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第66話 ギルド会合の終了と懇親会

 冒険者ギルド長のジェラードさんからの話の後、各ギルド長から意見が出された。

 反対はなく概ねは賛意だったが、冒険者ギルドがすべての負担を背負うのは良くないという意見が出され、これから組織される冒険者の探索チームには各ギルドが出来るだけ支援を行うことが合意された。



 俺はそんな話し合いを聞きながら、3年前のあのときの、神獣とも呼ばれるらしいフェンリルとの遭遇のことを考えていた。

 フェンリルが接近して来たのをおそらく察知して、現状のすべての要因となっている凶悪魔獣のカプロスは、あっと言う間に逃げて行ったよな。


 フェンリルが人にとって凄く危険な存在なのか、それともそうではないのか。

 それはまったく俺には分からないが、少なくともアラストル大森林の浅いエリアからのカプロスの排除には、結果的に貢献してくれたことになる。

 おそらくそのことがあって、この3年間カプロスは戻って来なかったのではないだろうか。


 そうだとすれば、仮に冒険者の探索チームが通常よりも多少、大森林の奥に入っても致命的な危険はないのでは。

 もっとも、少しでも油断すれば、カプロスより弱い魔獣や魔物から襲われても生命が危うくなるだろうけど。

 俺も冒険者の人たちと大森林の奥に入ってみたいな。



「ザックさま、なにか考えごとしてるみたいですけど、僕も大森林の奥に行きたいとか、変なこと考えてませんよね」

 隣に座ってるエステルちゃんが、小声でそう囁いてきた。

 エステルちゃんも、俺の表情から考えを当てるのが上手くなってきたよね。


「そ、そんなことは、考えてないよ。あのときの、森でのもうひとりのひとのことを、思い浮かべてただけだよ」

「もうひとりって、誰かいましたっけ? あっ、あの……」

 すぐそばに、遠耳とおみみのブルーノってふたつ名を昔に持っていた人がいるから、静かにしてようね。

 エステルちゃんが余計なこと言いかけたので、俺はテーブルの下で手を伸ばして、エステルちゃんの腕をつねった。

「きゃっ」

 こらこら、変な声を上げない。



「おーい、ザカリー様。おーい」

「あ、はい、なんでしょう」

「アラストル大森林探索の件は、俺の方で具体策をまとめて各ギルドの合意を得た後、子爵様に提出することになった。だからザカリー様からは、まだ何も言わなくていいぞ。もっとも子爵様たちはしばらく帰って来ないだろうけどな」

「わかりました。父さんたちの戻りは12日後になると思いますよ」

「このあとは、簡単な連絡事項だけだから、もう少し我慢していてくれるか」


 ヒマだからエステルちゃんと無駄話でもしてるように見えたかな。

 まぁ、それならそれでいいけどね。



 それから、そのギルド間の連絡事項のやりとりが行われて、会合は終了した。

 このあとは懇親会だそうだ。


 楕円形の大きな会議テーブルの上がきれいにされて、食べ物が並べられた。

 みなさんはワインが注がれたグラスを手にしている。

 俺はもちろんジュースだが、エステルちゃんや護衛組のみんなもジュースだ。お仕事中だからね。


「ザカリー様、本日はわれわれの会合に出席いただきまして、ありがとうございます。こんな感じで定期的に集まっておりますので、次回もぜひお越しください。それからジェラード、今日は新しい提案と会合の進行をご苦労さまでした。今日の話し合いがより良い成果に繋がるよう、今後とも協力し合って行きましょう。それでは、乾杯!」

「乾杯!」


 商業ギルド長のグエルリーノさんが、卒なく乾杯の挨拶をして懇親会が始まる。

 それからは、各ギルド長がそれぞれに連れて来た同席者を伴って、俺のところに挨拶に来る。

 まぁうちの屋敷でのパーティーでも、よくある風景だよね。

 まずは冒険者ギルドだね。


「ザカリー様よ、今日はありがとうな。あらためてだがクリストフェルとメラニーだ。初めにも紹介したように、うちのギルドのトップ冒険者で、あとふたりほどパーティーメンバーがいるが、今日は代表でこのふたりに来て貰った」

