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第777話 まずは王都屋敷の大掃除

 2月18日にグリフィニアを出立し、20日の午後に無事に王都屋敷に到着した。


 旅程の1日目に、いつものように立ち寄って1泊したジルベール・ブライアント男爵お爺ちゃんのところでは、俺が新たに設置した調査外交局の長官に就任したことを報告した。

 うちの父さんからお爺ちゃん宛の手紙を預かっていて、それにも書かれていたようだが、ユリアナお母さんがファータの里から戻っていたので、お爺ちゃんは彼女から既に聞いていたようだ。


 もちろんソフィちゃんのことも、お爺ちゃんとお婆ちゃんには話して良いとユリアナさんには言っておいたので、おおよそは知っていたのだけど、あらためて俺から話を聞きたがった。


「話はよおくわかった。良くやった。それでこそザックじゃ」


 作戦行動の詳細については、話せないことが多かったのでかなり曖昧にしたのだけど、「こういうものには、秘匿すべきことがあるのは当たり前じゃ」と、お爺ちゃんは深く追求することはなかった。

 そこはやはり、かつて多くの闘いを経験して来た北辺の勇猛な男爵だよね。


「ザックは、わしらが想像もつかんことが出来るのじゃろう。戦闘ならば、おまえたちに敵う相手などおらんだろうと、わしは思う。じゃがなザック。外交の基本は闘いじゃが、平時であるが故にザックたちの力をもってしても、どうしようもならん状況に直面する可能性も出て来よる。人間相手には駆け引きや説得や策略も必要じゃし、味方を作るのも重要じゃ。そこら辺のことは、おまえなら分かっておろうがな」

「はい。あらためて肝に命じます」




 王都屋敷に着くと、荷物を降ろし、馬たちと馬車を厩舎と馬車庫に収納し、ひと休みしてから大掃除となった。

 今回は全員がグリフィニアに行っていて2ヶ月間屋敷が無人だったので、エステルちゃんの陣頭指揮のもとで隅々まで掃除を行う。


 グリフィニアの子爵館ほどの広さは無いにしても、敷地面積は2.5ヘクタールほどもある。

 建物も屋敷をはじめとして、騎士団王都分室の本部、宿舎や倉庫、馬車庫、厩舎、門番小屋とかなりある。

 王都屋敷メンバーは、俺を含めて現在は15名。総出で取り掛かってもなかなかに大変で、敷地内をいっぺんに終わらせるのはとても無理ですな。


「えーと、僕は? エディットちゃん」

「ザックさまは、ご自分のお部屋をお片づけしてください。あとは、そうですねえ。2階のお部屋のお掃除を、お願いしましょうか」


「わたしが、一緒にしますよ」

「カリ姉さん、お願いします。余計なことしないように、見張っていてくださいな」


 余計なことなぞしませんぞ。掃除をするだけであります。


「1階の執務室もですよ。あと、わたしのお部屋はいいですからね、ザックさま。」と、このやりとりが聞こえたのか、エステルちゃんの声がした。

 はいです。分かっておりますです。


「シルフェさまとシフォニナさんとアル師匠のお部屋。それからソフィちゃんが使っているお部屋は、わたしがお掃除しますから、ザックさまは空いているほかのお部屋の埃を払ってください」

