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第650話 結婚の儀出席者一行、エールデシュタットへ

 翌朝、昨晩は晩餐会場だった大広間が朝食会場になっていて、お客様たちやお付き、護衛の人たちも揃って朝食をいただく。

 今朝も早朝から、エステルちゃんを筆頭に屋敷のスタッフは大忙しだ。

 ともかくも、今日エールデシュタットに行く全員に、朝食を食べていただかないといけないからね。


 なんだか前々世のビジネスマンで賑わうホテルか、オンシーズンのリゾートホテルの朝食風景みたいだよな。


「ザックさまも早く食べちゃってくださいよ。お支度もあるんですから」

「へーい」

「カァ」

「もう、朝からそんなご返事。でも今朝は、ゆっくり構ってられないですからね」


 すんません。さっさと食べちゃいます。



 屋敷の玄関前には、馬車がずらりと並んでいた。

 うちの騎士団員が忙しく動き、他家の馬車の御者さんや護衛の人たちもそれぞれごとに徐々に集まって来る。

 そして、今日一緒に行くグリフィニアの主立った人たちもやって来た。


「ザカリー様、おはようございます」

「おはようございます。ザカリー様が俺たちをお出迎えかよ」

「なんとも、朝から丁寧な出迎えじゃの」


 ギルド長の面々だ。いや、別におっさんや爺さんらを出迎えるために、出て来た訳じゃないですから。

 朝食をいただいて、ちょっと夏の朝の新鮮な空気を吸いに外に出ただけですから。カァ。


 その後ろから、エルミさんと錬金術ギルドのマグダレーナさん、それからあれ? カロちゃんがやって来た。


「おはようございます、ザカリーさま。本日はよろしくお願いします」

「ザカリーさまったら、久し振りよね。あ、おはようございます」

「おはようございます、です。ザックさま」


「カロちゃん、どうしたの?」

「それがですね。うちのラウレッタとカロリーナがなにやら相談しまして。どうも最終的に、カロが行くことになったのですよ」


「へぇー、そうなんですねグエルリーノさん。良かったね、カロちゃん」

「えへへ。はい、母さんとの勝負に勝ちました、です」

「そ、そうですか。ルアちゃんとソフィちゃんと、それからカシュも来てるよ」

「わぁ、ほんとですか。たのしみ、です」


 おいおい、どんな勝負をしたんだ。ともかくも、これでカロちゃんも、ヴァニー姉さんの花嫁姿が見られる訳だ。


「ザックさま、そろそろお支度を。ザックさまがお着替えしないと、わたしたちも支度に行けません」

「あ、ごめん、ユディちゃん。いま支度する」


 朝食会場を手伝っていたユディちゃんが、俺を迎えに来た。


「今朝はユディ嬢ちゃんが、エステルさまの替わりか」

「昨日に奥さまたちが先に行かれたので、エステルさまは大忙しで、ザックさまの面倒を見てられないんです」

「ふほっほっほ。エステル様以外にも面倒を見てくれる人がいて良かったのう、ザカリー様よ」


 グットルム爺さんは煩いですよ。何か言おうとした俺は、ユディちゃんに手を引っ張られるようにして屋敷の中に入る。


「そこで屯してると邪魔になるから、中に入って適当に出発を待っててくださいよ」

「おう、わかったぜ」

「それでは、入らせていただきますよ」


 まあ彼らは何回も来ているので、屋敷の勝手は良く知っているから放っておこう。




 王太子を筆頭に他家のお客様から民間のギルド長たちまで、これだけの人数が同時に順序良く出発するとなると、もう大騒ぎでありますな。


 父さんと俺やオスニエルさんらが、馬車に乗り込む人たちが全員揃っているのかを確認し、クレイグ騎士団長の指揮のもと、俺の独立小隊や同行護衛する騎士小隊が馬車の車列の順番や、護衛の人たちの並び順を整理する。

