第63話 ギルド会合に行く
翌日の午後、主要3ギルドの会合とかに招待されて行くために俺はエステルちゃんを連れ、式神のクロウちゃんを頭に乗せて玄関ホールを出た。
家令のウォルターさんとフォルくん、ユディちゃんも見送りに来ている。
屋敷玄関前の馬車寄せには、1台の馬車が停まっていた。
「今日は馬車で行っていただきますよ」
「歩きじゃダメかなぁ」
「いちおう、正式にご招待を受けた訪問ですから、ダメです」
「そうですよね」
「それから護衛も付けますので」
「そうですよね」
護衛はもちろん騎士団からで、女性従騎士のジェルメールさんと従士のブルーノさん、ライナさんの3人だった。
アプサラで一緒に港に行ったメンバーだね。
領都内での公務ということで、それぞれ軽装の制服を身に着けている。
「ザカリー様、本日はよろしくお願いします」
「あ、ジェルさん、ブルーノさん、ライナさん、よろしくお願いします」
子爵家用の馬車は父さんと母さんたちが王都に乗って行ったので、今回は騎士団の馬車だ。
ブルーノさんが御者を務め、ジェルメールさんとライナさんは騎乗で前後に付く。
「それじゃ行ってきます」
「行ってらっしゃいませ。楽しいご訪問になりますように」
「行ってらっしゃいませ」
おっさんとじいさんの会合で、楽しい訪問になるのかなぁ。
馬車と騎馬の一行は、あっという間に冒険者ギルドに到着する。
ギルド前には、美人エルフのエルミさん以下ギルド職員数名が、出迎えに出ていてくれていた。
「本日はようこそおいでくださいました。どうぞ中へ」
「お招きいただき、ありがとうございます」
ライナさんは自分とジェルメールさんの2頭の馬を引き、ブルーノさんが御する馬車とともにギルドの裏手の留置き場へ向かった。
それで俺は、ジェルメールさんとエステルちゃんを従えてギルド内に入る。
冒険者ギルド内のラウンジには、冒険者さんたちが結構いて雑談している。
午後過ぎなのにみんなヒマなのかね。
「お、頭にカラスの子ども、ってことは……」
「しっ、首ちょんぱ様だよ」
「きゃっ、ザカリー様よっ」
「首ちょんぱの姉御もいるぞ」
「今日は女騎士も連れてるぜ」
「首ちょんぱに来たのかな」
「姉御も女騎士も可愛いいなー」
自分たちは小声で話してるつもりみたいだけど、うるさいです。
首ちょんぱ様ってなんだよ。
ちなみに姉御とはエステルちゃんのことです。3年前の訪問時の一件以来、冒険者さんたちからはなぜかそう呼ばれてます。
ざわつく冒険者さんたちの方をエルミさんがギロっと睨むと、一瞬で静かになった。
相変わらずエルミさんは美人エルフさんなのに怖いんだね。
そしてギルド職員のひとりに指示して、ギルド長を呼びに行かせる。
「ザカリー様は冒険者に人気があるのですね」
「はい、とても人気があるみたいですぅ」
俺の後ろでジェルさんとエステルちゃんがコソコソ話してるが、人気があるとかじゃないと思うんだけど。首ちょんぱ様とか言われてるし。
馬車と馬を留置きに行っていたブルーノさんとライナさんがギルド内に入って来て、俺たちに合流した。
「おい、あれ、疾風のブルーノじゃねぇか?」
「3年ぐらい前に騎士団の従士になったって聞いていたがな」
「誰ですか? 疾風のブルーノって」
「おめえは若いから知らねぇか。斥候職の怖えぇエキスパートだよ」
「しっ、聞こえるぜ。遠耳のブルーノとも呼ばれてたのを忘れたか」
「あとから入って来た娘も可愛いいなー」
「おめぇ知らないのか、ライナさんだぜ」
「あ、あの娘が」
ブルーノさんは元冒険者だったんだね。
たしか5年前の夏至祭での魔人事件以後、騎士団編成整備の一般採用で従士になったって聞いたことがあるけど。
それにしても、疾風のブルーノとか遠耳のブルーノとか、ふたつ名持ちなんだ。
ブルーノさんはもちろん聞こえているのだろうが、知らんぷりをしていた。
あと、ライナさんも元冒険者だったよね。
冒険者ギルド長のジェラードさんが、呼ばれてやって来た。
商業ギルド長のグエルリーノさんと錬金術ギルド長のグットルムじいさんも一緒だ。
「よおザカリー様。ようこそお出でくださいましたな。歓迎しますぞ」
「はい、本日はお招きいただき、ありがとうございます」
おっさんとじいさんが、ニコニコ俺に出迎えの挨拶をする。
「おっ、そこにいるのはブルーノじゃねえか。ライナちゃんも久しぶり」
「どうも。お久しぶりでやす」
「たまにはギルドに顔を出してもいいのによ」
「騎士団の仕事が忙しいものでやすから」
「そうかね。ではザカリー様、ご案内しましょうか。ブルーノも一緒だよな。顔見知りもいるぜ」
「いや、自分は今はザカリー様の配下でやすから」
「ジェルさんはもちろん、ブルーノさんもライナさんも一緒に行きましょう」
「はい」「わかりやした」
ブルーノさんはいつから俺の配下になったのかなぁ。
案内されたのはギルドの建物の2階で、なかなか広い部屋だった。
部屋の中央には楕円形の大きなテーブルがあり、それを囲んで何人かが間隔を空け座っている。
各ギルドからの出席者かな。
俺たちが部屋に入ると、皆一斉にこちらに顔を向け椅子から立ち上がる。
あれ、背が低くて髭の濃いおじさんがふたりいるよ。
「ザックさま、ドワーフがいますよ」
エステルちゃんが俺の耳元で小さく囁く。
ドワーフさんか、初めて会うぞ。
エルミさんがエルフで、エステルちゃんがファータ、そしてドワーフのおじさんふたり。
精霊族が3種族揃った訳だけど、エステルちゃんから以前に、精霊族の違う人種同士はあまり仲が良くないって聞いたことがある。大丈夫かな。
あと、獅子人の獣人の男性が人族の女の人と並んでいる。
騎士見習いでもうすぐ従士になる獅子人のイェルゲンくんが身近にいるから、あの人も獅子人さんで間違いないだろう。
でもなんだか、こっちを凄く驚いたような顔をして見てるよ。
あ、ブルーノさんを見てるのか。
この会合というか親睦会というか、無事に何事もなく終わるのでしょうね。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。
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エステルちゃんが主人公の短編「時空渡りクロニクル余話 〜エステルちゃんの冒険①境界の洞穴のドラゴン」を投稿しました。
彼女が隠れ里にいた、少女の時代の物語です。
ザックがザックになる前の1回目の過去転生のとき。その少年時代のひとコマを題材にした短編「時空渡りクロニクル外伝(1)〜定めは斬れないとしても、俺は斬る」もぜひお読みいただければ。
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