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第65話 冒険者ギルド長の提案

「ザカリー様、初めに俺の方から少し説明しておくと、この会合の趣旨は3ギルド、いや今日から4ギルドだな、その4ギルドに共通して関わりのある事柄について話し合うということだ」

 冒険者ギルド長のジェラードさんが話を進める。

 この会合は、領都の産業に大きな力を持っている主要ギルドの利害調整の場、ということだね。


「それで、この会合で意見が一致したことなんかは、連名で子爵様や内政官事務所に申し入れをするんだが、実際にはこの会合に子爵様に出席して貰って、各ギルドの意見なんかを直接聞いていただく場でもある」


 なるほどね。あらかじめ各ギルドの意見や議論なんかを直接、子爵領のトップにその場で聞いていて貰うことで、その後の申し入れや実行などをスムーズに進めようという訳だ。

 子爵側で何か大きな施策変更をしたり、領民に何かを布告するとかの前に、ギルド長を呼んで事前の話し合いや協力のお願いをしてるけど、その逆の場ということか。


「で、今回は子爵様も奥様もご不在だから、ザカリー様に出席いただいたんだが、いやなに、俺たちからザカリー様に特に何かしてほしいって訳じゃない。一緒に話を聞いて貰えればそれでいい」

「趣旨は分かりました。皆さんのお話を聞いています」



「それで今回の議題だが、アラストル大森林についてだ」

 そこでジェラードさんいったん間を空けて、テーブルを囲んだ皆を見渡した。


「ここにいるみんなは承知していると思うが、3年前、アラストル大森林の領都に近い浅いエリアに、カプロスというとても危険な魔物が突然現れた」

 カプロスは巨大なイノシシの魔物、別名ヘルボアで、俺の魔物との初遭遇、初戦闘の相手だ。

「その魔物を発見したのは、今日出席して貰っているザカリー様とエステルさん、それからブルーノだよな」

「ええ、そうですね」


「それでその発見以来、騎士団は大森林の魔物探索を強化しているし、俺たち冒険者ギルドも大森林へ冒険者が入る際には、今まで以上に慎重に行動し奥には入らないよう求めている」

「その分実入りが減っちまうが、カプロスなんかに出会って生命を落としたら、冒険者たちは元も子もないからな」

 領都のトップ冒険者のクリストフェルさんがそう続けた。


「そうだな。それで俺たちは安全を最優先に、この3年間活動してきた。しかしその分、他のギルドに卸す素材の量が減ってしまったのも事実だ」


 そうなんだよね。

 錬金術ギルドには大森林で採取できる薬草や、錬金術に使える魔物の部位。鍛冶職工ギルドには獣や魔物の皮革や、加工に使用する部位なんかが冒険者ギルドから卸されている。

 商業ギルドに加入している商人たちは、それで生産された商品を子爵領内や他の貴族領で販売している訳だから、当然影響が出ている。

 おそらく、大森林の豊富な木材の供給も減っているのだろう。

 俺が3年前に遭遇した魔物のせいで、子爵領の産業に大きな影響を与えてしまってる訳だな。



「それでだ、ここからが本題なんだが。その前に確認だが、あれ以来この3年間、アラストル大森林で俺たちが活動しているエリアに、カプロスとかそんな凶悪な魔物は一度も出現していないと騎士団からは聞いている。そうだよなブルーノ」

「……自分が発言していいか分かりやせんが、ザカリー様、いいですか?」

「うん、いいと思うよ。ブルーノさんも僕と一緒に、あの魔物を発見したんだしね」


「へい、分かりやした。ジェルメールさんもいいですか」

「ああ、騎士団で公にしている範囲内なら構わない」

 ブルーノさんは、上司である女性従騎士のジェルメールさんにも許可を求めた。



「それでは、自分が把握していることを簡単に申し上げやす。3年前のあれから、騎士団はほぼ連日、自分も含め探索部隊をアラストル大森林に入れておりやす。ですがこれまで、再びカプロスを発見したことはありやせん。また、カプロスに匹敵するような凶悪な魔獣や魔物を見つけた報告もありやせんでした」


