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第763話 神隠しが成功し、新しい人生を手に入れる

 カリちゃんがホバリングしている上空へと何とか上昇し続け、途中からは強い力で引っ張り上げられるのを感じた。どうやら補助してくれたようだ。


 そうしてホワイトドラゴンの身体の直ぐ側まで辿り着くと、カリちゃんの補助も利用しながら彼女の背中へと上がることが出来た。

 やれやれです。まずはソフィちゃんをドラゴンの背中に座らせましょう。


「カリ姉さん、ありがとう」


 ソフィちゃんは座ると、両手もドラゴンの背中に置いてそう大きな声を出した。


「(ふふふ、上手く行きましたね。さあて、雲の上に出ますよ)」

「(この黒雲とか雷って、やっぱりアルさんが?)」

「(師匠が張り切っちゃって。それらしくするんだとか)」

「(カァカァ)」


 クロウちゃんがちゃんと、彼の定番の位置であるカリちゃんの頭の上にちょこんと座っている。

 キミも今日はずっと追跡で空を飛び続けて、ご苦労さまでした。カァ。


「(雲を抜けますよ)」


 魔法の黒雲なのでそれほど厚いものではなく、中の大気も大きく乱れてはいないが、念のためにソフィちゃんの身体を支える。

 そして直ぐに雲の上へと突抜けた。眩しい青空の中を、アルさんが旋回しながら飛んでいる。


「(おーい、アルさん。お疲れさま)」

「(おお、成功じゃな。よしよし)」

「(雷も落としたんだね)」

「(ふぉっほっほ。続いて雨も振らせて、お終いにしますぞ)」


 ああ、そうですか。好きにしてください。


「(それよりも師匠、エステルさまたちを回収に行かないと)」

「(おおそうじゃった)」


 エステルちゃんたちは現場が見える場所に潜んで万一に備えていた筈だが、もう集合地点に移動しているだろう。


 移送の連中がまだいる街道一帯に、アルさんが豪雨を振らせて地上の視界を悪くし、その間にふたりのドラゴンは黒雲に全身を包んで移動を始めた。

 今回はアルさんの大規模魔法に合わせて、カリちゃんも黒雲だね。




 集合地点に設定していた少し開けた場所にカリちゃんが着陸すると、俺はソフィちゃんを抱えてひとまず地上に降りた。

 ここら辺は雨が降ってないんだね。現場一帯にだけ局地的豪雨を降らせた訳か。


 カリちゃんが人化し、アルさんも降りて来る。

 そうして林の中からエステルちゃんが走り出て来た。


「あ、エステル姉さま。それからジェル姉さんたちも」

「おおー、ソフィちゃん」

「無事で良かったです」

「神隠し成功ねー」


 カリちゃんもそこに混ざり、5人の女性たちが順番にソフィちゃんを抱きしめて、再会を喜び合っている。

 その様子を、リーアさんとアルさんとともに暫く眺めた。


「リーアさんもお疲れさま」

「いえ、わたしは見張りをしていたぐらいで、何も」

「いやいや。チームでの作戦だから、全員が頑張ったお陰だよ」

「あ、はい」


 さて、そろそろ仮設拠点に戻りましょうかね。


「おーい、まだ作戦行動中だよ。速やかに撤収しますからね」

「はーい」


「そう言えばエステルちゃんたち、びっしょりじゃない」

「そうですよぉ。アルさんの豪雨から逃げ遅れちゃったから」


「ライナが、街道の反対方向にも陥没穴を造ると言い出して」

