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第687話 ナイアの森にも石礫の嵐が吹きます

 合宿2日目は、それぞれの部に分かれて森の中に入った。


 エイディさんたち強化剣術研究部にはジェルさんとブルーノさん、それから午前中はユディちゃんが付いてくれている。

 こちらには、エステルちゃんとオネルさん、ライナさん、ティモさんにカリちゃんとフォルくん、そしてドミニクさんだね。こっちは人数が多い。

 あと、クロウちゃんは念のために上空からの監視に飛んで貰っています。


 森の中の案内役はブルーノさんとティモさんだが、基本的には昨年と同様にナイア湖の中心を南北に縦断するラインを境界として、その東側には行かないということにしている。

 北北東方向には地下拠点施設があり、東方向には水の精霊の妖精の森があるからね。


 ナイア湖はほぼ円形の形状をしていて、直径は6,000メートル弱となかなかの広さだ。

 つまり湖の半周はだいたい9,000メートルはある訳で、それを辿るのでもそれなりの時間を要する。


 ただ、合宿のキャンプ地としている湖畔は、湖の中心点から見るとやや西北西方向に位置しているので、地下拠点までは少し近くなる。

 とは言え、7キロメートルぐらいは離れているけどね。


 一方で妖精の森へと至る起点となる場所。水の精霊屋敷がある水源地からナイア湖へと流れる川の出口は、キャンプ地とはちょうど対岸にあって、そこに行くまでには湖の縁を9キロ行かなければならないという訳だ。


