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第719話 そして、親善試合が始まる

 3年生と4年生の1回戦は、まず3年生1位のB組ブルクくんチームと、4年生2位のジョジーさんのF組チームが対戦した。


 この試合は、開始直後からかなりの熱戦となった。

 そして試合終盤、双方の魔法後衛はまだふたりずつ残っているものの、剣術前衛は双方2名が倒れてブルクくんとジョジーさんだけになる。

 後方から魔法が飛び交うなか、このふたりが木剣を合わせての激しい打ち合いが続く。


 結局最後は、4年生の遠方からのウィンドカッターの魔法が剣術で闘うブルクくんを襲い、それを避けた隙を逃さなかったジョジーさんに決められてしまった。


 ブルクくんはジョジーさんとそれまで互角に闘っていたが、後衛の魔法の力量の差がチームとしての勝敗を決めてしまったのだ。

 剣術の打ち合いで重なったり離れたりしている遠方の闘いに対して、敵方だけに魔法攻撃を仕掛けるのはかなり難しいからね。

 まあそれもチーム戦ということだ。


 次の3年生2位、ルアちゃんのE組と4年生の1位であるエイディさんのD組の対戦は、予想に反して意外にあっけなく勝敗が決まってしまった。

 と言うのも、試合開始と同時にルアちゃんが高速でエイディさんに突っ込んで行ってしまったからだ。


 以前より3年E組チームは、彼女の並外れた身体能力や今年から積極的に使用している空中殺法を駆使して、相手チームで能力の高い前衛から倒して行き、ルアちゃん以外の選手がそれをサポートする戦法を取って来た。

 それがうまく機能しなかったのが昨日のブルクくんのクラスとの闘いで、結果的にはこのふたりの一騎打ちにブルクくんが勝利した訳だ。


 そして今日の4年D組戦。

 ルアちゃんは、これまでの試合よりも更に一段階ギアを上げたみたいな速度で、エイディに突進した。

 しかしそれでもエイディさんに冷静に対処され、意外に早く決められてしまったのだ。

 ルアちゃんが多少空回りしてしまった結果と言えなくもない。



 こうしてすべての1回戦が終わり、続いての準決勝では2年生同士と4年生同士の対戦。

 この2試合は学年トーナメントと同様に、2年A組と4年D組が勝ち上がった。

 まあ、俺としては予想通りですね。


 1回戦での本人の言葉通りソフィちゃんは精一杯闘ったのだが、如何せん他のチームメンバーと4年生1位の選手との実力差は大きかった。

 結果的にエイディさんと木剣を合わせていたソフィちゃんひとりが残り、終には彼女も胴を打たれて決勝戦は終了した。


 この総合戦技大会での学院トーナメント決勝戦の場合、1年生2年生から勝ち上がったチームと3年生4年生からのチームが試合を行う訳で、どちらかというと上級生と試合をする機会を作って胸を借りるという側面が強い。

 その点ではほぼ勝敗は見えているのだが、ソフィちゃんはかなり頑張ったよね。


「エイディさんが卒業する前に、試合が出来る機会をいただけて、わたし、とっても楽しかったですよ、ザック兄さま。それと、ちょっと肋が痛いけど、全身を隈無くぜんぶ診てください」


 疲労困憊のうえに木剣を軽くだけど当てられて、フィールド上に横たわっていたソフィちゃんは、そんなことを言っていた。

 うん、そうですか。




『本年のセルティア王立学院総合戦技大会は、4年D組の優勝となりました。これまで、持てる力を出し切って試合を行って来た選手たちに、どうかみなさま、盛大な拍手をお贈りください』


 総合競技場を埋める観客のみなさんから、惜しみない拍手が贈られる。

 この万雷の拍手は、今日はこのフィールドにいない者も含めたすべての選手へのものだ。


『それでは引き続きまして、昨年より行われております、剣術学と魔法学の教授及び特待生の参加による模範試合を行います。本年はご承知の通り、王宮騎士団のみなさまに特別にご参加をいただき、親善試合となります。それでは選手入場まで、いま暫くお待ちください』


