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第74話 父さんと母さんからの贈り物

 冒険者ギルド長のジェラードさんとエルミさんは帰ったが、俺たちは残れとヴィンス父さんに言われた。


「いよいよだなザック。俺自身の気持ち的には、危険な場所におまえを送り込むのはまだ早いと思っているが、しかしおまえを俺の名代にすると決めた。だから、役目は出来る限り果たしてほしい。だがおまえの場合は、勝手に先に動く危険性が多分にある」

 そんなこと無いと思うよ、たぶん。たぶんだけに。


「だがそれも状況次第だ。どうしても先手を打たなければならない時には、自分の考えで動いていい。だがそれ以外では、みんなの意見をちゃんと聞くんだ。ブルーノはじめ、皆おまえの先輩たちだからな」

「はい、わかりました」



「革鎧の新しい装備は、ウォルターが手配してもう渡してあると聞いた。ありがとう、ウォルター」

「いえ、当然のことです」

「それで俺からは、おまえに剣を渡すことにした。おまえはもうロングソードが充分扱えるのは分かっているが、今回は率先して闘うのが目的ではない。あくまで自分自身の身を護るためだと思って、このショートソードを渡しておくぞ」


 父さんはそう言って、自分の執務机の後ろにある保管箱から、1本のショートソードを取り出した。

 ショートソードの片手剣だが刀長は70センチぐらいだろうか、柄も長めで全長が80センチ以上はある。

 前世から愛用の本赤樫造りの木刀が、定寸で刀長2尺3寸5分の71.2センチだから、ほぼそれと同じ長さだ。うん、なかなかいいね。


「鞘から抜いてみろ」

「いいの? わかった」


 俺はそのショートソードをするりと抜いて、片手で掲げる。抜き心地もいいね。

 刀身全体に、木目のような見たこともない模様がついている。

 これは前世の刀の刃文とは違うようだな。なんだろう。


「この剣はダマスカス鋼で作られている。俺が父さん、おまえのおじいさんから若い時に貰い受けた、グリフィン子爵家伝来の剣のひとつだ」

「はい」

「ダマスカス鋼の剣は固くて良く斬れる。刃こぼれもしない。この剣はそのなかでも優れた逸品だぞ」


「今回の探索では、このグリフィン子爵家伝来の剣を常に側に置き、おまえの護身の剣としろ」

「父さんはこの剣を手放していいの?」

「俺はショートソードは使わないからな。それにほかにも伝来の剣はまだある」

「わかった。いつも傍らにあるようにするよ。ありがとう」


 これはいい剣だ。

 何かを斬り倒す剣というより、確かに父さんが言うように身を護るために斬る剣だ。

 手に持つこの剣が、そう語りかけてくる。



「はいはい、それじゃわたしからよー」

 今度はアン母さんか。なんでしょう。

 母さんは手に持っていた貴重品入れの袋から、なにやら取り出した。


「これはね、ザックと、それからエステルさんにあげるわ」

 まったく同じものがふたつだ。首飾りだね。


「この首飾りはね、身代わりの首飾りよ。もし万が一、自分の身体が死に至るような傷を受けたとしても、この首飾りが身代わりになって全回復するの。1回だけだけどね」

「おい母さん、それふたつも持ってたのか」

「あらヴィンス、知らなかったかしら。言ってなかったかもだわね」

 と母さんは、そう朗らかに言って笑った。



「致命傷にならない傷には反応しないのよ。でももし致命傷を受けたら、この首飾りは砕けて、その代わりに身につけていた人は助かるの。わたしが回復の魔法も込めておいたから、効果は絶対の筈よ。だから探索中はずっと身につけていなさいね。はいどうぞ」

 そう言ってアン母さんは、俺とエステルちゃんに首飾りを手渡した。


「母さん、凄いものだね。ありがとう」

「お、奥さま、こんな大層なもの、受取れません」

「なに言ってるのよ、エステルさん。あなたが先に死んだらザックを護れないでしょ。それにもしそうなったら、ザックはきっと無茶な闘いをするわよ。わたしはザックと、それからあなたが無事に帰って来てほしいの。はい、それ貸しなさい。わたしが付けてあげるわ」


 そう言って母さんは、エステルちゃんの後ろに回り、首飾りを付けてあげた。

「うん、とっても似合うわ。ザックのは、探索に行く前にエステルさんが付けてあげてね」

「奥さま……ありがとうございます」

 エステルちゃんは、両目からぽろぽろ涙を流して、なんとかそう言うと深く頭を下げた。



「いいこと、ザック。騎士団のメンバーはもちろん、たぶん冒険者の人たちも皆、あなたを護ってくれると思うわ。でもね、エステルさんはあなたが護るのよ。それが男の子というものよ。わかったわね」

「うん、わかった。この首飾りが砕けることなしに、僕たちは帰ってくるよ」



 その明後日、今日は冒険者ギルドで探索チームとの顔合わせの日。

 あれからエステルちゃんは、いつにも増して上機嫌だ。

 少しでも自分の姿が映るガラスや鏡があると、ぱたぱた走って行って、身につけている首飾りをうっとり見ている。


「ねえねえザックさまぁ、ザックさまも早く首飾りを付けましょうよ。お揃いにしましょうね。わたしが付けますよ」

「まだいいよ。探索に行くときでいいから」

「そんなこと言って、いつ危ないことが起きるかわかりませんよぅ。クロウちゃんもそう思うでしょ」

「お屋敷で致命傷はないと思うよ」

「カァカァ」



 冒険者ギルドへは、今回の俺の探索行きが子爵名代という名目になっているので、やはり歩きではなく馬車になった。

 同行は前回と同じ護衛、というか探索に一緒に行くメンバーだね。

 御者役のブルーノさんともあれ以来だ。


「みなさんご苦労さまです。やってくれたよね、ブルーノさん」

「ははは、自分ひとりで冒険者の連中に混ざるのがちょっとあれだったもんで、ザカリー様を巻き込みやした。でも、それで良かったでやしょ」

「まぁねー。ジェルさんとライナさんも、よろしくお願いしますね」

「はい、とても光栄です。楽しみであります」

「ザカリー様と冒険ですね。わくわくしてます」


 従騎士のジェルメールさんと従士のライナさんの女性護衛組も、探索行きに期待しているようだね。

 さっそくエステルちゃんを交えて、わいわい話している。

 ライナさんがエステルちゃんの首飾りを見つけて話を聞き、「えーっ、それ凄いですよー」とか騒いでるよ。

 そろそろ冒険者ギルドに出発しますよー。カァカァ。



 そんなこんだで俺とエステルちゃんが馬車に乗り込み、それぞれ騎乗の女性護衛組を引き連れて冒険者ギルドに出発だ。

 さてさて、クリストフェルさんとメラニーさんのほかの冒険者さんって、どんな人たちなのかなー。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。


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エステルちゃんが主人公の短編「時空渡りクロニクル余話 〜エステルちゃんの冒険①境界の洞穴のドラゴン」を投稿しました。

彼女が隠れ里にいた、少女の時代の物語です。


ザックがザックになる前の1回目の過去転生のとき。その少年時代のひとコマを題材にした短編「時空渡りクロニクル外伝(1)〜定めは斬れないとしても、俺は斬る」もぜひお読みいただければ。


それぞれのリンクはこの下段にあります。

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