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第73話 新しい装備、そして探索計画が動き出す

 ウォルターさんが俺に着ろというその軽装鎧は、まず見た目が真っ黒だった。

 その色合いは別として触って確かめてみると、作りとしては胸部に金属が仕込まれたブリガンダイン仕様だが、裏地に布が施された3重の造りになっている。


「まずこの黒い表革ですが、ファータの里に蔵されていたフォレストサーペントという魔物の革です」

「里近くの森の奥にある、入らずの池と呼ばれる大きな池に棲んでいた真っ黒で大きなヘビの魔物で、クロミズチと呼ばれてたそうです」

「棲んでいた? てことは今はいない」

「はい。大むかし、わたしたちの一族が仕留めたという伝承があって、その皮だけが里長さとおさの蔵に代々伝わりました」


「そんな大層なものを、僕の装備に使っていいの?」

「私も見たことないのですが、なんでも、とても大きな皮なのだそうで、ザカリー様の革鎧の作製に使用する分には、何の問題もないのだとか。いや、じつは使ってくれと先方から贈られていたものなのです」

 ウォルターさんがそう説明した。


「この革は加工すると、ほかの獣の革とは比べられないほど強度が高く柔軟性があり、かつこのように美しく黒い光沢が出ます」

 なるほど、光が当たっていなくても鈍く黒光りしているように見える。

「それに、うちの里で魔法を込めてなめしてますから、周囲から見えにくくなるんですぅ」

「へぇー、それは凄いなー」



「それで、鎧の裏地や鎧下、それからこのズボンなどの生地は、同じくファータの里でよく使われている森大蜘蛛モリオオグモの非粘着性の糸で作られていて、とても強度と伸縮性があり吸水性にも優れています」

 エステルちゃんが穿いている、あのスポーツレギンス風やショートパンツ風と同じ素材だね。お揃いになっちゃった。

「わたしが穿いてるのと同じですぅ」


「それから胸部を護るために、この手甲もそうですが、革と裏地に挟んで金属が仕込まれています。黒玉鋼くろたまはがねです」

 玉鋼は、俺が前世にいた世界で刀を鍛える際に使用される金属だが、同じものなのだろうか。


「この黒玉鋼くろたまはがねは、かつて空から落ちてきた巨大な岩が地上の金属鉱脈に衝突して変化して出来た、と伝えられている鉱石から作製された貴重なもので、強度と柔軟性がとても高いのです。ボジェクに頼み込んで入手して貰いました」

 隕石の衝突で出来たものだろうか。

 鍛冶職工ギルド長のボジェクさんには苦労かけたのかな。


「それで、これら装備一式の作製もボジェクにお願いしました。いや、なに、ファータの里長さとおさからいただいだ素材を見せて、ザカリー様用の装備だと言ったら、大喜びですぐに作ってくれましたよ」

 ボジェクさん、ありがとうございます。

 それにしてもこんな素材集めや作製が数日でできる訳じゃないだろうし、ウォルターさんは俺がギルド会合に出席したあたりから、もう準備していたのじゃないか。


「ウォルターさん、凄いよこの装備。ありがとうございます」

「いえいえ、ザカリー様の身を護るためでございますよ」

「あのあの、ザックさま、これ着てみましょうよ」

「そうですな、ちゃんと合うか着てみてください。動きも確かめねばいけませんし」



 俺はこの特別(あつら)えの装備を、すべて身につけてみた。同じ革でできたブーツも揃っているので、これも履く。


「凄く軽いんだね。うん動きやすいよ。ぴったりだ」

「ザックさま、とてもお似合いですぅ」

「良さそうですな。ザカリー様は今は育ち盛りですから、革鎧については同じ仕様で大人用のサイズの大きなものを、もうひとつ作ってあります。ですから、これがきつくなったら、そちらで合わせましょう」

