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第78話 大森林探索がハイキング気分じゃだめだよね

 休憩ポイントで、少々長めの休憩を取る。

 先ほど4体のゴブリンと遭遇して倒した直後なので、クリストフェルさんとニックさんのパーティリーダーふたりにブルーノさんを交えて、この後の行動について相談するそうだ。



 俺たちが休憩しているところに、冒険者のお姉さんたち5人がまたやって来た。

 昼食を摂る予定の次の休憩ポイントまでは、あと1時間半ほどだそうなので、それではお菓子でも振る舞いましょうかね。


 エステルちゃんもかなりの量のお菓子を持って来ている筈だが、俺には無限インベントリがあるからエステルちゃんが運べる量の比じゃないよ。

 屋敷のアシスタントコックのトビーくんにお願いして、かなりの量を用意して貰った。


「ザカリー様は、そんなに大量に持って行って、大森林の中でお菓子屋でもやるんすか」

 そんな訳ないでしょ。

 今回の探索チームでは、うちの護衛チームと合わせて半数以上が女性になるのが分かったからね。まあ差し入れ用ですよ、きみ。



「はい、これをみんなで食べてね」

 こっそりインベントリから出しておいた、トビーくん作製のマドレーヌ風とフィナンシェ風の焼き菓子を広げる。


「きゃー、これ高級焼き菓子じゃないですかー。でも高いんじゃ」

「ザカリー様、いいのかい。それにしても美味しそう」

「いいよいいよ、食べないと悪くなっちゃうから、たくさん食べてねー」

 トビーくんのケツを叩いて焼かせたから、美味しいけどタダなんだよー。


「大森林の中で、こんな美味しいお菓子を食べるなんて、初めてだわぁ」

「エステルさんとか、いつも食べてるの?」

「侍女はそんなには食べられませんが、ザックさまといるとこんな感じですぅ」

「カァカァ」



 ふと視線を感じてその方向を見ると、リーダーたちの相談に参加していない剣士2名と大盾使い1名が、こちらをじっと見ている。


「あの人たちにも、このお菓子を持って行ってあげてください」

「いいのいいの、あいつらに食べさせても勿体ないからさ」

「そうよ、あいつらは干し肉でも食べてればいいの」


 うーん、可哀想だから。でかいガタイで子犬のような目で見てるし。

「エステルちゃん」

「はーい」


 俺は背嚢はいのうから出す振りをして、みんなに見えないようにインベントリから追加の焼き菓子を出す。

 俺の無限インベントリを唯一知っているエステルちゃんが心得たように受取って、彼らと、それからまだ相談しているリーダーたちに持って行った。

 向うでは「姉御、すみません」とか言う声が聞こえるけど、無視しよう。



 リーダーたちとブルーノさんの相談は、倒したゴブリンのほかに群れがいないか時間をかけて探索をするか、それともこのまま進むかについてだった。


「ザカリー様。ゴブリンについてなんだが、通常は近くに群れがいないか探索するのが俺たちの常なんだが、今回はこのまま目的地まで急ぐことにした」

 クリストフェルさんたちが相談結果を報告にやって来た。


「わかりました。それで大丈夫ですか?」

「あぁ、今日はベースキャンプ予定地まで行って確保するのが優先だ。あの程度のゴブリンなら、まぁ大丈夫だろ。ブルーノがときどき周辺を探索してくれるって言うし。それにザカリー様のカラス」「カァ」「あ、……クロウちゃんが空から見てくれるそうじゃないか」

