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第629話 王太子出席正式決定の連絡、そしてグリフィニアに向け出発

 明日にはグリフィニアに向けて出発するという19日、王宮から封書が届いた。

 大型の封筒の中には更に封がされた封書と、それから書類。

 王家の紋章が刻印された小型の封筒の中身は、セオドリック王太子から俺に宛てられた手紙だった。


 その手紙には、彼がヴィクティムさんとヴァニー姉さんの結婚式に出席することが正式に決定したことと、俺へのお礼の言葉が記されていた。

 決まりましたか。本当に良かったです。


「父上も臨席した協議の場で、俺が行くと発言したら誰も驚く様子がなかったよ。おまけにブランドン長官が、それでは私がお供をと自分から言い出し、続いてランドルフ騎士団長が、それでは自分が王宮騎士団の精鋭を率いて護衛をと言い出したんだ。もうこれで決定さ。内政部の長官とかほかの重役たちは何か言いたげだったけど、父上に最も近いこのふたりがそう発言すればね。それで父上の決裁も貰って決まったという訳だ」


 そうですか、あのおじさんふたりがね。

 ランドルフさんが、事前にブランドンさんと話し合ってくれたんじゃないかな。


「その協議のあとで、俺の方からお願いしようと思っていたランドルフ騎士団長に聞いてみると、なんと『ザカリー・グリフィン様の仰せでしたから』とこっそり言うじゃないか。ザック君、君はいったいどんな魔法を掛けたんだい。まあそれはともかく、お陰さまですんなりうまく決定したよ。連絡が遅くなったのは、いろいろと旅程の調整などに手間取ってね。詳しくは同封の書類を見てくれ。それではまた会えるのを楽しみに。セオドリック・フォルサイス」


 その手紙を心配そうに隣に座るエステルちゃんに渡し、書類の方を見てみる。

 ああ、内務部と王宮騎士団の連名による書類だ。


「キースリング辺境伯家長男ヴィクティム・キースリング氏とグリフィン子爵家長女ヴァネッサ・グリフィン嬢のご結婚の儀へのセオドリック・フォルサイス王太子出席について」とある。

 なかなか仰々しいですな。


 結婚披露のうたげへの正規の出席者は、王太子と内務部ブランドン長官、王宮騎士団ランドルフ騎士団長の3名。

 ただし、王太子についてはその前に行われる結婚の誓いの儀へも、友人として出席を望むとある。

 まあセオさんならそうだろうね。これは受入れざるを得ないだろうな。


 それで日程及び旅程だ。

 なになに、王都出発は7月10日で、王都圏内の宿屋で1泊後、11日にブライアント男爵領都に到着。1泊後、12日にグリフィン子爵領都に到着。14日にグリフィン子爵領都を出発し、同日中にキースリング辺境伯領都に到着。翌15日結婚の儀。翌16日に出発しグリフィン子爵領都に到着。以降未定。え、未定??


「なんですとぉ!」


「どうしたですか、ザックさま」

「カァカァ」


「この書類を見ていただきたい、エステル殿」

「なーに、変な話し方をしてるですか。この書類ですか? どれどれ」


 エステルちゃんは、俺から渡された書類をじーっと見ていた。横からクロウちゃんも首を伸ばして読んでいる。



「この旅程表ですか、なにか変ですか? 11日にお爺さまのところで、12日にうちに来られるんですよね。それで翌日は、グリフィニアにそのままいらっしゃる予定になってて、14日にエールデシュタットに行くですね。ということは、わたしたちと一緒ですか。1日グリフィニアに滞在するってことは、旅でお疲れでしょうから、ということですかね」


