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第672話 種明かし第一弾

 父さんと母さんとアビー姉ちゃんに、シルフェ様に招待されたことを話した。

 この冬には世界樹へ旅をしているのもあり、反対するということはなかったが、やはり懸念はソフィちゃんを招いたというところだった。


 しかしそれでも結局は、すべてシルフェ様にお任せするとしか両親も言えなかった。

 この世界では、真性の精霊様のすることを人間が否定など出来ないからね。


 母さんと姉ちゃんは自分も行きたそうだったが、やはりアルさんの背中に乗って空を飛んで行くという点で諦めていた。

 よっぽど怖い体験だったのだろうな。

 2時間ぐらいかかると話したらそれでふたりとも無言になり、それ以上は何も言わなくなった。


 そのあと、ウォルターさんとミルカさんの調査探索部の長ふたりにも話しておく。

 特にファータの里長さとおさ一族であるミルカさんには、さすがに今回は黙っておく訳には行かないからね。


「畏れ多いことです。ティモたちが遠慮したのは良くわかります。ザカリー様のご指示でと言えば、里で表立って批判に曝されることはないでしょうが、やはり善くも悪しくも特別扱いされてしまうでしょう。これまで過去に、風の精霊様の妖精の森にファータの者が訪れたというのは、私の知るところでもまったく無いですからね。あ、エステルは別ですよ。なので、里長さとおさほか主立った者に事前に報せずにというのは、彼らも拙いと考えたのでしょう。仮に私だとしても、父や兄にはあらかじめ言っておかないと後が怖い」


 そういうことなのだろうな。

 エルフの母なる地では、世界樹と樹木の精霊様であるドリュア様に祈りを捧げる、祈りの社の社守やしろもり長がエルフ自治領の中枢的な位置にいたが、ファータにはそういう立場の人はいない。


 しかし、風の精霊を先祖神とする精霊信仰の中心地であることに変わりはないし、里に居る者の全員が祈りを捧げる立場の者と言ってもいい。

 そのファータ人が、祈りの対象の地である、そして人間には知られざる妖精の森に行くのは、あり得ないことなのだろう。

 シルフェ様から名指しで呼ばれれば別なのだろうけど。



「それで、ソフィーナ様のことですが」と、それまで黙っていたウォルターさんがソフィちゃんのことに触れた。


 ドミニクさんは俺だけに留めて置いてくれと言っていたが、領主貴族関係のことに関してはさすがにこの調査探索部のふたりには黙ってはおけないので、彼女の本当のお母さんが亡くなっている話をした。


「それについては、じつは承知しておるのです」

「ザカリー様には怒られるかもですが、うちとしてはいちおう、ザカリー様に身近な他領の方々の調べはしているのですよ」


 そういうことなんだね。調査探索部としては当然だよな。

 ソフィちゃんだけでなく、やはり伯爵家であるヴィオちゃんや男爵家のライくんのことなども当然ながら調べているのだろう。

 父さんと母さんにもある程度は報告している筈で、あのふたりも口には出さないが知っているのでは思ったが、そこは俺も敢えて聞かなかった。


「グスマン伯爵家には、ドミニクさんからうまくお話をされるのでしょうが、そうは言っても領主貴族家同士の間のことで、ましてや相手は伯爵家です。ザカリー様には、今後はその点もご考慮いただけますように」

「そうだね。気をつけるよ」


 ウォルターさんが言っているのは、要するにうちがグスマン伯爵家の四女を取り込み、ちょっかいを出していると思われ、過剰に反応させないようにしろということだ。


 王立学院の中、課外部の中のことであれば、所詮は学院生間の話。

 グリフィニアでのこの夏休みの滞在も、ヴァニー姉さんの結婚式出席に引き続く、総合武術部の特別練習の延長線上と納得させられるかどうかは分からないが、まあそう言い張ることは出来るだろう。


