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第729話 重力魔法訓練

 王都屋敷の訓練場の拡張工事を行った翌日の午前中、植え替えたカシの木の状態を見つつ、これからの訓練の構想を練ることにした。


 今日も朝からソフィちゃんが来ていて、屋敷で皆に挨拶して着替えをしたあと俺に付いて来ている。

 あと今日はカリちゃんも午前中から一緒だね。


 特に何も予定の無い日は、うちの訓練場では午前中が剣術の訓練時間で、午後は魔法の訓練時間とだいたい分かれている。

 なので、カリちゃんの場合は午前中に屋敷の仕事をして、午後から訓練場というのが普通だ。


 だが今日は、俺がいきなり危ないことをしないように一緒にいてと、どうやらエステルちゃんから頼まれたらしい。

 まあ監視役兼サポート役ですな。俺が子供のときからそれをしているのはエステルちゃんだが、近年は適材適所で誰かに頼む場合が多い。


 あと朝食のときにティモさんにも頼んでいたようだが、うちの男衆は何かと俺に甘いという認識なので、いちおうというところだろうか。

 クロウちゃんもだよね。この式神は俺の分身だから言わずもがな、そういう点では彼もエステルちゃんからあまり信用されていない。カァ。



 それで訓練場に行くと、もうジェルさんとオネルさんがいて、フォルくんとユディちゃんも剣術訓練の準備をしている。

 ライナさんとティモさんは、どうやら日課の業務を片付けてから来るらしい。

 双子も、馬の世話とかはブルーノさんの指示で朝一に終えて来たようだ。


「ほぉー、あれが新しく造った部分ですかぁ。訓練場も広くなってますね」


 ソフィちゃんもすっかりこの訓練場にも馴染んでいるので、わざわざ言わなくても拡張部分が分かるよね。

 さっきざっと昨日の工事の話はしておいた。

 それで彼女は、植え替えたカシの木のひとつの根本に行って樹上を見上げている。


「訓練を始めますぞ」

「はーい」


 ジェルさんに呼ばれて彼女は走って行った。これからソフィちゃんも加わって剣術の訓練ですな。


「ザカリーさまは、やらないんですか?」

「あ、僕はちょっと。始めてください」

「わかりました」


 俺が午前中からこの訓練場に来たのに、木剣を振らないと聞いてジェルさんは少々不満そうだったが、直ぐに号令を掛けて素振りを始めさせた。

 俺は学院の2日休日の場合はいつも、剣術も魔法も訓練をしたりしなかったりなので、特段に叱られることはない。

 素振りぐらいは毎日してるんだけどね。



「それで、どうするんですかぁ、ザックさま」

「うん、まずはしっかり根付いているかどうかを確かめて」

「カァ」


 昨日の昼前に植え替えてまだ丸1日足らずだが、カシの木の具合はどうでしょう。

 見鬼の力で見た感じでは問題無さそうだよな。世界樹の肥料液が良かったのだろうか。

 無事に根付いて、地面から養分を吸い上げている感覚がカシの木から伝わって来る。


「ちょっとこの木の上に上がってみようか」

「はーい」

「カァ」


 それで昨日と同様に、すっと樹上に上がった。

 昨日は別々の木にしたが、大丈夫そうと言うことでカリちゃんも同じ木に上がる。

 クロウちゃんは? ああ適当に飛んで上がってください。カァ。


 このカシの木の列は訓練場の正面から見て前列に3本、後列に2本並んでいる。

 上空から見ればジグザグに2列という訳だ。

 前列の1本と直ぐ近くの後列の1本との間隔は、だいたい6メートルほど。枝と枝とでは、どの枝かによってだいぶ距離が違うけどね。


「このぐらいの距離だったら、ザックさまなら軽く跳べるでしょ」


 まあカリちゃんの言う通り、そうなんだけどね。

 自然の森だったら、もっと離れている枝と枝の間でも猿飛で跳んで移動出来る。

 ちなみに、前列の同じ並びの木と木との間は10メートル強かな。

 このぐらいでも、キ素力でブーストすれば問題ない。


「うん、そうなんだけど重力魔法の訓練だからね」

「ということは、どうやるの?」

「まずは跳躍と同時に重力魔法を自分に発動させて、飛び移る、かな」