「はいであります」


 クロウちゃんは残念ながら掃除や片付けには役に立たないので、グスマン伯爵家の王都屋敷の様子を見に行くと言って飛んで行った。



 シルフェ様とシフォニナさんの部屋は、少しだけ覗いたことがあるぐらいだけど、王都でこれまでに購入したわりと可愛らしい小物なんかが、結構たくさん置いてあるんだよね。

 あの人たちは俺が部屋に入ってもぜんぜん気にしないが、やはり女性の部屋だからな。


 あと、ソフィちゃんがうちに来たときに使っていた部屋は、そのままにしてある。

 それほど物を置いてはいない筈だけど、着替えなんぞがあったりしそうだからね。

 アルさんの部屋は、まあカリちゃんに任せましょう。


 俺は粛々と使っていない部屋の埃を払い、掃除をいたしました。

 おっと、自分の部屋も片付けと掃除しないとですな。

 2階を終えたら、1階にある父さんが王都に来たときに使用するための執務室だ。


 王都屋敷での俺の仕事用の部屋は、当面は内部にベッドルームとリビングの2部屋がある俺の自室で良いかと思ったのだが、父さんがあの部屋を使えと言ってくれたのだ。

 普段はエディットちゃんたちが掃除をするだけで、俺もほとんど入ったことがないんだよね。

 それでカリちゃんとその部屋に行くと、エステルちゃんもやって来た。



 グリフィニアの屋敷だと、領主執務室と領主夫人執務室が隣り合わせにあって、中で繋がっている。

 あそこは内々の会議も出来るようになっていて、かなり広いんだよね。


 一方で王都屋敷には領主夫人執務室は無くて、母さん用のデスクもこの執務室の中に置いてある。

 あとは応接セットや予備の椅子、書棚や収納家具などがあり、グリフィニアの領主執務室ほどではないが、それなりに面積を取っている。


 それで、この部屋の父さんと母さんのデスクを、俺とエステルちゃんとで使いなさいということになった訳だ。


「前に父さんたちが来たときもほとんど使ってない筈だから、すっきりしたものですな」

「あのとき、お父さまとお母さまは、毎日学院祭に行ってましたものね」


 父さんたちがこの王都屋敷に来たのは俺が1年生のときなので、もう2年半も前のことだ。

 それ以前だともっと前なので、この部屋はほとんど誰も使っていなかった。

 でも掃除は欠かしていなかったので、奇麗なものだよね。


「カリちゃんのデスクも入れましょうかね」

「えー、いらないですよ、エステルさま。わたしはここで充分です」


 カリちゃんはそう言って、応接セットのソファにぼよんとお尻を落とした。

 グリフィニアの長官室でもそうしていたので、彼女的にはそれで良いのだろうね。

 だいたい、ドラゴンがデスクに着いて事務仕事とかをするのは想像が出来ない。


「そうねぇ。でもこれからのこともあるから、デスクを2セットぐらい入れておきましょう」


 これからのことって、カリちゃんを人間社会でどういう扱いにしておくかってことかな。

 いまはいちおう侍女になって貰っているけど、今年からは本人が言うところでは俺の秘書らしいし。

 そういうこともエステルちゃんは、シルフェ様や母さんとかと相談していたのだろうか。




 翌日の午前には、ジェルさんの指示でオネルさんとユディちゃんが王宮へと向かった。

 王宮内務部への訪問と内務部長官のアポ取りのためと、あとは王太子宛に訪問したい旨を書いた俺の手紙を届けるためだ。


 出来れば同じ日に両方へ訪問が出来たら良いのだが、先方の都合もある。

 そういう調整も含めて、今回はオネルさんにユディちゃんを付けて行って貰った訳ですな。


 ブルーノさんとティモさんは早速に、グスマン伯爵家の動向を探りに出ている。

 今日はどうやら、手始めにファータの繋ぎ宿に行ったみたいだ。

 そこにはブルーノさんも訪れたことが無いが、昨年秋に地下拠点でのファータ集会で繋ぎ宿の主人とは顔を会わせているので、場所の確認と何か情報が入っていないかを聞くためだね。


 昨日にグスマン伯爵家王都屋敷の様子を見に行ったクロウちゃんからは、屋敷に人影が無かったという報告を聞いた。

 本来ならソフィちゃんが王都に到着して、ドミニクさんをはじめ警備と護衛の騎士団員、侍女さんや馬車の御者さんらが揃っているのだが、もちろん今回はその誰も来ない。

 屋敷を管理する者ぐらいは居そうだけどな。



 出掛けた人以外は、今日も朝から引き続き掃除と片付けです。

 ユルヨ爺とアルポさん、エルノさんにクロウちゃんも加わって、交替で敷地の中を隅々まで見回って点検しており、ジェルさんたちは騎士団関係の施設ですな。


 エステルちゃん以下の屋敷部隊は最後の仕上げで、俺とカリちゃんは外に設えてある食料などを貯蔵している氷室の点検だ。

 ここは屋敷の裏手にある地上部分と地下室で出来ている設備で、定期的に氷を作って入れておかなければいけない。そしてそれは、ほぼ俺の仕事なのですよ。

 昨年からは、カリちゃんも氷を作ってくれているけどね。


「アル師匠のところに、氷結の魔導具があるんじゃないですかね」

「え、そんなのがあるの? 氷結の魔導具って、好きなときに凍らせることの出来る魔導具ってこと?」


「はい、たぶん。この前に行ったときに、なんかそういうのがありました。いちどキ素力を込めて動かすと、ずっと凍らせ続けるものだと思いますよ。でもあれって、どのぐらいの範囲を凍らせられるのか、わかんないんですよね」


 アルさんが収集して宝物庫に納めている魔導具だと、かなり強力なもののような気がするなぁ。

 ここでそれを動かしたら、屋敷中がぜんぶ凍るとかして大惨事になるかもですよ。


「こんどザックさまも師匠のところに一緒に行って、お宝探索ツアーをやりましょうよ」

「それって、いいのかなぁ」

「いいんですよぉ。どうせ師匠のところにあったって、くらで腐らせるだけです。師匠は集めるだけで、使いませんからね」


 ドラゴンって、どうしてそういうお宝収集が好きなんだろうね。

 特にアルさんの場合、魔法を魔導具に頼る必要もまったく無いしな。


 氷結の魔導具とかいうものはともかく、氷室の中の整理を終えて、カリちゃんとふたりで氷を大量に作ってストックし作業を終えた。

 あと、厨房の方にある冷蔵庫にも氷を入れて置かないとだね。




 昼食後の午後は、オネルさんたちやブルーノさんたちも帰って来ているので、簡単に情報交換ミーティングだ。


「王太子さまと王宮内務部長官と、それぞれの面談の約束を取って来ました。どちらも明後日の23日の午後です。まず先に王宮内務部を訪問いただき、そのあとは王太子さまのところですね」

