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第897話 王都屋敷生活を再開

 王都に向けて出発する日の前日、王都屋敷メンバーでミーティングを行った。

 いつもしていることなので行程の確認などが主だ。

 それよりもこうして集まってみると、あらためて人数が増えたなぁと思う。


 調査外交局のあるヴァネッサ館西棟のロビーラウンジに顔を揃えたのは、俺とエステルちゃん、カリちゃん、屋敷メンバーのアデーレさん、エディットちゃん、シモーネちゃん。

 独立小隊レイヴンはジェル隊長を筆頭に、ライナさん、オネルさん、ブルーノさん、ティモさんの古参メンバー。

 そして、アルポさんとエルノさん、フォルくんとユディちゃん、顧問のユルヨ爺、それから正式に王都屋敷メンバーとなったリーアさんだ。あと、クロウちゃんね。


 総勢で16名と1羽ですか。

 これで王都に行けばおっつけシルフェ様たちが来て、それにおそらくケリュさんも加わるのだろうから、20名と1羽になるのですな。


 ミーティングにはウォルター部長とミルカ部長も参加してくれたが、今回は特段に何か問題や課題がある訳では無い。

 いや、ケリュさんが来るのはほぼ決まっているというのはあるのですけどね。

 この場では、敢えて俺の方からその話は持ち出しませんでした。


 王都までの行程はいつも通り。明日の朝に出発してブライアント男爵家で1泊し、もう1泊の後、3日目の午後に王都屋敷に到着する。

 あと、馬車の収容数が最大6名で、今回はギリギリ6人が乗ることになったからちょっと窮屈かな。


 なので、俺が黒影に跨がって騎馬で行こうかと提案したのだが、ジェルさんから全部の行程はダメだと言われてしまった。

 全部はダメということは、部分的には良いのですよね。


「そしたら、わたしは部分的に空を飛んで」

「ダメです」

「カァカァ」


 カリちゃんがそんなことを言ったけど、当然ながらジェルさんから許可は下りませんでした。


 だいたい彼女が空を飛ぶのなら、明日出発して1時間あまりでその日のうちに王都に着いてしまうじゃないですか。

 カリちゃん自身もそうするとは言わないのは、ひとりで先行してしまったら寂しいかららしい。


「クロウちゃんは飛んでもいいんですよね。あ、ほとんど飛ばないか」

「カァ」


 王都との往復では、クロウちゃんの場合、だいたいは誰かの膝の上で居眠りしてるからね。




 翌朝、父さんと母さん、アビー姉ちゃん騎士ら、主要な人たちに見送られて出発した。

 ドミニクさんも見送りに来てくれている。


「いやあ、手前も学院祭を見に行きたいのですが、さすがに王都で姿を見せる訳には」

「まあ、我慢してくださいよ」

「これまでは、ソフィお嬢様の出られる総合戦技大会と、ザカリー様の模範試合が楽しみだったのですがなぁ」


 彼女の学年だとソフィちゃんのクラスが圧倒的に強かったけど、今年は上位進出が難しいかもだよね。

 俺の模範試合? 今年はどうなるのでしょうかね。昨年の雰囲気からすると、教授たちが何もしないというのは考えられないけど。


 グスマン伯爵家から放逐処分を受けたドミニクさんだが、もう自由な身分なので王都に来るのは特に問題無いとは思う。

 だけど、まあうちの者たちと一緒に居ることになるだろうから、それであまり妙な詮索をされたくは無いということだ。


「それに手前は、これでなかなかに忙しくさせて貰っておりますから」

「そうだね。引き続きグリフィニアでよろしくお願いします」

「承知しました、ザカリー様」


 彼は騎士団見習いの子たちへの剣術指導のほか、不定期で騎士団員への指導、また冒険者の希望者への指導も始まっており、それ以外にも辺境伯家やブライアント男爵家から依頼があれば指導に赴いている。


 それに加え、まだ着手はしていないが、グリフィン子爵領内の村々を巡って子どもたちや若者に剣術の指導をしたいと考えているそうだ。


 かつて、ソフィちゃんの家庭教師や執事となる以前には、ひとりの剣士としてそうやって王国南部を廻村していたそうで、現在はサンダーソードの一員として冒険者をしているエスピノさんは、そのときに出会って弟子になった人だよね。


