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第649話 お客様たちがご到着

 王太子とランドルフ王宮騎士団長及び侍女のヒセラさんとマレナさん、あと人外の3人はお客様用ラウンジに残ったままだが、その他の人たちは出迎えのため正面玄関前へと出た。

 王宮内務部のブランドン長官は王宮と貴族との外交担当なので、一緒に出て来たということだね。


「(王太子に何か聞かれても、余計なことは喋らないでくださいよ)」

「(わかってるわよ、ザックさん。ホントあなた、心配性)」

「(任せておきなされ)」

「(わかりました。わたしがいますので大丈夫です)」


 シフォニナさんがいるから大丈夫だとは思うけど、少しの間だけでも心配なんですよ。



 馬車寄せに馬車が到着する。まず1台だ。


「フェルディナント・デルクセン子爵閣下ご夫妻、ご到着」


 待機していた介添え役の騎士団員が声を上げた。

 うちの独立小隊も全員が揃っているが、そのほかにも騎士小隊が1隊待機している。


 フェルディナント・デルクセン子爵には俺もまだ会ったことがないので、まずは旧知の父さんが出迎える。

 そういえば近隣領かつ同じ子爵同士だけど、あまり交流は多くないんだよな。


 フェルディナント子爵は、父さんよりも年齢は僅かに下というところだろうか。

 子爵に続いて馬車を降りた奥様は、だいぶ歳下のようだ。

 まだお子様も年少だと聞いたことがある。誰から聞いたのかな。

 ああそうだ、自然博物学のゼミで一緒のスヴェンくんからだ。彼はデルクセン子爵家の高位文官の息子さんだからね。


 父さんがまず挨拶を交わし、俺とエステルちゃんを紹介。

 それからブランドン長官やお爺ちゃんお婆ちゃんたち、ソフィちゃんらが挨拶を交わして、ご夫妻を屋敷の2階のお客様用ラウンジへとご案内する。


 案内と介添え役は、エステルちゃんと侍女のフラヴィさんたちに任せる。

 というのも、次の馬車がもう子爵館正門を潜ったのが見えたからだ。


 エステルちゃんはラウンジで王太子に引き合わせたあと、あとは侍女さんに任せて直ぐに戻って来る筈だ。

 あそこにはヒセラさんとマレナさんもいるので、まあ安心だね。

 それにしても本当に、今日のエステルちゃんは大忙しだなぁ。



「マクシム・オデアン男爵閣下ご夫妻、ご到着。続いて、モーリス・オルティス準男爵ご夫妻の馬車も到着されます」


 マクシム・オデアン男爵も初対面だね。

 こちらは、モーリスさんとウォルターさんのオルティス兄弟よりも少し歳下という感じのおじさんだね。奥様もふくよかなおばさんだ。


 先ほどと同じく父さんが挨拶して、それから俺という順番で挨拶が進む。

 エステルちゃんもなんとか間に合った。彼女は屋敷の中を音も無く走るのが得意ですからな。


 直ぐにアプサラのモーリスさんとカルメーラさんも、続いて来た馬車から降りて合流した。


「おお、ザカリー様、エステル様、久し振りですな。いやあ、男爵を迎えたおかげで、お嫁入り前のヴァネッサ様にお会い出来ませんでしたぞ」

「あなた、聞こえますよ」


 モーリスさんの言葉の後半は小声だ。

 モーリス準男爵は、交易で付き合いの深いマクシム・オデアン男爵夫妻をアプサラで出迎えたので、出発前のヴァニー姉さんと会えなかった訳だ。


「残念でしたが、明後日の花嫁姿を楽しみにしてください」

「おお、そうだそうだ。さぞかしお綺麗だろうて。いまから楽しみだぞ、これは」


