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第76話 アラストル大森林探索に出発だ

 いよいよ、アラストル大森林探索に行く朝となった。


 集合場所は騎士団本部で、屋敷の北隣にある。

 ふだんの剣術稽古の時などは、北側ウィングの通用口を通って屋敷を出ればすぐ目の前なのだが、今朝は玄関ホールに屋敷の全員が揃っていた。


「よし、もう何度も言ったので、今朝はくどくどは言わない。とにかく俺の名代としてしっかり責任を果たし、無事に帰って来い」

「あなたたち、大森林で何があったとしても、ちゃんとふたりで帰って来なさい。それがあなたたちの今回の成果ですからね」

「ザック、ぜったい無茶なことしないんだよ。エステルちゃん、ザックをお願い」


 ヴィンス父さん、アン母さん、アビー姉ちゃんが、それぞれ俺たちに声を掛けた。


「わかった、大丈夫。無事に帰って来るよ。父さんも母さんも姉ちゃんも、それから屋敷のみんなも、安心していてね。それじゃ、行ってきます」

「わたしにお任せください。ザックさまは何があっても護ります。行ってきます」

「カァ、カァ」



 今回の俺の探索行きは子爵名代ということで、玄関ホールから屋敷の正面玄関を出て出立する。

 玄関前には、護衛として同行する従騎士のジェルメールさん、従士のライノさん、そしてブルーノさんが俺たちを待っていた。


「みなさん、今日から5日間、よろしくお願いします」

「ザックを頼むぞ。君たちも安全には充分に注意して、この5人、と1羽か。全員が揃って戻って来るんだ。お願いする」

「はいっ」


 こうして俺とエステルちゃんと、それから式神カラスのクロウちゃんは屋敷を出て、騎士団本部へと向かった。

 ちなみに、持って行く野営用備品、食料や水などの消耗品は騎士団本部で用意している。

 俺はウォルターさんに揃えて貰った新しい軽装鎧に身を包み、腰には父さんから受け継いだダマスカス鋼のショートソードを下げている。

 新しい鎧装備はブーツまですべて黒く、この剣の鞘も黒いので、まさに全身が真っ黒な装備となった。

 いつものように頭の上に乗っているクロウちゃんも当然黒いから、文字通り頭の上から爪先までだよね。


 エステルちゃんも装備が新品になっていた。

 上半身が革鎧で、下半身はぴったりしたスポーツレギンス風にブーツという姿は、いつものファータ人女性探索者特有の戦闘装備なのだが、全身がすべて緑がかった暗黒色になっている。


