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第730話 訓練の続き、そしてファータからのお願いごと

 ジェルさんに怒られて素振りをしろと言われたあと、午前中は結局、剣術の訓練になりました。

 怒られる原因を作ったライナさんは珍しく神妙に、そしてカリちゃんは面白そうにわりと積極的に木剣を振っていた。


 ライナさんは冒険者時代に、同じパーティだった剣士の人に剣術をかなり仕込まれていたそうで、やれば結構強いんだよね。

 学院生のレベルだとおそらく相手にならないだろう。

 そう言えば夏の合同合宿で、誰かの相手をしたことがあったよな。


 一方でカリちゃんの方は、彼女が木剣を振るのを俺は見たことなかったのだけど、王都に来てから人化魔法の安定化訓練の一環として剣術も取り入れていたのだそうだ。

 なので、基本の動作はちゃんと出来ている。


 ただ、実際の戦闘となった場合に、人間の姿で剣術をする必要があるのかどうかは疑問だけどね。

 でももし対人戦があった場合には、正体を隠すカモフラージュにはなるか。


 それからユルヨ爺も訓練場に来て、双子の兄妹とソフィちゃんの訓練を見てくれていた。

 一方で俺は久し振りに、ジェルさんとオネルさんと木剣を合わせる。

 カリちゃんはティモさんとライナさんとやっていましたな。



 ということで午前中は、重力魔法によって飛ぶための練習は進まなかった。

 午後はアルさんもやって来て、双子とソフィちゃんの魔法訓練の時間となる。

 ライナさんとカリちゃんの姉妹弟子はそれをサポートし、通常は彼女らも自分たちの魔法研究と訓練という流れなのだが。


「それじゃザックさま、朝の続きですよ。お人形にしますか? それともぴょんぴょん?」


 お人形とかぴょんぴょんとか、俺は幼児ですか。

 カリちゃんの言うぴょんぴょんて、ジャンプと同時に重力魔法を自分に掛けるやつだろうけど。


「そしたらー、自分の土人形を作って、そこに乗って土人形に魔法を掛けるところから始めるってどおー?」

「おお、ライナ姉さん。それいいかもですよ」


 自分の姿の等身大の土人形に、俺が跨がるですか。

 いやいや、その姿を想像しただけでおかしいでしょ。

 確かにそれなら、物体である土人形を浮かすことは出来ると思うけど。

 でも俺の姿に似せた土人形である必要はないと思うし、練習としてなんか違う気がするし。


「却下」

「えー、どうしてー」

「そしたら、大きめの土人形を作って、中をくり抜いてその中にザックさまが入るとか」

「却下です」


 それって、なんとかロボみたいなことですかね。もう趣旨が違って来てますよね。

 ゴーレムとかに関心が無い訳ではないけどさ。


「なにをわぁわぁやっとるんじゃ。ザックさまなら普通に立って静止した状態で、自分を浮かせるイメージで魔法を発動すれば、自然に重力魔法が自分に掛かるじゃろが。そもそも重力魔法とはただの名称であって、作用した結果が重力魔法なのじゃから」