「さああなた、男爵さまをご案内しないと。エステルさま、わたしたちがお2階までお連れしますから、大丈夫ですよ」

「すみません、カルメーラさん。それではお願いします」


 このふたりはしょっちゅううちに来ているので、屋敷の中も熟知している。

 それにしても、相変わらず賑やかな準男爵だ。



「ふう。あとは、ルアちゃんのお父さまですね」

「だね。エステルちゃん、大丈夫?」

「まだまだ、ぜんぜん大丈夫ですよ。でもお母さまと、ウォルターさんと、コーデリアさんと、リーザさんと。この4人が居ないっていうのは、思った以上に大変ですぅ」


 普段はこの屋敷を動かしている4人だからね。

 それを今日だけは、フラヴィさんたちに助けられながらもエステルちゃんが廻している。


「エイデン伯爵家、コルネリオ・アマディ準男爵様ご到着」


 騎士団員の声が響き、馬車が1台馬車寄せに停止した。

 おやおや。御者台で手綱を握る御者さんの隣に座っているのは、あれはカシュくんではないですか。キミはいつから、御者助手になったのでありますか。


 馬車のドアが開かれ、コルネリオ・アマディ準男爵が降りて来る。

 年齢的には父さんとそれほど違わない感じかな。学院では下級生だったとか、父さんが確か言っていたよな。

 そのコルネリオさんの後ろから降りて来たのは、なんと奥様ではなくルアちゃんだった。


 おいおい、結局お父さんと一緒に来ちゃったのかよ。

 ほぼ学院の制服姿か、訓練装備か魔法侍女服ぐらいしか見たことがなかったのだが、今日は貴族の娘さんらしい余所行きの衣装に身を包んでいるので、俺は一瞬目を擦りました。



「ザック部長、来たよ」

「ルア先輩に便乗出来ましたっす」


「おい、ルア。ザカリー様には、もっと丁寧にご挨拶せぬか」

「いいんだよ、父さん。この部長は、そういうの嫌いだからさ。ねえ、エステルさま」


「これは、ザカリー様、エステル様、初めてお目に掛かります。コルネリオ・アマディでございます。いつも娘と、それからカシュパル・メリライネンがお世話になり、ありがとうございます。ザカリー様にいちどはお目に掛かりたいと願っておりましたが、こうしてお会い出来て感激です」


「父さん、挨拶が長いよ。普段は無口のくせに」

「いやあ、武辺者の娘で礼儀の躾けが出来ておらず」


 武辺者とか、さすが大森林近くのケルボの町を治めるアマディ準男爵家だよね。


「ルアせんぱーい」

「あ、ソフィちゃんも来られたんだ」

「はーい。昨日に到着しちゃいましたよ」

「あたしももっと早く来たかったんだけどさ、母さんの替わりにあたしが行くので、ちょっといろいろあって」


 えーと、一挙に王都の学院での雰囲気になっちゃいましたよ。

 きゃっきゃ言っている女子ふたりの様子に、父さんやブランドン長官ほかの人たちも呆気に取られている。


「さあさ、みなさまとご挨拶を済ませて、お屋敷の中にご案内しますよ」

「はーい、エステルさま」


 基本的に誰も、エステルちゃんの言うことは素直に聞きます。カァ。

 でも、2階のラウンジに行ったら王太子がいるからね。お行儀良くしなさいよ。


「ところで、カシュ。キミも良く来られたな」

「はいっす。父を説得して、アマディ準男爵が行かれると決まってからは、護衛の騎士団に便乗出来るよう、父に工作して貰ったんすよ。ルア先輩が一緒ということが知らされて、あとはすんなり行ったんすけどね。ただ、まだ騎士団員ではないので、馬はダメだと言われて」