 俺もたまに父さんに聞いたり、エステルちゃんに調べて貰ったりしてるけど、ブールノさんが今言ったように、あれ以来カプロスは現れていない。

 それから、俺とエステルちゃんだけが出会った、フェンリルと思われる存在も。


「これは自分も実際に探索に参加しやしたが、これまで冒険者が行った大森林の最も奥と思われるエリアでも、魔獣や魔物は3年前以前の状態と変わりやせんでした」

「そのときブルーノが見た魔獣は、どんなやつか教えて貰えるか?」

「そうでやすな、危険度の高いものですと、ハイウルフを何頭か、これは森オオカミを率いてやした。あと魔物としては、せいぜいはぐれゴブリンぐらいだったでやすね。これは片付けやしたが」


 ハイウルフが複数いると厄介だそうだ。

 特に森オオカミの群れを配下にしている場合は、もともと強い獣である森オオカミが更に統率の取れた戦闘をするので、かなり手強い相手とされている。


 ゴブリンは通常群れで存在し、5、6体から10体以上の複数で大森林内を移動するという。

 これは個体では弱いせいだが、移動中に他の魔物や魔獣などに襲われ数を減らしたりすると、はぐれゴブリンになる。

 大森林内に入れる技量を持った冒険者にとっては、特に恐い存在ではない。



「なるほどな、ありがとうよブルーノ。かつてトップの斥候職だったブルーノの話だから、間違いはねえだろう。俺が騎士団長から聞いているのも、同じようなもんだ」

 ジェラードさんは、せっかくブルーノさんがいるので、騎士団の現場の当事者から話をさせたかったのだろうね。


「前置きが長くなっちまったが、それで今日の話だ。これは俺個人の考えで、まだギルド内でも相談しちゃいないんだが、冒険者ギルドで探索チームを組織して、これまで行ったよりも大森林の深いエリアを探索しようと思っている」


「おいおいちょっと待ってくれよギルド長。それは冒険者が、騎士団とは別でもっと深くに入るってことかい」

「なんでそんなことするのよ。そりゃ奥に入れば入るほど採取できる素材は増えるし、質も良くなると思うけどさ」

 決定されれば、おそらく実際に大森林の探索に行くことになるだろう、クリストフェルさんとメラニーさんが声を上げた。



「アラストル大森林の探索や危険の排除を担ってくれているのは騎士団だが、騎士団だってそれだけが仕事じゃない。もし領内の治安が悪くなったり、領外から揉めごとなんかが持込まれれば、騎士団はそちらの対処に人員が割かれる。現実に、昔の北方15年戦争の時は大森林に人手を回せなくなり、産業面でも大変だったんだ。そうだよなグットルム」

「そうじゃったな。あの当時は、大半の騎士団と領兵が前の子爵様に率いられて、長い間、北の前線に行きおった。それで、大森林の魔物や魔獣からの守りは、残った騎士団や領兵と冒険者が総動員で行い、わしも森林内に入って出来る限り薬草の採取なんかをしたものじゃ」


 年齢的には冒険者ギルド長のジェラードさんが、うちの家令のウォルターさんやクレイグ騎士団長と同世代。グットルムじいさんは、もちろんそれより年長だ。


「現在は確かに平和だ。だが、いつそんな事態が起こらないとも限らない。だから俺は、冒険者の稼ぎはもちろん、この子爵領の産業を維持するためにも、冒険者ギルドが率先して動いて、大森林を活用できる範囲を少しでも拡げておきたいんだよ」


 そう言ってジェラードさんは、全員の顔を見渡した。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。


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この「時空渡りクロニクル」の外伝となる短編「時空渡りクロニクル外伝(1)〜定めは斬れないとしても、俺は斬る」を投稿しています。

ザックがザックになる前の1回目の過去転生のとき。その少年時代のひとコマを題材にしています。

こちらの連載とは別になりますが、よろしかったらお読みいただければ。

リンクはこの下段にあります。

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