 さあていよいよ、模範試合あらため王宮騎士団との親善試合だ。

 試合開始前に俺たち審判員を務めていた者は、次は選手として登場するのでいったん引っ込んでくれと運営の方から言われている。


 そういえば昨年もそうでしたなぁ。

 先ほどまでの決勝戦を行っていた学院生たちがフィールドから姿を消し、教授たちと俺も入場口の奥へと下がる。


 そこには、王宮騎士団員の選手たちがもうスタンバイしていた。


「ザカリー様、よろしくお願いします」

「あ、はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


 ニコラスさん以下の7人がそう声を掛けて来た。



『まずは、王宮騎士団選抜チームの入場です。王宮騎士団チームのみなさん、どうぞっ。観客席のみなさま、どうか盛大な拍手でお迎えください』


 ニコラスさんたちが場内アナウンスの呼び込みに応えて、揃ってフィールドへと走って行く。

 そして観客席からの大きな拍手が聞こえて来た。


『続きまして、セルティア王立学院教授チームの入場です。まずは魔法学教授の3名。ウィルフレッド教授、クリスティアン教授、ジュディス教授。盛大な拍手をお願いします』


 今年は教授たち全員が同じチームだから、学科別に呼び込むですか。なるほどね。

 すると次は剣術学で、えーと俺は?

 あー、昨年の模範試合でのことを思い出しちゃいましたぞ。


『続いて剣術学教授の3名。フィランダー教授、ディルク教授、フィロメナ教授、どうぞっ』


 最後に俺がポツンと残りました。


 選手入場の世話をしている学院生会の女子が、「ザカリーさん、次ですからね。いよいよですよ。にこやかに笑顔で、大きく手を振って入場してくださいね」とか、言っております。


『それでは、お待たせしましたぁー。最後に登場するのは、わがセルティア王立学院が誇る、剣術学と魔法学の特待生にして、誰もが知る特別の学院生。いや、学院生のみならず過去現在のすべての教授をも凌駕する、学院史上最強の者。それは……ザァカリィィーー、グーゥゥリフィンくーん』


 あの、帰っていいですか。魔法侍女カフェのお手伝いを。ダメですか? そうですか。


「元気良く笑顔ですよ、ザカリーさん。手もちゃんと振るんですよ。あまり速く走らないように、お願いしますね」

「はいです」


『ザァカリィィーー、グーゥゥリフィンくーん』と呼ぶ場内アナウンスが再び聞こえる。

 既に歓声が沸き起こっていますな。

 仕方ない、行きますか。




 もの凄い拍手と歓声の中を、俺は学院生会の女の子に言われた通りににこやかに手を振り、ゆっくりとランニングしながら王宮騎士団員と教授たちが並んでいるフィールド中央に行く。


 走りながら貴賓席の方に目をやると、エステルちゃんたちうちの屋敷の全員が立ち上がって手を振り、王太子とフェリさんも同じように立って拍手をしていた。


『この親善試合の審判は、昨年に引き続きグリフィン子爵家のご好意により、ジェルメール騎士、オネルヴァ従騎士、ライナ従騎士のお三方に務めていただきます。みなさま、盛大な拍手をお願いいたします』


 フィールドの隅で既に控えていたお姉さんたちが、こちらにゆっくりと歩いて来た。

 場内の拍手や歓声の中に、「きゃー、ジェルお姉さまー、オネルお姉さまー、ライナお姉さまー」とか、主に女子学院生の声が四方から聞こえて来る。

 ジェルさんたちは、いつの間にそんなに認知されていたのでしょうかね。


『それでは、いよいよ親善試合の開始となります。試合時間は総合戦技大会と同じ5分間。ただし、主審の判断により延長もありです。それではジェルメール騎士、お願いします』