「問題はそのあとでありますよ」

「結婚式の翌日にはもう出発して、グリフィニア。それから先は未定ってありますよ。未定って、なんですか、これ」


 つまりですよ、そこからどのぐらいグリフィニアにいるのか、未定ってことなのではないですかね。


「まさかぁ。せいぜい、また1日ぐらい滞在されて、帰りの旅に備えるってことですよ、きっと」

「だったら、そういう日程にするよ。未定としているのが、もの凄く怪しい」

「そう言われると、そうですよねぇ」

「カァ」


 この書類は、俺に届けられると同時にうちと辺境伯家、及びブライアント男爵家に届けられていることになっている。

 既に送られているだろうから、それぞれに不審に思うだろうなぁ。特にうちの父さんとか。


 王宮から封書が届いたと聞いたジェルさんたちもやって来たので、王太子からの手紙と書類も見せる。

 それぞれに回し読んでいたが、ジェルさんが「ううむ」と唸った。


「ねえ、ライナ姉さん、オネル姉さん。ジェル姉さんは何を唸ってるんですか?」

「それはほら、ザカリーさまとエステルさまも難しい顔をしてるでしょ」

「あ、ほんとですぅ。でも、どうして?」


 カリちゃんが首を傾げている。

 シルフェ様とシフォニナさんやアルさんもやって来て書類を見たが、あまり関心はなさそうだ。


 人外の方々には、王族とか貴族とかそういうのは関係ないし、グリフィニアに何日滞在しようが、「あらそうなの」というぐらいのものだ。

 ひとたび敵対しようものなら、もの凄く怒るけどね。


「結婚式のあとの王太子の予定が、未定になってるのよ。それでジェル姉さんが唸ってて」

「ブルクくんとかルアちゃんも来てるしさー、王太子もグリフィニアに滞在するとかなると、ザカリーさまとエステルさまは大変でしょー。それからジェルちゃんとかオネルちゃんも」


「ライナ姉さんは?」

「わたしぃ? うふふ、なんだか夏休みも面白くなりそうよねー」

「もう、ライナ姉さんたら。姉さんだってグリフィニアに帰ったら、従騎士として扱われるんですよ。王太子様にもお会いしてるし」

「あはは、そうでしたー」




 6月20日。本日、グリフィニアに向けて出発する。


 シルフェ様とシフォニナさんはシモーネちゃんを連れて、風の精霊の妖精の森へ帰って行った。

 同じく、アルさんも自分の洞穴にいったん帰る。そのあとシルフェ様のところに行って夏至の祈りの儀式に加わり、それからグリフィニアに来る予定だ。


 それを見送り、さて俺たちも出発しましょうか。


「アデーレさん、それでは行って来ます。お孫さんのお世話、楽しんでください」

「ヴァニー姉さまの結婚式のお土産話を、楽しみにしていてくださいね」


「はい、お気をつけて。グリフィニアのみなさんによろしくお伝えください。ヴァネッサさまには、お目出度うございますと。こんどご夫婦で王都にいらしたら、わたしが特大のケーキを腕によりをかけて作りますとね」


 この世界ではウェディングケーキや入刀のセレモニーは無いと思うけど、もしアデーレさんが作ったら、この世界初のウェディングケーキになったんだけどなぁ。

 まあ俺が王都にいる間に、是非ともふたりに来て貰おう。


「エディット、あなたは王都屋敷の侍女長なんだから、向うでも堂々としてなさいよ」

「あ、はい。行って来ます、アデーレさん」

「よし、それでは出発します」


 馬車には、そのエディットちゃんとカリちゃんがエステルちゃんと俺と一緒に乗り込む。

 黒影に騎乗して行こうと思ったのだけど、ジェルさんからダメと言われてしまった。

 今日はフォルくんとユディちゃんの兄妹が御者台に座り、ふたりで交替して手綱を取る。

 長い距離の馬車移動を、このふたりにやらせてみようというブルーノさんの指示だ。


 黒影と青影の2頭は馬車の後ろに繋ぎ、レイヴンメンバーとアルポさん、エルノさんの7人が騎乗で馬車の前後を固める。

 しかしこのファータの爺さんふたりも、なんだかすっかりレイヴンの準構成メンバーみたいになってるよな。本人たちはどうやらもう、そのつもりらしいけど。




 途中、1泊を挟んで、ブライアント男爵領都に到着した。


「あ、お母さん」

「ユリアナさん、お久し振りです」


 ジルベールお爺ちゃん、フランカお婆ちゃんと一緒にユリアナさんが出迎えてくれた。


「ザックよ、おまえ、王宮で何をしたんじゃ」


 それが俺の顔を見たお爺ちゃんの第一声だった。


「何をって、ベンヤミンさんとミルカさんと一緒に王宮に行って、内務部に招待状を届けて、王太子に出席して貰うようお願いして、それから王宮騎士団の騎士団長とも会った。そのぐらいかな」