 ああ、それで御者さんの助手になったのか。


「でも、ときどき馬車の手綱を握らせて貰ったんで、だいぶ上達したんすよ」

「なるほどね。じゃあ王都では僕の馬車の御者もして貰おうかな」

「えっ、やるっすよ。いいんすか」

「冗談だよ」


 まさか、俺の軽口に乗って来るとは思わなかった。




 そのあとの細かい出来事はいいだろう。

 ラウンジでは王太子とそれからシルフェ様たちにも、本日到着のお客様たちは挨拶したのだが、特段の問題はなかったようだ。

 というか、シルフェ様たちには揃って丁寧に挨拶していたらしい。


 事前に何かを聞いていたのか、醸し出す特別なオーラのせいなのか。それとも、王太子が凄く丁重に接していたせいなのかも知れない。

 ただ初対面の人たちは、シルフェ様とエステルちゃんが瓜二つなことに一様に目を見張っていたけどね。


 ともかくも賑やかな歓談の時間があっという間に過ぎて、大広間での歓迎の晩餐会となった。


 この晩餐会には、父さんの方針で結婚の儀への正式な出席者のほか、お付きや護衛で来られた方々も全員を招いた。

 うちからも俺の独立小隊のみんなや従騎士以上の騎士団員、主立った内政官たちも参加した。


 カートお爺ちゃんやジルベールお爺ちゃんは、アルポさんとエルノさんとは旧知の仲なので、ブルーノさんやティモさんも含めて直ぐ近くに座らせていたりする。

 ああ、アルさんとソフィちゃんのところのドミニク爺さんもそちらなのですな。濃いメンバーだなぁ。


 主賓はもちろん王太子なのだが、その隣には父さんと俺、エステルちゃんと着席し、反対側の隣にはシルフェ様とシフォニナさんが座る。

 どうやらこれは、王太子がそうするようにと言ったそうなのだ。


 単にシルフェ様の隣に座りたいというだけではなくて、グリフィン子爵家の大切な身内であると他の貴族たちに示すという王太子なりの配慮と、取りあえずはそう思いたい。


「(必要以上のことは、お喋りしないでくださいよ)」

「(もう、本当に心配ばかりなんだから、ザックさんは)」

「(いまのところ、大丈夫だと思いますよ)」

「(わしに任せなされ、って、わし、離れて座ってしまったわい)」


 はい、アルさんはそこでいいです。ほとんど期待していないし。

 あと心配ばかりとか言いますけど、精霊様って嘘がつけないから、その点が心配なんだよね。

 クロウちゃんはどこにいるんだ? あ、ソフィちゃんのとこですか。

 キミはそうやって、いろんな女の子たちのところに自由に行けるからいいよな。



「みなさん、お揃いになりましたかな。それでは、この俺、いや不肖ながらわたくしが、乾杯の発声をさせていただきます。残念ながらここにはおりませんが、本来の主役であるヴィクティム君とヴァネッサ嬢の結婚の前祝いとして、それからふたりの末長い幸せと皆様のご健勝を願いまして、乾杯」

「乾杯っ!」

「かんぱーい」


 王太子が、俺がやるよと言って乾杯の発声をしてくれた。ホント、こういうところは気さくで助かりますなぁ。


 今夜は公式の晩餐会ではないので、雰囲気もなんだか自由な感じだ。

 屋敷の侍女さんたちにエディットちゃんやユディちゃんが加わり、それからカリちゃんも張り切って手伝ってくれていて、料理の皿も順調に進む。


 メインの料理が終わった頃には席を移動する者たちも出て来て、挨拶を交わし合ったりワイングラスを傾けながら和やかに歓談していたりする。

 父さんも本日到着した貴族たちのところに移動していた。


「なあ、ザック君。こういうのって、なんだかいいなぁ」

「え? 何がですか、セオさん」

「ほら、自由な雰囲気でさ。護衛たちや君のところの騎士団員とかも一緒だし。君の父上って、そういうところが偉いよな」


「ああ、これがグリフィン子爵家の家風なんですよ。それに、北辺の流儀なのでしょうかね」

「そうか、北辺の流儀か……」


 王太子は空いた父さんの席に座り直して俺の隣に移動し、そんなことを話し掛けて来た。

 俺とかグリフィン子爵家的にはそれほど特別なことではないのだが、やはり王家の人間にとっては少し変わった風景なのかも知れない。



「ねえセオさん。つかぬことを聞きますが」

「うん? なんだい」


「あの、事前にいただいたセオさんの予定表には、エールデシュタットでの結婚の儀のあとの日程が、グリフィニアに戻ってから未定になっていたのですけど」

「ああ、そのことか。うん、未定、ということにしておいた。面白いだろ。はっはっは」


 面白いじゃありませんぜ。そのせいで、うちでは検討会議までしたんですから。


「ということは、セオさん的にはどういうおつもりなんですか?」

「いや、ほら、少しばかりここに滞在させて貰えればと思ってさ。いや、そんなに長くは居られないから2、3日程度だとは思うけど。そこはランドルフとも相談しないとだな。ブランドンは報告と仕事があるから、直ぐに王都に帰るけどね」


 王太子とランドルフ王宮騎士団長が残る訳ですね。2、3日程度ですか。まあそうでしょうな。


「俺としては、君がこちらにいる間中、一緒に滞在していてもいいんだけどさ。はっはっは。まあ、さすがにそれは無理だな」

「そうですか。いえ、じつは結婚の儀のあと、エールデシュタットから僕の課外部の部員がもうひとりグリフィニアに来て、軽く訓練などをする予定もありましてね」


「ほう、そうなんだ。君の課外部と言うと、総合武術部だっけ。ソフィーナ嬢に今日エイデン伯爵領から来たふたりだね。それとエールデシュタットからだと、オーレンドルフ準男爵の息子さんか」


 どの世界でも偉い立場の者は、多くの他人ひとや物ごとを認識、記憶する力に長けていると言われるけど、この王太子もそうだよな。


「それは、ふうむ。俺もその訓練を見学させて貰ってもいいかい?」

「ええ、構わないですけど、アラストル大森林とかにも連れて行こうかと思っていまして」


 あ、思わず口が滑ってしまいました。さっきシルフェ様に念押ししたくせに、自分から余計なことを言ってしまった。

 アラストル大森林という名称を耳にして、王太子の目がキラリと輝いたのを見逃しませんでしたぞ。


「ほほう、アラストル大森林か。それは楽しみだなぁ。もちろん俺は行ったことが無いし、ザック君が連れて行ってくれるのなら、グリフィニアに来た甲斐があるというものだぞ、これは」


 いやいや、誰もあなたに一緒に行きましょうとか言ってないんですけど。

 でも王太子はもう、行く気満々になってますですよ。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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