第64話 ギルド会合でドワーフに会う
「みんな、こちらが子爵様のご子息のザカリー・グリフィン様だ。子爵夫妻がご不在のなか、わざわざ俺たちの集まりに来てくださった」
「みなさんこんにちは、ザカリー・グリフィンです。本日はお招きいただき、ありがとうございます。見ての通りの未熟者ですが、よろしくお願いします」
「ひゃ、ザックさまがまともに挨拶してますぅ」
「なかなか立派だぞ」
「頭にクロウちゃんを乗っけたままななのですけど」
おい、後ろの女子たち、小声で話しても聞こえるよ。
「それじゃ、今日集まって貰った者たちを紹介するぞ」
商業ギルド長のグエルリーノさんと錬金術ギルド長のグットルムじいさんは、それぞれ自分のギルドから来た出席者の隣に行った。
冒険者ギルド長のジェラードさんが、代表して進行するようだ。
「まず商業ギルドからは、ギルド長のグエルリーノの隣にいるのが、この領都で大きな商会を経営しているテオドゥロだ。若手だがなかなかのやり手だ」
「ご紹介にあずかりましたテオドゥロでございます。ザカリー様、お会いできて光栄です」
まだ40歳前に見える、精悍な感じのがっしりとした人だ。商会の経営者だというけど身体も鍛えてるね、きっと。
「次は錬金術ギルド長のグットルムの隣にいる女性だ。この領都で、グットルムの次に最高の錬金術師と言われ、優れた魔法の使い手でもあるマグダレーナだ」
「こんにちは、ザカリー様。このじいさんの次と言われるのは少し文句もありますが、まぁそうしておきましょうか」
「ふほほほ」
こちらは見た目年齢が良くわからないが、たぶん若いだろう女性だ。なんで隣でじいさんが、じいさんと言われて嬉しそうに笑ってる?
「それで冒険者ギルドだが、このふたりは、領都の冒険者でトップを張っているクリストフェルとメラニーだ」
「クリストフェルだ。よろしくお願いしますぜ、ザカリー様」
「メラニーよ。よろしくね、ザカリー様」
獅子人の獣人の男性がクリストフェルさんで、人族の女性がメラニーさんだね。
領都のトップの冒険者さんなんだ。
「それとよ、後ろにいるブルーノ、久しぶりだな」
「クリス、余計なことは言わないの」
あ、やっぱりブルーノさんの知り合いなんだね。ブルーノさんは何も言わず黙っていた。
「いつもはこの3ギルドで会合を行ってるんだが、今回はゲストが来てくれた。普段は滅多にこういった集まりには出て来ないんだがな。鍛冶職工ギルドから、ギルド長のボジェクと副ギルド長のチェスラフが来てくれた」
「初めてお目にかかりますな、ザカリー様よ。わしが鍛冶職工ギルド長のボジェク。それでこっちが副ギルド長のチェスラフだ」
ふたりのドワーフのおじさんは、やっぱり鍛冶職工ギルドの人だったんだ。
冒険者、商業、錬金術が主要3ギルドと言われるけど、この鍛冶職工ギルドも製造業を担う大きなギルドで、本当は主要4ギルドなんだよ。
でもジェラードさんが言っていたように、滅多に会合とかパーティーとかに出て来ないので、主要ギルドに含まれないことが多い。
夏至祭と冬至祭のときのうちのパーティーにも、参加したことがないしね。
家庭教師のボドワン先生なんかは、「偏屈者が多いですからな」とか言ってたな。
「こういった集まりは、わしらはあまり好かんのだがな、今日は特別だ。ところで、ザカリー様のすぐ後ろにいる娘はファータ人じゃないか? ジェラードの後ろにエルフがいるのはいつものことだが、ザカリー様にはファータか。いつも影が薄いファータが、今日はちゃんと姿を現してるようだな」
「ザカリー様の御前だぞ、失礼な発言を控えろ。エステルさんはザカリー様に最も近いお方であり、ザカリー様の、むぐむぐむぐ……」
女性従騎士のジェルメールさんが思わず声を上げたので、俺はライナさんに目配せして口を塞がせた。なんだか余計なこと言いそうだし。
