第77話 早速、ゴブリンと遭遇
小休止を終えて出発する。
ここからはいくつかのルートがあるそうだが、今回は冒険者がこれまで活動して来た領域へと向かうルートを行き、冒険者ルートとの合流地点からベースキャンプを予定している活動最奥部へと向かう。
方向としては東南東に向かう感じだね。
出発前にクリストフェルさんとニックさんがブルーノさんを交えて相談し、この先は冒険者パーティの斥候職ふたりが前に出て先導することになった。
とは言っても冒険者パーティの場合は、斥候が他のメンバーと大きく離れることはないそうだ。
5人のパーティでひとりと4人に分かれるのは、このように踏破済みのルートを進む場合は特に意味がないからね。
今回は合同チームなので、ブルーストーム、俺たち、サンダーソードの隊列順のまま、サンダーソードの斥候職のマリカさんが先頭に出て、ドナテーラさんとともに先導する。
先ほどまで先導していたブルーノさんが、俺たちのもとに合流した。
俺たちも、騎士団メンバー3人とエステルちゃんと俺で、ちょうど5人のパーティだよね。
クロウちゃんは再び上空を飛んでいる。
「あとどのくらいで、冒険者ルートに合流するの?」
「そうでやすな、ここから20分ほどでやすかな。そこから更に1時間ちょいほど進むと、冒険者が使う休憩ポイントのひとつに着きやす」
騎士団の第1地点が、大森林の入口から3キロメートルほど。
冒険者が使うというその休憩ポイントは、入口から7、8キロメートルほど奥といったところだろうか。
「クロウちゃんはお空で? 索敵でやすか?」
「索敵というか、様子見かな。まだ周辺には魔獣とか魔物はいないみたいだし」
「そうですか。クロウちゃんがいると助かりやすね」
ブルーノさんは、あの港町アプサラの一件で、クロウちゃんが北方帝国の船乗りに追われる竜人の双子を発見したのを知っている。
それがなんで俺にすぐ伝わったのかは、不思議がっていたけどね。
あの帰り道、エステルちゃんにそれとなく聞いていたけど、「ザックさまですから」「なるほどでやすな」で終わってた。
やがてルートの合流地点に着き、そのまま今度は冒険者ルートを進む。
俺は歩きながらブルーノさんに、こういう深い森での斥候のやり方の話を聞いていた。
「冒険者と騎士団じゃ、斥候の仕方は違うものなの?」
「はい、冒険者パーティの場合は、斥候の専門職がいても大抵はひとりだけ。でやすが、現在の騎士小隊では、騎士、従騎士、従士の全員が3人ほどの組になって、順番に交替して斥候、騎士団の場合には偵察でやすが、これを行いやすよ」
「なるほどね。つまり騎士小隊のみんなが、偵察活動ができるようにするって訳だね」
「それで索敵が必要な場合には、3人の偵察隊を3組作って、小隊から多少距離を取ってでも索敵行動を行うこともありやす。この場合、小隊との距離の取り方が重要になりやすがね」
うちの子爵領騎士小隊は、騎士4名、従騎士2名、従士12名の18名編成だから、積極的な索敵行動を行う場合には半数を偵察に回す訳だ。
それから冒険者ルートを1時間弱ほど進んで、あと少しで冒険者の休憩ポイントという頃だろうか、ブルーノさんが近寄って来た。
「ザカリー様。クロウちゃんからも報せが来るかもですが、ちょっと魔物がいそうな感じがしてきやしたんで、自分ひとりでルートを外れて先行したいんでやすが、いいですか?」
まさに直前、上空のクロウちゃんから、なんかいるよアラートが伝わって来ていたところだ。
「いいですよ。お願いします」
「へい、わかりやした」
そう返事をすると、ブルーノさんはルートから外れて木々の間にさっと入り、あっという間にいなくなった。
「この先に、なんかいそうですか?」
「そうみたいだね」
エステルちゃんが身を寄せて聞いてくる。
後ろにいたジェルメールさんが俺のすぐ前に回り、ライナさんも後ろで俺との間隔を縮めた。
俺は探査・空間検知・空間把握を、前方向に扇型に広げるように発動し直す。
あ、いるね。まだ遠いが、なんだか小型の生き物が4体ほど、こちらの方向に向かって移動している。
四つ足じゃなくて、直立した二足歩行だぞ。
クロウちゃんをそちらに向けて飛ばし、視覚を同期させる。
えーと、おっ、いたいた。
あれって、ゴブリンってやつかな。がに股でひょこひょこ歩く、今の俺と同じくらいの背丈に見える人型の魔物だ。
汚そうな装備を身につけて、いちおう棍棒とか無骨な剣とかの武器を持っている。
よしクロウちゃん。そのまま、そいつらを上空から注視しながら待機移動して。
あと数分で遭遇という距離で、ブルーノさんが帰って来た。
「いやした、ザカリー様。ゴブリン4体。このまま進むと、休憩ポイント近くで遭遇しやす」
「わかりました。前の冒険者さんたちには?」
「斥候で先導するマリカとドナテーラに伝えてあります」
「このまま進みますよね?」
「あの程度のゴブリンは、このメンバーなら何の問題もありやせんから。それじゃ自分は後ろのニックに話してきやす」
そう言ってブルーノさんは、後ろを進むニックさんたちに伝えに行った。
すぐにサンダーソードの3人の剣士が、「ちょいと倒して来ますよ、ザカリー様」と俺たちを追い越して前に進み、魔法職のセルマさんだけ俺たちと合流する。
俺たちも歩を多少早めて、前を行くブルーストームとの間を縮める。
少しだけ開けた場所に出た。ここが冒険者が使う休憩ポイントだろう。
「休憩ポイントを汚したくないから、前に進んで倒すぞ」
そうクリストフェルさんが指示を出すと、ニックさんたちを加えた男性の戦闘職5人が前に走る。
エルフ女性のアウニさんが、背負っていた弓を手にして支援に後を追う。
ジェルメールさんも剣を手に一瞬走り出そうとしたが、思い留まって俺の前を進む。
ジェルさんは、わが子爵領脳筋騎士団の一員だからね。
斥候職のふたりが、遠くから接近して来るゴブリンを伺いながら待機する場所に着いた。
おっ、来たね。向うもこちらに気がついたのか、ギャゴギャゴ喚いている。
男性の戦闘職5人は一斉に散会して、ゴブリン4体を囲みに走る。
アウニさんが前に出て、弓を射る。
シュルルルっと飛んだ矢は、森の木々の間をすり抜け、先頭で喚いているゴブリンの顔面を射抜いた。見事な腕だ。
それを合図に、木々の間から飛び出した戦闘職5人が3体のゴブリンに襲いかかり、あっと言う間に倒してしまった。
大盾使いのラインマーさんと、細剣使い剣士のエスピノさんは、特にすることがなかったみたいだけど。
「済んだから休憩にしようぜ」
クリストフェルさんが、朗らかに声を掛ける。
冒険者さんたちが強いのか、ゴブリンが弱いのか。まぁどちらにしろ、頼もしいチームだよね。
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エステルちゃんが主人公の短編「時空渡りクロニクル余話 〜エステルちゃんの冒険①境界の洞穴のドラゴン」を投稿しました。
彼女が隠れ里にいた、少女の時代の物語です。
ザックがザックになる前の1回目の過去転生のとき。その少年時代のひとコマを題材にした短編「時空渡りクロニクル外伝(1)〜定めは斬れないとしても、俺は斬る」もぜひお読みいただければ。
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