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第917話 攻守訓練は今年もぐだぐだ!?

 じゃんけんの結果、今年も女子組の先攻となりました。


「おいブルク。おまえ、相変わらず弱いな」

「面目ない」

「まあまあ、後攻で良いのでありますよ」


 この攻守訓練においては、特に先攻後攻の優劣は無いからね。

 先に攻める女子組の攻撃を守り切って、男子組が疲弊しないかどうかだけだ。


「あいつらの魔法で要注意なのは、ヴィオちゃんのアイススパイク、エステルさまのウィンドボム、それからカリさんの石礫つぶて攻撃の3つだな。カロちゃんもウォーターボムを撃って来るが、ヘルミちゃんとブリュちゃんは火魔法が撃てないので、それほど問題ではないだろう。それでたぶん、暫く魔法攻撃で攪乱して来て、ルアちゃんを先頭に突っ込んで来る。あとはエステルさまが、木製のダガーを撃ち込んでくるか」


 訓練開始前に俺たちは頭を寄せ合い、ライくんが過去の攻撃を思い出しながらそう話した。


「去年は最後に、カリさんの石礫つぶて攻撃とエステルさまの風魔法の合わせ技が、かなり酷かったすよぉ」

「あれで強制終了になったんだった」

「四方八方からの石礫つぶてが、風魔法で渦巻いたからなぁ。あれは痛かったぜ」


 そんな話を、この攻守訓練を初めて経験するフレッドくんと、それからケリュさんも「ふんふん」と聞いている。

 特にケリュさんあなた、ずいぶんと嬉しそうですよね。


 攻撃後半に木剣で突っ込んで来る部分については、皆は口に出さないけどいまはソフィちゃんがいないので、少し戦力が落ちているよね。

 ルアちゃんには攻撃力的にはカロちゃんが続き、その次はヘルミちゃんだな。

 エステルちゃんとカリちゃんは、おそらく剣術で突っ込んで来ることはしないだろう。



「そろそろいいかしらー。準備が出来たら女の子たちは森に入ってー」

「はーい」


 審判役のライナさんから声が掛かって、同じく頭を寄せ合って相談していた女子組が森の中に入って行った。

 一方で俺たちは、四方に注意を払うかたちで守りを固める。


 こちらは俺とケリュさんは封印しているにしろ、ブルクくん、カシュくん、フレッドくんと剣術要員は揃っているが、魔法に関してはいささか心もとない。


「じゃ、はじめぇー」


 ライナさんのなんとなく気の抜けた声が掛かって、攻守訓練が始まった。


 その彼女と同じく審判役のティモさんは、それぞれ俺たち守備側からだいぶ離れて木立との境目にスタンバイしているのだけど、あれって魔法攻撃の被害を受けないようにだよね。

