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第913話 最後の合同合宿に出発します

 学院生活最後の夏休みもいよいよ残り少なくなり、合同合宿に出発する日となった。

 今朝は早くから、参加する部員たちがうちの屋敷に集まり始めている。


 人数は、総合武術部が俺を含めて男子5名に女子も5名。そして今年は同じくうちの屋敷集合となった強化剣術研究部が、男子3名に女子が3名だ。

 集合は8時半でまだ時間はあるが、そろそろ全員が揃ったかな。


 集まって来た部員たちは、ひとまずラウンジに収容して紅茶などを飲んで貰っているが、これだけの人数が集まるとまずは賑やかですな。


 ラウンジにはもちろん人外メンバーも居るので、初めましての下級生は上級生に介添えされて挨拶などをしている。

 その挨拶している相手がどんな存在なのかは、もちろん正しくは分かっていないけれど、まあ偉い人らしいぐらいは認識しているみたいだね。


 そして、全員が初めて会うのがケリュさんとクバウナさんだ。

 クバウナさんはカリちゃんの曾祖母、対外的にはお婆ちゃんと紹介すれば良いので、分かり易いよね。外見的にはかなり若々しいけど。


 ついでにと言ってはなんだが、加えてシルフェ様が以前よりも歳上のお姉さんの容姿になっている。

 こちらの方が本来慣れている姿だということなので、これからはずっとこのままなのでしょうな。


「ねえ、ザックくん。シルフェさまって何だか変わった?」

「あー、そうでありましたかな」

「いままでの印象より、ずいぶんと大人に見える、ですよ」

「そうかな。僕は毎日会ってるので、気付かなかったけど」

「ザック部長にそういうの聞いても、ダメですよね」


 取りあえず恍けて置きました。



「えーと、みんなに紹介しておくけど、こちらの男性はケリュさん。シルフェ様の旦那様でありますな」

「きゃー」


 え? そういう反応なの? どんな人なのかと女子たちは興味津々の様子だ。

 見た目、黄金色の長髪を靡かせた長身がっしりの偉丈夫で、かつ凛々しく誰しもが高貴と認めざるを得ない大人の男性、といった姿のケリュさんを見ている。中身は人じゃないけどね。カァ。


「あー、このケリュさんは暫く外国で戦士長といった仕事をしていて、このたび戻って来たので、うちで暮らすことになった人です。仕事柄、剣を扱うことには長けていますので、今回の合宿では特別に教官をしていただくことになりました」

「きゃー」


 今日は俺が紹介するまで、先に余計なことを喋らないようにとケリュさんには釘を刺して置きました。


 あとはジェルさんたち、いつもの教官陣もあらためて紹介する。

 合宿に同行するのはエステルちゃんとカリちゃん、レイヴン古参メンバーの5人にフォルくんとユディちゃん、クロウちゃん。


 ユルヨ爺も指導者としてはもちろん超ベテランで当初は同行する予定だったが、結局今回は残ってリーアさんと調査活動を継続してくれることになった。

 クバウナさんも加わって、人間の数に対して人外の方たちが屋敷に多く居るというのも、彼自身が残ると言ったもうひとつの理由かな。そこら辺の配慮はユルヨ爺らしい。


「ということで、この顔ぶれで合同合宿を行います。今年も張り切って行きましょう。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


 いつもは現地で行う部員たちの自己紹介も済ませた。

 俺があまり認識していなかったのは、強化剣術研究部の1年生のふたりだね。

 男子がエドヴィン・クルームくん、女子がマルティーネ・ブラウエルさんかな。

 やはりともに騎士爵家の子息子女で、これはこの部の伝統みたいなものだ。


 あと、一行が分乗する馬車は、今回は4台。

 うちが王都屋敷所有の1台に貸し馬車2台を用意し、残りの1台はヴィオちゃんのセリュジエ家が出してくれている。

 セリュジエ家の御者さんはこちらに馬車を移動させて帰って貰ったので、御者役はブルーノさんとティモさん、フォルくんとユディちゃんだ。


 それで分乗する組分けだが、いつもは男女で分かれていたのだけど、今回は適当に混ざって乗って貰う。

 と言うのも、ケリュさんを部員たちと同乗させたくないからね。


 それで、うちの馬車に俺とエステルちゃん、ケリュさんとカリちゃんにクロウちゃんが乗り、御者役は必然的にブルーノさん。


 予めそう決めた際に「悪いね、ブルーノさん」と俺が言うと、「本来、ザカリー様の乗られる馬車を操るのは、自分の役目でやすからな」と笑顔で応えられた。

 確かに俺が子どもの頃からそうなんだよね。


 あとの15名の部員たちは、5人ずつで3台の馬車に振り分けて貰ったのだが、女子たちからはエステルちゃんと一緒に乗れないとブーイングが出た。

 まあまあ、今回はこれで納得してくださいな。こちらも言えない配慮があるんですから。


 あー、ふたつの部の男女部員でどう組分けするかは、適当に決めてください。

 早く決めないと出発出来ませんよ。ヴィオちゃんとロルくん、頼むね。




 ここまで朝から大騒ぎで、ようやく部員の全員が馬車に収まり、「それでは、出発する」という騎乗のジェルさんの声が掛かった。


 馬車4台に騎馬が3頭と、馬車の数に対してお姉さんたち女性ばかりの護衛の数がずいぶんと少ないのが却って目立つのだが、まあ学院生の団体のちょっとした遠出ということで良しとしましょう。

