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第83話 お説教ミーティングと大森林の様子

 その晩はなにごともなく、ムゥリークの吠え声も聞こえない静かな夜だった。


 そして2日目、冒険者たちは今日はパーティ単位で探索に出発する。

 ブルーノさんは出発前にリーダーふたりと何やら相談して、俺のところに来た。


「ザカリー様。昨日のミーティングの話で、魔獣や獣の群れの大きさがちょっと気になりやすんで、自分は例のムゥリークの群れを探しに行こうと思ってやすが」

「それって、ブルーノさんが単独で探索に行くってこと?」

「へい、そうなりやすな。どちらのパーティも移動速度的に、ちょっと無理だと思いやすので」


 ブルーノさんは、独りでかなり広範囲を移動して探索するつもりのようだ。

 確かにどちらのパーティでも、付いて行くことはできないだろう。


「それ、僕も行こうか?」

「あー、ザカリー様なら、可能かも知れやせんね。でも、あの、後ろのお方が」

「ダメですよ」


 いつの間にか俺の後ろにエステルちゃんがいた。ダメですよねー。


「それで、自分とこことの距離が昨日より離れると思いやすんで」

「大丈夫だよ。今日はクロウちゃんに、警戒範囲を広くして飛んで貰うから」

「そうでやすか。それでは行って来やす」



 ブルーノさんは音も無く森の中に消えて行った。

 今日も4人と1羽が残りました。俺はすぐにクロウちゃんを空に放ち、警戒にあたって貰う。

 さて、昨日に引き続きお留守番だけど、どうしようかな。

 あ、エステルちゃん、何かな?


「早速ですが、昨晩はしなかったので、昨日の反省会を行います。いいですね、ザックさま。みんなも集まってください」

「はーい」

 反省会、つまり朝からお説教タイムでした。



「まず、この大森林の中で、危険な火魔法が使用された件について」

「え、そこから?」

「そこからです。魔法の使い手として、ライナさんはどう思いますか?」

「やっぱりー、樹木が密集している森では、攻撃型の火魔法の使用は避けるべきですねー。これは騎士団の決まりにもあります」


「そうですね。ジェルさんはどう思われますか?」

「そうだな。まず貴重な資源の宝庫であるこの大森林で、森林火災をぜったい起こしてはならない。万が一延焼して領都まで迫れば、大変な事態になる」

「その通りですね。ですから、魔法攻撃を行う場合は、別の選択肢を選ぶべきです」


 あ、キミたち事前に打合せしてるよね。


「そこのところは、領主のご子息として、どうお考えでしょうか?」

「はい、別の魔法を選ぶべきでした。反省してます」


 エステルちゃんの口から領主ご子息なんて言葉、この3年間で初めて聞いたよ。



「まあそれは、反省していただくとして。次は、ハイウルフの件に移ります」

「次はそれだよねー」

「それです」


「わたしは奥さまから、この身代わりの首飾りを授けられてまで、ザックさまを護れとお願いされています。でも、あんな状況で、どうすれば護れるんですか」

「それは……」

「ザックさまはとても強いです。それはいつも側にいるわたしが、いちばん良く知っています。それに、ハイウルフの咆哮で全員が身体を竦ませてしまい、動けたのはザックさまだけでした」


「でもその状態で、なんでひとりで突っ込むのですか。竦みが取れたら、みんなで一緒に闘えばいいじゃないですか。どうしてザックさまは、いつもひとりで先に……」


 エステルちゃんは、そう言いながらぽろぽろ大粒の涙を流した。

 ジェルさんがエステルちゃんの肩を抱き、ライナさんは彼女の手を握る。

 そのあとはもう言葉にならなかった。


「ごめんなさい。エステルちゃん。それから、みんなもごめん」



 どうしても前世からの倣いか、機を見ると先に動いてしまう。

「大将は周りを良く見るものです」と、前世で幼いころから小姓として側にいた万吉くんも、いつも俺にそう言っていた。

 みんなで一緒に闘う、か。ひとりで先に行き過ぎないようにしなくちゃ、だな。



 ということで、この場の雰囲気をなんとかするために、俺は無限インベントリからあれを出します。

 トビーくん特製の桃のソルベート、つまり冷たいシャーベットだよ。


「エステルちゃん、ホントにごめん。これ食べて機嫌直して」

「きゃぁー、それはソルベートじゃないですかー。なんでここに」

「どうしてそんなものが、いきなり出て来るんだ」

「ザックさまは、いつもいつも、ずるいですぅ」


 ジェルさんとライナさんは大騒ぎになり、エステルちゃんは涙を流しながらソルベートを食べていた。

「カァ」クロウちゃん、上から見てたの? なんで助けてくれないかなぁ。はい、キミの分もあるけどね。



 冒険者たちは昼にいったん帰って来て昼食を摂り、また午後の探索に出て行った。

 しかし、ブルーノさんが昼食には戻らなかった。


「大丈夫かなー、ブルーノさん」

「あの人の偵察技術は飛び抜けているからな。まぁ大丈夫だとは思いますが」

「大丈夫ですよー。単独偵察のプロですから」


 同じ、騎士小隊のジェルさんとライナさんがそう言う。

 上空のクロウちゃんを中継センサーにした俺の探査能力でも、大森林の中をおそらく高速に移動しているブルーノさんを捉えられない。

 彼を信じるしかないだろう。


 午後も何ごとも起こらず、平穏に過ぎて行った。

 今日はエステルちゃんがジェルさんと寸止め稽古をしたり、昨日いきなり成功した竜巻の遠隔魔法についてライナさんと話して、キ素力を飛ばす訓練などをしている。

 エステルちゃんの機嫌は直ったようだ。


 俺は、ヒマだよねー。

 でも反省して自重している状態だから、余計なことを言い出せないんだよね。



 そうこうしているうちに、ブルーノさんが帰って来た。


「どうやら、ムゥリークは大森林の奥に移動したようでやすな。大きな群れがいたらしい痕跡は、見つけたのでやすが」

「そうですか。昨晩は吠え声も聞こえなかったから、昨日のうちに移動したのかな」

「そのようでやすね。ゴブリンなど、ほかの魔物や獣の群れも発見できやせんでした」


 遅い昼食を食べながら、ブルーノさんがそう報告してくれた。

 魔獣や魔物、大きな群れを作る獣は、このエリアから消えたということか。


「どうも、昨日のハイウルフと森オオカミの一件が原因じゃないかと、推察してやす」

「昨日の襲撃が?」

「襲撃、と言うより、ザカリー様が派手にハイウルフを倒した件でやすな」

「はぁ」


「ザカリー様は、危険な魔獣や魔物をなぜだか引き寄せ、それから追い払う運命を持ったお人かと。これは自分の勝手な想像でやすがね」


 それって俺が、魔獣・魔物を引き寄せる罠とか毒入り撒き餌ってこと?


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。


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エステルちゃんが主人公の短編「時空渡りクロニクル余話 〜エステルちゃんの冒険①境界の洞穴のドラゴン」を投稿しました。

彼女が隠れ里にいた、少女の時代の物語です。


ザックがザックになる前の1回目の過去転生のとき。その少年時代のひとコマを題材にした短編「時空渡りクロニクル外伝(1)〜定めは斬れないとしても、俺は斬る」もぜひお読みいただければ。


それぞれのリンクはこの下段にあります。

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