 特にティモさんなんか、いまにも木の上に上がってしまおうとしているみたいですな。


 それはともかく、森に入った女子組の攻撃態勢が整わないうちに、こちらから先制の魔法攻撃をしようと、まさにその合図を出す瞬間、先にやられました。


 森の中の四方から、この開けた空間の中央で構える俺たちに水魔法が撃たれた。

 水が塊となって飛んで来るウォーターボムだが、攻撃の威力よりはただ水の量の多さを重視したものだ。

 どっしゃーん、どっしゃーんとバラけた4つの方向から連続して撃たれ、逃げ場が無い。


「うぉおー、あいつら無茶しやがるぜ」

「これは、4人で交互に撃ってるね」

「うひゃひゃー、避け損ねると水びたしっすよ」

「それもあるけど、足場がだんだん酷くなるであります」


 ウォーターボムを撃っているのは、それがいちばん得意なカロちゃんに加えてヴィオちゃん、それから先ほども練習していたヘルミちゃんとブリュちゃんの4人だな。

 その彼女らが森の中で散らばり、移動しながらこちらを攻撃して来る。


 水魔法出力の高いカロちゃん、そしていつもは氷魔法攻撃をしてくる筈の魔法少女ヴィオちゃんはもちろん水魔法も出来る。

 あとのふたりも、一発一発がなかなかの量の水の塊を放って来てますね。


 もろに当たると、ダメージと言うより装備が水びたしになるんだよな。

 でもそれよりフレッドくんの言う通り、土が剥き出しになっている部分の地面に水が溜まって足場が徐々に泥濘になって来てますぞ。


 これはまず、俺たちの動きを鈍らせる戦法か。

 そこからの他の魔法攻撃と、たぶんエステルちゃんの木製ダガー撃ち。そして剣術での突入ですかね。


 ウォーターボム攻撃を避けながらそんなことを考えているうちに、ますます足場が悪くなって来た。

 俺ひとりなら周囲の木の枝に跳んでしまえばそれまでだが、ひとり逃げる訳にもね。


「よし、ここは我に任せよ」と、なんだか楽しそうに攻撃を躱していたケリュさんが口を開いた。

 危ないことしないでくださいよ。と言っても、彼には風魔法のみ遣って良いとの縛りを入れているんだけど。



 ケリュさんから風が巻き起こる。

 だがそれは、ウィンドカッターやウィンドボムなどといった風の攻撃魔法ではなく、極めて乾燥した強い風を地面に吹き出しているのだ。おまけに多少は熱も帯びているですかね。


 すると、その風が水びたしの土や草の地面に広がって乾かし始めた。これってなんだか大型のドライヤーみたいだな。

 おお、良いではないですか、それ。さすがは戦いの神様だ。


 と感心したのはそこまでで、地面乾くと同時に、もうもうと大量の水蒸気というかもやが立ち始めた。

 そのもやは特に熱を帯びてはいないので触れても問題は無いのだが、みるみる俺たち守備側を包み込んで行く。


 シルフェ様の旦那だから風魔法も得意だと自慢してたけど、これって迷い霧みたいになるじゃないですか。


「ちょ、ちょっと、ケリュさん。もういいんじゃ」

「だが、もう少しで地面が元に戻るぞ」


「以前に総合戦技大会で、ザックが出したのと同じようだよ」

「おお、そういうこと、あったな」

「あれも酷かったすよね」


 ああ、2年生のときの教授たち相手の模範試合ね。

 俺が霧を出し過ぎて、試合の様子が最後に見えずらくなって、あれは不評でしたなぁ。



 するとそこに、エステルちゃんの訓練用木製ダガーが何発か撃ち込まれて来た。この状況を見て利用しようという訳ですな。

 上半身は狙っていないけど、靄の中に飛んで来るのでこれは見え辛いですよ。


「ひゃあ、痛たたっ」とライくんの叫び声が上がる。

 すかさず「ライ選手に命中。退場してください」というティモさんの声が聞こえた。


「やられちまったぜ。あとは頼む」と、彼の声が遠ざかるのと同時に、来ました石礫つぶて攻撃。

 おそらく周囲を動きながらカリちゃんが撃っているのだろう、思わぬ方向からバラバラ飛んで来る。


 そこに、キラキラ光るものが混ざり始めた。

 これって小さな氷の塊? 氷礫こおりつぶてですな。ヴィオちゃんか。うん、威力は無いけど、なかなか面白いですよ。


 もやで視界が悪いうえに、石礫つぶて氷礫こおりつぶてが混ざって飛んで来るので、更に避け辛くなりましたぞ。


「うはー、痛っ。痛いでありますよー」

「これが総合武術部、夏合宿の洗礼っすよぉ」


 明らかにフレッドくんとカシュくんには当たっているのだが、まだ審判からは退場の声が聞こえない。

 石礫つぶて攻撃系は致命傷という判定じゃないんですよね。


 そこに、木剣を振りかざした3つの影が同時に飛び込んで来た。ルアちゃんとカロちゃん、それからヘルミちゃんか。

 ルアちゃんは案の定ブルクくんに斬り掛かり、既に激しく闘いを始めている。

 カロちゃんの獲物はフレッドくんで、ヘルミちゃんはカシュくんですな。


 そこに更に大量の石礫つぶてが、横殴りにバラバラ降り注いで来た。

 おい、増えてますぞ。この量って、やっぱりライナさんが加わってるよね。


 ちなみにこの時点で、俺は跳び上がって近場の樹木の枝の上に避難し、見るとケリュさんもその近くの枝の上で、大笑いしながら地上の戦闘を観戦しておりました。




 結局、ブルクくんとルアちゃんの戦闘は続いていたものの、カシュくんとフレッドくんは石礫つぶて攻撃も集中的に受けたこともあって倒され、ティモさんから終了の声が掛かった。