「クリストフェルさん、メラニーさん、よろしくです」

「ああ、よろしくお願いしますよ、ザカリー様。俺が戦士で、こっちのメラニーは魔法職だ」

「こんにちは、ザカリー様。おうわさはかねがね」


「それでブルーノよ、こっちに来てくれるか。ザカリー様はご存知だったかどうか知らないが、以前ブルーノはこのふたりと同じパーティーだったんだよ。騎士団に入ったのはもちろん知っていたが、こいつ、それからギルドには顔を見せなくてよ」

「なんとなく想像してました」

「今日はザカリー様の護衛として来てやすので、その話はまた」

「でも、久しぶりに会ったんだ。少し話をしようぜ」

「そうよ、3年以上ぶりなんだから。いいでしょ? ザカリー様」

「え、いいよ」


 ブルーノさんは冒険者ギルド組に連れて行かれた。

 こっちを見て、ちょっと恨めしそうな顔をしないでくださいな、ブルーノさん。



「ザカリー様、ようこそじゃな。あらためて、こいつがマグダレーナじゃ」

「初めまして、ザカリー様。お会いできて光栄ですわ」

 この領都で、グットルムじいさんの次に最高の錬金術師さんだったな。魔法も優秀と言っていた。

「こんにちは、マグダレーナさん。領都2番目の鍊金術師で魔法にも優れているとか」

「いやですわ、このじいさんが死ねば、名実ともにわたしがいちばんですわよ」

「は、はぁ」

「ふほほほほほ」

 じいさん、そこで嬉しそうに笑うか。


「あと、ザカリー様のお母様とは、以前から親しくさせていただいておりますわ」

 なるほど、うちのアン母さんとは馬が合うのかもね。



「ザカリー様、夏至祭のパーティーぶりですね。うちのカロリーナも会いたがっておりました」

 今度は商業ギルドだ。


「あぁ、カロちゃんはお元気ですか」

「はい、いつも元気ですよ。それであらためてですが、こちらがテオドゥロです」

「こんにちは、テオドゥロさん」

「初めてお目にかかります、ザカリー様。よろしければこれを機会に、親しくさせていただけますと幸いです」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 テオドゥロさんは若手だけど、さすがに大商人なだけあって物腰が柔らかいね。



 最後はドワーフのボジェクさんとチェスラフさんか。

「先ほどは大変失礼しましたな、ザカリー様。エステルさんも失礼いたした」

「いえいえ、なにも問題ないですよ」

 エステルちゃんは無言でふたりに微笑んだ。


「お詫びと仲直りというほどでもないが、酒で乾杯したいところだがな。でもザカリー様は酒はまだか」

「いや、僕は大丈夫なんだけど……」

「ザックさま」

「ははは、お目付役がいてはな。まあ、あと何年かすればザカリー様も大丈夫になるだろ。そうだ、今度は鍛冶職工ギルドに遊びにいらしてくれや。ギルドには鍛冶場や工作場なんかもあるんだぜ」

「面白そうですね。ぜひ今度、お邪魔させてもらいます」


 初対面の印象や口はぶっきらぼうで悪いが、ひとは良いのがドワーフならではなのだろう。

 今度は鍛冶職工ギルドに遊びに行くのもいいな。


 あと、クロウちゃんはライナさんに預けてるけど、ジェルさんとふたりと1羽で、テーブルの上の食べ物やお菓子に夢中なのはなぜかな? 護衛と式神じゃなかったっけ。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。


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エステルちゃんが主人公の短編「時空渡りクロニクル余話 〜エステルちゃんの冒険①境界の洞穴のドラゴン」を投稿しました。

彼女が隠れ里にいた、少女の時代の物語です。


ザックがザックになる前の1回目の過去転生のとき。その少年時代のひとコマを題材にした短編「時空渡りクロニクル外伝(1)〜定めは斬れないとしても、俺は斬る」もぜひお読みいただければ。


それぞれのリンクはこの下段にあります。

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