 しかし、そこにじつは伯爵家内の縁談が絡んでいる。そして俺が子爵家長男でソフィちゃんが伯爵家四女。

 他愛も無い学院生の間のことから思惑が絡み合う領主貴族家の間のことへと、妙な方向に変化し発展してしまわないようにと、ウォルターさんは念押しした訳だね。


「尤も、畏れながらシルフェ様のご招待に従って、妖精の森をご訪問されるとは、誰も思いも寄らないことでしょうがな。はっはっは」


 ウォルターさんはそう笑って、この話を終わりにした。



 父さんたちの許可を貰ったことをシルフェ様たち人外の方たちに話し、早速にも明日に行くことになった。


「シモーネちゃんはどうします?」

「あの子は置いて行くわ。エディットちゃんたちとお留守番ね。それに1泊だけだし」


 王都屋敷の少年少女組は留守番という訳だ。まあこれは致し方ないな。

 フォルくんとユディちゃんなら平気でアルさんの背中に乗りそうだが、エディットちゃんは気絶しちゃいそうだよな。

 風の精霊見習いで侍女見習いのシモーネちゃんは、シルフェ様的にはその少年少女組の一員としておきたいのかも知れない。


「それで、同行させるのはジェルさん、ライナさん、オネルさんの3人ですけど」

「ええ、それでいいわよ。でもあの子たち、一緒に行くのかしら。無理矢理とかはダメよ」


「はい、無理強いはしませんよ。本人たちの意思を尊重しますが、ソフィちゃんが行って自分たちが尻込みするというのは、さすがに無いと思うんだけど」


 じつはこのあと、子爵家魔法訓練場に集合を掛けている。

 集まるのはお姉さん方3人に、シルフェ様たち人外の4人。そしてエステルちゃんと俺と、それからソフィちゃんも連れて行く。クロウちゃんもだけどね。


 その場で、明日から1泊2日で風の精霊の妖精の森に行くことを正式に伝え、ジェルさんたちの同行をあらためて確認する。

 更には、ソフィちゃんに種明かしも一挙にしてしまう予定だ。だから魔法訓練場で集合とした訳ですな。

 これも昨晩にエステルちゃんとクロウちゃんと相談し、シルフェ様たちの同意も得た。


 なお、風の精霊さんたちにお土産として大量のお菓子を持って行くために、エステルちゃんは既に行動を起こしています。

 まあ、要するにトビー選手に製作を頼むんだけど、エディットちゃんとシモーネちゃんが手伝ってくれるようだ。




「これがグリフィン子爵家の魔法訓練場ですかぁ。果樹園の中に隠れているんですね。ここでザック部長が、ご幼少の頃から魔法の練習をしたんですね」


 ソフィちゃんは、昨日にライナさんたちと魔法の練習をする予定だったのだが、結局昨日はそれが中止になった。


 ジェルさん、ライナさん、オネルさんの3人が、今回のことでちょっと話し合いたいので中止にさせていただきたいと言ってきたからだ。

 ブルーノさんたち男衆が同行を辞退しているので、そこら辺も踏まえてなのだろうね。


 なので、ソフィちゃんは今回初めて、この魔法訓練場に足を踏み入れたということです。

 石よりも硬くされた高く厚い土壁に囲まれていて、王都屋敷の訓練場と良く似ているが、広い果樹園の中に隠されるように存在しているというところが大きく違う。


 長閑な果樹園の中の道を進み、忽然と姿を表したこの施設の中に入ると、ソフィちゃんはかなり興奮した様子だった。


「初めは母さんが訓練する場所として、うちのダレルさんが造って、その後、最近はライナさんも使うから、あの人とダレルさんのふたりでずいぶんと改良してるんだよね。アルさんとカリちゃんも使うし」


「土魔法の達人のダレルさんですよね。凄いなぁ。ダレルさんとライナさんと、おふたりも土魔法名人がいらっしゃるなんて、グリフィン子爵家って凄いです。あのヴァネッサ館も、今回の結婚の儀のために造ったんですってね。凄いなぁ」