「それで、遠隔でこのぐらいかな、とかやっているうちに、もの凄い雨が降り出したんですよ」

「それは申し訳なかったのう」


「いやいや、悪いのはアルさんじゃなくて、このライナですぞ。最後に雨を降らすのは打合せ済みでしたからな」

「えへー、だってさー。タラゴ方向にも、戻りにくくした方がいいかと思ってさー。微妙に馬車が通れる幅を残して陥没させるのに、ちょっと時間を使っちゃったのよ」


 ドサっと大穴を開けるのなら一撃だけど、わりと早く修復出来る程度の深さで、かつ馬車が通れる程度の余地を残したのだろうから、少しばかり時間が掛かったということか。

 まあ、意外と繊細な魔法を遣うライナさんらしいよな。


 そんな話をしながら、ソフィちゃんも一緒に笑っている。

 さて、撤収しましょう。




 リーアさんをソフィちゃんに紹介して、全員で今度はアルさんの背中に乗り込んだ。

 そうして、タラゴ湖の側の森の仮設拠点へと戻った。


「お嬢様……」

「わたし、無事に神隠しに遭って、大空に消えて来たわよ。ほら爺や、そんなに泣かないの」


 ドミニクさんはおいおいと大泣きした。

 ソフィちゃんの幼少期から身近にいて、孫娘のように大切に彼女を育てて来たのだ。

 その万感の想いが一挙に吹き出したのだろう。


 俺たちはそのふたりを、暫く静かに見守るしかなかった。



「さて、これからの行動だけど、まずはみんなで夕食を食べて、それから僕がドミニクさんを家まで送って行きます」

「ザカリーさま。わたしも同行しますよ」


「うん。それじゃメルヤさんもお願い」

「わたしは、行っちゃダメですよね」

「ソフィちゃんは、さすがにね」

「はい」


「その代わりに、わたしも行きますよ」

「そうね。そうしたらカリちゃんもお願い。その間にわたしたちは、撤収する準備をしておきます」


 最近は自分の代役でカリちゃんを俺に付けることが多いので、エステルちゃんならそう許可するよな。

 つまり、俺の護衛と監視とお世話なのだが、まあドラゴン娘なら最強だからね。


「いいですね? ザックさま」

「はいです。それで僕らが戻ったら、直ぐに出発。今夜中にいったんグリフィニアに帰って、翌明朝、ファータの里に出発します。いいかな?」

「はーい」


「メルヤ姉さんは、暫く残るんですよね」

「はい、嬢さま。なので、ドミニクさんを送って行って、そのまま領都の動向を監視します」

「そう。わかりました。よろしくお願いしますね、メルヤ姉さん」


「お任せください。ソフィさまも、お気をつけて。里でお会いしましょう」

「ありがとうございます、メルヤさん。また会えるのを、楽しみにしています」


 メルヤさんには、昨年の暮れからお世話になったよな。

 ソフィちゃんも軟禁されるまでは幾度か会っていたそうで、ここで別れるのを名残惜しんでいるけど、ファータの里で暮らしていればまた会えますよ。



 それから皆で早めに夕食をいただいて、ドミニクさんを家まで送り届けた。


「ではドミニクさん。くれぐれも無茶はしないように」

「ははは。ザカリー様からそれを言われましてもなぁ。なあに大丈夫ですわい。手前もまた新しい人生の始まりと腹を括りましたでな。お嬢様のことは、すべてザカリー様に。そして出来ましたなら、手前もついでにお願いしまする」


