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第673話 種明かし第二弾

「このことは、うちの者以外だとソフィちゃんだけに明かす重大な秘密です。なので、誰にも話さないように。ドミニクさんにも当面は秘密だからね」

「誰に話していいかとかは、ザックさまのご許可が無いとダメですからね」

「はいぃ、ザック部長、エステルさま」


 少しは落ち着いて来たかな。先ほどからちらちらと、シルフェ様とシフォニナさんの顔を見ている


「あのあの。畏れながら、直接お話をしてもよろしいのでしょうか」

「あら、ソフィちゃん。いままでだって、お話していたでしょ」

「あ、はっ、ごめんなさい」

「いいのよ。いままでと同じで」


「あのあの、精霊さまって、その、本当にいらっしゃるんですね。わたし、精霊さまは絵本か物語かおやしろの中にしかいないのかと。あ、ごめんなさい」

「ふふふ、いいのよ。精霊はいますよ。この世界のあちらこちらに」

「おひいさまが、あちらこちらに直ぐ行っちゃうとも言いますけどね」


「こほん。わたしたちは風の精霊ですからね。でも、水の精霊も樹木の精霊も、それから土も火も、この世界にはちゃんといます。神々がおられるようにね」

「えーと、つまり神さまも精霊さまも、お伽話とか伝説のなかだけじゃないんですね。ということは、アマラさまとかヨムヘルさまも」


「ええ、そうよ。そういうお話は、また機会があったらザックさんにお聞きなさい」

「ザック部長に、ですか?」

「そうね。いまはこれぐらいにしておきましょう。それよりもザックさん。次でしょ」


「え? 次? ですか?」

「そうよ、ソフィちゃん。明日の旅行で、重要なことですからね」

「明日の旅行で?」


 うちの者やファータの人たち以外で、シルフェ様が真性の風の精霊であることを知っているのは、あとはオイリ学院長とイラリ先生ぐらいだと思う。

 あの人らは、ファータと同じ精霊族のエルフということもあるが、いまだにシルフェ様に会うとぶるぶる震えてしまいそうになるんだよね。


 その彼女らと比べると、少なくとももう言葉が交わせているソフィちゃんは度胸が備わっているのか、それともやっぱり特別の子なのかなぁ。

 精霊に対する感度や、畏れの度合いがまったく違う人族ではあるのだけれど。



「はい。では次に行きますよ。ソフィちゃんに知っておいてほしい、もうひとつのことです」

「もうひとつ? 精霊さま、だけじゃなくて?」


「シルフェ様が言っていたように、これは明日の旅行に直接関係する重要なことです。それでは、アルさんとカリちゃん」

「はいな」

「はーい」


 ふたりが立ち上がって、ソフィちゃんが座っている目の前に来た。


「あの、アルさんとカリ姉さんもですか? おふたりも精霊さまでいらっしゃるとか?」

「わたしたちは精霊じゃないですよ」

「ちょっとばかし違うのう」


 ちょっとじゃなくて、だいぶ違うでしょうが。


「ザックさま、種明かし、お願いしますよぉ」

「はいはい。えーとですな、このふたりもじつは人間ではありません」

「えっ」


「このふたりは、じつはドラゴンなんですね。いまは人化の魔法で人間の姿をしてますが」

「え? おふたりとも、ドラゴニュートさんですよね。違うんですか? いま、ザック部長はなんて?」


「うん。うちのフォルくんとユディちゃんは、正真正銘のドラゴニュートなんだけど、このふたりは、本物のドラゴンなんだよ」


「え? ええーっ」



「そしたら、アルさんとカリちゃん、いいかな」

「ええですぞ」「はーい」


 ふたりは俺たちが座っている場所から離れて、魔法訓練場のフィールドの中央へと歩いて行くと、それぞれに距離を取った。


「じゃあ、わたしからね」とカリちゃんが声を出すと、フィールドに立つ彼女の姿が白い霧というか雲に包まれる。

「わしも続きますぞ」とアルさんが言うと、彼の姿は黒い雲に包まれた。