 護衛は皆が騎乗なので、馬の数も多くて大変だよね。


 エステルちゃんとフラヴィさんは、屋敷の留守番をする侍女さんたちへの指示をあらためて確認しながら行い、他家の奥様方のお相手もしてと大忙しだ。

 そういう意味ではシルフェ様たちが人間の社会に慣れていて、手間が掛からないのがせめてもの救いであります。

 シモーネちゃんはしっかり侍女さんしてるし、カリちゃんも変なことせずに頑張ってくれている。



「それでは皆様方、これより出発しますぞ。お願いした順に馬車にお乗りくだされ。忘れ物はありませんな」


 クレイグ騎士団長の戦場声が響いた。このおじさんの場合、拡声器はいらない。


「それでは子爵様、先代様、大奥様、お乗りください」と整理係の騎士団員が呼び掛けて、先頭の馬車に父さんたちが乗り込む。

 ちなみに当初同乗予定だったセリヤさんは、遠慮してユリアナさんと共にエルネスト伯父さんの馬車に乗ることになった。


 馬車の順としては次に俺たちが乗る馬車で、つまり先頭の2台がグリフィン子爵家。

 そのあとに王太子の馬車、ランドルフさんとブランドンさんの乗る馬車と王宮の馬車が続き、あとは爵位に従って貴族家の馬車が並ぶ。

 ソフィちゃんの馬車は、爵位はないが伯爵令嬢ということで王宮の馬車の後ろだね。


 そして、トビーくんやフラヴィさんたちが乗る屋敷の予備の馬車と、ギルド長たちとネイサン副騎士団長やオスニエルさんが乗る2台の騎士団の馬車で最後尾を取るという馬車列だ。