 そのアナウンスが流れると主審のジェルさんが双方の選手を呼んで、俺たちは向かい合って整列した。


 相手方の選手の顔を眺めると、先ほどの入場待ちのときは多少緊張気味の表情だったが、いまは闘いを目前にした厳しい戦士のものになっている。

 あたりまえだけど、かなり真剣で力が入っておりますな。



「双方、準備はよろしいか。これは学院生をはじめ多くの観客にお見せする模範試合であるので、試合規則に反する行いは絶対にしないこと。相手を殺す気概で闘うのは構わないが、決して致命傷を負わせてはいけない。よろしいですか?」

「はい」


「それでは、双方、礼」

「よろしくお願いします」


「各自、開始位置について」


 それでは俺も、こちらチームの皆の位置を確認しながら自分で決めた開始位置に行きましょう。

 まず前衛は、フィランダー先生を中央として左右にディルク先生とフィロメナ先生。

 うん、あまり離れ過ぎていませんな。


 そしてその前衛から距離を取って、魔法後衛は中央にこちらはクリスティアン先生がいて、左右に開いてウィルフレッド先生とジュディス先生だ。

 センター位置に魔法の着弾が集中する可能性が高いので、クリスティアン先生が自ら買って出た。

 うちの担任て、わりと苦労を率先して引き受けるタイプなんですよね。


 ほらほら、両翼はあまり下がり過ぎない、と注意を与えながら、俺はクリスティアン先生の横を擦り抜けて、更に後方へと走って行く。

 その俺の位置取りに、早くもおかしいと気づいた観客のみなさんから、どよめきとざわめきが聞こえて来る。


 そうして俺は布陣の最後方、と言いますか、もう直ぐ後ろはフィールド外という位置まで下がってセンター方向へと振り向いた。


 この競技場のフィールドの広さは、だいたい前々世のサッカーフィールドを同じぐらいの広さがあるから、主審のジェルさんが立つセンターまでは50メートル以上。

 俺はまさしくゴールキーパーがいる場所だ。ゴールは無いけどね。


 遠目に、相手方選手たちがいささか驚いているのが分かりますな。

 俺の直ぐ後方の観客席をはじめ、競技場全体も一瞬静まり返り、そして大きな歓声が再び沸き起こった。

 審判の3人のお姉さんたちは、俺が後方に下がるのは知っていたので驚いている訳ではないが、どうやらやれやれという感じの表情だ。



 さて、先日の戦術会議で話した通り、王宮騎士団チームの前衛の誰かをひとり引き離して、前衛を3対3にしないとだよな。

 えーと、誰にしようかな。


 向うの前衛の位置取りを見ると、センターで少し前気味にニコラスさんがいて、狙い通りこちらのフィランダー先生と相対すかたちとなっている。

 そしてその左右に男性の王宮騎士が離れて位置し、コニー王宮従騎士がニコラスさんの後方にいる。


 まあ、敢えて言えば3・1・3のフォーメーションですな。

 ということは、これはもうコニーさんを攫って来るしかないでしょ。

 俺が遥か遠くに下がって前衛が3対4になったからって、多少ほっとした表情をしている場合じゃないですよ、コニーさん。


 その前方にいるニコラスさんは、なにやら不審そうな隙を見せるとヤバいぞ的な、却って緊張気味の不思議な表情だけど。



「それでは、試合を開始する。ピィーッ」


 ジェルさんの声に続いて、彼女の吹くホイッスルの音が鳴り響く。


 その音と同時に俺は、シュパパパ、シュパパパパッと火球機関砲を相手の前衛に向けて撃ち出した。


 牽制程度で威力も弱く、これに当たってもたいしたことは無いけどね。

 その俺の火球機関砲で合図を受けたかのように、ジュディス先生も同じく火球機関砲を撃ち、クリスティアン先生とウィルフレッド先生もそれぞれに魔法を撃ち始めた。


 王宮騎士団チームの魔導士も遅ればせながら魔法を撃ち返し、それらが飛び交う中で魔法の直撃を受けないよう慎重にじりじりと、双方の剣術前衛が歩を前に進め始める。


 では、行きましょうか。

 70メートルは離れているコニー王宮従騎士に向かって、俺は一気に全開の長距離版縮地もどきを発動させた。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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