「クリス。クロウちゃんをちゃんと名前で呼ばないと怒られるぜ」

「そ、そうだなニック。すまねぇ」



 ということで、次の休憩ポイントを目指して進みます。

 その後の道程は特に何ごともなく順調だった。


 俺たちを中心に、半径500メートルぐらいの範囲でクロウちゃんを上空に回遊させながら飛ばしているが、ゴブリンの群れはもちろんほかの魔獣や魔物を発見していない。

 ときどき森オオカミが数頭走って行ったり、ファングボアが何頭かエサを食べているのか固まっているのを感知したが、どれも魔獣は一緒におらず通常の獣のみだ。

 どの獣たちもこちらに近づいて来る様子はなかったので、そのまま放っておく。


 ブルーノさんは、ルートから外れて木々の中に消え、しばらくしてまた戻って来るという行動を繰返していた。

 このように単独で森に入って偵察行動を行い、まるでずっと一緒に歩いていたように気がつくと戻っているといったことができるのは、たぶんブルーノさんだけなんだろうね。

 彼が抜けた後にブルーストームに加わったドナテーラさんや同じ偵察職のマリカさんは、「あの人みたいなことができるのは、滅多にいないわよ」と言っていた。



 そうこうしているうちに、ようやく昼食を摂る予定の休憩ポイントに到着した。

 ここには、自然に地下水が湧き出ている場所があって、貴重な給水場所でもあるそうだ。

 ちょっと地下を探査してみたけど、なるほど地下水脈がかなり地表近くまで来ていて、水を押し上げているようだね。


 それにしても、この大森林の地下には縦横に地下水脈が走っていて、水資源に富んでいることが良くわかる。

 大気中や地中のキ素量も多いが、この地下水脈の影響もあって真冬でもそれほど気温が下がらないのかも知れない。



 さてこの休憩ポイントだが、現状、日帰りのみに規制している冒険者の活動では、ここが最終到達地点とされている。

 冒険者ギルドからアラストル大森林に入る許可を受けた冒険者たちは、基本的にこの休憩ポイントを目指し、行き帰りの行程で目的の採取活動や狩りを行っている。

 だが俺たちにとっては半分の行程なので、ここで昼食を摂って更に奥を目指すことになる。


 ということでお昼ですよ。

 俺とエステルちゃんとクロウちゃんのお昼ご飯は、あの秋の果実収穫作業でもお馴染みの、屋敷の料理長レジナルドさん謹製のサンドイッチ、ザック大森林探索行き特製版だよ。

 はいはい、ジェルさんとライナさん、羨ましそうな顔をしない。

 じつは貴女あなたたちの分もあるのです。


「いいのか、ザカリー様」

「きゃぁー、やったー」


 いいのかって、ダメだって言ったら剣を抜きかねないじゃないですか、ジェルさん。

 はい、ブルーノさんのもありますよ。

 でも日持ちの関係で、今日だけですよ。俺のインベントリに入れとけば、いくらでも持つんだけどね。

 あと、あっちの方から冒険者の姉さんたちがこちらを伺っているけど、さすがにすみません。数がなくて。



 やはり料理長のサンドイッチは、美味しくてボリュームもあって絶品だよね。

 食べ終わって大満足で休んでいると、エステルちゃんが俺の耳元でコソコソ囁く。


「あのあの、ザックさま、ザックさま」

 ん? なに?

「あの、大森林の中を歩いてると暑いですよね」

 うん、もう10月だけど大森林の中は空気がむっとした感じで、なんとなく暑いよね。

「あのあの、前にもいただいた、トビーさんが作った冷たいソルベートって、ザックさま、まだ収納してありますよね?」


 ソルベートは港町アプサラの名物で、つまり果実のシャーベットだ。

 トビーくんが製法を教えて貰って来て、日夜研究をしている。

 それはまずいでしょ、エステルちゃん。

 あれ出したら、大変なことになりますよ。この護衛娘たちやあのお姉さんたちが。


「やっぱり、だめですよねぇ……」

 ダメです。カァ。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。


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エステルちゃんが主人公の短編「時空渡りクロニクル余話 〜エステルちゃんの冒険①境界の洞穴のドラゴン」を投稿しました。

彼女が隠れ里にいた、少女の時代の物語です。


ザックがザックになる前の1回目の過去転生のとき。その少年時代のひとコマを題材にした短編「時空渡りクロニクル外伝(1)〜定めは斬れないとしても、俺は斬る」もぜひお読みいただければ。


それぞれのリンクはこの下段にあります。

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