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第89話 竜人の双子と剣術稽古をするよ

 北方帝国ノールランド北辺に接する村から逃げて来た、竜人ドラゴニュートの双子のフォルくんとユディちゃん。

 去年の夏に俺が預かるかたちで領主館の屋敷で働くようになって以来、ふたりは屋敷の一員としてすっかり馴染んでいた。


 侍女見習い、小姓見習いとしての彼らの日常は、早朝の雑務から始まり、騎士団での騎士見習いの子たちに混じっての剣術の稽古。

 その後は、俺とアビー姉ちゃんと一緒に家庭教師のボドワン先生から教わるお勉強。そしてお昼からはまた屋敷のお仕事と、なかなか忙しい。


 そんな彼らと、騎士団とは別に剣術を稽古したいと思った俺は、どうやって時間を作らせようか思案していた。

 と言うのも、現在の騎士団での剣術稽古とボドワン先生のお勉強だけでも、侍女見習い、小姓見習いとしては破格だからだ。



「ねぇエステルちゃん。フォルくんとユディちゃんに剣術のお稽古の時間を作って貰うには、どうしたらいいと思う?」

「そうですねぇ。午前中は既に剣術とお勉強をしてますから、これ以上となると確かに難しいかもです」

「そうだよね。毎日じゃなくて、何日かおきとかはどうかな?」

「それぐらいなら許可して貰えそうな気もしますね。あとは理由ですかね」


 そうね、理由だよね。

 俺がしたいって理由だけだと、単に領主の息子のわがままだし。

 父さん母さんに言っておかしくない理由はなんだろな。


「将来の俺のお世話係兼護衛と監視役を増やすため、というのはどうだろか」

「わたしのお役目の後継者を育てる、ってことですか? あ、でもフォルくんは小姓見習いだから、ザックさま預かりの小姓ですし、ユディちゃんはわたしの後輩ということで」

「うん、それがいいかも」



 ということで、ヴィンス父さんとアン母さんにお願いする前に、家令のウォルターさんに相談してみることにした。


「と言う理由と目的で、明日のためにフォルくんとユディちゃんと稽古の時間を作りたいのだけど、ウォルターさんはどう思いますか?」

「明日のために、ですか。ふむふむ。ザカリー様がそこまでお考えとは。なるほどなるほど」

 あ、この人にまた企てのネタを提供したかもだけど、まあいいか。


「よろしいでしょう。ですが当面は6日に1回ぐらいですな。お屋敷に来てからまだ1年足らずですし」

「うん、まずはそのくらいでいいよ」

「では私の方から、子爵様と奥様にはそれとなくお伝えしておきますので、ほど良いタイミングでザカリー様からお願いしてください」

「わかった」



 翌日、父さんと母さんから呼ばれた。


「ザックは何かお願いごとがあるんじゃないか?」

「うん、フォルくんとユディちゃんのことなんだけど……」

 できるだけ丁寧に理由と目的を説明する。


「ウォルターからも聞いているが、屋敷の仕事に支障が出ないのなら許可することにしよう。ただし、あの子たちが怪我したり身体を壊すような、無理はさせるんじゃないぞ」

「わたしも賛成だからいいわよ。来年には、魔法の稽古をしてあげるつもりだったしね」


 両親から許可が貰えた。しかし父さん、俺はそんなにスパルタ教官とかじゃないからね。



 それからエステルちゃんに、フォルくんとユディちゃんを呼びに行って貰った。

 誰かにあまり聞かれたくないから、庭園の中のテラスがいいかな。


 テラスでクロウちゃんと待っていると、双子が小走りでやって来る。元気だね。

 その後ろからエステルちゃん。


「こらっ、お屋敷の中を走っちゃダメですよ」

「ごめんなさい」


 俺に呼ばれたから、急いで来たんだよね。叱らないであげて。


「ザカリー様、お呼びですか?」

「なにかご用ですか? ザカリー様」

「うん、今日はふたりにお話があってね」


 どちらも眼をキラキラ輝かしている。

 騎士団での剣術稽古やお勉強では一緒だけど、最近は俺から直接、話をする機会が少なかったからね。


「じつは」

「はいっ」

「これから6日に1回、僕とエステルちゃんと、きみたちふたりとで、剣術のお稽古をしようと思いますっ」

「はいっ。はい?」

「これは騎士団での稽古とは別で、特別稽古になります。つまり特訓です」

「ちょっと、ザックさま。ふたりに分かるようにお話しないと」


「あ、ごめん。えーとだね。きみたちもお屋敷に来てもうすぐ1年。だいぶお仕事にも慣れてきたようだし、騎士団での稽古でも、ずいぶん上達が早いと僕は思ってる」

「ありがとうございます」

「それで、剣術がもっと上達するように、とりあえずは週1回、お仕事の邪魔にならない範囲で、僕たちと稽古の時間を持つようにしたいんだ。この話は父さん母さんと、ウォルターさんも了承している話だよ。どうかな?」

「はいっ、嬉しいです。やりたいです」

「頑張ってもっと上達しましゅ。ザカリー様」


 ユディちゃん、もっとゆっくり話して大丈夫だよ。



 そういう訳で、本人たちもやる気満々になったので、ウォルターさんと家政婦長のコーデリアさんにお仕事を調整して貰い、6日毎にその日の午後に行うことになった。


 そしてその6日後の午後、竜人の双子を伴って、いつも俺たちが剣術と魔法の独自稽古をしている、果樹園の奥の子爵家専用魔法稽古場にやって来た。

 フォルくんもユディちゃんも、騎士団での稽古と同じ訓練用装備をしっかり身に着けている。


「それでは今日から、僕たち独自の剣術の稽古を始めることにします」

「はいっ」「はーい」「カァ」

「まずは、身体をほぐします」

「はいっ」「はーい」「カァ」


「その次に、素振り千本っ」

「はい?」

「ザックさま、素振り千本ですかぁ?」

「あ、いや、多すぎるか。とりあえず200本ぐらいで。ただし、気持ちを込めて」

「はいっ」「はーい」「カァ」



 しばらく一緒に素振りをしてから、ふたりの様子を見てみる。

 あらためて見ると、ずいぶん体幹がしっかりしてきてるね。もともと子どもにしては、とても安定していたし。

 これからの稽古が楽しみだ。さて今日は、何から始めようかな。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。


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エステルちゃんが主人公の短編「時空渡りクロニクル余話 〜エステルちゃんの冒険①境界の洞穴のドラゴン」を投稿しました。

彼女が隠れ里にいた、少女の時代の物語です。


ザックがザックになる前の1回目の過去転生のとき。その少年時代のひとコマを題材にした短編「時空渡りクロニクル外伝(1)〜定めは斬れないとしても、俺は斬る」もぜひお読みいただければ。


それぞれのリンクはこの下段にあります。

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