「大人用はわたしが預かってありますよ。えへへ」


「あとは剣ですが、これは子爵様がお考えのようです」

 へー、剣はヴィンス父さんが考えているんだ。

 俺は前世の世界の宝刀やら名刀を、無限インベントリに何本も収納して持っているので、戦闘に困ることはないのだが、あれらは普段、帯刀するわけにいかないしね。

 父さんから剣がいただけるのなら、それも楽しみだなー。



 そうこうしているうちに、また数日が過ぎた。

 そういえばアビー姉ちゃんは、俺がアラストル大森林の探索に同行するのを知ったようだが、自分も行きたいとか何か言い出すことはなかった。

 父さん母さんや、師匠であるクレイグ騎士団長から経緯を説明されたのだろう。

 ただ俺には「いつもザックでずるい」とひと言文句を垂れていたけどね。


 そうして9月も終わりになった頃、冒険者ギルド長のジェラードさんがギルド職員のエルフ女性、エルミさんを伴って領主館にやって来た。

 大森林探索の件なので、俺とエステルちゃんも呼ばれる。

 父さんと母さん、ウォルターさんにクレイグ騎士団長という面子だ。


「いやー、ザカリー様、こんにちは。大森林探索に協力いただけてありがとう。俺としては、探索チームのリーダーはもうザカリー様でいいぐらいだよ」

 とか、訳の分からないことを言う。


「俺も行くかなぁ、ダメかな? エルミさん」

「ダメです」

 ジェラードさんの冗談ともつかぬ言葉は、エルミさんに即座に否定されてた。



「まぁそれはともかく、ザカリー様。アラストル大森林の探索の日程が決まったので、今日はそれをお伝えしに来た」

「はい、決まりましたか。いよいよですね」

「出発は10日後の朝7時だ。もともとは冒険者ギルドから南門を出て大森林に向かう、冒険者の通常のルートを行く予定だったが、ザカリー様と騎士団メンバーが参加することになったので、クレイグ騎士団長と協議し、この領主屋敷から出発して東門を使わせていただけることになった」


 一般の人は領都を出る場合、南門か北西門を通る。冒険者が大森林に入る場合は南門を出て領都の城壁に沿って行く。

 東門は基本的には、騎士団しか使用することが出来ない決まりだ。

 なぜなら東門の内側はすぐに領主館の敷地であり、外に出れば目の前はもう大森林だからだ。大森林から領都を護る盾が、この領主館ということになる。

 今回は冒険者の探索チームが、この最短ルートで大森林に入ることになった。



「それで、当日朝6時半に、探索チームは騎士団本部に集合させていただく。ザカリー様もそれでお願い出来ればと思う」

「わかりました」

 騎士団本部は屋敷の隣にあるから俺は楽だけどね。


「日程は予定通り、探索のベースキャンプまで1日、探索が3日、帰り1日の計5日間だ」

「ザカリー様たちと騎士団メンバーの食料やテント、薬品などの備品は、騎士団の方でお揃えになると伺っていますが、ギルドの方でも予備を多めに用意する予定です」

「わかった。予備はあるほどありがたいからな。騎士団でも多めに用意する」


 エルミさんと騎士団長がそう確認し合った。

 俺には無限インベントリがあるから、全部の荷物を入れてあげてもいいんだけどね。

 そう言う訳にもいかないけど、それだとみんなに楽させてあげられるよね。



「それから、探索チームのメンバーなんだが、ザカリー様もお会いいただいているクリストフェルとメラニーのパーティ5名は、当初から決まっている」

「子爵領の冒険者のトップパーティですね」

「そうだ。で、もうひとつパーティを加える予定なんだが、その選定がまだでね」

「参加したいという申し出が考えていた以上にありまして、選定に少々手間取っております」

 そうエルミさんが補足した。


「そうなんだよ、ザカリー様が子爵様の名代で同行するという噂が洩れてしまってな。それで申し出が一挙に増えちまった。たぶん事前に知らせたクリストフェルあたりが、ぽろっと言っちまったみたいなんだ。別に悪気があってのことじゃないと思うんだがな」

「へぇー、ザックは冒険者たちに人気があるみたいですわね」

「そうなんだよ、アナスタシア様。ザカリー様は俺たちが護るんだってね。どうも目的の探索から趣旨がずれてるんだが」


「でだ、選定は今日明日で決めることにするつもりだ。それで明後日の午後なんだが、探索チームと顔合わせをさせていただきたいんだ。申し訳ないがザカリー様、ギルドにご足労いただけないかね」

「明後日の午後ですね、わかりました。行きます」


 いよいよアラストル大森林探索が動き出した。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。


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エステルちゃんが主人公の短編「時空渡りクロニクル余話 〜エステルちゃんの冒険①境界の洞穴のドラゴン」を投稿しました。

彼女が隠れ里にいた、少女の時代の物語です。


ザックがザックになる前の1回目の過去転生のとき。その少年時代のひとコマを題材にした短編「時空渡りクロニクル外伝(1)〜定めは斬れないとしても、俺は斬る」もぜひお読みいただければ。


それぞれのリンクはこの下段にあります。

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