 最近は黒雲だと目立つので、白い雲を良く使っているアルさんだが、今回は敢えて自身の本来のものである黒い雲を出したようだ。


 そして白雲が晴れて行くと、そこには巨大だがやや細身で優美な姿のホワイトドラゴンが、黒雲の方からは更に大きく逞しく凶暴そうなブラックドラゴンが現れた。


 見ての通り、そういうことなんですよ、ソフィちゃん。

 と彼女の反応を見ようと思ったら、ガタンという音がして彼女は椅子ごと後ろにひっくり返っていました。


「大丈夫っ? ソフィちゃん」

「あらー、頭とか打ってないかしら。ほら、ザカリーさま、早く診察して」


 エステルちゃんとライナさんが慌てて、ひっくり返っているソフィちゃんの様子を見ている。

 ああ、うまく椅子ごと後ろに倒れたので大丈夫そうだ。頭も打っていない。ちびってもいなさそうだな。


 だが彼女は目を大きく見開いたまま、夏の青空を見上げている。

 これはひっくり返ったせいではなくて、ドラゴンを見たことへの驚きのあまりですな。


「ソフィちゃん、だいじょうぶー?」と、カリちゃんがドラゴン姿のまま、心配そうに大きな声を出した。

 ドラゴンだと声が大きくなるから、抑えてくださいな。



「えらく驚かせてしもうたな」

「ザックさまとかエステルさまとか、姉さんたちはぜんぜん驚かないから、そんなものかなって思ってたですけど」

「あのふたりは別。わたしたちも、以前からアルさんを見てるからー。でも、久し振りに見たら、やっぱり大きいわよねー」


 俺の関係者はいろいろ麻痺しているので、いちばん後から俺たちのもとに来たカリちゃんに酷く驚くことはなかったんだよね。


 ドラゴンのふたりは再び人化して竜人族の姿に戻っている。


「ソフィちゃん、大丈夫? 怖かった?」

「あ、カリ姉さん。わたし、夢を見てたのかしら。白昼夢ってこういうのですか。姉さんが白い雲に包まれたと思ったら、中から凄くおっきいドラゴンさんが出て来て。アルさんは黒いドラゴンさんでしたし」


「夢じゃないんですよ。ソフィちゃんが自分の目で見たのが、わたしとアル師匠の本当の姿なの」

「へ? 夢じゃないの? ひょ、ひょぉー」


 その目でじっさいに見た事実を受入れるのに、また少し時間が掛かりますね。




「その、あの、整理しますと、シルフェさまとシフォニナさまが風の精霊さまで、それから、アルさんとカリ姉さんが、ドラゴンさまということなんですね。これは現実で、わたしが夢の中とか、お伽話の世界にいるのではないんですね」


「うん、その通りだよ。ちなみに、ソフィちゃんが見た通り、アルさんはブラックドラゴンで、かつこの世界で最も古くからいる五色竜のおひとりだ。そしてカリちゃんは、同じくその五色竜のおひとりである、ホワイトドラゴンのクバウナさんの曾孫さんだね」


「この世界で最も古くからいらっしゃる、五色竜のおひとり……。わたし、小さいとき、子供向けの神話の本で読んだことがあります。この世界が出来たとき、地上を護るために天界から5つの色のドラゴンが地上に降りたって。えと、アルさんって、そのおひとり? ってことでいいんですか?」


「まあ、そうじゃの。カリ嬢ちゃんの曾婆さんも、そうじゃよ」

「ふぇー。やっぱり、お伽話ですぅ」


 アルさんの場合は、まったくお伽話の登場人物だよな。

 絵本とかだと、だいたいは黒くてでっかくて恐ろしいドラゴンとして描かれていて、五色竜の中でも凶暴さはトップだ。


 絵画や木彫り人形になっている物も売られていたりするよね。わしとはぜんぜん違うとか、それを見付けると煩いけど。

 でも現実は、引き蘢り気味で始終居眠りをしている爺様なんだけどね。


「でもでも、アルさんは王都のお屋敷では執事さんで、カリ姉さんは侍女さんなんですよね」

「アルは、まあ自称、執事なのよ。人間の社会にいると、何か立場があった方がいいしね。カリちゃんは、ザックさんが預かっていて、人間の暮らしに馴染むためにそうしている訳ね」

