第82話 防衛戦の闘いが終わって
闘いの終わったベースキャンプに、冒険者たちが駆け足で戻って来た。
森の中でオオカミと戦闘を行っていたサンダーソードだけでなく、ブルーストームのメンバーも合流している。
「こいつは……」
ベースキャンプの闘いの跡の惨状を見て、皆が驚愕顔だ。
「お、戻ったか。周りの森オオカミどもはどうした?」
ニックさんが再起動しました。よかったね。
「あぁ、クリスたちが戻って来てくれたから、だいたい片付いたよ。なんだかさっき凄い音がこっちから聞こえて、それで残ったやつらも森の奥に逃げてった」
マリカさんがそう報告する。
彼女たちにブルーストームが加わって、倒した森オオカミは5頭。森の中での闘いは大変だよね。
それから4、5頭が逃げたそうだ。
つまり、ボスのハイウルフを加えて25頭ほどの群れだった訳だ。
「それで、こっちはどうなったんだい? って、こうなったてことか」
「これ全部、ザカリー様たちがやったのか、ニック」
「ああクリス。俺は1頭もやっちゃいない。ぜんぶザカリー様たちだ」
「ふぇー……」
冒険者たちから変な声が漏れて、絶句する。
えーと、大きな穴空けたり、樹木を散乱させたり、黒焦げ作ったり、ごめんね。
ん? そこじゃない?
「ちょっと、姉御、姉御」
「はい、なんですかぁ?」
「あのでかいハイウルフを首ちょんぱしたのって、やっぱり」
「そうなんですよぅ。あとでしっかりお説教です」
「お説教って……」
冒険者たちは、ハイウルフと森オオカミの死骸が散らばる現場を確認しに行ったり、なんだかんだと話したりと、しばらくざわざわしていた。
それから皆がようやく落ち着いて、あらためて集合する。
「まずは、この場を片付けないとだな」
「そうだな、それから昼飯食って落ち着くか」
「ハイウルフは、討伐の証拠のためにもある程度は解体だな」
「毛皮と牙ぐらいか」
「それでいいですか? ザカリー様」
「うん、おまかせします」
クリスさんとニックさんがそう相談して、テキパキと指示を出した。
ギルドにハイウルフを倒した証拠を持ち帰るために毛皮を剥ぎ、加工用途が高い牙も持ち帰るとのことだ。
森ウルフの毛皮もそれなりの価格で売れるので、状態の良いものだけ剥ぐという。
俺が火球でやっちゃったのは、ダメですよねー。まだちりちり臭いし。
俺たちレイヴンも、ブルーノさんを先頭に手伝う。
エステルちゃんは子ども時代にファータの里でよくやっていたそうだし、ライナさんはもちろんジェルさんも経験があるそうだ。
経験がまったくないのは俺だけなので、ハイウルフの解体を見学しながら、ちょこちょこ手伝わさせて貰う。
冒険者たちがベテラン揃いなので、あっという間に作業も終わり、残った死骸は集めて埋めることになった。
はい、ライナさん、でっかい穴を掘ってくださいな。それから落とし穴は埋め戻してね。
あ、アウニさんも土魔法ができるんですね。さすがエルフさんです。
アウニさんに手伝って貰って、ベースキャンプのすぐ側の森の中にライナさんが大きな穴を掘り、冒険者のみなさんがオオカミの死骸を運んで埋めた。
あとは現場の片付けをし、ようやく一段落だ。
遅めの昼食も済み、あらためて何が起きたかの確認と、これからどうするかのミーティングを全員ですることになった。
ベースキャンプへのハイウルフに指揮された森オオカミ襲撃の顛末を、従騎士のジェルメールさんとブルーノさんが補足し合いながら皆に話す。
ジェルさんは、こういった報告が慣れて来たよね。
「そうすると、あらためて確認なのだが、あのハイウルフを倒したのはザカリー様おひとりってことですね」
「私たちはハイウルフの咆哮をまともに喰らってしまい、恥ずかしながら一瞬、身が竦んだのだ。その瞬間にザカリー様が飛び出して」
「あれは誰でも身が竦むぜ。それよりザカリー様がなぜ動けたのか。あー、ザカリー様だからか」
ニックさん、それは理由の説明になってませんよ。
俺も詳しく説明する訳にはいかないけどね。
「こっちから、ドカーンとか凄い音と閃光みたいのが見えたんだが、あれは?」
「それが、俺もよく分からなかったんだ。音と光に吃驚した後、ハイウルフの首が転がってた」
「それって……」
「はいはいはーい。それ以上は詮索しちゃダメですよー。子爵家の秘密ですよー。ニックさんは何も見てませんよー」
「あ、はい」
「それから、ここにいる人たちも、何も見たり聞いたりしてませんよー。帰ってからもし誰かに話をしたりすると、首ちょんぱかも知れませんよー」
「はいーっ」
全員いい返事をしてるけど、エステルちゃんと冒険者のこのやり取り、なんだか昔もあったよね。
あとジェルさんとライナさんは、一緒に声を合わせて返事しなくてもいいよ。
ブルーノさんはなんでニヤニヤしてるのかなー。
「カァ」あ、クロウちゃんお帰り。
経緯の確認はうやむやで終わり、これ以降の行動をどうするかの話になった。
「まず、いくらハイウルフが率いていたとは言っても、25頭の群れは多すぎるんじゃないか。どう思う? ブルーノ」
「そうでやすな。通常は多くて20頭以下ぐらい。自分も25頭の群れは初めてでやす」
「俺も初めてだぜ。大森林の危険な魔獣と獣の群れが大きくなっている気がする」
「そうすると、ゴブリンとかムゥリークなんかの群れも、大きくなってる可能性があるってことよね」
ムゥリークは、昨日の夜に遠くから甲高い吠え声が聞こえた、身体の大きなクモ猿のことだ。
ゴブリンやムゥリークだと、通常でも森オオカミよりも大きな群れを作るというから、それが更に数を増やしている可能性もある。
「確証はねぇがな。だが、今回の森オオカミの群れの大きさだと、大森林の中で冒険者パーティが遭遇したら、まず逃げるのは厳しいな」
「そうだな、ましてや、ハイウルフを含め15頭もいっぺんに倒すなんて……」
その言葉に、冒険者の全員が俺たちの方を見た。
いや、でも場所が森の中だったら厳しかっただろう。ベースキャンプの開けた場所だったから、防衛戦ができたと言える。
それにニックさんたちが戻らなかったら、どうなっていたことか。
「まあとにかく、残りの2日は、魔獣や魔物の動向を中心に探索を続けるしかないな」
「まだ、判断する材料が少ないでやすから」
「そうだな。それで今日はもう探索は止めるとして、明日からの行動だ」
話し合いの結果、例え魔獣や魔物と遭遇しても極力戦闘は行わない前提で、冒険者の2パーティに分かれて探索を行うことになった。
10人で一緒に探索移動をするのは、魔獣や魔物に先に察知されやすくなり、却ってマズいという判断だった。
「僕たちも探索に」
「ザカリー様たちは、引き続きベースキャンプを守ってください。ブルーノはお借りしますが」
即否定されました。
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エステルちゃんが主人公の短編「時空渡りクロニクル余話 〜エステルちゃんの冒険①境界の洞穴のドラゴン」を投稿しました。
彼女が隠れ里にいた、少女の時代の物語です。
ザックがザックになる前の1回目の過去転生のとき。その少年時代のひとコマを題材にした短編「時空渡りクロニクル外伝(1)〜定めは斬れないとしても、俺は斬る」もぜひお読みいただければ。
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