第81話 ベースキャンプ防衛戦
森オオカミたちのベースキャンプ到着まで、およそあと5分。
残り少ない時間のなかで、俺たちは戦闘態勢を整える。
エステルちゃんはテントに走ると、すぐに出て来た。たぶん、投擲武器などを多量に仕込んで来たのだろう。
ジェルさんたちも回復薬などを確認している。
「到着までおよそあと3分。数は、うーん、30頭近くかな。散会して囲むように迫って来るよ」
「周りの木の間から飛び込んで来やすな」
俺の言葉を、ここにいるメンバーは誰ももう疑わない。
クロウちゃんはこのまま上空に待機させ、オオカミたちの動きを監視させる。
1頭、やたらキ素力の強い、大きなオオカミがいるな。あれがハイウルフか。
「ハイウルフと思われる個体が1頭。やつが指揮しているみたいだよ」
「では最初は様子見で、少しずつ飛び出して来るかもでやす」
「飛び出して来たものから、各個撃破ですね。」
「よし、そうしましょう。ライナさんとエステルちゃんは、土魔法と風魔法で飛び出した出鼻を挫いて。あとは僕たちで斬ります」
「はいっ」
「来るよっ」
その直後、ベースキャンプの開けた空間に、2、3頭の塊がふた組、違う方向から飛び出て来た。
片方はライナさんが、オオカミの目の前に土魔法でいきなり落とし穴を大きく開け、3頭がそこに突っ込んだ。
もう片方の2頭には、エステルちゃんが風の塊をぶち当て、同時に投擲ダガーを2頭に同時に当てる。
よしっ、こっちの2頭は貰ったよ。
俺は一気にキ素力を高めて縮地で瞬間的に接近し、ダガーで怯んだ2頭を瞬時に斬り倒す。
あっちはどうかな。
落とし穴から這い上がってきた先頭の1頭を、いち早く迫ったブルーノさんが刀身の短い剣で突き刺す。
その後ろからジェルさんが怒濤のように走り込み、あとの2頭の首を続けて斬った。
よし、5頭片付けた。でもまだ20頭以上いるよ。
クロウちゃんを中継点に森オオカミの動きを確認すると、ベースキャンプの周りを20数頭のオオカミが囲むようにぐるぐる走り回っている。
前後左右から、同時に突っ込んで来られるとまずい。
最大火力の火魔法で、周囲を焼き払う訳にいかないしなー。火事を起こしたら、ぜったい怒られるよね。
ブルーノさん、ジェルさんと俺は元の位置に戻る。
その時、森の中から「おぉーっ」という雄叫びが聞こえた。
「ニックたちでやす」
これでオオカミたちの周回する動きが断ち切られる筈だ。ということは、つまり。
「第二波、来るよっ」
ニックさんたちサンダーソードが森の中で闘う音を背に、俺たちは構える。
今度は3方向からだ。
それぞれ3頭ずつ、一斉に飛び出して来る。
ライナさんが先ほどと同じように落とし穴を開け、さらに岩礫を土魔法で複数出して撃ち放つ。
そこにジェルさんが、追いかけるように走り込んで行く。
エステルちゃんは、なんと別の3頭の眼前に竜巻魔法を出した。
さっきからぶつぶつ、うんうん言ってたのは、この準備をしてたのか。お腹壊して痛くなったのかと思ったよ。違ったね、ごめん。
しかし、よく一発で、竜巻の遠隔魔法を森オオカミの鼻先で発動させたな。
3頭が同時に、飛び出した勢いのまま竜巻の中に突っ込み、悲鳴のような声を上げる。
そこにブルーノさんが走って行った。
それを確認して俺は、正面から来る3頭に火球の魔法をぶつけた。
ごめん、思わず出しちゃった。でも空間が空いてたから大丈夫だよね。
俺はそのまま爆発する火球の中に突っ込み、火だるまの3頭の首を続けざまに斬る。
ライナさんかエステルちゃん、水、水、水掛けてー。
再び元の位置に戻ると、エステルちゃんが恐い顔してる。
「ザックさま、今はそのヒマがありませんが、後でお説教ですからね」
ほかの3人もあきれ顔だ。
でもこれで14頭片付いたよね。
「おーい、大丈夫ですかー」
そこにニックさんがひとり、後ろから駆け込んで来た。
「おー、こいつはっ」
俺たちが立つ前方の様子を見て、ニックさんが絶句する。
それはそうかもね。
森オオカミの死体が転がる大きな落とし穴が空いているかと思えば、一方では竜巻魔法でオオカミと木々が散乱し、正面には黒焦げの地面に黒焦げのオオカミ。
俺だけの仕業じゃないよ。
「ニック、後ろの様子はどうでやすか?」
「おぉ、まだうちのパーティが闘ってるぜ。こっちが心配で俺だけ先に来たがよ……」
「待って、あいつが来る」
「ハイウルフでやすか?」
ひと際強いキ素力を放ちながら、そのハイウルフがのっそりと木々の間から現れた。
先ほどから相手にしている森オオカミも、俺が前世で知っていたオオカミの1.5倍ぐらいの大きさだったが、このハイウルフはそれよりも更に大きい。
しかし、3年前に巨大なフェンリルと出会っている俺は、少しも恐怖を感じなかった。
「こいつは俺がやりますぜ」
「いやニックさん、どうやら僕に相手をしてほしいみたいだよ」
「ザックさま、ダメですよっ」
その時、ハイウルフがグォーンと咆哮し、その咆哮にキ素力を混ぜてこちらに向け放った。
「うっ」「おっ」「やっ」
魔獣の強いキ素力を真正面からいきなりぶつけられ、皆の身体が一瞬竦む。
それを感知しながら、俺は瞬時に全身でキ素力の闘気を高め、俊速で走り出すと同時にダマスカス鋼のショートソードに思いっきりキ素力を込める。
続けて、縮地でハイウルフの頭部の横の間合いに移動し、同時に剣を上から振るった。
ドッコーン!
あれ、変な音がしたよ。斬り裂くとかの音じゃないよね。
ハイウルフが身に纏う魔獣のキ素力と、俺が剣に込めたキ素力がぶつかり、ハイウルフのものを斬り破って同時に首を断った時に出た衝撃音だった。
なんだか閃光も出たよね。キ素力爆発とか?
地面には、一刀で断たれたハイウルフの首が転がり落ちていた。
そして、少し遅れて、その大きな身体が崩れるように倒れる。
それを見て、みんなが慌てて駆け寄って来た。
「ひっ、首ちょんぱ」
「やっちまいやしたな」
「凄いです」
「なんですか、これ」
「ザックさま、お説教ですよぅ」
ニックさんは3年前のことを思い出したのか、なんだか変なことを言ってる。
あと、エステルちゃん、やっぱりお説教ですよねー。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
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この「時空渡りクロニクル」の外伝となる短編「時空渡りクロニクル外伝(1)〜定めは斬れないとしても、俺は斬る」を投稿しています。
ザックがザックになる前の1回目の過去転生のとき。その少年時代のひとコマを題材にしています。
こちらの連載とは別になりますが、よろしかったらお読みいただければ。
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