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第6話 アビーと剣の稽古

 今日も身体づくりと剣の稽古を続けます。


 うちは二階建ての、それなりに大きなマナーハウスやカントリーハウスといった趣きの屋敷。

 昨日はその裏庭で稽古をしていたのだが、裏にも表よりは小型の庭園があるので、庭師のダレルさんがやって来て仕事をする可能性が高い。

 本当は屋敷の横に隣接する騎士たちの訓練場の一画、ヴァニー姉さんとアビー姉ちゃんが剣術の稽古をしている場所が良いのだけれど、いまはそこで俺が稽古をするわけにはいかない。


 あとは、屋敷の敷地の後方に広がる森が誰にも見つからなさそうだし、激しい訓練もできそうなんだけど、なんでも森の奥に行くとかなり危険なのだそうだ。

 だから森は、姉さんたちも許可無く絶対に立ち入ることが許されていないし、これまでも行ったことはないらしい。ましてや俺は無理だよね。

 領主館の裏手には城壁があって、ここの門は騎士団が護っているし。いや、行っても良いのだけど、もし見つかると笑い事では済まないお仕置きが待っていそうだ。


 朝食のあと、さてどこが良いかなーと前庭のテラスで考えていると、アビー姉ちゃんがパタパタとやって来た。

「ねえねえザック、剣の稽古がしたいんでしょ。したいんだよね」

 木剣はアビーがくすねて来てくれたし、剣を振るのは彼女と一緒じゃないとダメって約束させられたしな、いちおう。

「うん、したいよ。でもお姉ちゃんと一緒じゃないとダメだよね」

「そうそう、わたしと一緒じゃないとダメなんだよ」

 アビーがなんだか偉そうに胸をそらす。まだ幼女だけど。


「でねでね、わたしがザックのために稽古できる場所を見つけてきた」

 んー、大丈夫かなぁ。でも何かあったときこいつを人質にできるし、ここは乗っておこう。

「ホント? やった、さすがはアビー姉上だね」

「なによ姉上って。ザックのくせに調子がいいんだから。まぁいいわ。あのね、きのうザックがモリモリ蝶だかを捕まえようとしてた裏の庭園の奥に、ダレルさんの物置小屋があるでしょ。その裏にちょっとした空き地があるのよ」

 あぁあそこか。それから、モリモリ蝶じゃないし。


「でも、ダレルさんに見つからないかなぁ」

「だいじょうぶよっ。小屋の入口は庭園に向いてるし、庭の木で見えないし」

 そうかなぁ。でもまーいいか。


「午前中はヴァニー姉さんとお勉強だから、お昼が終わったらね。わたしは今からでもいいんだけど、姉さんに怒られるから」

 こらこら、おまえが剣を振り回したいだけじゃないか。今日は剣術の稽古は無いらしい。

「わかったー」


 その日の午後、「アビー姉さんと庭で遊んでくる」と侍女のシンディーちゃんに告げて、何か言われる前に外に飛び出す。

 後ろから「ザカリーさまは、もうーっ」という声が聞こえてくる。アビーは先に例の場所に行っているようだ。

 裏庭の物置小屋付近には誰もおらず、そこの裏に回るとアビーがいつも剣術の稽古の時に着ている服に着替えて、早くも木剣を振っていた。俺もここに着く前に、無限インベントリから木剣を取り出しておいてある。


「ザック、来たわね」

 なんだか偉そうにしてるよ、こいつ。

「それじゃわたしが剣を教えてあげるわ。でもその前に準備運動よ」

 どうやら剣術の稽古の時には、いつもさせられているらしい。

 それからふたりで身体を伸ばしたりひねったり、膝の屈伸をしたりと準備運動を行う。

「まずは素振りね。わたしのやることを良く見てなさい」

 アビーは、子供用に刀身の短いショートソードの木剣を右手で握って、右肩に担ぐようにして、左手は軽く前に出すかたちで構える。

 ショートソードは両刃の片手剣なので、左手はバックラーなどのシールド(盾)を持つ想定なのだろう。


 足は左足を真っ直ぐ前に出し、右足は外側に軽く開く。

 そして「えいっ」と、可愛い声の掛け声とともに右足を前に踏み出しながら担いだ木剣を振り降ろし、すぐさま出した足を引いて木剣も元の構えに戻す。

 うん、幼女にしてはなかなか様になっているなぁ。やんちゃでいつも落ち着きのなくて飽きっぽいアビーだが、剣術の稽古を始めたばかりとはいえ、真面目に取組んでいるのが伝わってくる。

「えいっ」「えいっ」と小さな掛け声が続く。


 感心して横から眺めていると、

「なにおだやかな顔して見てるのよ。あんたもわたしを真似してやってみなさい」

「だって良く見てろって言うから」

 いかんいかん、子供が真面目に何かに取組むのを見守る表情になっていたようだ。


 それから俺もアビーの真似をして構え、気息を整え身体を動かして剣を振る。

 俺がやってきた素振りとは構えや所作は違うが、身体の軸をしっかりと作りながら剣を振る稽古としては同じだ。

 アビーはそんな俺の様子をしばらく見ていたが、何を思ったのか「ふん」と言って先ほどと同じ方向に向き直り、今度は真っ直ぐの振り下ろしからの構え、相手の頸の付け根を狙った斜めの振り下ろしからの構え、サイドから横に振る払いからの構えと、3つの動作を流れるように連続して行い、それを続ける。

 うまいもんだ、なかなかだね。


 俺は今日始めて木剣を振っている設定だし、まだこの3歳児の身体を使った片手のみの素振りに慣れていないので、真っ直ぐの振り下ろしのみに集中する。

 アビーの「えいっ」「えいっ」という、可愛らしい掛け声を心地よく耳にしながら素振りを続けていると、いつしか前世のときのような無心に近づく気がしてくる。


「ザック、ザックぅ。あんたいつまで続けるのー」

 アビーの声とともに、素振りのみに集中していた俺の感覚がゆっくりと元に戻る。いまは彼女と一緒のこともあって、探査・空間検知を働かせていなかったから、少し慌ててスイッチを入れると俺の周囲の情報がイメージとして構築されていく。


「もうおやつの時間だわ。ちょっとお腹すいたし」

 こいつの腹時計はわりと正確だ。わが家では15時半頃がおやつタイム。

「あんたも顔の汗ぐらい拭いてから戻りなさいよ」

 と、姉らしく言うとパタパタ走って行った。


 それにしてもアビー姉ちゃんは、結構真面目に剣の稽古をしてるんだな。なかなか筋も良さそうだ、幼女だけど。

 これからも一緒に剣を振ってあげてもいいかな。まぁ、俺ひとりでの身体づくりも別にやるけどね。

お読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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