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第624話 王宮騎士団長との会談

 王宮騎士団のランドルフ・ウォーロック騎士団長から呼ばれたということで、俺たちは案内の王宮騎士団員に導かれ、再び大ホールを出て先ほどとは反対側にある廊下を歩いていた。


 ミルカさんとマイラさんは、ブルーノさんとティモさんが心配するだろうからと、内務部前庭の馬車の停車場へと先に行った。

 じっさいは、先ほどの出来事の影響でそちらにも変事が起きないよう、ブルーノさんたちに状況を話すと同時に、監視と待機に加わるためだ。


 それと、本来ファータの探索者である彼らが王宮騎士団の騎士団長の前に、あまり堂々と姿を現したくなかったというのもあるのだろう。

 その辺のところはベンヤミンさんも心得ていて、マイラさんに許可を出していた。


 王宮騎士団の本部施設は、王宮の敷地の外に隣接している。

 だが、通常の勤務場所がほとんどはこの王宮内なので、騎士団長と副騎士団長の執務室や騎士団員の詰所などがこの宮殿内にもあり、騎士団長は宮殿内にいるのだそうだ。


 その騎士団長の執務室は、大ホールからはそれほど離れていない場所だった。



「こちらでございます。騎士団長殿、ザカリー・グリフィン様をご案内しました。ベンヤミン・オーレンドルフ準男爵様もご一緒です」

「わかった、通してくれ」


 扉の向うから重々しい声がした。

 そして扉が開かれると、広々とした執務室のデスクの向うに、そのランドルフ・ウォーロック騎士団長らしき人が腰掛けているのが見えた。

 ふうむ、うちのクレイグ騎士団長やウォルターさんと同年輩の感じかな。


 部屋に入った俺たちの姿を見て、その人は直ぐに立ち上がり歩み寄って来た。

 俺の後ろで、お姉さん方が少し緊張しているのが背中に伝わる。


 なかなかに背が高くてガタイが良くて、怖そうなおじさんですなぁ。そして強そうだ。

 そういう点でも、クレイグさんに少し似ているよね。あ、辺境伯家騎士団のヴェンデル騎士団長にもちょっと雰囲気が似ているか。


 この世界の騎士団長って、だいたいこんな感じのおじさんがなるのかなあ。その公式からすると、どちらかというと細マッチョでインテリイケメン風のサディアスさんは、騎士団長にはなれませんなぁ、などとつまらない感想が頭に浮かんだりする。


「急なお呼び立てで、大変に申し訳ありませんでしたな、ザカリー・グリフィン様。ベンヤミン・オーレンドルフ準男爵にもお越しいただいて、すまなかった」


「いえ、大丈夫です。初めまして、ランドルフ・ウォーロック騎士団長。ザカリー・グリフィンです」


「お、これは重ねて失礼を。どうぞよろしくお願いいたします、ランドルフ・ウォーロックであります。どうも、初めてお会いした気がしませんでしたので。いえ、じつは昨年の総合戦技大会での模範試合を、こっそり拝見しておったのですよ。なにせ、ここの誰やらが、お忍びで学院に行ったと聞きましてな。それで私も追っかけで足を運んだという次第です。それに、フィランダーからも良く話を聞いておりますので」


 四角張った顔が怖くて、むすっとしていて、言葉数も少ないのかと思ったら、どうもそうではありませんでした。

 王太子のセオさんとの話からも、頑固でなんだか扱いが難しそうな人なのではと考えていたのだけど、そのにこやかな笑顔からは親しみさえ感じさせる。


「そうなんですか。あの試合をご覧になっていたとは、お恥ずかしい限りです。フィランダー先生は何か余計な、あ、いえ、いいです。あの先生とは良くお会いになられるのですか?」


「フィランダーですか? まあたまに、王宮騎士団本部の方に遊びに来ますのでな。あいつは騎士団を辞めてからも、ときどき剣術の訓練相手を探しに来るのですよ。特にこの2年ほどは、どういう訳か頻繁に来るようになりましてな」


