第79話 ベースキャンプに到着、おまけに臨時パーティ名も付けた
午後の行程は特に問題なく順調にこなせた。
この3年ほど冒険者が入っていないルートであることから、午前よりもペースを落とし慎重に進む。
上空のクロウちゃんからも特にアラートはなく、ときどき消えて進路周辺を単独で探索し戻るブルーノさんからも特段の異常報告はない。
大森林は思っていた以上に静かだった。
「ねえブルーノさん。大森林って、いつもこんなに静かなんですか?」
「そうでやすなぁ。この辺りまで来ると、もう少し魔獣や魔物がいてもいい筈なんでやすがね」
「静かすぎる感じ?」
「普通の獣とか動物はいるので、静かすぎるってほどではないんでやすけど」
ブルーストームのエルフ女性冒険者のアウニさんも、ルートを進むパーティからときどき離れて木々の間に入り、森の採取資源の確認を行っていた。
彼女が進路から離れる場合は、必ず大盾を担いだ大男のラインマーさんが従う。
何かあった場合に備えてのふたりひと組みでの行動だが、アウニさんが手の届かない場所のものもラインマーさんなら届くから便利そうだね。
「採取資源の具合はどうですか?」
最後の休息ポイントで、採取のプロでもあるアウニさんに聞いてみた。
「薬品材料になる薬草や稀少な植物、生育良好です」
「それは、しばらく冒険者さんたちが入ってないからとか?」
「はい、そうです。たぶん」
「この辺での採取が再開できたら、冒険者さんたちも喜びますよね」
「はい、そうです。たぶん」
「鍊金術ギルドも喜びますね」
「はい、そうです。たぶん」
冒険者ギルド職員のエルミさんも同じエルフ女性で、必要最小限のことしか言わないが、アウニさんも言葉少なだ。
エルフさんてみんなそうなのかな?
同じ精霊族でもファータのエステルちゃんは、やたら喋るけどなぁ。
時刻はたぶん午後4時ぐらいだろうか、ようやく目的地のベースキャンプ予定地に到着した。
朝7時に騎士団本部を出発してから9時間。長いようであっという間の道程だった。
ベースキャンプ地は、騎士団の第1地点ほどではないが、かなり開けた空間になっていた。
「よし、目的地に到着だ。みんな、お疲れさま。今日はベースキャンプを設営して、今夜と明日に備えるぞ」
クリストフェルさんが全員に声を掛ける。
さすがベテランの冒険者たちで、それほど疲れている様子もない。うちの騎士団メンバーも元気だ。
「ザックさま、お疲れではないですか?」
「うん、ぜんぜん平気だよ。エステルちゃんは大丈夫?」
「わたしは5歳から、いつも里近くの森で1日中走り回って訓練をしてましたから」
俺も前世では子ども時代、都から朽木谷とかに逃れていると、毎日山中を走り回っていた。
肉体はあの時と違うものだけど、魂の記憶や感覚は残っていて、なんだか今から大森林の中を走りに行っても大丈夫そうだ。
「ザカリー様、テントを設営しますが、この辺でいいですか?」
「うん、いいんじゃない。みんなでやろう」
「はい」
騎士団護衛組3人とエステルちゃんと俺で、これから4泊するためのテントを設営する。
テント道具一式は騎士団のもので、長期野営にも耐えられるようしっかりとした作りだ。
テントはふたつ。女子3人用とブルーノさんと俺の男子用です。
ふたつとも4、5人が収容できる騎士団仕様テントだね。これを3人でよく担いで来たよ。
「ザカリー様、自分と一緒で申し訳ないでやすな。本来は子爵様用とか騎士団長用のテントを持って来るべきでやすが、なにせ荷運びがいないので」
「ブルーノさん、なにも問題ないよ。というか充分大きいよね」
野営に慣れている騎士団護衛組が、周囲の樹木を伐採して骨組みに利用しながら、あっと言う間に設営を終える。
エステルちゃんも本業が探索者なので、こういった野営準備にも慣れている。
俺は前世の29年間は、戦で使うテントなどない場所にいたので、ホント前々世振りだよ。