 半数の3人が致命傷判定。加えて2名が戦列を離れたということで、守備側男子組の負けです。


 ちなみに、審判役のティモさんも樹木の上に逃げていて、一方でライナさんはやはり森の中からニコニコしながら姿を現した。


 続いて攻守を交代しての第2戦。

 お昼も近いということで俺は速攻を選び、鼻っからの総攻撃を指示する。

 魔法を撃ち込みながら、剣術特攻役に選んだブルクくん、カシュくん、フレッドくんの3人を早々に突っ込ませる作戦だ。まあこんなの、作戦でも無いけどね。


 ライくんが雷撃攻撃を派手に放って牽制したところで、3人の特攻役を三方から突っ込ませ、それを俺とケリュさんの魔法攻撃で援護する。


「なあ、ザック。我も石礫つぶてを撃っていいか?」

「あー、いいですよ」


 森の中を動きながら交差する際に、ケリュさんがそう聞いて来たので許可しました。

 それでふたりで、大量の石礫つぶてを移動しながら放つ。

 さっきのカリちゃんとたぶんライナさんの攻撃より、更に大量の石礫つぶてが縦横無尽に飛びますよ。


「痛い、痛いって、痛いからぁ」

「あひゃあ、痛いですよぉ」


 守備側から阿鼻叫喚の叫び声が聞こえる。


「止め、止めっ。止めです」と、ティモさんから停止の声が掛かった。

「ふたりとも、こっちに出て来るのよー」と、ライナさんの声も聞こえて来る。

 ふたりって、俺とケリュさんのことだよね。


「もう、やり過ぎ。ザックさまとケリュさまは。相手は女の子なんですからね」

「えー、だって、エステルちゃん。さっきは女子組の方だって……」

「そうだぞ。我らは同じ攻撃を……」


「だってじゃありません。あんなにたくさんの石礫つぶてを飛ばして、女の子が顔に怪我でもしたら、どうするの?」

「そうですよ。まだ大丈夫だと思いますけど、ほら、ふたりで念のために治療をしてください」


 なんだか少し理不尽な非難を受けている気もするし、毎年怒られている気もするのだけど。

 でも確かにケリュさんが加わったことで、これまでで一番の大量の石礫つぶてが飛び交いました。


 それで俺とケリュさんとで女子部員に怪我が無いかを確認し、念のために回復魔法を施しておく。

 あ、ケリュさんはごく弱めにしといてください。神の力はヤバいですから。

 あとついでに、男子部員も治療しておきますよ。


「それから、この場の地面も片付けてくださいね。石ころがたくさん散らばってますし」

「了解であります」


「そうですよ。泥濘ぬかるみのあとの地面に、そこら中に石ころが落ちて、ガタガタです」

「確かに、これじゃ危ないわねー」

「カリちゃんと、それからライナさんもよ」

「はーい」


「我も手伝うか」って、泥濘ぬかるみからのガタガタ地面にしたのは、ケリュさんもですからね。



 部員の皆を休ませて俺たちが原状回復の整地作業をしていると、空からクロウちゃんが降りて来た。


「カァカァ」

「ああ、その犯人は、僕じゃなくてこの義兄あに貴ね」

「なんだ、犯人とは。我は地面の泥濘ぬかるみを乾かしてだな」


 クロウちゃんは少し離れた空を飛んでいたのだが、俺たちが練習を行っている方で不自然なもやが立ち昇ったので、どうせ俺が何かやらかしたのだろうと観に来たのだそうだ。

 それで暫く、上空からこの攻守訓練を観戦していたのだとか。


「あの辺りから、今年もグダグダになり始めたのよねー」

「ですねぇ。でも、攻撃するのに、良い目隠しになりましたよ」

「だったわねー」


 試合形式の攻守訓練の1回戦目は、守備側男子組の負け。攻守交代した2回戦目は無効試合なのだそうだ。

 その1回戦目で勝敗を分けた要因は、女子組の水魔法の飽和攻撃とやっぱりあのもやの生成じゃないですか。


 まあでも、彼女たちのあの水魔法攻撃は良い作戦だったよな。

 それに対しては、いまやっているみたいに俺が土魔法で素早く整地して足場を固めてしまえば、何も問題無かったんだけどね。


 でも、そうするつもりは俺には無かったのですなぁ。カァカァ。

 いやいや、クロウちゃん。今回のやらかしはケリュさんですからね。カァ。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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