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第747話 今日から長官殿ですか

 翌日の1月2日の午後。昨日に決めた予定通り、屋敷内の領主執務室に子爵家の主立った人たちが集まった。


 父さんと母さんに俺とエステルちゃん。カリちゃんとクロウちゃんもいる。

 騎士団からは、クレイグ騎士団長と次期騎士団長になる予定のアビー姉ちゃん騎士、そしてネイサン副騎士団長。

 現調査探索部からは家令で部長のウォルターさんとミルカ副部長。


 そして俺の独立小隊からはジェルさんが来ている。

 彼女はこういう会合にはあまり加わったことがないので、「わたしが居ても良いのですか」と少々不安そうな表情だけど、居て貰わないと困るんです。



「皆、新年早々でご苦労さま。本日集まって貰ったのは、ザックのこれからについてと、我が子爵家の新たな組織についてだ。じつは昨日、ザックから学院卒業後の希望が出されて、それに伴い、子爵家内の組織を少々再編することにした。それでは、詳細についてはウォルターに説明して貰う」


 父さんの言葉を受けて、昨日に俺が言った内容も含めてウォルターさんが簡潔に説明してくれた。


「そういうことで、子爵様、奥様、エステル様と相談させていただいた結果、ザカリー様のご意向に沿って、現在の調査探索部を表立っての名称として調査外交局とし、その長官にザカリー様にご就任いただきます。なお、実質的には調査外交探索を行う局であるとご認識ください。これまでは、調査探索部の名称を対外的に名乗ることはありませんでしたが、これよりは調査外交局を正式名称とし、ザカリー様には堂々とその長官であることを名乗っていただきます」


「ほほう、それは面白いな。つまり、わが子爵家も裏の探索面ばかりでなく、表の外交面も強化するということだな。そしてザカリー様は、王都とグリフィニアの両方を行き来して、その長になられると。これは例えば、辺境伯家でのベンヤミン殿と同じような立場か」


 早速にクレイグ騎士団長が面白いと反応した。うちのおじさんたちは、こういうのが好きだからなぁ。


「ああ、クレイグ。表面上はそうなのだが、ベンヤミン殿と違うのは、裏の調査探索でもザカリー様が長であって、ファータの探索者を統べるということだ。そして更には、独立小隊もある」


 辺境伯家の場合の調査探索局はエルメルお父さんが実質的な長で、名義上は家令のフリードリヒさんがトップだから、現在のうちと基本的に同じだ。


「すると、外交、調査探索、工作及び戦闘と、独立してかなりの行動が出来るということだな。これはますます面白い。それでウォルターとミルカさんの立場は?」


「ミルカさんには探索部の部長になって貰う。それで私は、名義上は外交部の部長で、まあザカリー様の補佐役だな。あと、会計関係と総務関係と雑務か。なお、ここら辺は、エステル様にもお手伝いいただくことになった」


「なるほどなるほど。それでジェルメール騎士たちの独立小隊の立場は?」


「組織上は調査外交局に所属して貰い、予算もこちらから出す。ただし、見かけ上も実質的にもこれまでと同じく、ザカリー様直属の部隊だな。騎士団の別働部隊というかたちだ。それでどうだろうか、騎士団長。それからジェルメール騎士も、意見があったら言って欲しい」


「つまり、姿かたちは騎士団でザカリー様直下の部隊。ただし、調査外交局の仕事で動くということか」

「調査外交局の仕事と言っても、ザカリー長官の指令によってだがな。ジェルメール騎士はどうですかな」


「お話は理解いたしました。その上で、これまでと大きく変わりはないと認識します。独立小隊レイヴンの予算面も、エステルさまからいただいておりましたので、そこも問題は何も無いかと。ひとつお尋ねするとすれば、騎士団との連携、騎士や従騎士の立場、それから今後の人員について、などでしょうか」


 ジェルさんの質問は、彼女からすればそうだよね。

 特に、自分たち騎士や従騎士が調査外交局に所属した場合は、どういう立場になるのかというところだ。



「そこは、俺が答えた方がいいな、ウォルター」

「はい、お願いします、子爵様」


「うちの騎士や従騎士は、そもそもがグリフィン子爵家の騎士であり、従騎士である。つまりだ、どこに所属していてもそれに変わりは無いということだ。騎士爵位も同様だな。俺が叙爵し、俺とザックが任ずる。そこはいいかな?」