「なんだ、ザックさまなら簡単でしょ」


 カリちゃんはそう言うけどさ。身体的な力とキ素力のブーストで跳ぶんじゃなくて、あくまで跳躍は枝から離れるだけで、空中移動は重力魔法で行う訓練なんだよな。

 そもそも俺の場合、まだ自分自身に重力魔法を掛けたことがありません。



「うーんと、そういうことなら、いきなり枝の上からじゃなくて、まずは地面の上でやりましょ。はい、いったん下に降りますよ」

「あ、はいです」


 どうやら、エステルちゃんから何か言われているようだ。

 どうせ直ぐに木の上でやりたがるだろうから、その前に地上で練習させろとか。

 まあ俺自身の感じでも、いきなり落下しちゃうかもなんだよね。

 いまいる枝の高さが4メートルほどなので、例え落ちてもうまく着地出来ると思うけどさ。


 それから、カリちゃんに指導して貰って、フィールド上で軽くジャンプすると同時に自分に重力魔法を掛ける練習を行った。

 しかしこれが、意外と難しいんだよね。


 だいたいこの世界で人間が発動させる魔法というのは、何かを生成したりある対象の状態を変化させたりするものがほとんどだ。

 と言うか現状、人間が行っている魔法は俺の知る限りではそうなんだよな。

 火や風や水や氷なんかを出して飛ばしたり、土の状態を変化させたり、ということですね。


 これは四元素魔法の基本がそういうことなのだけど、一方で物質ではなく生命活動を行っている対象に掛ける魔法はと言うと、回復魔法ぐらいのものだ。

 しかしこの回復魔法でさえ、自分自身に施すのはなかなか難しい。


 それとは別に自分の身体に効果を及ぼすものとしては、魔法ではなく体技になる。

 つまり、キ素力で肉体の行使にブーストを掛けるものだ。強化剣術はそうだし、走力や跳躍力の強化もそうだね。


 なので、自分自身に魔法を、それも重力魔法を掛けるというのには苦労するのでありますよ。

 これがドラゴンだと、逆に重力魔法は何の苦労も無く自分に作用させることが出来る。


 まあ例えば人化の魔法とか自分自身の形態を変化させる魔法では、カリちゃんも相当な年月、訓練を重ねたみたいだけどね。

 ちなみにそこまで行くと、人間では不可能な気がする。アルさんのように自分自身を霧にするとか。

 それが可能なのは、身体の構成物が人間とドラゴンでは異なるからだが、たぶん俺には出来ない。



「そう、そこで自分に重力魔法。はいっ」


 俺がぴょんと跳躍すると、カリちゃんが「はいっ」と声に出して手を叩く。

 そこで重力魔法を自分に掛けろというのだ。


「はいっ」パン。「はいっ」パン。「はいっ」パン。

「……うまく行きませんかねぇ」


 どうも上手く行かないなぁ。


「カァ、カァカァカァ」

「いきなり跳躍と同時にじゃなくて、まずは自分に重力魔法を掛けて身体を浮かす練習をしたら、ですか。言われてみればそうですよ、ザックさま」

「あ、そうか」


 どうも枝から枝に飛び移ることばかり意識して、この地上段階でもそう思っちゃったんだよな。

 まずは重力魔法で自分を浮かせるのね。クロウちゃんは賢いなぁ。普通はそうするでしょって? ああそうか。カァ。


「ねえ、カリちゃんは自分を浮かせるとか、どうやってるの?」

「え、わたしですかぁ? それは、えーと、歩くのとかと一緒ですよ。歩くのをどうやってるって言われても」


 ドラゴンに聞いたのが間違いでした。


「そうだっ。ねえ、ザックさま。人間ぐらいの大きさの土人形を作ってくださいよ」

「え? なんで?」

「いいから、いいから」

「こんなのかな」


 カリちゃんがそんなことを言うので、ざっくりした人型の土人形を作って出した。

 カリちゃんだってこんなの作れるよね。


「ふんふん。ちょっとお顔と体型が。ひょいひょいと。こんなものですかねぇ」


 俺が作ったものにカリちゃんが手を加えている。

 それって俺の顔? 体型もほぼ俺と同じみたいだな。キミもライナさんの妹弟子だけあって、上手だよね。


「出来ましたよ」

「出来たって、これをどうするのさ?」

「そんなの決まってるじゃないですか。このザックさま人形を、ご自分で宙に浮かせるんですよ」


