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第731話 地下拠点で王都ファータ集会が始まる

 いつの間にか11月に入った。今年の学院生活もあと1ヶ月余りだ。

 本日11月5日は、エーリッキ爺ちゃんたちからお願いされた王都ファータ集会の日。

 予定では午後一に、王都や周辺の王都圏内にいるファータの人たちがナイアの森の地下拠点に集まる。


 午前中の早い時刻には、レイヴンの男衆が先発部隊として出発した。

 彼らは先に現地に行って拠点の入口を開けて状態確認をするとともに、集まって来るファータの人たちをいくつかのポイントでチェックしながら誘導する役目だ。


 ティモさんとアルポさん、エルノさんのファータ3人が中心になって動き、ブルーノさんが指揮を執りながらフォローする。

 今回からフォルくんも男衆の一員として加わっており、またブルーノさんから請われてクロウちゃんも参加している。


 そして、ユルヨ爺も先発部隊に入るとブルーノさんに願い出た。


「ファータのことだから、もちろんわしも率先して働かんと。それに、わしはもうお客さんではなく、ザック様の配下だと思っておりますでの。いえ、現場ではブルーノさんに指揮下に入りますぞ」


 どうも俺に関わりを持ったお年寄りたちって、何かと俺の配下だと主張したがるんだよな。

 爺様たちに信頼されているのだと思えば、それでいいのかも知れないけど。

 ともかくも、この先発部隊の6人と1羽が出発して行った。



 屋敷の留守番はエディットちゃんとアデーレさん、それからシモーネちゃんに任せ、残った後発の者たちもお昼前には到着予定で出発する。


 エーリッキ爺ちゃんとカーリ婆ちゃん、シルフェ様とシフォニナさん、そしてエステルちゃんを馬車に乗せ、御者役はユディちゃん。

 俺は黒影に跨がり、お姉さん方3人と騎乗で行く。アルさんとカリちゃんは飛んで行きました。


 チェックポイントとしているのは、ナイア湖畔に伸びる道の途中で隠された迂回路に入る場所。

 そしてトンネルへの導入路に至るナイアの森の入口と、導入路への入口だ。

 このふたつのポイントは直ぐ近くだが、導入路入口を一旦の集合場所としている。


 俺たちの一行が森を北方向に巡る迂回路への入口に着くと、木陰からティモさんが姿を現し、上空からクロウちゃんが降りて来た。

 まだ集合予定時刻までは時間があるが、念のためにポイントを確認していたそうだ。


「昼過ぎからはエルノさんも合流して、私とふたりでチェックと誘導をします。クロウちゃんは空から見張りながら、もし行き先を外れるような者がいた場合は、注意を喚起して知らせる役目ですね。尤もファータの者なら、そういう者はいないと思いますが、万が一余計な者が潜入しようとした場合の備えでもあります」


「われらからも誰か置くか?」

「いえ、ファータ同士なら直ぐにわかりますので、ここはエルノさんと私だけで大丈夫ですよ」


 事前の打合せでそう決めていたのだが、いちおうジェルさんが女性たちのうち誰かを加えるかを尋ねた。

 まあそうだよね。本人確認の意味合いもあるし、ファータの人かどうか見知っていないとだ。


 西の里のファータはティモさんも面識が無いそうだが、エルノさんは識っているらしい。

 北の里出身者はもちろん全員が顔見知りだ。


 あと可能性はほとんどないと思われるが、もしもファータの者がここまで尾行されていたなどの場合にも備えて、クロウちゃんが上空から監視する訳だ。

 それ以外では、ファータの人間が道に迷うということはないだろうけど、念のためだね。


「お昼を持って来ましたから、あとでいったん引揚げてくださいね」

「はい、エステル嬢様」「カァ」



 外側を迂回して森の入口から導入路へと入る。

 トンネル入口へと下る坂道の手前にブルーノさんとユルヨ爺がいて、何かを話していた。


「ご苦労さまでやす」

「ブルーノさん、ユルヨ爺、ご苦労さま。ここが集合地点ですか」

「そうでやすね。いま、アルポさんとエルノさんが、念のために周辺の森の中の確認に行っていやす」


「ふたりが戻って来たら、早めにお昼にしますから、食堂ラウンジに来てくださいね。フォルくんは?」

「フォルは、食堂ラウンジの会場づくりを先にやっていやすよ、エステル様」

「あらあら。そうしたら、わたしたちも行って手伝わないとね」


 エーリッキ爺ちゃんだけ降りて、馬車とお姉さんたちは先行してトンネルへと進んで行った。

 爺ちゃんはこの場の確認だね。


 ここで今日集まって来る人たちをいったん集合させて、あらためて本人チェックと人数や出欠の確認を行い、集合予定者が揃ったところでトンネルを通って地下拠点へと案内する段取りとなる。