「余裕が出来たら、それも是非お願いしますよ。出来ることなら、僕もそんな廻村をしてみたいのですけどね」

「心得ました。いやあ、ザカリー様と一緒に剣を携えて村々を廻るのは、楽しそうですなぁ。ジェルさんたちもきっと付いて来るでしょうがな。はっはっは」


 俺の前世の師匠であるト伝先生は、そうやって全国を巡っていたんだよな。

 あの先生も、俺が教えをいただいた頃には何十人もの剣士を引き連れていた。

 同行人数はともかくとして、この世界でそんな風に剣に生きる人生をふと想像してしまったりするけど、まあ難しいのでありますな。


 でも、また別の人生があったら、それもいいかな。どう思う? クロウちゃん。カァカァ。


「ザックさま。出発しますって、ジェルさんが。そろそろ馬車に乗ってくださいね」

「はいであります」


 慌てて父さんと母さん、アビー姉ちゃんやウォルターさんたちと言葉を交わし、俺たちの一行は最後の夏休み帰省を終えて王都へと出発した。




 いつものようにジルベール・ブライアント男爵お爺ちゃんの屋敷で1泊。

 お爺ちゃんにフランカお婆ちゃん、そしてユリアナお母さんも俺たちを出迎える。

 晩餐にはうちの一行全員を招いてくれた。


「わしたちもザックとエステルを見習ってな。こういうときは大勢でいただくのが良いと思ったのじゃよ」

「あなたたちの王都屋敷の広間で、大勢でいただいたでしょ。このお爺さん、それが楽しくて気に入ったらしくてね。うちでもそういうのをやるって、張り切っちゃって。それで、あなたたちが来るのを待っていたのよ」


 家令のコランタンさんなどブライアント男爵家の主立った人たちも参加して、賑やかな晩餐のひとときとなった。


 着席場所はだいたい決まっていたが、料理を自分で取って来るビュッフェスタイルは、先般のうちの王都屋敷でのやり方を真似していた。

 ひととおり食事が済んで、デザートやお酒の頃合いになると皆も自由に席を移動して、会話を楽しんでいる。


「ザックさま。この夏は、ソフィちゃんがグリフィニアに来ていたのですってね」

「はい。ひと夏うちで過ごして、先日に送り届けて来たところです」


 エステルちゃんと話しているユリアナお母さんのところに行くと、そんな話題になった。

 誰がどうやってグリフィニアに連れて来て、またどのようにファータの里に送り届けたのかなどは互いに口に出さない。


「そう、良かったわ。でもあの子、グリフィニアに残りたいって言わなかったのかしら」

「里でもっと鍛錬するんだって、自分から帰るって言ったのよ、母さん」

「そうなのね。やっぱり強い子ね」


 ソフィちゃんがファータの里に行ってから、ユリアナさんも幾度か様子を見に行ってくれていたらしい。

 うちのアン母さんとこのユリアナお母さん。このふたりともが、彼女の母親代りを自認してくれている。


「そうそう。鍛錬と言えば、こんどザックさまのところで、見習いの子を受入れてくれるそうね」

「ええ、エーリッキ爺ちゃんとも話して来ました。でも、現場に出たばかりでいきなりうちだとアレだって、爺ちゃんが言うので。なので、少し他の仕事を経験させて、その結果も踏まえて人選して寄越してくれるそうです」


「そうよね。里を出ていきなりザックさまのところだと、アレよね」

「わたしもアレだと思うので、爺ちゃんの意見に賛成したのよ」


 先日にファータの里に行ったときに、うちの調査外交局への人員補充についてエーリッキ爺ちゃんと相談をした。

 ミルカさんもそうだろうと前に言っていたけど、里長さとおさの意見はそういうことだったのだ。


 具体的には昨年と今年の春からとで、里での訓練を終えて現場に探索者見習いで出始めた子が5人いるそうで、今年中にその中から選抜をしたいと言っていた。


「統領のお膝元で働かせるとなると、やはりアレですからのう」と爺ちゃんは言っていたけど、いまの会話でのユリアナさんやエステルちゃんの言う「アレ」と同じニュアンスでしょうかね。


 グリフィニアに戻ってからミルカ部長にそのまま話をしたら、「里長さとおさの言う通り、やはりアレでしょうね。仕方ありません。年末まで待ちますか」と彼も言っていた。

 しかし、アレって何だ?


「ねえ、リーアさん。みんなが言うアレって何かな?」と、ユリアナさんと話に来たリーアさんにかくかくしかじかと経緯を話してそう聞くと、「それをわたしに聞きますか? ザカリーさま。今年に大きく環境と人生が変わっちゃった、このわたしに」と言われてしまいました。




 王都圏に入ってからのもう1泊を経て、無事に王都屋敷に帰着。

 今日は朝をかなり早めに出発し昼過ぎには到着出来たこともあって、アデーレさんたち女性陣が簡単な昼食を用意してくれて、帰着後の作業の前に皆でいただく。

 そしてその食事のあと、ごく簡単にミーティングという流れになった。


「帰った早々ですが、せっかくですのでミーティングを簡単に」

「それでは、わたしの方から少し。よろしいですか、ザカリーさま」

「あ、うん、ジェルさん。では、お願いします」


 こういうミーティングの場合、いつもはまず俺の方から話をしてからという感じなのだが、ジェルさんが手を挙げてそう口を開いた。


 立場的には、彼女は調査外交局所属独立小隊レイヴンの隊長であるし、古株の王都屋敷メンバーのひとりで唯一の騎士爵だから何の問題も無い。

 でもこれまで彼女は遠慮して、こういう風に率先して発言するというのは控え気味だったのだよね。


「王都に戻って早々ではあるが、いくつかは直ぐに皆に動いて貰いたいと、わたしは考えている。今日この後は、馬たちの世話、お屋敷と各建物、設備と敷地内の点検、留守中に積もった各所の埃を払い、持ち帰った荷物の整理と、それらに専念してほしい。そして、例年通りならば8日後の18日から4日間は、ザカリーさまの合同合宿となる。ですから、まずザカリーさまは、エステルさまとご相談なされて、部員のみなさんとの調整を速やかに行っていただきたい。カリちゃんもサポートを。よろしいですかな?」