 なので、地下拠点のある場所へも妖精の森に行く起点にも、そこまでは行く可能性は無いのだが、それでも近づかないようにするということですな。

 予定としては昨年と同様に、午前中はうちの部が北方向、エイディさんたちが南方向なので何も問題はないけどね。



「ブルクたちは、アラストル大森林に連れて行って貰ったんだよな。それに比べたら、ここなんか大したことないだろ」

「大森林の森オオカミと闘ったって聞いたけど、怖くなかった?」

「オオカミさんですかぁ? 恐ろしそうだけど、想像がつきません」


 昨晩にも話を聞いたのだろう。

 ライくんとヴィオちゃん、そしてヘルミちゃんは興味半分、怖さ半分というところだ。


「まあ、大森林の中の開けた場所に陣取って、飛び込んで来るオオカミたちとの乱戦になったからな」

「正直、怖いか怖くないかと言えば、それは怖かったよ。ねえカロちゃん」

「ザックさまたちや、王宮騎士さんたちがいなかったら、わたしたち、死んでる、です」


 まあそもそも、うちの部員たちだけだったら大森林には入れないけどね。


「ひゃー、恐ろしいわ。ソフィちゃん、大丈夫だった?」

「はい、ヴィオ先輩。わたしたちは、いち兵卒として、無我夢中で闘いましたので」

「はぁ」


 いや、いちおう分隊編成をして探索しながら進む訓練の延長線上だったけど、いち兵卒ではないからね。

 でも無我夢中で闘ったというのは、その通りなのだろう。



 それから30分ほどで昨年も行った場所に到着し、小休止のあと森の木々の中で少し打ち込みなどを行う。

 それが終了したら次はですな。


「それでは昨年もやった、2グループに分かれての攻守訓練を行いますぞ」


「ああ、あれかぁ」

「今年は負けないよ」

「あー、思い出したっす。痛いやつ」

「痛いやつ、ですかぁ? カシュ先輩」


「はい、お静かに。じゃあグループ分けね。去年と同じように、エステルちゃん組とティモさん組ですよ。まずはエステルちゃん組」


 要するに女子組ね。

 この世界では、こと戦闘力に関しては男女の差を問題にしないので、男女を混ぜて力を均等に保つとかはしません。男女に分けるのは単に俺の趣味です。


「ヴィオ副部長に、ルアちゃん、カロちゃん、ソフィちゃん、ヘルミちゃんでーす」

「はーい」


「次にティモさん組は」

「聞かなくても分かってるけどな」

「ザック部長が入るのなら、それでいいっすけど」


「ブルクにライ、カシュとそれからフォルくんも加わります。それから、僕ね」


「手前は?」

「ドミニクさんも入りたいんですか?」

「出来ますれば」

「もう、爺やったら」


「そしたら、わたしがエステルさま組に入るから、ドミニクさんはそっちに入るってのはどうですかぁ、ザックさま」


 ええー、カリちゃんも入るの? 戦力不均衡が著しいんですけど。うーむ、どうしようかなぁ。


「カリちゃん、ちょっと」

「なんですかぁ?」


 カリちゃんを呼ぶと、エステルちゃんとライナさんとオネルさんも俺の側に来た。

 ドミニクさんは、どんな風にやるのかをティモさんに聞いているようだ。


「えーと、んじゃ入って貰うけどさ。魔法は1種類だけね」

「1種類だけですかぁ?」

「うん、石礫つぶてだけ。それも軽くだよ」

「ああ、あれですね。怪我しない程度に抑えればいいんですよね」


「ふふふ。これでどっちの組も石礫つぶて攻撃が出来るって訳ねー」

「ザックさまへの対抗手段、いただきましたぁ」


 審判役をお願いするオネルさんは、やれやれという表情だ。


「わたしには当てないでね、カリちゃん」

「大丈夫でーす」

「ザカリーさまもですよ」

「はいです」

「怪しいなぁ」



 ヴィオちゃんとライくんがじゃんけんをして、結果的に昨年と同じく女子組が先攻となった。

 俺たち男子組は、この開けた空間で陣取る。

 ルールとしては、火魔法以外の魔法は有り。攻撃側が森の中から攻め込む。


 魔法攻撃での効果判定や木剣を直接身体に当てられると、審判が戦闘不能と判断してその者の退場を宣告。

 残った人数が多い方が勝ちという、極めて単純なルールだ。

 剣術と魔法を複合した攻守の訓練なので、勝ち負けは関係ないんだけどね。


 審判役はオネルさんとライナさんで、ふたりも守備側が陣取るこの開けた空間にいるので、先ほど石礫つぶてを当てないでと言っておった訳ですな。


「それでは、はじめっ」と、オネルさんが合図の声を出す。


「よし、こっちから先制魔法攻撃」


 俺が指示して、ライくんが雷撃、ティモさんが強風を、カシュくんが水弾を森の中に撃ち込む。俺はまだ撃ちませんよ。


 守備側からの、いきなりの先制魔法攻撃に「うわわーっ」という声が聞こえて来るが、たぶん直撃は受けていないだろう。

 攻撃側は森の中にいるので、魔法の効果判定は出来ないけどね。ライナさんは面白そうにしているだけだ。



「来るよ」


 こちらの魔法攻撃がいったん途切れた隙を突いて、アイススパイクが飛んで来る。

 それを合図に来ましたよ、女子組の魔法攻撃が。


 バラバラバラと四方八方からカリちゃんの石礫つぶてが、飛んで来た。

 かなり高速に周囲を動きながら撃って来ている。それも走り回るだけでなく、時折は木の枝まで跳んで横からも上方からも来る。


 それを追いかけるように、風の爆弾である小型のウインドボムが、これも次々に四方八方から降り注いで来る。

 エステルちゃんですなぁ。カリちゃんと同じように動き回っているのだろう。


 そして時折、ヴィオちゃんのアイススパイクと、加えてカロちゃんのウォーターボム、更に別のウインドボムが異なる方向からも来るので、あれはソフィちゃんも加わったのだろう。