 えーと、全部で14台。合ってますかね。カァ。


 俺とエステルちゃんが乗る騎士団の大きめの馬車には、シルフェ様とシフォニナさんとアルさんも同乗する。

 クロウちゃんは飛ぶの? どうするの? ああ、シフォニナさんの膝の上ね。


 なお、シモーネちゃんは、「エディットお姉ちゃんとカリお姉ちゃんと一緒に乗りますです」と本人が言ったので、エステルちゃんがトビーくんたちの馬車に乗せました。

 人間と精霊とドラゴンの娘3人だけど、頼むねトビーくん。

 尤も彼は、向うに到着したら直ぐに明日のデザート作りの準備なので、それどころではないかも知れない。


 そういえば、うちのマジックバッグをひとつエディットちゃんが預かって持っているけど、どうやらそれに大量のデザート材料を入れたらしい。

 なんでも、子爵館の果樹園で収穫した桃とかの傷み易い果物をかなりの数量運びたいと、トビーくんがエステルちゃんにお願いしたそうなのだ。

 先方で取り出すときには、見られないよう周囲に気をつけてくださいよ。




 夏の午前の陽射しの中を、馬車列が進む。

 エールデシュタットに続く街道で出会う領民の人たちは、長い馬車列と多くの護衛の騎馬を見て一様に驚いていた。

 そして、お昼にはまだ幾分早い時刻にグリフィン子爵領最北のオウルフォード村に到着。

 冬にも昼食休憩で立ち寄った村だね。


 事前に報せが行っているので、村民の皆さんが総出で出迎えてくれる。

 ここは所謂退役軍人の開拓村なのだが、先頭の馬車から父さんに続いてカートお爺ちゃんとエリお婆ちゃんが降りると、歓声が上がった。


「おお、先代様と大奥様だぞ」

「お帰りなさいませ。先代様、大奥様」


 ランドル村長や村の主立った人たちが、お爺ちゃんたちのもとに駆け寄って行く。

 やっぱりカートお爺ちゃんって、15年戦争を先頭で闘った英雄だから元軍人さんたちには人気があるんだなぁ。

 その様子を父さんが苦笑しながら見ていた。


 俺とエステルちゃんたちも馬車を降り、そして次々に後続が到着する。


「ランドルさん、冬以来ですね。またお昼だけだけど、お邪魔しますよ」

「ようこそ、ザカリー様、エステル様。お待ち申していましたぞ」

「昨日は姉さんや母さんたち、無事に着いたかな」

「ヴァネッサ様のお姿をしかと拝見しましたぞ。何ともお美しかった。まるで精霊様かと思いましたわい」


 あ、本当の精霊様はそこにふたりいますけどね。



 何しろ、お付きや護衛、御者の皆さんも含めて総員で100名を超える一行だ。

 トビーくんたちが馬車から暫く降りて来ないと思ったら、車内から次々に何やら箱を降ろして騎士団員たちがそれを運び出す。


 どうやら昼食は、恒例のレジナルド料理長特製のサンドイッチですな。

 この大量のサンドイッチも、エディットちゃんが預かっているマジックバッグに収納して来たようだ。それを馬車の中で取り出したんだね。


 それにしても、昨晩の晩餐会、今朝の朝食、そしてこの昼食と、料理長たちは大変だっただろうなぁ。

「この何日かは、僕らにとっては戦争みたいなもんっすよ」とトビーくんが言ってたけど、まさに戦場だったのだろう。

 いくさには兵站が重要ですからな。ちょっと違うけど。


 一方でオウルフォード村の人たちは村の広場に昼食会場を仮設し、飲み物を振る舞ってくれた。

 村民の皆さん総出で、この一行のお世話をしてくれる。ありがたいことです。

 サンドイッチは余分にあると思いますから、皆さんも召し上がってくださいよ。


 あと、うちの領民って、何故か貴族だろうが王太子がいようが、あまり大袈裟な対応をしたり過剰に縮こまったりしないんだよね。

 ここが退役軍人村ということもあるけど、領内はだいたいがそうじゃないかな。

 うちの家族が訪れても、普通に子供からお年寄りまで気さくに寄って来るからね。


「なんだろう。王都圏内とは違うよな。村人たちが、普通にザック君たちと接しているというか、みんなニコニコしているというか」


 王太子が俺のところに来て、そんなことを言う。

 そう言えば、初めてナイアの森に行ったときに立ち寄った王都圏内の村では、村人たちに凄く警戒されたというか触らぬ神に祟りなしというような態度だったよね。

 村長は腰を低くはしていたけど、あからさまに慇懃無礼な感じだったし。


 でもセオさん、ここの村人たちはニコニコ優しい顔のおじさんやおばさん、お爺ちゃんやお婆ちゃんたちだけど、たぶん戦闘力もかなりあるんですよ。


「まあ、うちの領内はこんな感じです。気さくというか、あまり遠慮しないというか」


 王太子が見ている方を俺も眺めてみると、アルポさんとエルノさんなどがもう村の爺さん婆さんに混じって何やら話している。


 彼らは結局、先頭の父さんたちと2番目の俺たちが乗る馬車の御者を、それぞれフォルくんとユディちゃんを助手にして務めてくれている。

 なんでも、平時にあっても常在戦場の心構えで馬車を操る、その心得を指導する一環なのだとか。


 双子の兄妹にとっては、ティモさんが兄貴でブルーノさんがお父さん、そしてアルポさんとエルノさんがお爺ちゃんなんだよね。

 そして、このお爺ちゃんたちの指導が最も厳しいという訳だ。あ、それよりも厳しいのは3人のお姉さんたちか。


「ほら、ザカリーさまはそこでぼーっとしてないでー。お昼を早く食べちゃいなさいねー」

「ザカリーさまが食べ終わらないと、出発が出来ませんよ」

「王太子様もどうぞあちらで」


 一緒にいたヒセラさんとマレナさんが、口元に手を添えて笑っている。

 へい、すんません。王太子も素直に従ってくださいよ。うちのお姉さん方は怖いですからね。




 領境を越え、途中1回の休憩を挟んで午後の遅くには、辺境伯領都エールデシュタットに一行は無事到着した。


 一般用の都市城壁門の横にある大きな軍用門が開門され、1台ずつ馬車が通過する。

 そして都市城壁内の広場に馬車が勢揃いすると、どうやら出迎えの辺境伯騎士団騎馬隊が来ていたようだ。


「真ん中にいらっしゃるのって、ヴェンデルさんみたいですね」

「ああそうだね、エステルちゃん。騎士団長自ら、騎馬隊を率いて迎えに来たんだ」


 騎馬隊の先頭の2騎は大きな旗を掲げている。あれはキースリング辺境伯家の旗かな。


「なかなか勇壮よねぇ」

「精鋭部隊といった感じかのう」

「エルフ軍よりは強そうですよ」


「それを言うならシフォニナさん。ザックさまのところが、いちばん強いじゃろうて」

「それは当たり前よ、アル」

「ですね」


 精霊様から見ても、エルフの防衛隊は弱そうだったのかな。

 まあ、そこそこ戦える感じではあったけどね。



 街の中の曲がりくねった街路を進み、やがて直線に伸びた道の向うにエールデシュタット城の大門が待っている筈だ。


「グリフィニアより、ご一行、ご到着。開門、開門」


 良く通る声が聞こえた。

 そして馬車列は大門を潜るとなだらかな傾斜路を進み、やがて停止した。

 ようやく着きましたな。


 馬車を降りると、城の大きな正面玄関前にはモーリッツ・キースリング辺境伯と奥様のエルヴィーラさんに、娘のエルネスティーネさんが待っていた。

 そしてアン母さんやアビー姉ちゃんもいて、ヴァニー姉さんとヴィクティムさんが笑顔で並んで立っている。


 おお、ああしてふたりでいるのを、初めて見ましたですぞ。

 明日の花婿花嫁は、なかなかの美男美女カップルではないですか。

 さあ、ふたりのところに行きますかね、エステルちゃん。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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