「何がそのぐらいじゃ」

「あなた、ザックたちも着いたばかりなんだから、疲れてるでしょうし、屋敷に入ってからお話しなされたら」

「こやつが疲れなどせんわい」


 お爺ちゃんは何をぷりぷり怒っているのだろう。

 ユリアナさんの方を見ると、笑いを堪えている。


 振り向くと、うちのお姉さんたちや、お爺ちゃんのことを良く知っているアルポさんとエルノさんとかも吹き出している。

 あ、エディットちゃん、怖がらなくて大丈夫だからね。



 まあ要するに、王太子が出席することになった決定に、どうやら俺が大きく貢献したと聞いたからのようだ。

 それを先日に立ち寄ったベンヤミンさんとミルカさんから聞き、追っかけで王宮からの連絡、正式決定の報せと例の日程に関する書類が届いたかららしい。


 ジルベールお爺ちゃんとしては、夏至祭が終わって7月に入ったら直ぐにでも出発して、嫁入り前のヴァニー姉さんがまだいるグリフィニアで、長めに滞在したいと考えていたのだそうだ。

 しかし、王太子が旅程の途中にここで1泊したいという打診が事前にあり、そしてそれが11日と決まった。


 もちろん、男爵家としてはそれを拒絶することは出来ないし、本来なら栄誉となる。

 しかしお爺ちゃんとしては、どうせ王太子の出席は難しいだろうと高を括っていたのだ。


 こうなると、当然に王太子を自ら迎えねばならず、自分の予定を変更せざるを得ないのが面白くない。また、勝手に高を括っていた自分にも腹立たしい。

 そしていま、俺に八つ当たりをしているという訳ですな。


「ヴァニーちゃんの結婚式に王太子様がご出席になるのだから、それを良しとしなければいけないでしょ。あなたの我侭なんか、たいしたことじゃないんだから」

「う、うるさいわ」


「まあまあ、王太子をお迎えしたいというのが、辺境伯家の本心というかご意向でしたし、それが適ったんですから。それに、こちらに来られるのが11日で、翌日にご一緒にグリフィニアに来れば、まだヴァニー姉さんはいますし」

「ふん」


「そうですよ、お爺さま。それに姉さまは、凄く遠くにお嫁に行く訳ではないんですから。いつでも遊びに行けますし、落ち着いたらきっと、旦那さまと遊びに来てくれますって」

「優しいことを言ってくれるのは、エステルだけじゃ」



「それよりも」

「それよりもとは何じゃ、ザック。ほかに大事なことがあるのか」


「いつまでも八つ当たりはダメですよ、あなた」

「じゃがのう」

「それで何かしら、ザック」


「あ、いえ、ブライアント男爵家からはたしか、出席者は5名までとなっていたと思いますが、お爺ちゃんとお婆ちゃんのほかにはどなたが?」


「ああ、そのことね。それでもちょっと揉めちゃったんだけど、いえね、この人が5人だけとはケチ臭いとかなんとか言い出して」

「ふん」


「でも、ベンヤミンさんとミルカさんから事情をお聞きしてね、ようやく納得した訳なのよ」


 ベンヤミンさんとミルカさんは、あちらこちらでご苦労さまです。


「それでうちからは、わたしたちふたりとエルネストとエリアーヌさん。ジョスランはまだ小さいからお留守番ね。あとひとりは、アンの姉ふたりが遠方で出席出来そうもないし、だからユリアナさんに出て貰うことにしたの」


 あ、そういう人選になったんだ。


「わたしは滅相もないって、お断りしたんですけどね。男爵さまがそうしろって」

「フランカが言ったように、娘ふたりは遠方で難しい。それにユリアナの旦那のエルメルは先方にいて出席じゃろうし、ミルカもおそらく出席じゃ。もちろんエステルは出席じゃから、ユリアナだけ出ないというのもおかしいじゃろうが」


「ああ、それはそうですよ、ユリアナさん。このことについては、僕もお爺ちゃんの決定に賛成です。さすが、お爺ちゃんです」

「ふん。ようやくザックも、わしのことを見直したか」


 そうだよな。

 うちの親戚になるシルフェーダ家で、ユリアナお母さんだけが出席しないというのはないよね。

 お世辞じゃなくて、さすがはジルベールお爺ちゃんだ。

 俺が賛成してかつ褒めたことで、お爺ちゃんもようやく機嫌が直って来たようでした。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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