 森の入口でアルポさんにフォルくんが手伝ってチェックと誘導を行い、この集合場所で最終的にユルヨ爺が確認を行うことになっている。

 ブルーノさんは全体の指揮者として、ここに陣取って見守るそうだ。


「それで問題無いと思いやすが、念のための警備にオネルさんとライナさんも、ここにいて貰いやしょうかね。ジェルさんは地下拠点の方で」

「そうだね。そしたらお昼のときに、最終確認をしよう」


「わしもここにいた方がええかの」

里長さとおさは、ザック様たちと拠点で待機しておってくだされや」

「そうかのう」


 爺ちゃんもかなり久方振りのこういった現場で、自分も何かがしたいらしいけど、総帥はどんと控えておけとユルヨ爺から言われていた。

 俺もいつも何もさせて貰えないので、爺ちゃんの気持ちは良く理解出来ますよ。




 早めの昼食を終えて最終的な段取り確認を行い、男衆は各持ち場へと出掛けて行った。

 ブルーノさんの指示通り、オネルさんとライナさんも集合場所へと行く。


 この地下では、前室区画の玄関前でエステルちゃんとカーリ婆ちゃんにジェルさんとカリちゃん、ユディちゃんの女性陣が待機して皆を出迎え、会場である居住区画の食堂ラウンジまで案内する。


「じゃあ、僕も」と最終確認時に俺が声を出したら、会場で待機していろと皆から言われてしまいました。


「全員がザック様の配下なのだから、統領が出迎える必要はありませんぞ」と、ユルヨ爺。

「そうじゃ。出迎えるならむしろわしじゃが、わしもここじゃから、ザック様はシルフェ様方と控えておいてくだされ」と、エーリッキ爺ちゃん。


 そうなのかなぁ。俺はいちおうこの拠点の管理責任者なので、外から初めて大勢の人たちが来るのを迎えなくていいのかな。

 それにユルヨ爺の発言は、少々言い過ぎだと思うのだけど。


「あなたは、そうしていればいいのよ。わたしの義弟おとうとなのだから、ファータ族は言ってみれば、あなたにとっても眷属だし」と、シルフェ様。


 え、それは更に言い過ぎでしょ。

 そうしたら、エステルちゃんはシルフェ様の妹だから。そう俺が口にすると、「エステルはわたしの直系だから、子であり孫であり子孫であり、妹なの」なのだとか。


 そのフレーズはシルフェ様が良く言うことなので、まあそうなのだとしてさ。

 どうもその辺の立ち位置の整理が、俺にはうまくついていない。



「(ねえ、アルさんなら客観的に見て、どう思う?)」

「(それはあれじゃろ。アマラさまとヨムヘルさまが、ザックさまのことを息子って呼ぶところに関係しておるのじゃろうて)」


「(そうですよ。つまりぃ、ザックさまは所謂、神さまの子の位置づけなんですから。それでシルフェさまは、アマラさまとヨムヘルさまの娘さまですから、そのシルフェさまの義弟おとうとになった時点で、人間であるファータはザックさまの眷属になる訳ですよ)」


 うーん、カリちゃんの言うことは理解出来るようで納得がいかない。


「(そんな感じですよね、師匠)」

「(そうじゃな。そういう認識で良いじゃろうて)」

「(え、でもさ、アルさん、カリちゃん)」


「(ほら、そこでごちゃごちゃお話してないで、もうとっくにみんなは持ち場に行きましたよ。直ぐに予定時刻になるんですから。わたしも玄関前に行きますからね。ここで大人しくしてなさいね)」