「はっ」


「ただし、ザックの指示する仕事は、どの騎士団員でも出来ることではないと、俺もそう思っている。なので、騎士団からは独立していた方が良いだろうという考えだ。あと、騎士団との連携や今後の人員についてだが。まず、騎士団との連携に関しては、本来は直属の上司であるザックからの指示ということになるが、そこはジェルさんが隊長として、クレイグやネイサン、アビーと直接相談してくれ。こいつはそういうのが苦手そうだからな」


「ははっ。そこはそのように。問題ありません」

「エステルの意見を聞くのはいいぞ」

「それはもちろんです」


 そうですか。そうですね。そうしてください。カァ。


「あと、今後の人員についてだが、フォルとユディと同じだと考えてくれ。要するに、独立小隊員として向いていて、その素養があると認めた者がいれば増員するのは構わない。ただし、こちらについてはザックの判断が重要だ」


「はい。それはそうだと、わたしも認識します。普通の騎士団員では、ザカリーさまのもとで務めるのが少々難しいですから」

「ジェルさんがそう言うのなら、そうなのだろう。そこは任せる」

「ははっ」


 ああ、そこは俺もそう思うし、自覚もあります。そうですね。そうしてください。カァ。



「ねえ、それでさ、ザックがその長官殿になるのは、いつからなの?」

「この場で皆が同意するなら、いまからだ」


 へっ? いまからですか、子爵様。母さんもウォルターさんとミルカさんも、それからエステルちゃんも納得済みなんですね。

 学院の卒業後ではないのですか。そうですか。カァ。


「はい、賛成」

「私もアビー様と同じく、諸手を挙げて賛成ですぞ」

「もちろん賛成です。異論などありません」


 姉ちゃんが間髪入れず賛成と言い、クレイグ騎士団長とネイサン副騎士団長がそれに続いた。

 ああ、そうですか。そうなんですね。カァ。

 念のために、カリちゃんにも聞くけど。「(何を言ってるですか)」そうですか。


 ということで、ただいまから俺は、グリフィン子爵家調査外交局の長官になりました。

 自分から口火を切ったことだけど、あれよあれよでそうなったのでありますな。


「(そうしたら、ヴァネッサ館の増改築計画も少し手を入れて、長官室を造らないとですよ)」

「(あら、それはそうね。王都屋敷の方はどうしようかしら。あっちはザックさまのお部屋が広いから、執務室と兼用でいいかしらね)」

「(それで大丈夫だと思いますよ。地下拠点の方には司令官室がありますし)」

「(カァカァ)」


 はい、そうですね。そうしましょうか。




 この会合のあと、ジェルさんの意向もあって急遽レイヴンのメンバーを招集した。

 昨日は領都警備の巡回で出ていたので、今日はみんな子爵館内にいるのだそうだ。


 それで集合場所は、ヴァネッサ館西館の玄関ホールラウンジ。増改築予定の場所ですな。

 アデーレさんとエディットちゃんを除く王都屋敷の全員が集合して、ユルヨ爺ももちろんいる。

 あと、ウォルターさんとミルカさんも参加してくれた。


「なあにー。もう増改築作業を始めるのー?」

「なんだか違うみたいですよ、ライナ姉さん」


「皆に集まって貰ったのは他でもない。ザカリーさまと、われら独立小隊レイヴンのことについての重大な案件だ」


「えー、ジェルちゃん、なにー? レイヴン解散とかじゃないわよねー。そうだったらわたし、冒険者に戻っちゃうわよー」

「ライナ姉さんは、グリフィン建設とかショコレトール工房って手もあるけど、わたしはどうしよう。騎士団辞めて、戦闘専門の侍女さんにして貰おうかなぁ」


「ライナもオネルも静かにしろ。そうではない。逆だ」

「逆って、なによー」

「ライナ姉さんも魔法侍女さんってことですか?」

「あー、煩い。ザカリーさま、お願いします」


 ライナさんはともかく、いつも冷静なオネルさんも必要以上に反応している。

 俺が今年の暮れに学院を卒業するというところから、お姉さんたちにも不安があったのかもね。

 アルポさんやエルノさんなども、「どういうことだ」と話している。



「新年早々で集まって貰い、ありがとう。今年もよろしくお願いします」


 俺が口を開くと、全員が静かになった。


「みなさんには不安を感じさせていたのかも知れませんが、王都屋敷と独立小隊レイヴン、そして僕自身のこれからについて、昨日と本日、話し合いが行われ、つい先ほど決まりました」