「うん、グリフィニアに是非。それじゃメルヤさん、頼みます」

「承知しました、統領」


「統領? ですかな」

「まあファータの一族のね。あとはメルヤさんから聞いてください」

「これは……。まだまだ手前が知らないことが、たくさんあるのですな」

「それは、わたくしどもも同じですよ」


「それじゃ、行きますね」


 俺とカリちゃんは念のために姿隠しの魔法を発動して、夜のタラゴへと紛れ出た。




 それからは、撤収作業を終えて更地に戻されていた仮設拠点を確認し、速やかに出発だ。

 ソフィちゃんをしっかり加えたメンバーで、あとはひたすらグリフィニアを目指す。

 ただし、俺とエステルちゃんのふたり以外は、初めての夜間飛行で寛げる状態ではなかったみたいだけどね。


 それから2時間弱の飛行後、グリフィニアの灯りが見えて来たところで、父さんたちへ帰還を知らせるためにクロウちゃんに先行して貰った。


 暫くして夜陰と魔法の雲に紛れて、子爵家専用魔法訓練場に無事に到着。

 皆をアルさんの背中から降ろし、最後に俺も降り立ってアルさんも人間の姿に変わると、「ザックー」という大きな声が聞こえた。あれはアビー姉ちゃん騎士の声だな。


「任務完了。ただいま帰還しました」


 俺の声に、おおーっという歓声が沸き上がる。訓練場には照明設備とかは無いので、少し灯りを打ち上げましょうか。


「ソフィちゃんは? あっ、ソフィちゃん、いるね」


 姉ちゃんが走り寄って来て、ソフィちゃんに抱きついた。


「アビー姉さま……」

「よかったよかった。ザックたちのことだから、すべては上手く行くって思っていたけど、でも心配でさ」


「ソフィーナ、無事に神隠しに遭って、消えて参りました」とソフィちゃんは、胸に拳を当ててこの世界式の敬礼をする。


「ああ、これはいつものソフィちゃんだ」



 見ると、父さんや母さん、シルフェ様やシフォニナさん、ユルヨ爺も加えた王都屋敷のメンバー、ウォルターさんやクレイグ騎士団長やミルカさん、などなど。

 主立った人たちが全員揃っていた。


「お帰りなさい、ソフィちゃん。待ってましたよ」

「奥さま」


「さあさ、泣くのはいつでも出来ますから、まずはお風呂に入りなさい。みんなもね。ジェルさんたちも屋敷のお風呂に入りなさい。リーアさんもよ。エステル、エディットちゃん、連れて行ってあげて。1階のお客様用浴室の方が広いから、そっちがいいわね」


 屋敷へと戻ると、コーデリアさんやリーザさんたち侍女さんも待機していて、遠慮するリーアさんも含めた女性たちは、母さんが言ったお客様用浴室の方へと引っ張って行かれた。

 それじゃ俺とアルさんとクロウちゃんは、2階の家族用の浴室に行きましょうかね。


 そうして、ひと風呂浴びた俺たちは家族用ラウンジに集合する。

 出迎えてくれていたブルーノさんたちレイヴンメンバーは、俺たちの帰還を見て安心したのか、ひとまずは解散となった。


 それでラウンジには、ソフィちゃんと遠征メンバー。

 あとは父さんと母さんにシルフェ様とシフォニナさん。アビー姉ちゃんとウォルターさんにクレイグ騎士団長、ミルカさんといった主要な人たちだけが残った。



「子爵さま、奥さま。このたびはご心配をおかけし、またこんなわたしを救い出していただき、ありがとうございました」


 ソフィちゃんが父さんと母さんを前にして、そう言って深々と頭を下げた。


「ソフィーナさん、いやソフィさん。あなたは、ザックとエステルの妹になったのだったな。ならば、そんな堅苦しい遠慮はいらないんだよ」

「そうよ、ソフィちゃん。いまヴィンスが言ったように、あなたはザックとエステルの妹。ということは、この人があなたのお父さんで、わたしはあなたのお母さん。それでいいのよ」


「子爵さま、奥さま」

「お父さんとお母さんよ」

「お父さんと、お母さん……」


「そして、わたしがお姉ちゃんだよ。尤もお姉ちゃんは、ここにたくさんいるけどさ」

「わたしもそうすると、お姉ちゃんよね」

「アビー姉さま、シルフェさま……」


 アビー姉ちゃんとシルフェ様がそんな風に続けた。

 確かにお姉さんはたくさんいるよな。ジェルさんたちやカリちゃんもお姉さんだし。


「お兄さんが、このザックしかいないってのが、ちょっと心配だけどさ」

「というか、ザカリーさまにもお姉さんばっかりでー、妹はソフィちゃんだけ、だけどねー」

「わたしが、妹の方に廻りましょうか?」


 いやいやカリちゃん、そういうことではないから。あと、アビー姉ちゃんとライナさんは煩いですよ。

 でもラウンジは、賑やかな笑い声で包まれた。

 涙でびしょびしょのソフィちゃんも、いまは嬉しそうに笑っている。


「良かったですね、ザックさま」

「うん。良かった」

「カァ」


 もう眠たそうなクロウちゃんを膝の上に乗せたエステルちゃんが、そう囁いた。

 これからが大変だけど、でも本当に良かった。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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