「了解。オネルさん、ユディちゃん、ご苦労さまでした」


「そうしましたら、訪問の人員はどうしますか?」

「そうだね。今回は名目上、僕の調査外交局長官就任の挨拶だから、僕とあとはジェルさんたち3人だけでいいかな。馬車はフォルくんとユディちゃんにお願いするか」


「ザックさま。カリちゃんも秘書役で連れて行ってください。いいわよね、カリちゃん」

「はーい、エステルさま」

「えーと、いいけど、大人しく頼みますです」

「ダイジョブでーす、ザックさま」


 どうやらエステルちゃんは、今年からはカリちゃんをなるべく外にも出して、人間社会に慣れさせる方針のようなのだな。

 外の様々な人間と、俺が接触する機会が増えることも見越しているのだろう。

 エステルちゃん的にはカリちゃんも、もう完全にうちの子的な感覚みたいだしね。


「そうしたら、カリちゃんのお衣装はどうしましょうかね」

「え、これじゃダメですかぁ?」

「お屋敷の中や商業街ぐらいだといいけど、王宮ですからね。明後日だから、取りあえずはわたしのを着て貰いましょうかね」

「はーい」


 カリちゃんはだいたい普段は、グリフィン子爵家ならではの侍女服を着ている。

 エステルちゃんがお出掛けしてそれに付き従うのならこの侍女服でも良いけど、表向き俺の公務として王宮訪問だと、やはり衣装を整えた方がいいのだろうね。

 カリちゃんの人化は、エステルちゃんといろいろ身体のサイズを同じにしているらしいので、こういう場合は便利ですな。


「了解しました。それではザカリーさまとカリちゃんは馬車で。御者はフォルとユディ。われら3名は騎馬で従います。王宮内務部でブランドン・アーチボルド長官を訪問し面談後、王太子さまを訪問いたします」


 ジェルさんが明後日の予定を復唱して確認した。



 続いてブルーノさんとティモさんが、ファータの繋ぎ宿を訪れた件を報告する。


「いまのところ、特段の情報はありやせんでした。リーヤさんが一昨日に立ち寄って、そのままタラゴへ向かったそうでやす」

「おそらく今日あたりには、向うに到着すると思われます」


 ミルカさんがリーヤさんを俺たちの出立とは別行動で、リーヤさんをグスマン伯爵領都タラゴへと向かわせたんだね。

 ファータの場合は、普通の馬車旅よりも遥かに速く移動するので、今日には向うに着いているのか。


「それから先ほど、先方の王都屋敷も覗いて来やした。昨日クロウちゃんが言っていた通りで、門前から人影は確認出来やせんでしたね」

「門は施錠されているようでした。門前から屋敷の建物までは離れているので、人の気配を探れませんでしたが」


「うん、わかった。誰か居たとしても、管理人ぐらいじゃないかな。と言うことは、グスマン伯爵家からは、まだ誰も王都に来ていないということか」

「でやすね」


「つまりー、王宮内務部にも学院にも、届けがまだ何も出されていないってことー?」

「文書を送ったということもありますよ、姉さん」

「文書で先に届けを出したとしても、人を寄越さないということはないだろう」


 一般庶民が領地の役所に届けるのならまだしも、領主貴族の令嬢の件だからな。

 おそらくはジェルさんが言うように何らかの届出をするのなら、必ず誰かを王都に来させてきちんとした手続きをする筈だ。

 そうでなければ、当面はうやむやにしようとしているのかだが、学院の方はあと7日ほどで始まっちゃうしね。



「ザックさま。学院長さんの方はどうされます?」

「うん、エステルちゃん。明後日の23日が王宮だから、翌日にはいちど学院に顔をだすかな。あと、ヴィオちゃんに手紙を出して、学院が始まる前日の27日にミーティングということで、総合武術部の部員の招集をお願いするよ」

「そうですね」


 そうしたらフォルくんに、あとで手紙を書いてセリュジエ伯爵家王都屋敷に届けて貰い、その足で学院に行って24日に俺が会いたい旨を学院長に伝えて貰うかな。


「それで頼むね、フォルくん」

「承知しました、ザックさま」


 さてさて明後日からの予定が入り、今年の冬休みは実質的に明日1日で終了だ。

 と言いますか、学院生活における冬休みというものは、これで終了という訳でありますな。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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