 こちらが煩いので、アル師匠が見かねてそう教えてくれました。

 そうか。重力魔法という名称に囚われるのではなく、自分が浮くという状態を具現化させれば、それも結果的に重力魔法ということなのですな。


 そう言えば朝に、既にカリちゃんがヒントを出してくれていた。歩くのと一緒だって。

 自分が歩いたり走ったりするときに、いちいち歩行とか走行とか名称に拘って行動に移したりしないよな。


 それを身体の行使ではなく、魔法の行使として行えばいい訳だ。

 アルさんやカリちゃんは、地面から身体を浮かせて歩くように移動することも出来るしね。



 それから、ライナさんとふたりで自分を浮かせる練習をした。


 カリちゃんは危険が無いと判断したのか、それとも自分がすることがないので、火魔法などの訓練を終えたソフィちゃんに回復魔法の練習をさせていた。

 フォルくんとユディちゃんは仕事に戻り、アルさんは「そろそろ午後のおやつじゃろか」とクロウちゃんと屋敷に引揚げている。クロウちゃんはただ暇で飽きたからだな。


 そして午後も3時を回り、俺は地上から50センチほど浮いて暫く静止するところまで来た。

 ライナさんもそれよりは低いが、同じように出来ている。


 初めは数センチばかり浮いて着地し、それから高さと空中静止時間を延ばす。

 出来たときには意外と、ああ浮くんだと思っただけだった。

 ライナさんが成功したときには、「浮いたわよー」と煩かったけどね。


 だが50センチ以上の高さまで浮かせていないのは、不可能ではないけどおそらく精神的なものがマイナスに働いているのではないだろうか。

 肉体のバネを使っていない身体活動の不安定さというものかな。


 普通に上に跳躍して着地だったら身体にその動作が染み込んでいるので、4、5メートルの高さまでブーストさせて跳ぼうが、少しも怖くはないんだけどね。

 その辺は、俺から少し離れて同じことをやっているライナさんも同じだろう。

 特に彼女は、高いところがそれほど得意ではないし。


 俺たちが浮いたときにはカリちゃんとソフィちゃんも見に来て、ソフィちゃんの方は酷く驚き、カリちゃんは当然ですという表情で、それでもパチパチと拍手をした。


「でも、これでようやく第一歩ですね」

「そうなんだよね。これからだ」


「あのあの、ライナ姉さんもお空を飛ぶんですか?」

「わたし? わたしは怖いからやめとくわー。同じように出来るのかどうか、頑張ってみただけよー」


 ソフィちゃんが尋ねるとライナさんはそう答えた。

 それを聞いたソフィちゃんは、「えー、すっごく勿体ない。だったらわたしが」とか言っておりましたな。


 なんとなくこの子だったら大丈夫そうな気もするけど、その前に貴女あなたは相当の魔法の鍛錬を積まないとですよ。

 こんな人だけど、ライナさんが土魔法で達人級の魔法力を持っているのを、忘れてはいけません。



 今日の練習はここまでで終了とした。

 エステルちゃんをはじめ皆からも成果を聞かれたので、いちおう報告する。

 爺ちゃんたちやはり驚いていたけど、シルフェ様は「ザックさんでも、苦労することがあるのね」と違うところで感心していた。


「あなたなら、風魔法でも空に浮けるでしょ?」

「ええ、僕もそうは思うんですけど、やっぱり……」


 そう言えば夏の合同合宿での模範試合で、エステルちゃんが空中に跳び上がった際に、キ素力のブーストと同時に風魔法を遣って、空中での動きを変化させるのをやっていたよね。

 あれを更に応用すれば滞空時間を延ばせそうだし、一定の飛行も可能かも知れない。


 でも俺としては、空中に浮遊した状態での機動戦闘や、更に言えば高高度や高速での飛行などにも挑戦したいんだよな。

 その場合はやはりドラゴンのように、重力魔法での浮遊が有利だと思う。

 クロウちゃんもそれで自然に飛んでいるしね。カァ。




 夕食を終えてラウンジで寛ぐ。

 エーリッキ爺ちゃんとカーリ婆ちゃん、ユルヨ爺の滞在も既に1ヶ月となって、もうすっかり王都屋敷に馴染んでいる。


 カリちゃんも同じ孫娘のように、普通に爺ちゃんたちと会話しているところも冷静に考えると妙なのだが、まるで家族の日常のような自然さだ。

 カーリ婆ちゃんはシモーネちゃんを凄く可愛がっている。

 こちらも風の精霊っ子と考えると不思議な情景なのだが、シモーネちゃんは素直ないい子だからね。


「ザック様、少々お願いごとがありますのじゃが」

「うん? なんですか、爺ちゃん」


「エステルにはもう話したのじゃが」

「はい」

「先の地下拠点を使わせていただくという件での、いちど王都にいるわしらの一族の連中を集めたいのですがの」


「つまり、地下拠点を見せると?」

「はいですじゃ」

「この王都に里長さとおさが来ていて、まったく顔を見せんというのもいかんでな。それで、折角ならあの地下拠点を使わせていただいて、一族の者を集めようかと」


 ユルヨ爺が補足してくれたけど、そういうことですか。

 爺ちゃんたちが王都に来ていることは知っているのだろうけど、まったく顔を見せないというのも総帥としてはなんだし、一族を集める場に地下拠点を使うことで共用の件も知らしめたいということだね。


「ええ、それはいいですよ。エステルちゃんと、ジェルさんやブルーノさんと相談していただければ」

「それはそうなのじゃが、出来ればその、ザック様と畏れながらシルフェ様方にもお顔を出していただけぬかと」


 ああ、先のヴァニー姉さんの結婚式のときにも、辺境伯家の調査探索局に勤めるファータのみなさんと顔合わせをしたよな。

 ああいう感じのことを、この王都でもしたいということか。



「シルフェ様は?」

「ザックさんがいいなら、わたしたちの方はいいわよー」

「おひいさまも、もう隋分と顔を出しちゃいましたし、うちの一族ですからね」


 これまで何百年だか何千年だか、眷属の一族とはいえその姿を見せることがなかったらしいシルフェ様だが、ここに来てシフォニナさんの言う通り、隋分と顔を見せちゃっているよな。