 これは今回の大森林探索に合わせて、ファータの里から新品の全身装備が送られて来たのだそうだ。

 防御性を強化しつつ、森の中に姿を溶け込ませて活動しやすい装備になっていると言う。

 きっと革鎧の中とか、いろんなとこに暗器などの小型武器が仕込まれてるんだろうな。

 大森林へは、暗殺に行くんじゃないからね。



 騎士団本部玄関ホールにはすでに、冒険者の探索チーム10名と冒険者ギルド長のジェラードさん、それからエルミさんも揃っていた。


「全身真っ黒だぜ」

「まるで黒いレイヴン(大鴉)だぞ」

「エステルさんもヤバい黒さだ」


 冒険者たちからそんな声が漏れる。レイヴンか、なるほどね。

 確かに俺とエステルちゃんが並ぶと、色合いとしてヤバいかも。


 それから、騎士団長のクレイグさんの訓示があって、ジェラードさんからもひと声あり、いよいよ出発となった。

 騎士団メンバーは騎士団制式の大きな背嚢はいのうを背負い、冒険者もそれぞれに大型の荷物を背負っている。


 俺とエステルちゃんも、身の回り品などを入れた小振りの背嚢はいのうだよ。

 エステルちゃんの背嚢はいのうの中身はたぶん、身の回り品のほかは革鎧内に収納し切れない予備の武器や薬品とお菓子だと思う。

「武器とお菓子はたくさん持って行きますよ」と言ってたし。

 俺は、お菓子はもちろん、ほとんどは無限インベントリの中に収納してきたけどね。



 騎士団本部と屋敷との間の道を通り、領主館の敷地の裏門を出て、程なく領都城壁の東門に着く。

 東門ではエンシオ騎士とメルヴィン騎士以下の騎士小隊が、見送りに出ていてくれた。

 ジェルメールさんたち護衛メンバーは、この騎士小隊の所属だ。


 彼らに見送られ、冒険者探索チームと俺たちの計15名はアラストル大森林へと入る。

 俺とエステルちゃんにとっては、3年振りの大森林。

 あの時のように、俺の頭の上からクロウちゃんが森の上空へと飛び上がる。


 今日の行程では、クロウちゃんは基本的に空を飛んで、地上の俺と感覚を連携させながら進むことにしている。

 すぐに木々が深くなり、上空からは地上が見えにくくなるが、感覚が繋がっているのでお互いに見失うことはない。


 それと同時に、これも久しぶりに俺の転生特典の固有能力である探査・空間検知・空間把握を発動させる。

 つまり、地上と上空からレーダー探知をしながら進むような感じだね。

 もっとも初めは、3年前の特別訓練でも行った、騎士団が休憩に使用する第1地点までの道程だから、ほとんど必要ないんだけどね。



 騎士団が使用するルートということで、第1地点まではブルーノさんが先導して、クリストフェルさんたちブルーストームのパーティが続き、次に俺とエステルちゃんと護衛のふたり、その後ろにニックさんたちサンダーソードのパーティという隊列で進む。

 3年前の出来事を憶い出しながら、順調に道程を消化して行った。


 大森林に入って40分もかからなかっただろうか、やがて森の中にぽっかりと空間が広がる第1地点に到着した。

 森に慣れた人たちばかりだから、騎士見習いの子たちと来た時より早いよね。


「ここが騎士団の第1地点か。なかなか広いんだな。よし、ここで小休止だ」


 クリストフェルさんの声で、全員が思い思いに休息する。

 上空からクロウちゃんが、ばさばさとゆっくり下りて来た。



「カァ、カァ」

「そうなんだ、良かった」

「クロウちゃんは、どのくらい遠くまで見えるんですか?」

「カァ、カァカァ」

「へー、凄いんですね」


 どうやら、この第1地点の周辺には取り立てて魔獣や魔物はいないようだ。

 エステルちゃんの問いに、すっごく遠くまで見えるよ、とかなんとか適当にクロウちゃんが答えている。

 というか、最近はそんな会話までできるようになってるんだね、キミたちは。なんで?


 すると、俺たちに以前から慣れているマリカさんやセルマさん、それにメラニーさんとドナテーラさん、アウニさんの冒険者女性組5人が、俺たちが休んでいるところに来た。

 ジェルメールさんとライナさんもいるから、お姉さんたち大集合だよ。カァカァ。



「ザカリー様は、まぁ分かるけど、エステルさんもクロウちゃんと喋れるのかい?」

「えと、正確かどうかは分からないんですけど、頭の中に言ってる意味が伝わってくる感じですかね」

「ホント? へぇー、凄いわね」

 みんな半信半疑だよね。


「カァ」

「え、今クロウちゃんはなんて言ったの?」

「お菓子が食べたいって。ダメですよ、まだ出発したばかりですから」

「カァ、カァ」

「それ、今言いますか? 仕方ないから少しです」


 エステルちゃんはそう言って、背嚢はいのうから少しだけお菓子とお水を出していた。

 以前にしてた、将来の俺の愛人になるとかなんとかの話を、お菓子くれないとみんなにバラす、などという会話なんだけど。

 お姉さんたちはその様子をぽかーんと見ていた。


 まぁこんな感じで順調な滑り出しです。まだ、ごくごく浅い場所だからね。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。


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エステルちゃんが主人公の短編「時空渡りクロニクル余話 〜エステルちゃんの冒険①境界の洞穴のドラゴン」を投稿しました。

彼女が隠れ里にいた、少女の時代の物語です。


ザックがザックになる前の1回目の過去転生のとき。その少年時代のひとコマを題材にした短編「時空渡りクロニクル外伝(1)〜定めは斬れないとしても、俺は斬る」もぜひお読みいただければ。


それぞれのリンクはこの下段にあります。

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