「そう、なんですか」


「わしは、ザックさまの筆頭家来じゃから、ザックさまとエステルちゃんの執事をしておるのじゃがな」

「ザック部長の筆頭家来??」


 シルフェ様が適度な説明をしてくれているんだから、あまり余分なことは言わないでくださいよ、アルさん。



「ここまではいいかな? ソフィちゃん」

「はい。あの、良くはないですけど、まずは受入れてしまうことが大切なのかなって」


「あら、あなたってやっぱり賢いわね。そうね。人間の世界のことはともかく、人以外のことは受入れる心がまず大切よ。受入れる心がないと、それを疑ったり、見えるべきものが見えなかったりしますからね」

「はい、シルフェさま」


「ここまでは良しとして、さあ、やっと本題ね、ザックさん」

「そうですね。それでは、本日集まって貰った本題でありますよ」


「え、まだ本題じゃなかったんですか?」

「ここからが今日の重要な本題なのよー」

「とても大切なことなんですよ、ソフィちゃん。ジェル姉さん、大丈夫ですか?」

「ふぁい」


 今日はほとんど置物状態のジェルさんが、変な声で返事をした。

 もう腹は括っているんですよね。


「では、明日の旅行について、ソフィちゃんに大切なことをお話しますよ。思い出してくれるといいんだけど、明日は朝から出発して、1泊2日でシルフェ様の風の精霊の妖精の森に行きます。そこまではいいですか?」

「はーい」

「ひゃい」


「妖精の森までは、およそ2時間。ですが、ここから妖精の森までは、僕の推定ですと340万ポードほどの距離があります」


「さんびゃくよんじゅうまんポード、ですかぁ」

「あら、そうなの? そんな感じかしら」

「だいたいそのぐらいだと思いますよ、おひいさま。それがお解りになっているなんて、さすがはザックさまです」


 この世界の距離の単位である1ポードは、約30センチメートルだ。

 およそ1000キロはあると考えられるから、まあそのぐらいですな。ね、クロウちゃん。カァ。


「つまり、その距離を旅して行くのですが、それには馬車だととっても日数が掛かってしまう。なので2時間で行くというのは、じつは空を飛んで行くということになるんですよ、ソフィちゃん。具体的には、アルさんとカリちゃんの背中に乗せて貰います。みんな、いいかな?」

「ふわぁい」

「はーい。え? お空? ひゃひゃ?」


「ソフィちゃんは、わたしの方に乗ってく? でも、アル師匠の方が背中はおっきいから、そっちの方がいいかな」

「全員で8人じゃろ。そのぐらいならまったく平気じゃて、ぜんぶわしの方でもいいぞ」


 昨年の夏のアルさんの洞穴からの帰り。あのときは何人乗せて貰ったかな。

 シルフェ様たちは自分で飛んでたから、人間が9人だったっけ。


 ドラゴンのふたりが暢気にそんな話をしているけど、そもそも、いまはそれ以前の問題でソフィちゃんたちは固まっているんだよな。



「ザックさま。昨晩の相談通り、これからお試しをするんですよね」

「うん、エステルちゃん。所謂テスト飛行でありますな。これから明日に向けて、試しに空を飛んで貰いたいんだけど、いいですかぁ。みんな、聞いてるかなぁ?」


「それは、しないといかんですかな、ザカリーさま」

「だって、明日の出発時にいきなり本番とかよりはいいでしょ。それに、ソフィちゃんには初めての経験だし」

「これからも何があるか分からないんですから、慣れておくに越したことはないですよ、ジェルさん」


「それはそうなのだろうが……」


 もう、ごちゃごちゃ話してないで、乗っちゃいますよ。

 アルさん、すまないけどまたドラゴンの姿になってください。

 さあさあ、テスト飛行をしちゃいましょう。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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