「こんにちは、ボジェクさん、チェスラフさん、初めまして。エステルちゃんは僕担当の侍女でお世話係兼監視役で、僕が変なことや無茶なことをしないか見張って押さえてくれる役目の大切な人だから、いつも一緒にいるのは大目にみてね」
俺はちょっとだけキ素力を身体に循環させて、闘気をほんの少し放出しながらそう言った。
ほんの少しだけね。
あれっ? クリストフェルさん、なに慌てて剣の柄に手を掛けてるのかな? メラニーさんは魔法を発動しようとしてる? ここ会議室だから危ないよ。
でもさすがトップ冒険者だ。対応が早いが抑制もきいている。
ほかの人はというと、テオドゥロさんとマグダレーナさんは、ちょっと驚いた顔をしていた。
俺を幼少の頃から知っているギルド長3人は落ち着いている。
それで鍛冶職工ギルド長のボジェクさんは、何か言いかけ、横のチェスラフさんに抑えられているようだった。
「だめですよ、ザックさま。確かにわたしはザックさまの大切な人ですけど、きゃっ」
なに言ってるのかね、エステルちゃんは。「カァ」
「ザカリー様よ、そのぐらいにしてやってくれ。ボジェクも悪いやつじゃないんだ。ただこいつらは、精霊族の別種族の話になるといつもこんな感じでな。うちのエルミはもう慣れっこだがね。エステルさんも悪かったな」
ジェラードさんがこの場を納めるためそう言う。
「おい、ボジェク。おまえもザカリー様のところのエステルさんには、発言を気をつけるんだ。ザカリー様が普通の子どもじゃないのは、もうわかるだろ」
「いやぁ、申し訳ない。別にザカリー様に対してどうのこうのとかはまったくないんだ。精霊族の他の種族に会うと、つい口が滑っちまう。ザカリー様、すみませんでした。エステルさんと言ったか、悪気はなかったんだ。すまない」
ボジェクさんとチェスラフさんは揃って頭を下げた。
悪いおじさんじゃないのだろうけど、空気を読む的なことは苦手なんだろうね。ドワーフさんというのは、みんなそうなのかな。
「いえいえ、僕は別に大丈夫ですよ。せっかく今日初めてお会いしたのですから、仲良くしましょう」
ドワーフのふたりは、もういちど頭を下げた。
「ふほほ、さあもう良いじゃろ。ジェラードよ、そろそろ会合でも始めようぞ。ザカリー様、どうぞ席にお座りください。エステルさんもお隣にな。護衛の騎士団のみなさんも着席してくだされ」
「そうだなグットルム、皆も席についてくれ。ザカリー様、みなさんもさあどうぞ」
エステルちゃんは椅子を少し俺の座る椅子に寄せて、そこにちょこんと座った。
「ふふ、大切な人ですから、なるべくお近くにいないとです。ふふ」
「カァ」
とりあえず無視しましょう。
「よし、それじゃ定例の会合を始めるぞ。まずは俺からの提案だ。これまでは3ギルド会合だったが、折角だから今日からは4ギルド会合にしたい。どうかな」
「はい、賛成しますよ」
「うむ、賛成じゃ」
「商業ギルドと錬金術ギルドは賛成だな。それでどうだ? 鍛冶職工ギルドは」
「ふむ、いいだろ。これまでも誘われていたのに参加しなくて悪かった。今後は混ぜていただこうか」
「ありがとう。あらためてよろしく頼む」
ようやく今日の会合が始まるようだ。ところで議題はなんだろね?
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
エステルちゃんが主人公の短編「時空渡りクロニクル余話 〜エステルちゃんの冒険①境界の洞穴のドラゴン」を投稿しました。
彼女が隠れ里にいた、少女の時代の物語です。
ザックがザックになる前の1回目の過去転生のとき。その少年時代のひとコマを題材にした短編「時空渡りクロニクル外伝(1)〜定めは斬れないとしても、俺は斬る」もぜひお読みいただければ。
それぞれのリンクはこの下段にあります。




