺から教わっているので、まあ学院生とは遥かに比較にならない戦闘技術を身に付けて来ておりますなぁ。


「それで9名対8名ですな。あとひとりは?」

「ザカリーさまかエステルさまが加わります?」

「我が加わろうか?」


「いやいやいや」


 ジェルさんの問いにオネルさんとケリュさんも発言し、3人の学院生が一斉に首を振った。

 そして全員が俺の方を見る。

 だから冒頭にも言ったように、いちおう組み合わせは考えて来ておるのですよ。



「まず、ロルくんには2戦をして貰おうかと思っております」

「え? 僕が2戦? そうか、そうだよね」


 ロルくん自身は、そういう考えもあるだろうと予想していたらしく、わりと素直に納得してくれる。


「それで、ロルくんだけだと不公平なので、4年生には2戦して貰おうかと……」

「えー、わたしたちもー?」


 ヴィオ副部長が俺の発言に大きな声を出した。

 他の部員たちが寛いでいる場所からは離れているけど、皆が驚いてこっちを見てるじゃないですか。


「あー、魔法少女と魔法少年は免除するかな」

「それって、わたしとライくんのことよね」

「ヴィオ先輩は魔法少女だったんですか。何となくわかりますけど」

「それは、ザックくんが勝手にそう呼んでるだけよ、ヴィヴィアちゃん」


 まあその点はともかくとして、俺が考えた対戦組み合わせ案としてはこうだ。


 まず1年生は2名ずつなのだが、その4人の中で剣術に関してはフレッドくんがかなり抜きん出ている。

 なので彼は、うちのフォルくんかユディちゃんと対戦して貰うつもりだ。ユディちゃんで良いかな。


 それで残った強化剣術研究部の1年生ひとりが、ヴィオちゃんかライくんのどちらかと対戦。

 続いて2年生はひとりずつなので対戦して貰えば良いのだが、ここは同じく総合武術部はヴィオちゃんまたはライくんを出す。


 それでこちらの2年生ヘルミちゃんは、3年生のイェンくんと対戦して貰う。

 ヘルミちゃんて、魔法だけでなく剣術もなかなか強くなっているからね。

 そして3年生のカシュくんは、フォルくんに相手をさせましょう。


 さてここからだけど、まずこちらのカロちゃんの相手はロルくんだ。

 言わずと知れた1年生当時からの因縁というか互いに気になる相手というか、相思相愛かもと言いますか。


 強化剣術研究部副部長のヴィヴィアちゃんは、こちらのルアちゃんに相手をして貰いましょう。きっと良い経験になるよ。

 そして最後はブルクくんと2戦目のロルくんだね。


「なるほどな。ザックはちゃんと考えてるんだな」

「わ、わたしがルア先輩とですか? でも人数的にそうなりますよね」


 俺がロルくんの1戦目はカロちゃんと言うと、彼は一瞬、複雑な表情をしたが、それでもそうだなと納得し、最後のブルクくんとの対戦には大きく頷いた。



 そこから皆の意見も入れて組み合わせと対戦順を決めたので、整理してみましょう。


 第1戦目、ブリュちゃん(総合武術部1年)対マルちゃん(強化剣術研究部1年)

 第2戦目、ライくん(総合武術部4年)対エドくん(強化剣術研究部1年)

 第3戦目、フレッドくん(総合武術部1年)対ユディちゃん(グリフィン子爵家)

 第4戦目、ヴィオちゃん(総合武術部4年)対ルイちゃん(強化剣術研究部2年)

 第5戦目、ヘルミちゃん(総合武術部2年)対イェンくん(強化剣術研究部3年)

 第6戦目、カシュくん(総合武術部3年)対フォルくん(グリフィン子爵家)

 第7戦目、カロちゃん(総合武術部4年)対ロルくん(強化剣術研究部4年)

 第8戦目、ルアちゃん(総合武術部4年)対ヴィヴィアちゃん(強化剣術研究部3年)

