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第749話 レイヴンメンバーの引越

 翌日も午前中から同じメンバーで工事作業を行い、東館の方の右ウィング部分16室を8室に改築した。

 そして午後からは内装作業だ。


 これは夏の初めにヴァネッサ館を新築した際に、消石灰と砂と水を材料とした所謂、真っ白の西洋漆喰を作り、それを薄板にして貼付けて圧着同化させた作業と同じだ。

 漆喰の薄板作りは俺とカリちゃんの仕事で、内装仕上げの作業はダレルさんとライナさんという分担で行う。


 増築した調査探索局本部の部屋と、玄関ホールラウンジを拡張した部分、あとは改築して拡げた部屋で内装の修復が必要な部分だけなので、新築のときほどの手間は掛からない。

 一方でアルポさんとエルノさんは、増築した部屋の窓枠作りや再利用するドアの手直しなどの作業に取り掛かってくれた。



「これでひと段落ですな、坊ちゃん」

「うん、そうだね」

「ベッドとかはどうするー? 入れちゃう?」

「入れちゃいましょう」


 各部屋に1台ずつのベッドと収納家具、それから小型のテーブルと椅子が1脚入っていた。

 ベッドは2台入れて、あとは収納家具もふたつ。椅子は2脚でいいけど、テーブルは1台でいいよな。


「そういうとこ、ザカリーさまは細かいわよねー」

「ぜんぶ入れとけばいいですよ」


 ドラゴン娘はともかく、ライナさんは魔法操作以外はだいたい大雑把なんだよな。

 俺がベッドの位置はこうで、家具はこうでとかやっているうちに、さっさとふたりで搬入作業を終えてしまっていた。

 まあ、いちおうは配置されているからいいでしょう。


「そしたらー、お部屋の方はもう引越を始めちゃう?」

「ドアを付けたら居室は完成だから、まあいいけどさ。でも、ジェルさんとかとまだ相談してないんでしょうが」


「そんなの、長官殿のご指示って言えばいいのよー。あ、部屋決めもしないとだわー」


 もう、やっぱりライナさんだよな。

 そういうときだけ長官殿の呼称を使われそうだけど、俺はそういうご指示はしませんからね。


「ちゃんと相談してくださいよ。それから、使用する部屋は、西館が当初予定通りの探索部の人員で、東館の方にレイヴンのメンバーね」

「えー、西館の右ウィング側を女の子用で、あとは男用じゃだめー? それで、女の子用ウィングは男子立ち入り禁止ね」


 レイヴンの女子がユディちゃんを含めて4人で、あと探索部のファータの女性がふたりだから合計6人か。

 予備を入れて、西館の右ウィング側の8部屋をそう使うのでもいいけどさ。

 面倒くさいから、もうジェルさんとオネルさんと相談して、ぜんぶ決めてください。

 でも、ミルカさんにはちゃんと了解を取るんですよ。


「わたしに任せなさい」

「大丈夫かなぁ」


 ところで、カリちゃんはこっちに住みたいとかは言わないんだね。


「わたしは、なるべくザックさまの側にいなさいって、そうエステルさまから言われてますから」


 そうなのですか。まあこの子の場合、俺とエステルちゃんで金竜様から預かっているドラゴンなので、そうして置いた方が良いのだろうけどね。




 その日の午後に、まだ完成ではないけど父さんと母さんにエステルちゃん、ウォルターさんとミルカさんに声を掛けて、いちおうの披露をした。


「ほう、こうなったか。なかなか良い部屋じゃないか」

「2部屋分をひとつにしたのね。ベッドもふたつあるし、これなら夫婦でも住めるわよね」


 残念ながら全員独身ですけどね。


「こちらが増築した区画ですか。いちばん奥が、ザカリー様の長官室で、その手前がミルカさんの部長室。隣が事務室と会議室ですね」

「なんとも、勿体ないことです」


「なかなかいいじゃないか。これでザックにも、この子爵館に執務室が出来た訳だ。これは、しっかり働いて貰わないとだな」


「そうね。たくさん励んでもいただかないとよね。あ、そうそう。エステルにもわたしの執務室を使って貰うことにしたから。ウォルターさんの部屋の近くで、エステルも執務できる場所があった方が良いと思ってね」


