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第70話 エステルちゃん、遠隔魔法発動に成功する

 お菓子休憩で力が回復したのか、その後再開したキ素力を飛ばす練習で、エステルちゃんは魔法を発動させるのに必要最小限のキ素力を、徐々に安定して5メートル先のまと人形に届かせることができるようになった。

 うん、それでは今度は魔法が発動できるかだな。


「だいぶ安定してきたから、今度は魔法が発動できるかやってみようよ」

「そうですね。なんだかできる気がしていますよ。やってみます」

「飛ばしたキ素力のダガー(イメージ上)から、風魔法が起きる感じね。いちばん簡単なのでいいよ」

「はいーっ」



 エステルちゃんは、これまでよりも念入りにキ素力を高めると、「えいっ」と掛け声を上げてキ素力を飛ばし、イメージのロープが消えないうちに魔法を発動させる。


 すると、まと人形の胸の前でシューンと風魔法が僅かに発動し、至近距離から人形に風の刃が飛んだように見えた。

 俺とエステルちゃんとクロウちゃんは、すぐにまと人形に近寄ってその結果を見る。

 なるほど、木製の人形の胸に、少しだけだけど風の刃で出来た斬り傷ができている。


「やったねー。ちゃんと発動したし、斬り傷もできてるよ」

「でも、今のは風の刃を飛ばすウィンドカッターの魔法ですから、自分の手から発動させて5メートル先に飛ばした方が、もっと威力がありますよぅ」

「いいんだよ、エステルちゃん。今は威力の問題じゃなくて、発動できるかどうかなんだからさ。まず出来たことが凄いんだよ」

「……そうですか? そうですよね。わたしでも出来ましたよね。これ、凄いですよねっ」

「カァ、カァ」


 人形の胸の斬り傷を見て、ちょっとしゅんとしていたエステルちゃんだったが、発動できたことが凄いのだとあらためて思ったようだ。

 大きなお胸を揺らしながら、ぴょんぴょん跳び跳ねて喜びを表し、クロウちゃんがその周りをぐるぐる飛んでいる。

 さて、今日はこのぐらいかな。でも本当に午後の稽古だけで大きな成果だよね。



 翌日の午後、再び領主家専用の魔法訓練場。今日は、魔法の師匠でもあるアン母さんも一緒だ。

 昨日のエステルちゃんの訓練成果を、母さんに見て貰うことにしたのだ。


「エステルさん、凄いわ。たった半日の練習で出来るようになるなんて」


 この話をしたとき、母さんも本当にびっくりしていた。

 何日もかけて練習をするもののようだが、そもそもこの訓練をしようと思うことの方が少ないそうだ。

 昨日エステルちゃんが言っていたように、例えばウィンドカッターを手元から飛ばす方が威力があるのなら、そちらの方がリーズナブルと普通は考える。


 いくら対象のすぐ近くで魔法が発動できたとしても、威力が小さければ意味がない。

 母さんの回復魔法のように、回復効果が高くて、かつ離れた位置にいる対象の患部のすぐ側で発動させるのならかなり有効なんだけどね。

 だけどエステルちゃんなら、威力の高い攻撃魔法へと育てられる筈だと俺は考えている。



「それじゃ、やって見せてくださいな」

「はい」


 少し緊張していたが、それでも慎重にキ素力を高めて行く。


「えいっ」

 可愛い掛け声とともに、昨日と同様5メートルほど離れた位置からまと人形にキ素力を放ち、届いたと同時に風魔法を発動させる。


 風の刃で斬るウィンドカッターが一発でうまく発動し、シュバっと音を立ててまと人形の胸を斬った。

 通常の手元から放つウィンドカッターなら、発動してから対象に届いて斬るまでの間の風が飛ぶ時間がかかるのだが、魔法の発動から斬るまでだけだとこれならば瞬時だ。


 今は5メートルほどの距離だが、対象との距離が離れれば離れるほど時間効果が高くなる。

 魔法の発動を悟られて回避することが難しくなるからね。

 それに威力の減衰が生じなければ、その効果はより高くなる。