「はいです」

「わかりました、ジェルさん。そうしましょう」

「りょうかいであります」


 もう4年目で今年が最後なので、いいかげんそういうのは早く準備しろ。ギリギリで決めて、こちらに言って来るなということでしょうね。

 おっしゃる通りであります。



「その件は例年のことですから、ザカリーさまがアレなどせずちゃんとしていれば然程問題ではありません。わたしとしては、それ以外に、調査外交局及び王都屋敷として、次の3つの方面について着手すべきだと考えております」とジェルさんは、皆の方に向けていた視線を俺へと移しながら言った。


 俺についてちょっとアレな言い方があったけど、まあスルーします。でもこのアレって、皆が言うアレと同じアレなのかな。


「まずひとつ目は、グスマン伯爵家の王都屋敷の動向監視と調査。これについてはもう、ひと段落していると思いたいが、念のためにです」


 そうだね。夏休み前まではあちらの王都屋敷の動きを伺っていたけど、王宮行事からこちらも帰省してしまって中断しているからね。

 ジェルさんの言う通り、念のために調査をしておいた方が良いだろう。


「ふたつ目は、商業国家連合のセバリオの出先機関との接触。これは、先方からご挨拶に来られるやも知れませんが、今後のお付き合いも念頭に、まずはわれらから王都に帰着した挨拶をした方がよろしいかと考えます」


 ああ、これもそうだね。

 王太子の婚姻に伴い、商業国家連合評議会議長で中心都市国家セバリオの首長であるベルナルダ・マスキアラン婆さんから派遣されていたヒセラさんとマレナさんが王宮を出て、セバリオの出先機関である連絡事務所をこの王都に設置した。


 おそらくはもう落ち着いている筈なので、俺も彼女たちとは会いたいし、ショコレトール豆買い付けの進捗状況も知りたいからね。


「3つ目は、王宮の動向ですな。特に、宰相となったジェイラス・フォレスト公爵。何か動きや変化があるのかどうか。これは調べておかなければいけないと、わたしは愚考します」


 そのジェルさんの発言を聞いて、ユルヨ爺やブルーノさんが大きく頷いた。


 グスマン伯爵家の件やセバリオの連絡事務所についてはうち固有の案件だが、ジェイラス・フォレスト宰相の動きはセルティア王国全体に関わる。

 また王国政治と対外関係に絡むことでは、その宰相の件と直接的には関係無いと思うけど、王太子の結婚式において久し振りにその存在を印象づけて来た北方帝国のことも、もうひとつありそうだ。



「あと、8月の終わりには、いつも通りシルフェさまたちがいらっしゃると思うのですが。あ、いえ、それはいつも通りということで……」


 シルフェさまたちは例年通りなら、俺の合同合宿が済んだあとのタイミング、8月末にはやって来るだろうね。

 あのひとたちに関しては特に打合せの必要は無いのだけど、ジェルさんがそう発言して結局語尾を濁したのって、ケリュさんも一緒に来るだろうという件ですな。


 お姉さんたち以外の王都屋敷メンバーには、俺もまだそのことを話していないのだが、どうも彼女としては気持ち的につい触れずには置けなかったようだ。


 それはこの場では取りあえず触れずに、ジェルさんが挙げた項目について皆も調査の必要性を同意したので、ざっと担当の振り分けなどをした。

 まず、グスマン伯爵家の王都屋敷の動向については、ブルーノさんを中心にリーアさんやアルポさん、エルノさんも加わって調べる。


 セバリオの連絡事務所へは、ジェルさんたちお姉さん方が挨拶がてら行くことになった。

 これまでの王太子訪問などで、彼女らがヒセラさん、マレナさんといちばん多く会っているからね。


 王宮及び宰相関係の動向調査については、ユルヨ爺とティモさんとで在王都のファータ衆からの情報の取得を行う。

 特に、エルメルお父さんがトップを務める辺境伯家調査探索局所属のファータ衆が王都に駐在しているので、その誰かと連絡を取り合うことにするようだ。


 そんな感じでミーティングを終えて王都屋敷での生活が再開したのだが、どうも再開早々に何やら騒がしくなりそうな予感がするのでありますよ。カァ。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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