 そうなんだ。昨日今日と、何やら母さんとエステルちゃんにクロウちゃんも加わって密談していると思ったら、そういうことだったのでありますか。

 エステルちゃんもクロウちゃんも、昨日は何も言ってなかったけどさ。


「(さっき決まったんですよ。昨日は、調査外交局と王都屋敷のご予算の話とかしてましたから。それで、やっぱりこういうお仕事をする部屋が、わたしにも必要だってお母さまが言い出されて)」

「(カァカァ)」


 なるほどね。それで昨晩は、エステルちゃんの額にシワが寄ったままだったのか。

 予算の話とか、年初には大切ですよなぁ。


「(お父さまやウォルターさんとミルカさんも、途中から参加したのですけど、ほんとは長官殿もここに居るべきよね、ってお母さまが言ってましたよ)」

「(カァカァ)」

「(すみません)」



「それで、引越はどうするんだ?」

「うん、こっちの調査外交局本部の方は、まだ窓ガラスが入っていないから、アルさんが来たら作って貰おうかと思って。なのでそれからだよね」


「そうか。アル殿には申し訳ないな」

「いいのいいの。アルさんもグリフィン建設メンバーだからさ。それで居室の方は、ライナさんが直ぐにでも引越したいって」


「レイヴンもこっちに越すことにしたのね。だから東館も半分、工事をした訳か」

「もうすぐ、ライナさんがうちのメンバーを連れて見学に来るから、それからですな」


 エステルちゃんは横にいたカリちゃんに、その辺のところを聞いていた。

 まあドラゴンも嘘がつけないから、ライナさんが独断専行で進めているのを話しているのだろう。


「女の子専用ウィングね。わたしもそれで賛成ですよ。ユディちゃんも入るのなら」

「男衆に混ぜるのはダメですもんね」


 ああ、エステルちゃんもその案に賛成なんだ。



 そうこうしているうちに、ライナさんがレイヴンメンバーを招集してやって来た。

 探索部のファータメンバーも一緒だから、ユルヨ爺が連れて来たのだろう。


「これは、子爵様と奥様」

「ああ、普通にしていていいよ。それより見学して来なさい」

「はい」


 探索部の部員は父さんと母さんがいたので少々恐縮していたけど、まあ気にしなくていいから。

 それでそのふたりは、「あとはエステルに任せる」と屋敷に戻って行った。


「ねえねえ、エステルさま。ザカリーさまから聞いてくれたー?」

「聞きましたよ。わたしも女の子専用ウィングは賛成よ。それで、ユディちゃんもこっちに来たいの?」


「はい。グリフィニアだとお屋敷には侍女さんがいっぱいいますから、こちらではわたしも調査外交局の宿舎に来たいです。いいですか? エステルさま」

「あなたがそう考えたのなら、それでいいわよ。ジェルさんたちの側に居て、しっかり教えていただきなさい」

「はいっ」


「それでいいですよね、ザックさま。なんで、少し寂しそうな顔してるですか」

「あの、エステルちゃん。僕も」

「なに言ってるの?」

「なんでもないのであります」


 自分の娘が独立して行くって、こういう気持ちになるのですかね。父さんのことが少し分かった気がします。


「ザックさまは、お仕事はこの長官室でするんだよね。わたしがいるときは、ちゃんとお世話するよ」

「うん、ユディちゃん。ありがとう」



「さあ、ザカリーさまは放っておいて、部屋決めまでしちゃいたいんだけどぉー、ジェルちゃんとオネルちゃんはどう?」


「もうライナは、どんどん決めて。でもまあ、騎士団の今後のことも考えると、われらがあの宿舎を占領し続けるのはいかんよな」

「新しい組織、新しい制服、それから独立した宿舎。もちろん賛成ですよ」


「そしたら、こっちのウィングは女の子専用だから、わたしたちで部屋割りを決めるわよー、ユディちゃんとそれからリーアちゃんも来てー」


 探索部員のうちの3人はアプサラ常駐なので、そちらの女性部員のヴェンラさんはここにはいまいないけど、リーアさんをもうしっかり巻き込んでいるところはライナさんらしい。