 護衛の戦闘力としては申し分ないしね。


「いやあ、楽しみだな、ザック」

「あまり、はしゃがないでくださいよ」

「何を言うか。ここまで我は言われた通り、大人しくしておったではないか。そういうおまえは、他の者たちと比べて若者らしさが足りんぞ」

「大きなお世話です」


「ほらほら、ふたりとも。出発早々、馬車の中で言い合いしないんですよ」

「これだと、先が思いやられますよね、エステルさま」

「ほんとね、カリちゃん」

「カァカァカァ」


 出発前にシルフェ様から、ふたりは仲良くして問題を起こすなって言われたのを、クロウちゃんに指摘されました。

 いや、仲は決して悪くはないんだけど、どうも互いに突っかかっちゃうんだよね。


「クロウ殿、それは分かっておるのだが、我が義弟おとうとも人間の若者らしくだな」

「残念ながら、見ての通り僕は人間の若者そのものでーす。そう言うケリュさんこそ、喋るとアレだから」


「カァカァ」

「お、おう」

「はいであります」


 子ども時代はまだしも、脳や肉体の成長とともに前世、前々世を合算した魂と精神の年齢との適合性が高くなるのは致し方ないんですよね。

 え? 変なところで子どもっぽくて、それほど適合しているとは思えないって? クロウちゃん。そうかなぁ。



 いつものように途中で1回休憩を入れ、お昼前にはナイア湖畔に到着した。


「おお、ここがナイアの森か。ふむふむ。なかなか清浄な空気が流れておる。湖も美しいな。ニュムペが棲むのはあちらの方角か。良いキ素と水が、この湖と周辺に溢れておるぞ」


 馬車を降りると直ぐに、ケリュさんが湖畔から湖、そしてニュムペ様の妖精の森のある方向を眺めながらそんなことを口にした。


 ちなみに、今回の合宿ではいろいろとややこしくなりそうなので、ニュムペ様の水の精霊屋敷は訪問しない。

 またケリュさんには、人前で水の精霊や妖精の森に関することは決して口に出さないようにと、シルフェ様とあと俺からも言ってある。


 あ、カリちゃん。到着早々に変なことを言ったりしないように、ちょっとケリュさんに付いていてくださいな。


 さて、そちらは任せて、早速に野営の準備ですな。

 1年生は上級生に教えて貰って、テントを張ってくださいよ。

 あと炊飯場の設営は、エステルちゃんの指示に従ってくださいね。


「ねえねえ、ザカリーさまー」

「うん? なんですか? ライナさん」

「おトイレはどうするのー? やっぱり、前みたいにザカリー様が造る?」


 ああトイレか。

 一昨年は俺ひとりで造ったのだけど、やり過ぎて少々呆れられたんだよな。


「去年程度の簡易なものでいいよ」

「おっけー。カリちゃんは?」

「ああ、あっちにケリュさんと居るよ。おーい、カリちゃん」


 こういう作業はグリフィン建設(仮)の仕事なので、メンバーのカリちゃんも呼ぶ。


「はーい」

「どうした、ザック」


 ケリュさんも付いて来ちゃいました。まあ俺がカリちゃんに、暫く一緒に居るように言ったんだけどさ。



「いまから、トイレを造りたいと思います。仕様と規模は昨年並みでいいかな」


 部員の数は、初回がアビー姉ちゃんを含めて10名。2年目が14名で、3年目が16名。そして今回も16名だ。

 エイディさんたち先輩3人とソフィちゃんが抜けて、代りに1年生が同数加わっている。


 教官の数も、昨年はドミニクさんが参加していて、今年は彼がおらずケリュさんが居る。

 もっとも神様の場合、トイレは関係ないですよね。

「我もトイレは使うぞ。皆と同じように飲食をしておるだろうが」ああ、そうでした。

 質量保存の法則的な? そこら辺の物理的生理学的メカニズムは、まあ触れなくていいでしょう。


「らじゃー、です」

「よし、我も手伝おう」


 え? ケリュさんもトイレ造りに参加するの? 手伝ってくれると言うのなら、まあいいですけど。

 しかし、野営用の簡易なものとは言え、武神がトイレ造りをするのはどうなんでしょうね。

 バチが当たるとか無いですよね


「ケリュさま、いいのー?」

「おお、良いぞ、ライナさん。土魔法でやるんだろ? 我も土魔法は出来るからな」

「頼りになりますね、ケリュさま」

「ふふふ。任せておけ、カリ」


 ライナさんは少し心配そうだけど、カリちゃんは普通に受入れているので、まあ良いのかな。

 あと、神力ではなくて魔法を遣うんだね。あるいは地上世界用に、魔法と同等程度の神力でということか。


「おい、ザック。そこでぼーっとしてないで、仕事に取りかかるぞ」

「はいはい、義兄あに貴。いま、場所を決めますからね。こっちこっち」


 と言って、設営場所は昨年と同じ位置ですけどね。

 さっさとあらぬ方向に歩き出すケリュさんを追いかけて、トイレを造る位置へと引き戻し、

 その後ろからライナさんとカリちゃんが付いて来る。


「ねえ、カリちゃん。あのふたりって、本当の兄弟みたいよねー。ちょっと言動が浮世離れしてるところも含めてさー」

「でも馬車の中では、いつもみたいに言い合いを始めて、暫く煩かったんですよ。エステルさまとクロウちゃんに叱られて、静かになりましたけど」

「そういうとこも、似てるのねー」


 えーと、誤解です。似てません。

 あと、俺はケリュさんほど、言動が浮世離れとかしてませんからね。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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