 あー、そういう練習ですか。でもいくら俺に似せた土人形を自分で浮かせても、自分自身を浮かせたことにはならないのでは。


「なーに言ってるですか。ほら、何でしたっけ。ザックさまがいつも言ってる、えーと、イメージトレーニングでしたっけ? それですよ」

「カァカァ」


 うーん、ちょっと違う気がするけどなぁ。

 でも、物体を重力魔法で宙に浮かせて維持する訓練にはなるから、やらないよりはいいか。




「あーら、なにやってるのー?」

「ザックさまを宙に浮かせる練習ですよ、ライナ姉さん」

「へぇー、面白そうねー」


 暫く土人形を空中に浮かせてその状態を維持し、そして地面に降ろしてまた浮かせるという練習を何回も繰り返していたら、ライナさんとティモさんが訓練場にやって来た。

 別に面白いとかじゃなくて、重力魔法の安定した状態を維持する訓練ですからね。


「ねえー、わたしもやらせてー」

「ザカリー様の訓練の邪魔をしたらだめだよ、ライナさん」


 ティモさんの言うことはまったく耳に入れず、「ちょっとやらせてー」と地面に立たせた俺似の土人形にライナさんが重力魔法を発動させる。

 彼女も重力魔法は練習中なのだが、まあ物体を浮かせたり、自分で生成したストーンジャベリンなんかをいったん空中で静止させる、なんてことは出来るようになっている。


 でもさ、人間型の土人形を作るのはライナさんがいちばん上手いんだから、やりたいなら自分のを作ってくださいよ。


 そう思っている間に、もう土人形を地上3メートルぐらいの高さまで浮かせてしまっていた。

 人間としてはなかなかの魔法力だよな。これが出来る人族は知る限り、俺以外ではライナさんだけではないだろうか。


 そのうちに、今度は土人形を空中でお腹を下にして俯せに寝かせる。

 これは俺もさっきまでやっていたことだ。

 すると今度は、頭のある方向に空中で前進させ始めた。


「あはは。ザカリーさまが空を飛ぶって、こんな感じよねー」


 まあそうだけどさ。

 でもそうやって前に飛ばせて行くと。


「あっ」

「あ」

「あー」

「カァ」


 自分から離れて空中を進んで行った土人形に、遠隔操作で重力魔法を掛け続けていたのだろうけど、ちょっとした拍子に途切れたのでしょうな。

 俺に似た土人形が、3メートルの高さから腹這いのままフィールドに斜めに落下して、頭から突っ込んだ。


「ザカリーさま、ごめん。ザカリーさまを地上に激突させちゃったわー」

「もう、ライナ姉さん。遠隔発動の距離感を、ちゃんと掴んでおいてくださいね」


 いや、俺が地上に落下した訳ではないからね。等身大の土人形ですから。

 でもここからだと、ゆるゆると15メートルほどは離れて飛んで行っただろうか。

 この距離で、難しい重力魔法を維持し続けるとか、それはそれで大したものだけどさ。

 でもこの落ちた場所って。



「こらっ。ライナか。剣術訓練の邪魔をするんじゃないっ」


「あ、やばっ。ジェルちゃんの方に落ちちゃってる」


 ジェルさんのいる直ぐ近くではないが、剣術の打ち込み訓練中で感覚をかなり研ぎすませている筈で、その感知範囲内にいきなり土人形が空中から斜めに落下して驚いたのだろう。


「ジェルちゃん、ごめーん」

「ジェル姉さん、ごめんなさーい」

「すみませーん」

「カァカァ」


「そこの4人。弛んでるぞ。木剣を持って来て、素振り」

「はいです」


 ジェルさんはどうも、俺とカリちゃんが何かやっているのをちらちらと気にはしていたようだが、あちらの皆の集中力を中断させたいまので、我慢出来なくなったらしい。

 剣士の集中力を無闇に乱してはいけません。


 しかし、ティモさんもとばっちりで、素振りをさせられることになってしまいました。悪いのはライナさんだからね。

 あ、「早く来い」と鬼教官が呼んでいるので、いま行きます。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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