 エステルちゃんとカリちゃんもそちらに行った。


 男衆の方は残った左ウィング側と東館の右ウィングで、適当に決めておけということのようだ。

 こちらはミルカさんたちのお任せしましょうか。


「ザカリー様、いやザカリー長官。いろいろとありがとうございます。しかし、相変わらず物ごとを進めるのが早いですね」

「長官て呼ばれるのはなんだか照れくさいから、いままで通りでいいよ、ミルカさん。それでミルカさんも、こちらの居室を使ってくれるんだよね」


「ええ、それはもちろんです。私どもファータの全員に、ブルーノさんもこちらに住まわれると言っておりました。まあ部屋割りは、こちらで決めますのでご心配なく」




 その翌日、早速にも引越が行われた。

 尤もファータの衆はそれぞれ荷物が少ないらしく、ブルーノさんも自宅とは別の仮住まいなのでこちらには最少限の物しか置いていない。


 荷物が多いのはお姉さんたち3人なのだが、まああちらにはどんなに重い物でも片手で持ち上げられるライナさんがいるので、問題無いでしょう。

 騎士団から荷車を借りるそうだしね。


 そしてうちの屋敷からは、フォルくんとユディちゃんが引越をする。

 彼らの荷物は、ダレルさんから借りた荷車の上に既に積まれていた。

 俺とエステルちゃんにクロウちゃん、アデーレさんとエディットちゃんの王都屋敷メンバーで見送る。


「それでは、ザックさま、エステルさま、行って参ります」

「行って参りますってお兄ちゃん。直ぐそこに移るだけじゃん」

「ユディは。こういうときには、ちゃんと挨拶するものなんだぞ」


「ザックさまとエステルさまとクロウちゃんには、さっきちゃんと挨拶したもん。でもさ、ザックさまが泣きそうだったから」

「カァカァ」


 昨日に、既に泣きそうだったのでありますがな。


 考えてみればこの双子の兄妹を港町アプサラで引き取ってから、もう6年半が経過している。

 その間、一時期はグリフィニアと王都で離れていたこともあったけど、ずっと俺とエステルちゃんの小姓ペイジと侍女として、手元で育って来たんだよな。


 そして昨年にふたりは従騎士見習いとなり、正式に独立小隊レイヴンの一員となって、今日からは調査外交局の宿舎に暮らしの場所を移す。

 日常の生活を誰かに見守って貰うのではなく、先輩の同僚たちとこれからの日々を過ごす訳だ。


 そうして徐々に大人としての仕事と暮らし方を身に付け、更に成長をして行くんだな。


「ザックさまは、何処か遠くを見つめているみたいですけど、何か飛んでますかね」

「ああこの人、顔を下に向けたり、ふたりの顔を見たりすると、あれだから。それで向うの空を見てるのよ」


「ヴァネッサ館まで、歩いて2分ですよね。それに、自分もあそこの長官室に通うのに」

「どうも、そういうことじゃないみたいなの」

「カァカァ」


 そういうことじゃないのですよ。じっさいの距離ではなくて、心の距離と言うか何と言うか。

 アデーレさんなら気持ちが分かるよね。あ、面白いものを見るような顔で俺を見ないでください。

 それでも、「ザックさまはお優しいですからね」と言ってくれた。



「それでは、行きます」

「行ってきまーす」


「あ、部屋への荷物運びとか、僕が手伝おうか」

「大丈夫です。ザック様」

「長官が隊員の荷物を運ぶって、変だからね。エディットちゃんが手伝ってくれるし。だからザックさまは、おとなしくしててね」

「はいであります」


「あの子たちの方が、よっぽどしっかりしてますよね」

「そうなのよね」

「カァ」


 兄妹ふたりは荷車と共に、ヴァネッサ館の方に行ってしまいました。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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