 つまり、火魔法がメインのルアちゃんとヘルミちゃん以外の全員が、魔法攻撃を周囲から撃ち込んでいるのだ。


「おいおい、無茶するぜ、女子組」と、ライくんが思わず声を出す。


 考えてみれば女子組の方が幾分、魔法攻撃の手数が多いのだ。

 こっちは、ドミニクさんは出来ないし、フォルくんは火魔法なので封印。そして俺は撃ってないからね。


 この大量の魔法攻撃を、ティモさんはひょいひょい避けて、ドミニクさんもするする避け、フォルくんも勘良く躱しているが、部員男子3人は少なからず被弾し始めている。

 でもライナさんからの退場判定が出ませんね。致命傷効果ではないという判断なのだろうが、おそらくギリギリまで判定しないんじゃないかな。



 そのとき、木製の訓練用模擬ダガーが飛来した。

 それも異なる方向から2連撃が続けて2回。違う3人に向けて4発ずつの計12発。ティモさんとドミニクさんと俺を狙った、エステルちゃんの攻撃だ。まあ牽制だね。

 3人は直ぐさま避けたり、木剣で弾いたりして防御する。


 同時に、ルアちゃん、カロちゃん、ソフィちゃんが走り込んで来た。ヴィオちゃんとヘルミちゃんも続く。

 狙いは部員の男子3名。

 5対3の闘いに、先ほどまでの猛烈な魔法攻撃を受けて、かなり疲弊していたライくんがカロちゃんに、カシュくんがソフィちゃんに木剣を当てられた。


「ライくん、カシュくん、退場」

「ひぇっ」


 ブルクくんとルアちゃんが1対1で攻防を続け、他の女子4人がドミニクさんとティモさんへと向かう。

 俺ですか? そろそろという感じで樹上に退避しております。


 そこに、再び大量の石礫つぶてが降り注いで来た。おまけにエステルちゃんが強風を吹かせている。

 石礫つぶてと暴風の嵐ですなぁ。


「痛い痛い、止め止め、終了終了。カリちゃんとエステルさま、終了でーす」


 審判として剣術の攻防を見ていたオネルさんが、大声で終了を叫ぶ。

 ライナさんは? いつの間にか木々の間に入って逃げておりますな。



「カリちゃん、石礫つぶてが大量過ぎます。それにエステルさまの風で、小石が舞って当たりました。ホント、痛いですって」


「退場って言われたのに、石が当たって退場のしようがなかったっすよぉ」

「今年も、もう既に酷い目に遭った」

「わたしも痛かったですよ。同じ攻撃側なのにぃ」

「それが、総合武術部の洗礼ってものっすよ、ヘルミちゃん」


「あのときのオオカミどもも、こんな目に遭うたのよなぁ」とか、ドミニクさんが暢気に言っている。

 さすがのティモさんも、そしてフォルくんも、このドラゴン娘と風の精霊の妹が巻き起こした石礫つぶてと暴風の嵐からは逃げられなかったようだ。


「それより、怪我を治すよ。全員、こっちに来てくださいね」


 もちろん大きな怪我は無いが、女の子の顔や身体に傷が残ると拙いですからね。

 俺がざっと診たあと、女の子たちにはエステルちゃんとライナさんとカリちゃんが治療にあたり、男性は俺が全員治療した。



「えーと、第二回戦は……」

「みんな疲労困憊してますから、二回戦は中止です。それに攻守を替えても、どうせこんな感じになりますよね。お昼時も近いですから、少し休んだら野営地に戻ります」


 オネルさんにそう宣告されました。

 カリちゃんとエステルちゃんは、少々ばつが悪そうにしておりましたが。


「ねえ、もしかして、最後のはライナさんも石礫つぶてを撃ってなかった? いくらカリちゃんにしても、なんだかやたら量が多かったんだけど」


 何故かニマニマしているライナさんに、俺は小声でそう尋ねた。


「え? なんのことかしらー」

「剣術の闘いになったときに、ライナ姉さんが来て、わたしもー、とか」

「カリちゃんは直ぐにバラすんだからぁ」


 でしょうな。なにせ量が多過ぎました。

 でもこれは、部員たちには内緒にしておいた方がいいかもだよなぁ。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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