 母さんとともにまと人形の近くに行き、結果を確かめる。昨日よりも威力が上がってるみたいだ。


「エステルさん、素晴らしいわ。ちゃんとこの人形のすぐ近く、それも触れるか触れないかの僅かな距離で発動して、斬り傷もかなり付けているわ。ほんとに凄いわよ、あなた」


 アン母さん大絶賛です。

 昨日の斬り傷と比べるとだいぶ深く、致命傷にはまだほど遠いが革鎧ぐらいなら斬り裂いて肉体に届く威力だろう。


「あとは、より早くキ素力を届かせて発動時間を早めることと、発動した魔法の威力を高くするのはもちろん、距離を伸ばすことかしらね」

「そうなんです、奥さま。昨日はこの距離でも、なかなかキ素力を届かせることが出来なくて。今もやっとですけど。イメージを組立てるのが難しかったんです」


「そうよねぇ。エステルさんはどんなイメージでやってるの?」

「ザックさまが、キ素力をロープのように細く絞って伸ばして飛ばせって言うので、ぐにゃぐにゃして安定して飛ばないので、ロープの先にダガーを結び付けて飛ばしたら、うまく行きました」

「へぇー、ロープを飛ばすみたいにねー。ザックがねー」



「たしかに分かりやすいイメージよね。先端にダガーが結ばれたロープがしゅるるるるって飛んで行って、相手に届いた瞬間にしゅぱんって魔法がそこから発動するのよね」

「はいっ、しゅるるるるーの、しゅぱんですぅ」


「わたしの場合は、見えない矢のお尻に見えない糸が付いてて、矢が飛ぶとひゅるるるるーって糸が伸びて、魔法がしゅぱんて発動するイメージだから、ほとんど同じよね」

「ひゅるるるるーのしゅぱんですかぁ、同じですぅ」


「でも、そのイメージを組立てて実際にできるようになるまでに、随分と日数がかかったのよ。教えてくれる人が誰もいなかったしね」

「そうなんですね。でも誰にも教わらずに、おひとりで出来るようになるなんて、やっぱり奥さまは凄いです」

「エステルさんにはザックがいるから。羨ましいわー」

「えへへへ」


 しゅるるるるーとか、ひゅるるるるーとか、しゅぱんとか、なに話してるんだかと思って聞いていたら、エステルちゃんがいきなり顔を真っ赤にして照れているし。

 それから母さん、羨ましいとかじゃなくて、俺は貴女あなたの息子ですからね。母さんがその魔法を修得したとき、俺はまだ生まれてませんから。



 それから半日、母さんとエステルちゃんは、ああだこうだ相談したり、母さんがエステルちゃんにアドバイスしたりしながら、訓練を続けた。

 そのおかげで発動までの時間も短くなってきたし、安定して威力も少しずつ高まっているようだ。

 これからは距離をもっと伸ばしてみようとか、ふたりで話し合っている。


 魔法の稽古を始めてから、母さんとエステルちゃんは仲がいいよな。

 それで、俺は何をしてるのかって。

 そんなふたりの様子を眺めながら、クロウちゃんを空に飛ばして同時にそれぞれキ素力を纏いながら、パスを繋ぐ訓練をしている。


 もともと感覚パスは繋がっているから、特に上空のクロウちゃんを見なくても位置が分かるので、キ素力パスも見ないで繋げられるようになったよ。

 現在は50メートルほど上空かな。

 あとは魔法の発動テストだけど、ここでやるのは危ないしマズいよね。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。


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この「時空渡りクロニクル」の外伝となる短編「時空渡りクロニクル外伝(1)〜定めは斬れないとしても、俺は斬る」を投稿しています。

ザックがザックになる前の1回目の過去転生のとき。その少年時代のひとコマを題材にしています。

こちらの連載とは別になりますが、よろしかったらお読みいただければ。

リンクはこの下段にあります。

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