「(はーい)」

「(はいです)」


 念話でドラゴンのふたりと話していたら、エステルちゃんに叱られました。

 彼女にとって今日のことは、ファータの一族とグリフィン子爵家とを繋ぐ大切な集まりという認識があり、両方の立場を持つ者としての責任感が強くあるのだろう。


「ほら、ザックさまが余計なこと言い出すから、エステルさまに叱られちゃったですよ」

「でもさ、カリちゃん」

「あ、わたしも行かないと」


 カリちゃんはエステルちゃんの後を追って、足音も無く出て行った。


「うん? エステルにいつ叱られたのじゃ?」

「あ、何でもないですよ、爺ちゃん。大人しく待機してましょう」

「そうか、そうじゃな」


 聞いていなかったようで、念話なのでしっかり聞こえていたシルフェ様とシフォニナさんが笑っておりました。




 そろそろ開始の時刻になるなと思っていたら、この食堂ラウンジに続く廊下の方からざわめきが聞こえて来た。


「はいはい、そこで立ち止まって躊躇してないで、さっさと入ってくださいな」

「しかし、エステル嬢様」

「こちらに入っていいのでしょうか、嬢さま」


 ああ、案の定、そんな感じですね。

 俺たちはもう普段からほとんど気にしていないが、シルフェ様の風の精霊の存在感が、この食堂ラウンジの中から廊下の方にダダ漏れなのですな。

 他の種族ならともかく、精霊族のそれもファータなら敏感以上に感知する。


 やがて、ひとりずつエステルちゃんに背中を押されるようにして、ファータの人たちが入って来た。

 しかし入っては来るのだが、皆がその場で片膝を突いて畏まるものだから、入口近くで詰まっちゃいますよ。


 シルフェ様たちは会場の奥でこちらを向くかたちで座っているので、彼女らと爺ちゃんはそのまま座って貰って、俺はひとり会場入口へと足を運んだ。


「ようこそいらっしゃいました。さあ、席を用意していますので、立ってこちらから順番に座ってくださいよ」

「あ、これは」

「ザカリーさま、ですね」

「は、はい」


 みなさん、俺の顔を知っているんですね。さすがは王都にいるファータの探索者のみなさんだ。


「おいっ、さっさと入って、席に着かんか。ザック様とエステル嬢様に手間をかけさせるなっ」

「あ、ははっ」


 廊下の方からユルヨ爺の雷声が飛んで来た。

 その声で、皆が速やかに席に着き始める。ファータ最長老の一喝は良く効きますな。



「皆の者、揃ったな」

「はっ」

「ではこれより、ここセルティア王国王都におる、わが一族の集まりを始める」


 ユルヨ爺が司会進行役でこの集会を進めることになっていた。


 今日この場に来て集まったのは23人だね。男女比は半々といったところかな。

 皆がどこかの貴族家か大きな商会の仕事を受けていて、その業務の一環として王都や王都圏の三公爵領に来ている者たちだ。


 ああ、辺境伯家の調査探索局からはマイラさんが来ていたんだね。

 彼女は、ヴァニー姉さんの結婚式の件でベンヤミンさんとうちに来て王宮にも一緒に行っているし、結婚式のときにも会っている。

 今日来たファータの中で唯一、精霊様と会っている人だ。


 あと、外リンク内の南地区で、繋ぎや連絡窓口のカモフラージュとして食堂を経営して、王都に常駐している人も来ているようですな。


 その人たちが正面に向いて並べられた椅子に座り、相対するようにエーリッキ爺ちゃんとカーリ婆ちゃんの総帥夫妻が座る。

 そしてシルフェ様とシフォニナさん、それから俺とエステルちゃんも並んで座り、ユルヨ爺は少し離れて下手の司会進行席だ。


 アルさんとカリちゃん、それからレイヴンの9名は、ファータの皆の席の横に彼らの方を向いて席を並べて座っている。


 なお、ドラゴンのふたりをシルフェ様の横に並べなかったのは、精霊様に加えてドラゴンまで揃っているのを集まった皆に知らせると、必要以上に混乱するだろうという配慮のためだ。

 それでアルさんは執事然と澄まし顔で、カリちゃんは侍女姿でにこやかに座っている。クロウちゃんはカリちゃんのお膝の上だね。



「それでは、里長さとおさからひと言。お願いする、里長さとおさ


「うむ。皆の者、良く集まって貰うた。わしとカーリと、ユルヨ爺が久方振りに里を出て、この王都に来たのでな。せっかくの機会じゃから、皆々忙しい中をこうして集まって貰った訳じゃが、今日は何もこの爺と婆の顔をわざわざ見せるために、この場を設けたのではない。というのはもう、言わんでもわかっておるじゃろうがな」


 こうして挨拶の言葉を述べている爺ちゃんを見ると、やはり総帥なんだと思わせる貫禄があるよな。

 その爺ちゃんの言葉で、皆は恐る恐るシルフェ様の方を伺っていた。


 爺ちゃんの挨拶のあとはシルフェ様からもお言葉をいただき、ついでに俺もこの地下拠点のこととかを話す予定なのだが、どうもさっきの俺の立ち位置についてが気になるんだよなぁ。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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