 ライナさんが何か言おうとして、でも我慢したのか声は出さなかった。

 それで俺は、先ほどの会議で決まった内容を皆に説明する。


「ということで、父さん、子爵閣下の決定により、ただいま本日よりこの組織改変が実施されることになりました。なお、基本的にはレイヴンの立場や仕事に変わりはありません。また、僕が学院を卒業したあとの来年以降も、同じかたちで行くつもりです。以上であります」


 みんなは何かを言いたげに顔を見合わせたり、俺の方を見つめたりしていた。

 ラウンジに静寂が流れるが、一様にホッとはしている様子だ。


「つまりザカリー様は、ただいまからその調査外交局の長官になられて、自分たちレイヴンはこれまで通り、ザカリー様の独立小隊として配下のままでいいのでやすな」


 誰も何も言わないので、ブルーノさんが確認するようにそう口を開いた。

 おそらく皆も理解したのだろうが、この決定をあらためて全員がしっかり飲み込むために、敢えて言葉にしてくれたのだろう。


「うん、ブルーノさん。昨日今日で、あっという間にそうなっちゃって、じつは僕もいささか戸惑っているんだよね」

「はははは。ザカリー様が戸惑うとは。最近はどうも、そういうことが続きやしたな。でもこれで、いろいろうまく納まるでやしょう」


「これも風の大きな変化よの、ブルーノさん。要するに、グリフィン子爵家のザック様直属の配下が、すべてザック様の直下に納まって、かつその背後におる全ファータもそう納まったということだな。それでいいのだろ、ウォルターさん、ミルカ」


「そうですね、ユルヨ爺。ザカリー様がそうしたいとおっしゃっていただきましたので、表の組織もうまくカタチを作ることが出来ました」

「ですね。ザカリー様は、表の対外的には子爵家の外交を担われ、裏側では調査探索を統べる御方と、正式になられました」


「そして、レイヴンという工作戦闘の実行部隊も、しっかりお持ちになる訳だな」

「これはいよいよ面白いことになったぞ」


 普段は黙って聞いていることの方が多い、うちの男衆がそう発言する。

 アルポさんの言う、レイヴンが工作戦闘の実行部隊というだけではないのだけど、この爺さんたちの認識としてはそうなのだろうね。


 まあ前々世の世界で言えば、情報機関が持っている武力行使を行う特殊部隊に近いという側面はあるよな。

 その情報機関が、外交活動も担うという訳だ。



「そういうことだ。理解したかライナ、オネル。フォルとユディもいいな? なんだ、ライナは何か言いたいことがあるのか? 静かにしてると気持ちが悪いぞ」


「あのさー、わたしたちって、表面的にはこれまで通り騎士団員のままでいいってことだけどさー。この際だから、制服とかも独自のものを作っちゃうとか、ありよねー」

「あ、それって、いいかもですよ、ライナ姉さん。可愛くて格好いいやつ」


「わたしもそれ、着ていいですか?」

「カリちゃんもいいわよねー、エステルさまー」


 あ、そこですか。ライナさんの発言で、いっぺんに場の空気は揺るんで、男たちはやれやれという表情になった。

 でも、いまのうちの騎士団の女子用の制服だって、他の貴族家の騎士団に比べるとなかなかいいと思うんだけどな。


「お母さまにも相談しますけど、作っちゃいましょうかね。わたしも着ますし。あ、予算の問題がありますよね、ウォルターさん」

「ふふふ。エステルさまがご決定になるのなら、予算は私の方でなんとかしましょうかな」


「おー、これって決定よねー。ねえジェルちゃん」

「ライナ、おまえ、気にするところはそこか」


「なに言ってるの、ジェルちゃんは。やることは一緒でも、見た目って大切なのよー。特に表の顔なんだから。それで裏の仕事だと、昔にエステルさまが着ていた戦闘装備。あのぴちぴちのを、わたしも欲しいなぁー。ジェルちゃんとオネルちゃんも着ましょ。ユディちゃんとカリちゃんもね」


 エステルちゃんは最近ほとんど着用しなくなったけど、身体特に下半身にぴったりフィットするあのファータの戦闘装備だよね。

 ファータの里近くに棲息する森大蜘蛛の非粘着性の糸で作られる、強度と伸縮性、吸水性に優れた生地で作られているんだよな。


 うちの女性たち全員であれを着るですか。そうですか。

 なんだかライナさんと、人化魔法に少しずつ手を加えて体型を整えているらしいカリちゃんは、特に危険な気がするけどなぁ。カァカァ。


 ともかくも、独立小隊レイヴンの全員は本日の決定を受入れてくれた。

 女性陣は顔を寄せ合って、制服の話で盛り上がっているけどね。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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