 凄い、凄いを連発しているソフィちゃん。

 いつもならここで、そのライナさんが「どうよ」という顔で会話に加わって来るのだが、今日はずいぶんと大人しいですよね。

 お姉さんたちは昨日も3人で相談しているのに、いまもなにやらコソコソ話をしている。


「カァカァ」

「なになに。まだジェルさんが渋っているみたいなの?」

「ちょっとわたし、行って来ます」


 クロウちゃんがこっそり3人の会話を盗み聞きして来たようで、エステルちゃんがその3人の方に行って話に加わった。


「ザックさん、そろそろいいんじゃない?」

「そうですね。では始めましょうか。おーい、みんな集まって」


 シルフェ様がそろそろいいだろうと、そう俺に言った。

 それで、4人になって話しているお姉さんたちに声を掛ける。


「なにか始めるんですか? ザック部長」

「うん。シルフェ様にご招待いただいた件ね」

「魔法のことじゃないんですね」


 ソフィちゃんは、ラウンジじゃなくて何でこの魔法訓練場に集まったのか、まったく合点が行っていないのだろうけど、まあ直ぐに分かりますよ。



「えーと、取りあえずみなさんお座りくださいな」


 この訓練場にある椅子を並べて皆に腰掛けて貰う。


「まずですね。一昨日にご相談しました、夏休みの想い出づくりのことですが」


「あー、そうだったわよねー。すっかり大もとを忘れてたわー」

「ライナ姉さん。少し静かにしてましょう」

「だってオネルちゃんさ。ここはもう、勢いも必要よー。ジェルちゃんはずっと固まったままだしさー」


「まあまあ、お静かに。いちおう僕とエステルちゃんの結論と言いますか、父さんたちにも話をして許可も貰いましたので、それを発表しますよ」

「…………」


「ごほん。シルフェ様のお招きを受けまして、ソフィちゃんを連れてシルフェ様のところに訪問することとしました。出発は明日朝。日程は1泊2日です」

「わあ、本当ですか、ザック部長。楽しみです」


 はい、ソフィちゃんは嬉しそうですね。でも普通の1泊2日旅行では無いですからね。


「それで、種々の検討と事前相談の結果、この想い出づくり旅行に行くのはですね。シルフェ様とシフォニナさん。アルさんとカリちゃん。僕とエステルちゃんとクロウちゃん。そしてもちろんソフィちゃん。それから出来れば、ジェルさんとライナさんとオネルさんも一緒に。参加者としては以上を考えておるのですが」

「…………」


 いつもならここで、ジェルさんが代表して「承知しました」とか言うのだが、その彼女の顔を見ても目を伏せぎみで何も言わないし、表情が落ち着かない。


「えーと、ジェルさん。今回はその、護衛とかではないので、無理にとか命令とかではないんだけど、どうかなぁ?」

「…………」


「どうかなぁ?」

「はあ、はい……」


「どうかなぁ?」

「い、行きます。同行します。謹んで参加します。諦めて飛びます。よろしくお願いしますアルさん。その、お手柔らかに……」


「ということよー、ザカリーさま。結論は昨日に、もう出てたんだけどねー」

「最後の踏ん切り、というところですかね」


 大丈夫だよ、ジェルさん。高いところは飛ぶけど、魔法で気圧も保たれているし、ちょっと寒いだけだし。苦しいことも死ぬこともないから。

 え? そういうことじゃないの? 高所恐怖症的な?


 まあこの世界で、人間が足場のしっかりしていない高所に行くことなんて、ほとんどないからなぁ。ましてや千メートルもの高さを飛行するとかはね。


 ともかくも、お姉さんたちも一緒に行ってくれることになりました。

 さてさて、では次に移りましょうか。



「はい、それではこの旅に誰が行くのかは決まりましたので、次にその旅の方法ですが」

「旅の方法って、馬車で行くんじゃないんですか? 2時間の馬車の旅かと思ってましたけど。歩きとかじゃないですよね」


「いや、それが違うのでありますな、ソフィちゃん」

「それはねー、そ」

「ライナ姉さん、ここは暫くザカリーさまにお任せして、黙っていないと」


 いつもの突っ込み制止役が、ジェルさんじゃなくて今日はオネルさんになってるんだな。

 まあそれは置いておいて。


「その話の前に、ソフィちゃんにはいろいろ知っておいてほしいことがあるんだよ」

「わたしが知っておくことですか?」


「うん。まず、明日このメンバーで行くところだけど……。じつはですね、風の精霊の妖精の森、なのであります」

「え? はい? 妖精の? 森ですか? シルフェさまのお家ではなくて?」


「その風の精霊の妖精の森が、シルフェ様のお家なんですよ、ソフィちゃん。つまり」

「つまり?」


「つまり、シルフェ様は、真性の風の精霊様で、シフォニナさんはその側近の風の精霊様なのです」

「は? あの? へ? ええーっ」


 それは驚きますよね。容易く信じられないようなことですからねぇ。



「でもでも、シルフェさまはエステルさまのお姉さまで、お顔もそっくりで。あのあの、精霊さまのお名前とかを付けるのは、わりとあることですから、そうなのかなぁとか思っていて。シルフェさまってお名前は、風の精霊さまのお名前ですけど。ええぇ、ひゃあー」


「ふふふ。ソフィちゃんは、エステルがファータの一族の子だって知ってるんでしょ」

「あ、はい。エステルさまは、ファータのお姫さまだって」

「わたしはお姫さまじゃないですよぅ」


「まあそれはいいとして、これもソフィちゃんは知っているかどうかわからないけど、ファータという精霊族は風の精霊の眷属で、エステルはその中でも直系の子孫なの。だから、わたしと顔が似ているのよ。まあ、妹というのはわたしが決めたことね」


「あ、はい、そ、そうなんですね。あ、ああーっ。失礼いたしましたーっ」


 ソフィちゃんは片膝を地に突くどころか、座っていた椅子から立ち上がると、その場でフィールドに両手両膝を突いて土下座のような格好になってしまった。

 それを見て、ここはそうしなくてもいいからと何とか立たせて椅子に座らせる。


 驚愕の種明かしだけど、これは第一弾だからね。まだ第二弾が控えていますから、まずは落ち着きましょう。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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