 第9戦目、ブルクくん(総合武術部4年)対ロルくん(強化剣術研究部4年)


「これでどうでありますか?」

「うん、良いと思うよ」

「わかりました」


「それで、ロルくん以外の2戦目は? あ、わたしとライくんも除く、ね」

「そこはオネルさんとジェルさんと僕とでやりましょう」

「我は?」

「ケリュさんも除く、です」

「そうか。ふむ。そう、だな」


 ここはジェルさんの意見もあって、第10戦目がカロちゃん対オネルさん、第11戦目がルアちゃん対ジェルさん、最後の第12戦目はブルクくんと俺ということになった。


 4年生最後の合同合宿を締め括る試合稽古ということで、これでいいですかね。

 ぜんぶで12戦。1日を用いての長丁場だ。




 明けて3日目の最終日。朝食のあと、全員を集めてミーティングを行う。


「みなさん、おはようございます。この合同合宿もあっと言う間に3日目。今日も体調は万全でしょうか。夏休みも終わりに近づき、8日後には秋学期も始まります。しかしまだまだ残暑も厳しく、本日の最終日を有意義に過ごすためにも、気を抜かずに体調管理をしっかりと行い、少しでも不調かなともしも思ったら、救護担当教官のエステルちゃんかカリちゃん、あるいは僕に遠慮なく申し出ていただいて……」


「ザックさま、大事なお話ですけど、長くなりますか?」

「あ、はい、エステルちゃん。手短に済ますのであります」

「お願いしますね」


「こほん。それでは本日は、予定通りに午前と午後を通じて、剣術の試合稽古を行います」

「おお、待ってました」

「お静かに」


 いまの声はフレッドくんだね。彼はこの機会を待っていたようだ。


「2年生以上は承知と思いますが、この試合稽古は合宿最終日を締め括る恒例の練習メニューであり、自分が対戦すると同時に、他の対戦をしっかりと見る見取り稽古でもあるということを忘れないでください」

「はいっ」


「それでは、ヴィオ副部長より、本日の対戦組み合わせを発表します。ヴィオちゃん、お願いします」

「それでは発表します」


 ヴィオちゃんが順番に名前を読み上げ、組み合わせを発表して行った。

 その都度、皆から声が上がり、あらためて対戦相手同士がお互いの顔を見て頷き合ったりする。


 特に大きく反応があったのが、強化剣術研究部側にうちのフォルくんとユディちゃんが加わるということとその組み合わせ。

 そしてロルくんが2試合をこなし、その1戦目の相手がカロちゃんだということ。

 更に、そのカロちゃんとルアちゃん、ブルクくんがエクストラの2戦目を行うということだ。


「ふん」

「おっしゃー」

「よしっ」


 その3人からそれぞれ、気合いを入れる声が聞こえて来る。

 ちなみにルアちゃん。貴女あなたは忘れがちだけどいちおう準男爵家の令嬢なので、「おっしゃー」とかは普段はやめましょうね。



「組み合わせは以上となる。先ほどザカリーさまからもお話のあったように、自分の対戦ばかりでなく、先輩後輩の試合稽古もしっかりと見て、良い点悪い点を学ぶように」

「はいっ」


 ジェル教官から、皆の気分を引き締める鋭い声が飛んだ。


「エステルさまやカリちゃんが居てくれるとはいえ、例え木剣を用いているとしても、一歩間違えれば大怪我をすると心得よ。本物の剣ならば、生死を分ける。その真剣で闘う心持ちで、気を緩めるな。いいか」

「はいっ」


「よし。ではいつものようにストレッチで身体を解し、そのあと素振り。小休止の後に試合稽古を開始する。各自、準備を整えろ」

「はいっ」


 いやあ、やはりジェルさんだよな。一気に心地良く緊張感が高まりました。

 それではそろそろ始めましょうかね。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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