冒険者たちもそれぞれ野営の準備が出来たところで、全員でこれからの予定の確認だ。
リーダーのクリストフェルさんとニックさんが中心になり、テキパキと確認を行っていく。
「まず夜間の見張りだが、21時から朝6時まで、3人組で3時間ずつ4交替だ。うちのパーティが機械時計と砂時計を持って来たから、これで時間を管理してくれ」
この世界は1日27時間なので、日中も長いが夜も長い。
今は夜明けが6時半過ぎだが、この世界の人は日が昇る前にだいたい起きる。
時計は近頃、小型の機械時計が出始めた。ただし秒単位の表示はないよ。
かなり高価なものらしいが、流石にトップ冒険者パーティのブルーストームだ。
「それで申し訳ないが、騎士団メンバーからもふたり、見張り要員を出して貰えないかな。どうですかザカリー様」
「それはもちろんです。というか、僕も見張り要員に」
「ザカリー様は大丈夫です」
即否定されました。俺も見張りをやりたいんだけどなー。
「それから食事の用意だが、今回は合同チームなので、これも合同で行いたい。メラニーとマリカで段取りとかを決めてくれないか」
「わかったわ」
「了解だよ」
「あと水場だが、このベースキャンプの少し先に、たしか湧き水から流れる小川があった筈だ。そうだよな、ブルーノ」
「へい。先ほど自分が確認しておきやしたから、ふたりほど出して貰えれば案内しやすよ」
「助かる。それじゃメラニーとマリカとドナをこの後、連れて行ってくれ」
「明日の予定だ。朝食後、8時に探索に出発する。ギルド長からは3日間で3方向との指示だが、ここらの様子がまだはっきりしないので、午前と午後の2回に分けて、万一に備え冒険者全員でまず周辺を探索したい」
「冒険者全員で午前中探索して昼に戻り、また全員で午後探索に出る、ってことだな」
「そうだ」
「僕も探索に」
「とりあえずザカリー様は大丈夫です。ベースキャンプを守ってください」
即否定されました。俺も探索に出たいんだけどなー。
これはなんとかしよう。
そのほか、野営に必要な決めごとの確認を終えてミーティングは終了した。
あとは夕食の用意だけで、今日は明日からに備え身体を休めるだけだね。
さてこの探索での俺の行動は、じつはノープランなのだ。
夕食を済ませた後、騎士団護衛組に集まって貰った。5人と1羽でミーティングだね。
「これからミーティングを始めます」
「はーい」
「テーマは、今夜と明日からの僕たちの行動計画です」
「はーい」
「夜間の見張り要員は、私たち騎士団の3人と探索のプロのエステルさんの4人で、交替で出ます」
「ジェルさん、僕は?」
「ザカリー様は大丈夫です」
「ザカリー様が勝手に起きてるのは、誰も止められやせんぜ」
「おー、なるほど」
「それでは、明日の探索だけど」
「その前に、私たちのパーティ名を決めませんか? 今回だけですけどー」
「ライナさん、それいいですぅ」
「でしょ。それで私がもう考えておきましたー」
「え、そうなの? なんて名前?」
「はい、真っ黒装備のザカリー様のパーティですからぁ……レイヴン、です」
「カァ」
レイヴン(大鴉)か。出発集合時に俺を見て誰かが言っていたな。
クロウちゃんも賛成してるし、まぁいいんじゃない。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
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この「時空渡りクロニクル」の外伝となる短編「時空渡りクロニクル外伝(1)〜定めは斬れないとしても、俺は斬る」を投稿しています。
ザックがザックになる前の1回目の過去転生のとき。その少年時代のひとコマを題材にしています。
こちらの連載とは別になりますが、よろしかったらお読みいただければ。
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