 ああ、そういうことか。

 学院ではディルク先生あたりが休日とかに相手をしているみたいだが、フィロメナ先生はぜんぜん相手をしてあげないしね。

 それで、剣術の訓練相手を求めて、古巣の王宮騎士団本部に行く訳だ。


 あと、昨年の学院祭にセオさんとヴィックさんがお忍びで来ていたのを、しっかりと把握しておまけに自分も隠れて来ていたということか。

 まあセオさんも、いちおう護衛を連れていたしな。おそらくあの人も、王宮騎士団員だったのだろう。



「それから、そちらのお美しい方々は、グリフィン子爵家騎士団の方たちですな」


「あ、これは紹介が遅れまして。自己紹介を」

「はっ。ジェルメール・バリエ騎士であります」

「オネルヴァ・ラハトマー従騎士です」

「ライナ・バラーシュ従騎士です」


 ライナさんもこういうときは、ちゃんと家名を名乗るようになったんだね。


「ザカリー様の有名な直属部隊の方々ですな。いや、これはお会い出来て光栄だ。あと男性が、ふたりほどおられたのでしたかな」

「ええ、馬車のところで待機させています」


「そうですか。次の機会には是非ともお目に掛かりたい。なにしろ、おひとかたは、あの有名な元冒険者のブルーノさんでしたな」


 これはやはり、ただの脳筋騎士の親玉でも、強面の気難しいタイプでも、ましてや優しいおじさんでもありませんぞ。

 しっかりうちのことを調べておりますな。しかし、どこまで把握しているのだか、油断がならない。



 そうして執務室のソファに座り、暫しこのおじさんと話をすることになった。

 秘書だろうか、女性の騎士団員が紅茶を淹れて持って来てくれた。


「いえ、こうしてお呼び立てしてしまったのは、先ほどのちょっとした出来事のことへ、お詫びをしたかったというのもあるのですが」


「もう騎士団長のお耳に入りましたか」

「ええ、ベンヤミン殿。何しろ狭苦しい王宮内のことですからな。この執務室におっても、そうして直ぐに耳に入って来ますので」


 いやいや、この王宮はなかなかに広いですぞ。あ、そういう意味ではないのかな。


「まあ、あの兄弟にも困ったものです」


 兄弟って、弟だけじゃないの? 王太子の方にも困ったと、そういう評価なのだろうか。


「王太子様は、なかなかの人物ではないかと」

「辺境伯家のヴィクティム様とは、仲がおよろしかったですな。ええ、人物としては良く成長されて来てはいるのだが、どうも王宮の中だと窮屈なようでして、直ぐに勝手に動かれようとする。尤も、もうおひと方のように、コソコソと動き回るようなことはされませんがね。反対に何かと大胆にというか、そこが却って危なっかしい」


 おお、なかなかに辛辣な感じですな。

 というか、俺とかにそんな話を聞かせて良いのでしょうかね。弟の方はコソコソ動き回っているとかさ。



「おお、そうだ。これも申し上げるのが遅くなりました。このたびは、ヴィクティム様とヴァネッサ様には、誠にお目出度うございます」

「はい、ありがとうございます。そちらの方も、お耳に入っていますか?」


「ははは。グリフィン子爵家のザカリー様と、辺境伯家のベンヤミン殿がこうして揃って王宮を訪問されるなど、他に理由は考えられませんからな。おおかた、ブランドンに結婚式の招待状を渡されて、そのあと王太子様のもとへ、ということだったのではないですか?」


 はい、図星ですね。どうやらこの王宮内には、一筋縄でいかない人たちが揃っておるということですな。

 俺はちらっと、少し困ったような、苦笑するような顔をして隣に座っているベンヤミンさんの横顔を伺い、それからあらためてランドルフ騎士団長の顔を真正面から見据えた。


「ランドルフさん」

「はっ。何でありましょうか、ザカリー様」


「本日、こうして初めてお会いして、申し上げるのもなんなのですが」

「ちょ、ちょっとザカリー様、何を」


「大丈夫ですよ、ベンヤミンさん。それでランドルフさん。先ほど、初めて会った気がしなかったとおっしゃっていただきましたので、僕もそのお言葉に甘えてよろしいですか?」

「それは内容にもよりますが、ザカリー様のおっしゃることでしたら」


「ありがとうございます。それではランドルフ・ウォーロック王宮騎士団長閣下に、僕からのたってのお願いなのですが。セオドリック王太子様に、ご友人であるヴィクティムさんと僕の姉であるヴァネッサの結婚を一緒に祝っていただけるよう、エールデシュタットまで王太子様を、騎士団長が連れて来ていただけませんか」