「わかりました。僕ももちろんいいですよ。でも、そうすると学院がお休みの日になっちゃいますけど」

「それはもちろんじゃよ。出来ましたら次の休日に。1日目の方が良いじゃろな」

「そうした方がいいって、わたしが言ったんですよ」


 エステルちゃんがそうアドバイスしたのか。

 2日目はソフィちゃんが屋敷に来るけど、さすがに彼女をファータの探索者の集まりには連れて行けないよな。

 これは彼女に隠すというよりも、グスマン伯爵家の四女である彼女を無闇に巻き込まないという配慮だろう。俺もそれには賛成だ。


「了解です。それでいいですよ」

「そうか。ありがとうございますじゃ」


 爺ちゃんはそう言ってユルヨ爺と頭を下げた。少し離れて座っているカーリ婆ちゃんも頭を下げている。



「それで、何人ぐらい集まるんでしょうかね」

「おお、そうじゃな。どんなものじゃろうか、ユルヨ爺」

「そうですな。このお屋敷におる者を除きますと、現在のところは20人ほどですかな。もしかしたら、周辺の貴族領に入っている者らも来て、もう少し増えるやもですがな」


 そんなにいるですか。

 各クライアントに派遣されて、そこの仕事で王都に来ている人たちやら、あとは常駐している人かな。

 周辺の貴族領からというと、王都圏内の三公爵領に潜入している者たちだろうか。


「うちからはレイヴンが全員行くんだよね、エステルちゃん」

「そうですね。ジェルさんにはまだ話してませんけど」

「すると、ぜんぶで40人ぐらいにはなるかな」


「全員が顔を合わせるなら、食堂ラウンジの方が広いですね。あそこをお片付けして椅子を並べれば」

「そうだね。では、そうしようか」


 こうして、王都及びその近くにいるファータの探索者たちとの顔合わせと集会を、次の休日の1日目にナイアの森の地下拠点で行うこととなった。

 集まって来る探索者たちとの連絡や確認などは俺の与り知らぬところだが、いったんどこに集合して貰うかなどの段取りは、ティモさんを中心に行われるだろう。



「全員がユルヨ爺のお弟子さんなんですかぁ?」と、カリちゃんが尋ねる。


「ほとんどがそうだの。しかし、西の里の出身者なんぞも来るだろうから、全員ではないですぞ」


 あ、そうなんだ。

 エーリッキ爺ちゃんたちのところが北の里で、西の里はユリアナ母さんやその妹であるセリヤ叔母さんの出身地だ。

 ミラジェス王国内にあるらしいから、もの凄く遠いということではないのだろう。

 探索仕事の関係で、この隣国の王都まで出張って来ている者もいるのだろうね。


 シルフェ様の妖精の森を中心に置いて、その東西南北にファータの隠れ里があるとすると、南は商業国家連合の更に東辺りになるだろうか。

 オイリ学院長の出身地であるエルフのイオタ自治領というところが、商業国家連合の東のそれほど遠くない場所にあるそうだが、そことの位置関係はどうなのだろうか。


 あと、まったく話題に上らないのが東の隠れ里だ。

 単純に地理的な想像からすると、俺が勝手にニンフルステップと呼んでいる大草原地帯の北辺にあるような気がするが、周辺に国家とかが無いと探索者の拠点としては難しそうだ。



 あまり聞いてはいけないかも知れないが、この際だから総帥のエーリッキ爺ちゃんとユルヨ爺に尋ねてみた。


「東ですかな。まず西は、ご想像の通りミラジェス王国内の内陸。南は商業国家連合の東で、ザック様の言うエルフどものそのイオタ自治領よりも北にあり申すな。あやつらの自治領とやらは、南のメリディオの海沿いじゃからな」


 なるほどね。俺は頭の中でざっくりと位置関係を思い浮かべる。

 ここセルティア王国はニンフル大陸の西の端で、ティアマ海に面している。


 そのティアマ海に沿って、セルティア王国の南がミラジェス王国。その南が商業国家連合。

 そこで海は南へと続き、メリディオ海となる。

 だから商業国家連合は西にティアマ海、南にメリディオ海と二方向が海に面している訳だね。

 商業と冠する名称の通り、船貿易が盛んなことも良く分かる。


 そして、その東にエルフのイオタ自治領が、メリディオ海沿いにあるのだそうだ。

 ファータの南の里はその北にあるという訳だね。


「それで、東じゃがな。あそこは本当の隠れ里と言うか、探索仕事はやっておらんのじゃよ。わしも若い時分にいちどきり行ったぐらいでな。ユルヨ爺はどうじゃったかな?」


「ああ、わしも何度かだな。そもそも交流自体が少ないでな。いちおうはこの里長さとおさの傘下にはあるが、探索仕事はせずに牧畜や狩りと僅かな交易で、ほとんど自給自足でやっておる里だ」


 ふーん、そうなんだね。

 シルフェ様やシフォニナさんは良く知っているのかもだが、あのお二方はもう眠くなって自室に引っ込んでしまっている。

 こんど折をみて聞いてみようかな。


 ともかくも次の休日は、王都フォルスにいるファータの探索者の集会だ。

 どんな集会になるのか、シルフェ様が行くのでなんとなくは想像出来るが、まあ楽しみだよね。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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