「はっ? な、なんですと? ふうむ。これは……。いやあ、参りましたなぁ。うわっはっは」


 隣でベンヤミンさんは俺の発言を聞いて驚愕の表情だし、その後ろに少し離れて座っているお姉さんたちは「また、やっちゃったわよねー」「エステルさまに何と報告すれば良いものか」などと、ヒソヒソ話している。


「はっはっは。いや、これは失礼をいたしました。ザカリー様、そんな強い眼差しで、私を見ないでください。それだけで、殺されそうだ。いや、真剣なお話なのですな。ふうむ、わかり申した。王太子様がご友人のために勝手に動かれる前に、この私が王太子様を、責任を持ってエールデシュタットに連れて行けと。そうしろとの仰せでありますか。ザカリー様には、迂闊なことが言えませんなぁ」


「いえ、ランドルフさんにはご理解いただけたようで、僕も安心しました。先ほどの出来事での、王太子様のご発言も耳に入っていることと思います。フォルサイス王家と北辺の貴族との関係の安寧のためにも、王族のどなたかがコソコソ動かれたり、本人が勝手に無茶なことをされるより前に、そうお願い出来るのならばと、若輩ながらそう愚考したまでです。いやあ、ランドルフさんにご賛同いただけて、僕も大切な姉の結婚式ですから、とても嬉しいです」


 彼は少々難しい表情で暫く黙っていたが、「よし」と気合いを入れるように小さく呟き、そしてベンヤミンさんの方を見た。


「して、ご結婚式の日取りは? ベンヤミンさん」

「はい、7月15日でございますよ」

「おお、あとひと月余りですか。これは直ぐに準備をしなくては。ブランドンのところには?」

「フォルサイス王家へのご招待状ということで、お届けしております」


「王太子は、ご自分が行かれる気が満々なのでしょうな」

「ええ、いちおう日程などと、ご招待状を王宮内務部長官にお渡ししたことをお話ししました。すると、ここからは俺の仕事だとおっしゃられまして」


 その間に、俺が来てほしいと言ったのが挟まっているんだけどね。そこはベンヤミンさんが敢えて端折った。


「ご自分の仕事だと……。それはいささか危ういな。あと、お供については何かおっしゃっておりましたかな?」

「はい。お供はブランドン長官で、護衛の指揮は騎士団長をお望みになっておられるようでしたが」


「でしょうな。王太子様とうちの副騎士団長とでは、反りが合わない。やはりザカリー様の仰せの通り、私が行かねばなるまいて」


 ランドルフ騎士団長はあらためて自分を納得させるように、そう言ったのだった




 ようやく宮殿を出て、王宮内務部前のうちの馬車を停めてある場所に戻って来ました。


 あれから騎士団長は、結婚式の段取りやスケジュール、出席予定者などについての詳細を聞いて来た。

 そこは用意の良いベンヤミンさんが、詳細を書き出した書類をちゃんと持っていて、それをランドルフさんに渡して詳しく説明をしておりました。


 これでランドルフさんが、今回の結婚式の情報を最も持っていることに結果的になった訳で、おそらくは明日に行われる協議をリードしてくれる筈だ。

 いやあ、これは怪我の功名というやつですな。


「ザカリー様の恐ろしい一面を、また見させて貰いました」

「え? どういうこと? ベンヤミンさん」


「どうしたのです? 王宮騎士団長のところで何かありましたか?」

「ああ、ミルカさん。あなたたちは慣れているのかも知れないが、私は心臓が止まりそうになりましたよ。詳しくは馬車の中でお話します。もう早く王宮を出ましょう」

「はあ」


「どうしたんでやす? ジェルさん。宮殿の廊下での出来事は聞きやしたが、またザカリー様が何か仕出かしやしたか?」

「ブルーノさん、ともかく王宮を出ます。詳しくはお屋敷で」


「また、エステル様に怒られるようなことでやすか?」

「今回はそうとも言えないんだけどねー」


 なんでかなぁ。だいたいにおいて、今日は上手く行ったと思うんだけどなぁ。

 ここでいつも合いの手を入れてくれるクロウちゃんが側にいないのが、なんだか寂しいよね。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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